リンチ殺し
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盗賊互助会の依頼もそれなりに終え、レーンの迷宮お掃除大作戦の協力も一段落したということで、俺たちは優雅に迷宮の空の旅に興じていた。
「こうやって飛行能力さえあれば迷宮制覇も余裕なんじゃないか?」
「まあそもそも今までの迷宮は普通に歩いていても魔物とぼこすか遭遇するなんてことありませんでしたからねっ」
そういえば邪神関係者と一緒にいると魔物との遭遇率が上がるんだったか。
そのうえなんちゃらという魔物と会いにくくなるアイテムとかもあった気がする。
そう考えると普通の冒険者ってずるいよな。
チートじゃん。
「あ、見てくださいっ。なんか聖焔騎士団が戦ってますよ!」
レーンが指さす方を見ると、バカみたいに重そうな鎧を着こんでいる騎士っぽい集団と化け物みたいにでかい剣……いや刀だろうか、とにかくそんな武器をかついでいるサムライっぽいのが戦っていた。
いやなんで人間同士が戦ってるんだ?
「盗賊……か? 聖焔騎士団と戦ってるってことは」
「よく見る天使さま、違うよ相手人間。頭おかしいある」
アーシュが真っ黒な瞳をくりくりさせて暴言をはく。
「いや、あれは侍スタイルというか、ある地方の人間にとっては普通の恰好だよ? 森の乙女もあんな恰好を――いや森の乙女がまともかと言えばあれだけど」
「意味違う! 頭よく見る!」
そう言われてよく目を凝らしてみると、サムライっぽい方の頭の側面にももう1つ顔がついている。
俺やレーンはともかくたかが人間如きのアーシュがよくこの距離であれに気づいたな。
っていうか、なにあれこわっ。
「まさかあれもレーンさんの?」
「な、なんですかあれっ。か、かっこいい……!」
違うらしい。
サムライがでかい刀を振り回す度に聖焔騎士団が吹っ飛ばされていく。
団員たちが遠巻きに火の玉みたいなものを放つが、サムライが刀でそれも切り落としてしまう。
「なんだか知らないが化け物サムライが勝ちそうだな。圧倒的じゃないか」
「目は天使さま節穴か?」
アーシュが残念なものを見るような目で俺を見ている。
よくわからないがバカにしてるのはわかる。
「いいですか天使さま? あんな馬鹿でかい剣で叩き斬られたら普通はどうなりますか?」
「それは……痛いんじゃないか?」
「血が噴き出てないとおかしいんですっ」
「なるほどな」
「そういうことですっ」
あの刀はなまくらなのだ。
はっきり言って邪神に憑りつかれていた時代は賢さというステータスにロックがかかっていたようだが、本来の俺はあらゆる分野の知識に造詣が深い。
刀というのは実は斬撃ではなくて打撃用の武器で――
「なんだか正しいんだか正しくないんだか聞きかじったような知識で納得してる顔してますけど、私が言いたいのはですねっ」
レーンさんがほぼ完璧に俺の思考を読み取りつつ、得意げに指を立てて解説する。
「ああやって防御と回復を重視して戦う人間というのは厄介だってことです。瞬間火力と執拗な追跡という意味なら森の乙女も厄介極まりない冒険者クラスタですけどねっ」
そんなもんかねえ。
しかし、実際レーンさんの言うとおりで、聖焔騎士団はサムライに圧倒されているようで1人も戦死者を出していない。
傷を負ったそばから魔法かなにかで回復しては戦線復帰していく。
「もうあの侍の太刀ぶっ壊れますねっ」
「狙い騎士それね」
「まさか。あの頑丈そうなでかい刀がそう簡単に……」
壊れた。
「明らかに狙ってましたもんねっ」
「全集中一点、基本ね武器狙い」
なんていうかさあ!
争いとか俺の世界では野蛮だから!
バトルとか言ってしまえば暴行罪とかじゃん!
剣とか持ってたらもうそれ殺人未遂だから!
