名探偵並みの直観
今回から隔日で更新する予定です
次回は月曜日です
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「襲うって言っても残った王国騎士団の兵士は精鋭だろ? それにヴェルヌさんレベルになると奥の手の一つや二つ持ってておかしくない。返り討ちにされたりしないか?」
「うーゆ、そうですねっ。でも殺すのではなくて削ると考えて戦えばそうそう死ぬことはないんじゃないですか?」
「襲う場所大事! 2階道せまい。迷宮、空広い。やりやすい違うか?」
「いえ襲う場所は地上部分ですっ。あそこには隠し玉を置いてますし、なによりあの地上階の飛んでくる魔物は弱いですから」
「レッサーデーモンか」
「……ええ、そうですねっ」
「でも飛んでくる魔物が弱いからなんだっていうんだ?」
「ええ……そうですね、地上では上への警戒がおざなりになりやすいってことですっ。異変が起こっていても学習して染みついてしまったセオリーは抜けませんからね! あとちょっとで出口、もはや空さえ見えてたいした盗賊にさえ気を付ければたいした敵もいない地上階、そこが狙い目ですよっ」
◆ ◆ ◆
カラスとかハトのフンを直撃したことはあるだろうか。
当たってみればわかるが、それは当たるまで気が付かない。
下手をすれば当たっても気が付かない時がある。
「なんだこの怪鳥は……うお!」
「それだけじゃない……大群だ! 化けカラスがこれだけいると、うわあ!」
兵士たちの頭をかすめるように通り抜けるとすぐに上昇する。
しかし鳥笛につられてトレインされてきた鳥やら羽虫のモンスターたちはより近くにいるうるさい人間たちに襲い掛かる。
「笛もうよい?」
「リファファファファ! けっこうですよっ。天使さまはこのままの高さでお願いします。たぶんこいつらレベルだと炎対策もしてるでしょうからっ」
そんな便利な防具があるなら……とも思ったが、長らく呪いで装備変更できなかったんだった。
ま、今もサイズ的に店売りの武器防具はまず装備できないだろうが。
「やはりこの人数でも多すぎたか! 半数は先に撤退せよ! しんがりは私が務める!」
「し、しかし団長」
「甘く見ていた! この人数であれば低階層で魔物を呼び寄せても問題ないと。このヴェルヌ一生の不覚であった!」
ヴェルヌさんの悔悟の声とともに部隊は分かれ、足を止めて魔物を引き付ける集団と先行して離脱する部隊にわかれた。
「どうする? モンスターたちはヴェルヌさんにヘイトが向かっているみたいだが」
「先行する部隊をやりますよっ。追っかけてください天使さま!」
必死で走っている先行部隊を上空から眺めていると神にでもなったような気分になってくるな。
アーシュだけでなくレーンまで俺の背中に捕まっているのが謎だが。
モンスターだか人間を精密に操るとなると集中する必要があるのだろうか。
上から見ていると先行する部隊に向かって狼のようなモンスターがでかい角の生えたゴリラに追い立てられているのがわかる。
「援護するいるか? いい持ってる。使う機会ある、今!」
「また変なアイテムか? あまり……」
「やる、ある!」
ふりかぶってアーシュが投げた謎のびんが先行する部隊のど真ん中に落ちて割れる。
「うおっ!? なんだこの煙は!」
「身体が……麻痺毒だ! 吸うな!」
「だめだ……吸わなくても触れただけで感覚がおかしくなるぞ!」
明らかに動きが鈍くなる兵士たち。
接触するだけで効果がでる麻痺アイテムか。
「こんなもんあるなら、襲われたときに使えばよかったのに」
「効果広い弱い、触れるだけいい。使う自分あたる。欠陥品ね!」
なるほどね。
そんな不良在庫の効果で兵士がもたもたしているうちに狼たちが追いついてくる。
そのまま駆け抜けて逃げる狼もいるが興奮状態でそのまま兵士に襲い掛かるのも多い。
なによりも遅れてやってきたレッサーデーモンの働きは圧巻だった。
レーンが集中して動かしているのもあってか無双状態で動きのにぶった兵士たちを始末していく。
「またレッサーデーモンです! しかもこんな地上階にまで!」
「先行させた兵士は……くっ!」
「団長、なにやら毒がまかれているようです! あまり強いものではないようですが……身体の動きが……!」
異変に気付いたヴェルヌさんたちがやってきた頃には惨劇は最終盤になっていた。
「天使さまっ、離脱してください! リファが来ます!」
「リファ誰か? まだ兵士もの奪ってないよ! 離脱よくない!」
やはりここにつながるのか。
「レッサーデーモンとレーン本体と俺たちで戦えばヴェルヌさんでも始末できるんじゃないか?」
「天使さま……愉快犯じゃないんですからなんでもやっちゃおうってのはよくないですよっ? それにここはコネを作ったほうがよさそうですし!」
そりゃそうなんだけどさあ。
この人に言われると釈然としないのだが。
「離脱はいいがどこに行くんだ? 街に戻る気じゃないだろうな」
「いやこれからって時に帰ってどうするんですか! それに天使さまは人間じゃないんですから宿で休む必要なんてないじゃないでしょっ」
「行く場所ないある? ないならあるね、行く、休む場所! ここない。地下2階ある!」
あるのかないのか。
特にレーンからも異存はなかったのでアーシュに言われるままに再び地下を目指す。
……地下2階?
