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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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道端のゴミを見るような

<今回の登場人物>

主人公 素材は人間

ハウエル 地の神の巫女

スピリッツ 聖焔騎士団団長。火の神の巫女


(ローブラット コネ騎士)

 正直者は馬鹿を見る。

 ドン・キホーテでもサンチョは正直ゆえに宿屋かなにかでふるぼっこにされたのだ。思想の自由が保障されていなくても人は自由に考えることができる。しかしそれを口にしてはいけない。表にだしてはいけないのだ。人の自由な考えはカオスしか生み出さない。むきだしの人間など厄介でしかない。人は不自由に生きるしかないのだろう。

 そもそも言葉というツールは人の考えを表現しきれない。言葉なんてものは人の心の一部分を曲解して表に出しているにすぎない。

 では逆に人の思想、心、考えを表現しうるツールとは例えばなにか?

 目だ。




◆ ◆ ◆




 ゴミを見る目で大柄な女戦士が俺を見ていた。


「違うんです、これは、違うんです」

「違うのかい。全裸の上に一枚上着を羽織って、おもいっきり前をあけて粗末なもんを見せつけて女の子を泣かせている腐れ外道とは違うのかい?」


 人の印象は第一印象で決まるという。何事もふぁーすといんぷれっしょんが大事なのだ。

 はっきり言って俺はコミュ力大魔王だから初対面の人を相手にいい感じで接するのは天才的だと俺はよくリファに言って顔をしかめさせていた。

 しかし、ハウエルさんを天性の才能で思わず余裕のよっちゃんでボコってしまった俺が、意気揚々と少女の法衣というかガウン的な上着を引っぺがし、うずくまって謝っているハウエルさんを放置して意気揚々とパンツを探す第一歩を踏み出そうとしている時に「ういーっす。エルはいるかい? 異端審問なんて使って人を捕まえるなんて珍しいじゃ……ない……か」なんていう出会いではさすがに巻き返し不可能ではないだろうか。

 いやまだだ。まだ終わらんよ。


「かわいそうに。よほど怖い目にあったようですね」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 俺は優しく言ってから、ガウンを脱いでシャツ一枚で泣いているハウエルさんの肩にそっとかけてあげた。


「スピリッツさんはハウエルさんについてやっていてください。どうやらひどく怯えているらしい。俺は犯人がまだいないかあたりを見てきます」

「犯人はお前だよ」


 まあそうなるわな。


「はぁ? この国では裸で歩いていても罪にはならないって知らないんですかぁ? 罪状は? 判決はどーなるんですかねぇ?」

「死刑だよ」


 やばいくらいキレてるし。これだから刑法もろくに発展していない野蛮人たちは困る。


「いいですか? 確かにここは密室で、被害者以外には俺しかいませんでした。そのうえちょっとピチッとしたジャストサイズのガウン一枚を着ているだけで全然怪しくないです。でも本当にこれで俺が犯人だと断定できますか?」

「できるだろうよ」


 できるよね。


「魔法ですよ、魔法。非常口とか言いましたっけ。ああいう一瞬で違う場所に移動できるような魔法を使えば誰でも脱出できるわけです」

「移動するような一般魔法は使うための条件がかなり厳しい。特にこういう神殿なんかはね。あとそのピチピチ過ぎて明らかにサイズの合っていないガウンは地の神の巫女しか着ないデザインのだよ」


 まずいな。文化後進世界の住人スピリッツさん相手でもさすがに分が悪いかもしれない。まさか巫女専用装備だったとは。だったら飾り紐の一つや二つくらいつけとかないとおかしくないか。

 だが俺に不可能はない。


「だからなんだと言うのだねっ!? だいたいキミィ、失礼じゃないか! いきなりやってきて初対面の俺の事を、変態を見るような目で睨み付けて! この件は火の神の神殿に直々に抗議させてもらう!」


 スピリッツさんは無言で腰の剣を抜き放った。

 お? たかが人間ごときが俺とやろうってのか。うっかり忘れていたが今の俺は不自由な呪いの力で地味に生き延びていた俺とは違う。正真正銘の無敵のパワーを手に入れたのだ。


「調子に乗るなよ……? 聖焔騎士団の団長とは言え所詮は小娘。貴様を殺すことなど容易いのだぞ……?」

「ぶっ殺してやりたいのはやまやまだけどね、とりあえずは無力化させてもらうよっ!」


 そう言ってスピリッツさんは剣の峰で思いっきり俺のマグナムを殴ってきた。それ人としても男としても死ぬやつじゃんとは思うものの、俺の優れた動体視力によるとバチバチと刃が電気を帯びていることが見て取れる。

 なるほどね。火の神の巫女だが雷属性的な魔法も使えるわけだ。犯人を無力化させるためにスタンガン的に使ったりするのだろう。しかし最強となった俺に電気属性の技などどどどどどっどどどどどどっどどどどどっどどどっどどどどど――




◆ ◆ ◆




 目を覚ました瞬間に俺はマグナム=ラグナロク=ジョン(注1:マグナム=ラグナロク=ジョンは主人公の性器のこと。この場合はちっちゃなちんちん。注2:男性の中には自らの男性器に名前をつける者が多い)の安否を確認した。見た目上は無事のようだ。


「起きたかい?」

「今回の異端審問の結果、問題なしと判断された。あまりにもあやしい姿だったから念のために行っただけ。どうか許してほしい。よければおわびにこの神殿に逗留してもらいたい」


