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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
69/70

すっぴん

に、日曜28時・・・すいません

次回の更新は水曜日です

 盗賊の街は活気に包まれていた。

 これは本来はありえないことで、通常時よりも街に人が多いことに起因する。

 クイーンの迷宮で魔物との遭遇率が高まり、なおかつそれを避けることができないこと。

 また深く迷宮に潜ることで順次強力になっていったはずの魔物が、地上付近であっても死につながるような魔物が徘徊するようになったこと。

 これによって活動が阻害されたのは冒険者だけでなく、むしろ迷宮内に住みついていた盗賊たちのほうが大きな悪影響を受けたといってよい。

 活動が縮小され、街にこもらざるを得なかった状況は盗賊たちを娯楽に飢えさせた。

 そこに現れた大道芸人集団スサレノオンケッゼはおおいに軌道に乗っていた。

 歌、物語、踊り……すべてのコンテンツはパクリだったが、この世界に著作権者はいないのだ。

 0期生である俺が開拓しきっていないところまで1期生たちが順調に切り開いていった感じはある。

 まあ男を手玉にとることに特化した犯罪奴隷たちだからな。

 この迷宮探索自粛騒ぎが終われば、順次クイーン王国周辺の森に、いやうまくいけば街そのもので活動を広げさせることもできるかもしれない。

 でも、たかが数日でここまでうまくいくなんてなろうみたい。


「さーて、じゃあ今日もクズどもをだましにいきますかぁ」

「天使さまぁ、1期生たちはすでにしのぎに行きましたぜ」

「ふっ……大物ってのは後から現場入りするっていう決まりが――」


 俺は言葉の途中で、ふと寒気のようなものを感じた。

 なんだこの感じは。

 禍々しい、危険なにおいがぷんぷんするっち、いや、する天。


「事務員さん、ちょっと俺の背中に乗ってください」

「え、冗談は勘弁してくだせえ、縁起でもねえ」


 どういう意味だよ。

 本気で嫌がるおっさんを背に乗せて俺はふわりと飛び上がる。

 背の高い建物など皆無で、でかいテントのようなものや、せいぜい木でこしらえられたちょっと立派な掘っ立て小屋くらいしかないが、迷路を利用している街なのであまり見渡せるというわけでもない。

 が、やけにざわついている方向がある。


「暗くてよく見えやせんが、あっちのほうがやけに騒がしいですぜ」

「あっちの方向は……街の奥のほうでしたね」

「しっかりしてくだせえ。逆でさあ。あっちは街の入口のほうですぜ。ちょうどスサレノオンケッゼの姉さんがたがいるあたりでさあ」


 俺は方角とか方向にとらわれるようなスケールの小さい存在から超越してるところにあるから。

 しかし、このざわつきようは妙だ。

 これは大道芸に対する歓声というよりは。


「悲鳴、ですよね」

「まさか王国のがさ入れじゃねえでしょうね? んなことは一度もありやせんでしたが」


 しばし空中で考えこむ俺とおっさん。

 なにかが起こっている。

 一体、なにが。

 確認しにいくべきか、一目散に逃げるべきか。

 考えがまとまらないうちにはっきりとした爆発音と閃光が街の入口に起こった。


「まずい! 金の卵たちが!」


 俺はおっさんが振り落とされても不思議ではないスピードで現場へと飛んで行った。




◆   ◆   ◆




「魔物だー!」

「なんだこいつら強えぇ!」

「囲め囲め! 目を狙え!」


 明らかに盗賊たちはモンスターにおされていた。

 そういえば今までどうやってモンスターが徘徊する迷宮で居住区を維持していたのだろうか。


「こいつはやべえですぜ天使さま。腕っぷしの強え門番どもはくたばったか逃げたかしたみたいでさぁ。こうなっちゃもう逃げるしかありやせん」

「こういうことは迷宮に住んでる時点で想定できたはずじゃないですか!? こういう時の避難経路とか手順はないんですか!?」

「そんなもん用意するような奴がこんな地下に住むわけねえでしょうが!」


 言われてみればそうだな。

 幸いスサレノオンケッゼは目立つ色使いの衣装を着せているし、夜目もやたらきくようになったから彼女たちを見つけることはできそうだ。

 いや見つけてみせる。

 せっかく苦労して俺の文化レベルの高い知識を教え込んだのだ。

 クズどもからすべてを巻き上げる前に死なせてたまるか……!


「いましたぜ! あっちでさぁ!」


 いやお前が先に見つけるんかい。

 おっさんが指さしたほうにスサレノオンケッゼの女たちがいた。


「全員……いるのか!? 何人でしたっけ?」

「人数くらい覚えてくだせぇ! 全員いますぜ!」


 これから雨後の筍のように増やす予定なのに、そんなもんいちいち覚えてられるか!


「よし、じゃああの辺りに飛びますからタイミングを見て飛び降りて彼女たちに合流してください」

「天使さまはどうなさるんで?」

「俺はもう少しこの場を飛んで様子を見ます。互助会事務所にでも避難していてください。もちろんもっと安全な場所や脱出ルートがあるならそちらに」

「わかりやした!」

「言っておきますが大切な商品(スサレノオンケッゼ)に傷一つでもつければあなたを殺しますよ。死んでも守ってください」

「ひでえ冗談はやめてくだせえ!」


 いや普通に本気なんだが。

 盗賊のくせに命の価値が平等だとでも思っているのだろうか。

 カラフルで露出の多い衣装を着た女たちの上を低く飛ぶと、おっさんは見た目に似合わない機敏さで飛び降りた。

 さて、ここからどうするか。

 もちろん、盗賊たちの避難や防衛に協力する気はない。

 そうではなくて確認したいことがあるのだ。


「うお!? てめえらは!」

「今は人間同士やりあってる場合じゃないよ! 手伝いな!」


 盗賊らしき声に混じって聞き覚えのある声がひびき、再び炎が魔物に向かって炸裂した。

 やはり炎は魔法によるものだったか。


「聖焔騎士団まで来やがった! まとめて地獄に落としてやれ!」

「いいだろう、死にたいやつはかかってきな! 襲い掛かってくるなら魔物ごと焼いてやるよ! 死にたくないやつだけあたしたちに協力しな!」


 ス、スピリッツさん……!