迷路の階層だよな。
◆ ◆ ◆
「びっくりしたぜ、アーシュの連れにあんたらみたいのがいたなんてよぉ」
なんでこう……やばい奴ってやばい見た目してるんだろうな。
やっぱり威嚇的な意味があるのだろうか。
「クレイジービースト構成員やった! 早く金わたす。遅いよくない。舌いらないか?」
「へへっ……わかってるぜ。ほらよ。あいつらはここをかぎまわってやがったからなぁ。この混乱で始末できたのは運がよかったぜ」
「あのっ。ちょっと聞きたいんですけど森の乙女は懸賞がかかってませんか?」
やばそうな受け付けのおっさんは突然、話にわりこんだ妖精にもたいして驚かずに答える。
「そりゃ、かかっちゃいるが……証拠はあるのかい?」
「ちょっと欠けちゃってますけど腕輪や指輪にはまってるあれを何個か。ほんとは5人いたんですけどねっ」
いつの間にそんなもん回収していたのか。
っていうかあの腕輪ってそんな身分証明みたいな機能まであったのか?
「ちょっと待ってな」
受付親父があわてたように奥にひっこんでごそごそしだした。
しかし驚きだよな。
迷宮の中にこんな街があっただなんて。
しかも冒険者組合みたいなものまで用意されていて仕事の受注までやっているんだからな。
ちょっと歩いている人間は個性的な服装というかタトゥーというかリアルに顔に傷がある人が多いけど。
「こいつらですぜ、森の乙女を殺ったってのは」
「お前の報告以上にけったいな奴らだぜ。このちっちゃいのが森の乙女を殺ったってのは本当なのか、アーシュ?」
で、でた語尾にだぜつける女!
ついにリアルでお目にかかるとちょっと感動するな。
「やったのはこちらの天使さまですよっ」
「その場いたアーシュないね。でもウソちがう思うよ。それだけに力ある。クレイジービーストの殺ったの天使さまね」
「どうも天使です」
こういうヤンキー系ほど礼儀作法にはうるさいからな。
思考形態が犬とかに近いからどちらが上か下かが気になるんだろうな。
俺は右翼をさしだしてにこやかに挨拶する。
「私は互助会の会長だ。強い会員は歓迎だ。今後も仕事をやってもらえると助かるぜ」
「こちらも事情があるので絶対とは言いませんが、協力できる時はよろしくお願いします」
「ああ、ここには事情がある奴しかこねーからな。それにしてもクレイジービーストはともかく、よく森の乙女の構成員を倒せたな。あいつらは魔王でもぶっ殺すつもりでぶっ放してくるうえにガス切れも起こさないって聞くぜ。罠にでもかけたのか?」
少しおそろしげに俺の右翼をふわりと握ると、会長は愉快そうにたずねてくる。
「いや突然の遭遇戦だったので真正面から戦って死にかけましたよ。上の方の階層で戦ったのでそれなりに消耗して帰還の途中で戦闘した形になったんだと思いますが」
「謙遜と受け取っておくぜ。あいつらは最低でも相打ちに持ち込むことで有名だからな」
正直、条件が俺に有利だっただけで、万全の状態から戦闘開始したら最後の一撃で俺がやられていた予感はあったからなあ。
「能書きいい。依頼ある。早く言う。ないなら休む」
「ああ、実は変わった依頼はあるんだ。ただ強いだけのやつにも、小手先だけのやつにも難しいが、報酬はかなり高いやつなんだが」
「報酬高い、いいね。誰が依頼主か?」
「言っておくが聞いたら断ってもしばらくここにいてもらうことになるぜ? その天使さまも妖精もな」
「どうするか? 聞く価値ある思う。この言い方報酬おいしい。どうせ他にできるいない」
「いいですよっ。天使さまならだいじょうぶです!」
「なら言うぜ。依頼主は詳しくは言えないがかなり身分の高いクイーン王国のご令嬢、王国騎士団のVIPと言っていい人間の娘だぜ」
ローブラットさん……あなたはどこまで落ちれば……。
 




