くそうざい系リモートワーク上司といっしょ!【絶対絶命編】
次回の更新は6/2 20時です
【notice】存在力を吸収しますか?
※無料版ではこの機能は原始生命にのみご利用いただけます。
ハーピーというやつだろうか。
人間と鳥が嫌な感じで混ざったようなモンスターが転がっている前で俺は途方にくれていた。
すっごい気持ち悪いモンスターが空からいきなり襲ってきたので、思わず叫びながら火炎放射を乱射して撃ち落としたわけだが。
この視界に現れている変な通知は間違いなく俺の身体を再構成したサービス関連の何かだろう。
存在力か。
まあ吸収するとHPとかが回復する的な話だろうな。
しかし、一階層にこんなモンスター出てきたっけか。
もっとこう、普通のカラスとかリスに毛が生えたようなのしかいなかったと思うんだけど。
「まあ私が色々な魔物をキャリーしてきましたからねっ」
そう言ってひらりと俺の肩にのっかる小さな生物が一人。
「ひぃ!? む、虫!?」
「誰が虫けらか。妖精ですよ、妖精」
言われてみれば羽は蝶々っぽいが胴体はちっちゃな人間の少女だ。
こうやって見るのは初めてだけどかなり人間に媚びた見た目をしているな。
「もしかしてレーンさんですか?」
「はいっ。そうですよ、変態さん!」
「邪神の支配ってモンスターにも効くんですね。でもどうしたんですか?」
「いえ、ただ心配だったので監視です。かけらも信用できないなーって」
こういう大人を信じられない子供が増えたのは悲しいことだよ。
「いや、レーンさんはご主人さまと冒険したり忙しいでしょ。他人を、いや他モンスターを動かすのに集中してたら危ないですよ」
「そんなの思考分割すればいいじゃないですか。今も私は100は同時に動かしてますよっ。モンスターや冒険者を操って上手に深層の魔物を上層へキャリーしてるんですから!」
このガキそんなことしてたのか……!
「でも今も森の乙女とかクレイジービーストみたいなクラスタにロボが……操っている魔物や人間が壊されてるんですよね。複数操作だとそれなりのレベルの冒険者にはてこずるっていうか。なので、ぼけっとしてないでさっさと仕事してください、この変態っ」
せっかくのリモートワークでわずらわしい人間関係から解放されたと思ったのに、わざわざ邪神の呪いを駆使して監視するとは暇なやつ。
まさに邪神の使徒だな。
「よし、じゃあ吸収する。さくっと吸収します!」
「な、なに言ってんですか急に? 吸収?」
【notice】浮遊能力を吸収しました
えっ?
「浮遊? それええええええええエエエエエエエエエエエエエ!?」
「ぴぃ!? こわっ! 変態さんの身体がっ!」
手がはじけ飛び再び再構成されていく。
ふわっとした羽に覆われた感じの、いやこれは鳥の翼そのものだ。
っていうか痛いんですけど!?
傷口にぶっとい針を入れてぬちゃぬちゃしてる感じっていうか。
「ぐあああああ!? お、おさまれ俺の両腕……!」
「す、すごいですっ。おっぱいが……変態さんにおっぱいが生えました!」
いやそこはわりとどうでもいい。
確かにハーピーっぽいのを吸収したせいでそこも変わったけど。
「お、おさまったか」
すげえ、俺ふわふわ浮いてるわ。
いや人間サイズの動物が飛ぶには相当でかい羽がいるって話だったから、ハーピーとかが飛んでるのは不思議だったけど。
なんらかの力でふわふわ浮いてたのね。
羽で速度や方向を変えたりもできるみたいだが。
「あ、なんか声も高くなってる。いや、これ見た目どうなってるんだ? 裸よりもすごいことになってそうだが」
「か、かっこいい……! 私、小さいころこんなキメラ作ろうといっぱい実験してたんですよっ」
「そ、そう? けっこうイケてる感じ?」
「はいっ。マジいけてますよ! こう……世界を変えてくれる天使様って感じです! 見直しました!」
「そんな褒められたの久しぶりだなあ……じゃあ、もうちょっとモンスター吸収してみるかな……?」
「まだパワーアップできるんですか!? さあ行きましょうっ。魔物の場所まで案内しますよ、天使さまっ」
なんだレーンちゃんけっこういいやつじゃん。
こんなにはしゃいじゃってさあ。
ちょっと誤解してたかもしれん。
よーし、天使さま吸収特盛にしちゃうぞー。
「あっ天使さま見てください! 上層ではレアなグリフォンがいますよっ」
「よーし吸収だ!」
「わ、今度はナーガもっ」
「吸収吸収★」
「レッサードラゴンも吸収できちゃったり……?」
「できちゃうんだよな~これが」
「ファイアフェアリーもいっちゃいますかっ?」
「いっちゃえいっちゃえ♪」
「湿地にいるペタクラーケンもっ」
「いっただきまーす……ん?」
迷宮は広く、飲料には適さないがそれなりに大きな水場もある。
その大きな水たまりとでもいうべき水面に化け物がうつっていた。
「うぉ!? なんだ、水の中に見たこともないような化け物がいるぞ!」
「えっ、どれどれ? どんなのですかっ。……なーんだ天使さま冗談ばっかり。ただ水面に天使さまがうつってるだけじゃないですかぁ」