 身分や立場の違いを超えて、モンスターに襲われている盗賊たちを助けにきたというのか。

 口では盗賊たちへの敵意を示してはいるが、配下の団員たちは負傷した盗賊を治療したり、魔物に噛まれそうになっている盗賊のフォローをしている。

 そして、よく見れば何匹かいるレッサーデーモンのうちの1匹がひどく渋い顔をしている。

 読めたぞ。

 モンスターにしては人間味のあるあの表情はレーンさんだろう。

 迷宮お掃除大作戦の大詰めはこれか。

 そして俺が感じていたとてつもない寒気は、背中を蟻さんがとことこ歩いているような不気味な感覚はこれだったのだ。


「ちっ、仕方ねえ。てめえら! まずは魔物を殺るぞ!」


 この立場を超えて協力する感じは完全にレーンさんの、いや邪神の思惑から外れたところにあるであろうことは想像に難くない。

 おそらくは巧みに誘い込まれた魔物と聖焔騎士団、そしてねぐらに攻め込まれていきりたつ盗賊たちの殺し合いを眺めるつもりだったのだろう。

 俺もこういうみんなで協力しようという雰囲気には鳥肌がたっているが、邪神の目論見が外れたのは喜ばしい。


「た、たすかったぜぇ。これからは火の神のやつらは襲わないようにするぜ……」

「つまんないこと言ってないで、今は自分たちの命の心配だけしてな!」


 いや喜ばしくない。

 俺が一番嫌いな三文芝居だ。

 もういい無視だ無視。

 この場はほっておいてとっとと離脱しよう。

 そうして空中踵返しをした俺の目に飛び込んできたのは、モンスターに襲われて死にそうになってるこ汚い少年をかばうようにして立ちはだかっているスサレノオンケッゼのメンバーだった。


「な……!」


 なぜ?

 なんで逃げたはずの商品()がここに?

 なんの義理があってそんな路傍の石をかばう?

 様々な疑問が俺の脳裏に駆け巡りながらも、一本の矢のように俺はモンスターと商品の間に割り込んだ。

 モンスターの鋭い爪が俺に叩きつけられるが、脆弱な人間を超越したこの天使さまを消し飛ばすには足りない。

 愚かなモンスターはカウンター気味に放たれた熱風で吹き飛ばされほとんど戦闘能力を失ってしまった。


「て、天使さま……ありがとうございます」


 どういうつもりだこの女。

 もしかして俺が助けなくても、他の誰かが助けてくれるという計算がたっていたのだろうか。

 そのうえで子供を助けることで人気を得ようとした……?

 しかし、周囲を見回してもこの女を助けられる距離に盗賊も聖焔騎士団もいなかった。

 どういうことだ……?


「きみ……ケガはない?」

「う、うん。ありがとうお姉ちゃん……」

「私はなにもやってないよ。助けてくれたのは天使さまだよ」

「天使さまもありがとう!」


 ワンチャンこの女の隠し子かなにかと思ったがどうやら他人らしい。

 どういうことだ。

 犠牲になることで伝説になることを狙ったのだろうか。


「こんなところにいた!」

「勘弁してくだせえ! 姉さんになにかあったら天使さまにぶっ殺されるのは俺なんですぜ!」

「急にいなくなるからみんなで探してたんだよ!」


 この危険極まりない場所に他の商品たちも集まってきていた。

 どういうことだ。

 こいつらは犯罪奴隷に落ちるようなゴミクズのはずだ。

 互助会会長が俺をだましたのか?

 なぜこんな無意味なリスクを冒す。

 こいつらは邪悪なはずだ。

 邪悪でなければならないのだ。


「あなたもその子もケガはない?」

「天使さまが助けてくれたから……」

「げぇ!? 天使さま!? こ、これはその、すぐに姉さんがたを連れていきやすから!」


 嫌なものばかり見せられてさすがに吐き気がしてきていた。

 俺は人間の心の化粧をはがしたあとの本性が見たいだけなのに、なんでこんな悪夢を見せられているのか。


「とにかくここは危険ですから。その坊やもつれてさっさとあなた達は逃げてください」

「わ、わかりやした! さあ姉さんがた……」


 街は燃え、深刻なダメージを受けながらも人間同士の協力によって危機を乗り越えようとしていた。

 まあ落ち着け俺。

 女は共感を大切にするという。

 正義とか大義ではなく、単に奇行に走った女であっても群れのメンバーであるから――


「危ない天使さま!」


 商品の警告もむなしく、レッサーデーモンが放った氷の刃が俺のこめかみに突き刺さる。

 ちょうどいい。

 このぶつけようがない怒りを害獣どもでまぎらわせるとしようか。

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― 新着の感想 ―
[一言] この主人公の腐り切った性根見てると癒される しかし天とかいう語尾が雑だな!
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