「あれ、なんだか侍の動きがよくなりましたよっ」
武器を失ったサムライに聖焔騎士団たちは槍で攻勢にでるが、突きを回避されカウンターをきめられていく。
なんかでかい刀を持ってる時よりも強くねー?
「あの側頭部の頭、飾りじゃないみたいですね。魔法が使えるみたいですっ」
確かに聖焔騎士団を襲う魔法らしき石つぶてやら風が起こっている。
じゃあなんで武器を持ってた時は魔法を使ってなかったんだろう。
舐めぷか?
「なんなんでしょうねあの侍。森の乙女とは違うみたいですし、見た目的にっ」
「あそこまで格闘スタイルでもないしなあ」
ま、関係ないしどうでもいいか。
俺たちは帰ってうまいものでも食うかという意見が全会一致となり盗賊の街へと飛んでいくのだった。
「あ、聖焔騎士団にべつの冒険者まで加勢しようとしてますよ」
「大事ね漁夫の利」
確かにアウトレンジから何かをかまえている冒険者がいた。
ま、俺もそうする。
集団で囲んで倒す。
ごく基本的な戦い方だ。
なにも批判する要素はない。
そんな合理的な俺の考えを置き去りにして、俺は遠くから聖焔騎士団に加勢しようとしている冒険者に灼熱の風を放っていた。
不意打ちによる勝ちを確信していた冒険者たちは無防備に熱された空気を呼吸で吸い込んでしまい――
◆ ◆ ◆
「なんというか……45点の依頼報告だぜ」
渋い顔をした互助会会長が微妙な顔でつぶやいた。
45点。
決して良くはない、しかしクソみそに悪いとも断言できない。
まさに言いえて妙な点数だ。
「言いがかりするか? 依頼おかしいね内容そもそも!」
「結果的には聖焔騎士団は強かったと思いますね。依頼主の意向を無視して一方的にボコボコにするなら簡単だったんですが」
「わあ~天使さまってほんと口だけは達者ですねっ」
ふわっとした依頼にはふわっとした報告が許される。
そう思っていた時期が俺にもありました。
だいたい仕事において実質的な成果など関係ないのだ。
誰が行い、どのように報告するかで評価は決まるのだ。
「そもそもその怪しげなのは誰なんだぜ? その天使さまとやら以外はまともな戦力にはならなさそうだし代理の戦闘員か?」
たしかに無言のまま顔を布でグルグル巻きにしている謎の戦士は盗賊だらけの街のなかでなお怪しさを爆発させていた。
「仲間だよ!!!!!」
「そ、そうなのか? なんでもいいけど、急にキレるのはやめてほしいぜ」
「すいませんっ。天使さまはこれでも精神的に未成熟で急に怒っちゃうときがあるんです!」
「いや……べつにいいけどさあ。なんかこっちこそすまなんだ」
腫物をさわるようにアーシュが俺の手を引いてレーンさんと互助会会長との距離をとらされる。
2人の大人の話し合いにより、報酬の一部支払いとしばらくのこの街だか集落の滞在が決まったらしい。
その間も顔面グルグルサムライは無言のままじっと立ちつくしている。
なんなんだろうなこいつ。
はずみで助けてしまってから黙ってひたすら俺を追跡してくるんだけど。
こんな阿修羅ほどではないけど顔が多い人より多い人と面識なんてもちろんないし。
身体の輪郭から考えてどちらかと言えば女に分類されるっぽいが。
サムライスタイルということは森の乙女の関係者なのだろうか。
「さてとりあえずそこそこの報酬も手に入ったというところでっ」
レーンさんはにこやかに俺の肩に着地した。
「天使さまの言い訳はどこかでめしでも食いながら聞きますかっ」
「いい飯! 天使さま動きゴミ聞きたい理由ね!」
がしりと肩を組んでくるアーシュの力が心なしか強い。
なんだか2人ともテンション高いな。
所詮は小娘、依頼がうまく進んだから喜びを隠しきれないのだろう。
わざわざレーンが高い料金を払って用意された食事処の個室へと俺たちは入っていったのだった。
 