見たこともない化け物。
いやこれ見たことはあるぞ。
迷宮で死んだ冒険者を素材にして狂った魔法使いが生み出した化け物に似てる。
それよりもはるかに醜悪な見た目だけど。
いや、ばけもんじゃん。
結局はばけもんじゃん。
とどのつまりばけもんじゃん。
「バケモノじゃん!」
「あぁ……まじでいけてますよぉ……レーンの美しい天使さまぁ……」
涎を垂らしながら恍惚の表情で喜んでいるレーンだが。
やべえ、これが美しいとかこいつ邪神にでも魅入られてるわ。
あ、魅入られてるんだった。
「うおおおおお! これ街に帰れるのか!?」
「街を灰燼に帰すんですかっ?」
「まあこの姿で帰ったらそういう目的だと思われるよね!」
やべえ。
こんな姿で歩いていたら絶対にモンスターだと思われる。
「全員抜刀、首なし達磨」
声は知らないがどこかで聞いたようなセリフと共に、俺の両手両足と首を強い衝撃が襲った。
「なによっ、こんなの全然硬くないんだからね!」
「あんたなんか故郷でさんざん倒した魔物と全然変わらないんだからぁ!」
この殺意丸出しの連携攻撃とテンプレツンデレなセリフは……。
「いってて、森の乙女のみなさんですか」
「な、なによ、いきなりしゃべらないでよねっ」
「会話ができる魔物なんて怖くないんだかぁ!」
化け物が話し出して驚いたのか目を丸くしている侍装束のエルフは間違いなく森の乙女のメンバーだ。
しかしブレインさんとかウォッシュさんの姿はないな。
「あっ、こいつらですよ天使さま! 強い魔物を連れてきてもおびえるどころか嬉々として襲い掛かって来るイカレ戦闘集団ですっ」
「つ、連れて来たですって!?」
「あんたたちがこの異変の元凶ね! 絶対に斬ってやるんだからぁ!」
「はっ! 森に住む猿が吠えないでくださいっ。やっちゃってください天使さま!」
レーンの挑発によって森の乙女たちがいよいよ殺気をみなぎらせる。
「全員詠唱、サムライ手裏剣」
号令と共に飛んでくる5つの風の刃を飛び上がってかわす。
森の乙女はこれがやばい。
どうもこの世界の魔法は相乗効果のようなものがあるらしく、魔法を同時に行使することで通常より高い威力になる場合があるらしいのだ。
剣技ももちろん脅威なのだが、森の乙女は合成魔法みたいなものを使っている時のほうが強い。
それはリファが検証済みだ。
「あ、あんたその動きは私たちの戦術を知ってるわね!?」
「どこで知ったかなんて全然興味ないんだからぁ!」
俺の回避行動だけで森の乙女の手の内をある程度知っていることまで読んでくるか。
だが迷宮の中とはいえクイーンの迷宮の天井はかなり高い。
特に今いる場所はかなり開けた場所で、上に飛び上がればそうそう攻撃は当たらない。
そしてモンスターを吸いまくった俺の翼から放たれる――この風と共に吹き荒れる炎の嵐はかわせまい。
「ぜ、全員詠唱! やませ!」
氷と風の合成魔法だろうか。
俺の熱気に冷たい風をぶつけたようだが、明らかに森の乙女が押し負けている。
「はっはー! どうした? もう少し歯ごたえがあると思ったのだがな」
「天使さまキャラ変わってますよっ」
たしかに。
モンスターを吸った影響で精神が変容したのかもしれないが、なんだかハイになっている。
しかしテンションも上がろうはずだ。
俺ははるか高みから炎を撃っていれば勝てる状況で、森の乙女の魔法力では反撃は難しいとわかったからな。
「全員詠唱。おにぎり」
「おっとぉ! 無駄無駄無駄ぁ!」
地面の土や石を固めて、突風で砲撃する風と土の合成魔法だが、それも上空に撃ち上げるせいで勢いが弱まっている。
そのうえ俺が上から熱風を叩きつけているのだから狙いもぶれて当たるわけもない。
それに森の乙女のリーダー格らしいブレインさんやウォッシュさんと比較すればこいつらの魔力も判断力も劣るな。
いけるぞこれ。
「なによっ。死は恐れるに足らないんだからね!」
「そうよっ。我ら生まれた日は違えど死因は皆戦死なんだからぁ!」
「3名抜刀、2名詠唱。フジヤマ」
熱気でついに正気を失ったようだ。
フジヤマは相手の足元を大爆発させて熱っせられた地面の破片をぶつける土と火の合成魔法だ。
飛んでいる俺に当たるわけがない。
「炎を使うまでもないな。風で引き裂いてやろう」
案の定、大爆発が起こるが俺にはなんの影響もない。
なぜならば俺の下ではなくて、抜刀している森の乙女3人の足元が爆発したからだ。
「なんと!?」
爆風に吹き飛ばされた土にまぎれて3人の森の乙女が俺に飛んでくる。
そんなジャンプ用の魔法があったのか。
いや違う。
よく見れば飛んできたうちの1人は死んだか気絶して意識を失っているように見える。
それに意識が残っている残りの2人も身体の一部が爆発で……まともに剣を持つ腕が残っているのは1人しかいない!
こいつらマジでイカレてる……!
「全員詠唱! 神風!」
「この俺が……この俺がぁぁぁぁ!?」
弾丸の如く俺に突っ込んできた森の乙女の刀にまとわりついた凶暴な風が俺の顔面へと叩きつけられ、そして――