 スピリッツさんのセリフを遮るように矢継ぎ早に言葉を続けるハウエルさん。珍しくちょっと焦っている感じがしている。いや俺にはよくわかる。明らかにこいつは焦っている。

 スピリッツさんに後ろ暗いことを知られたくない、しかし俺を始末するのは難しいとわかったのだろう。雷の魔法が弱点らしいことが分かったとはいえ、スピリッツさんにこの場に踏み込まれてしまったからには俺が不自然に消えてしまってはややこしくなるもんな。


「いいんですよハウエルさん、俺がみずみずしい裸体をさらして歩いているので思わずムラッとして異端審問にかこつけて俺を犯そうとしたんですよね。あなたも若い女性だからもてあます気持ちもわかります。でも二度とこういう間違いは起こさないでくださいね」

「ちがっ」

「でもまだ諦めきれずにこの神殿に泊まれだなんてあまりにもねちっこいですね。飢えた野獣巫女の神殿にとどまることはできません。スピリッツさん、俺の貞操が危ないので聖焔騎士団の施設で保護してもらえませんか?」

「エル……こういうのが趣味だったのかい?」

「ちがう。ほんとうにちがう」


 最高に嫌そうな顔をしているハウエルさん。俺にケンカを売るからこうなるのだ。


「まあ困っているってんなら火の神の神殿として助けなくはないけどね。なんで裸なんだい?」

「迷宮の入り口にいる衛兵には修行だと言いましたけどね、実は俺もわからないんですよ。気が付いたら裸で迷宮の入り口近くにいたので」

「まってスピー。まずこの男に微塵も性的興味がないことを確認したい」

「ふーん、趣味かと思ったけど違うんだね。ただ何もせずに居座られるのは困る。働かざるもの食うべからずさ。幸いあんたは戦闘――」


 きた。ついに俺が異世界転生人として大活躍する時がきたようだ。


「いいでしょう。料理人として腕をふるう日がきたようだ」

「料理? いかにも鈍くさそうで料理に向いているとはとても思えないけどねえ」

「そうですね……手始めに卵を使った素晴らしいソースを教えてあげますよ」

「まさか禁制品のマヨネーズじゃないだろうね」


 こいつエスパーか。


「な、なかなか料理に造詣が深いようですね。さすがは火の神の巫女といったところでしょうか」

「食道楽を気取った貴族が好んで食してたまに死ぬソース。酢を強めにして長く放置すれば危険性は低いと言われているけど、そもそも生で卵を食べるのはこのあたりでは馴染みがない」

「だったら――」

「まさか米と味噌とか言わないだろうね? 確かに味は悪くないけどあれは貴重品さね。あたしみたいな兵士が普段から口にできるようなもんじゃないよ」

「巫女って心が読めたりするんですか?」

「歴史書によると迷宮で気が狂った正体不明の人間、通称『邪神憑き』はまずはじめに料理人を志望するといわれている。最初にマヨネーズを勧めてきて、その後は米と味噌、そしてありふれた揚げ物や肉とか魚の生食を勧めてくると伝えられている」

「あたしはてっきり眉唾だと思ってたけど、どうやらあんたは本当に邪神に魅入られた人間みたいだねえ。子供でも分かる一般常識に関する知識をほとんど失ってるってのは本当かい? 言っておくけどあたしたちは0という概念も知っているし、掛け算も割り算もできるよ。この大地の周りを太陽や月や星が回っていないのも知ってるし、一つの土地に同じ作物を何度も作ってはいけないことも知ってる。どうだい図星かい?」


 ほんとクソみたいな異世界だなここ。


「だいじなことなので言っておく。奴隷制度は主に犯罪者を処罰するためのものに限定されつつあり、性行為目的の奴隷は闇ルートで売買されていなくもないけど、明らかにそれ目的の奴隷を買うような人間は嫌悪の対象になっている」

「具体的に言うと、本人に責任がないと類推される未成年の奴隷を所持しているものはイかれているという風潮がかなり強まってるね。懲罰が必要な成人ややむを得ない理由で身を売った成人男性の奴隷くらいしか売ってないよ。まさかあんたが未成年の子供を欲しがるまでの変態ではないだろうけどね」

「罪人、いわゆる懲役奴隷とはいえ男が女奴隷を買うということは人の目を気にしない腐れ外道だというのが一般的な見解。邪神に魅入られてしまった痴人はやたらと年端もいかない少女を買いたがるらしいけど」


 なーる。だから俺は今まで会う人からの好感度が、特に女性からの好感度が極めて低かったのね。

 そりゃ年端もいかない少女に命がけの迷宮で戦闘を強いるなんて修羅の世界過ぎるもんな。それにヴェルヌさんだって無理を承知って感じで頼み込んできたし。知らぬ間に泥をかぶりまくりだったんじゃねえかふざけんな。


「そんな当たり前のことを言われても困りますね。俺は料理人の補助として食器洗いとかやるって言いたかっただけですから。あと便所掃除とか、迷宮での荷物持ちとか」

「エル、あんたは何かあたしにも言えないことで危惧しているみたいだけど、この男が何かの脅威になるとは思えないね。あたしたちが習った典型的な邪神憑きじゃないか。まさか本当にいるとは思わなかったけどねえ」

「けっしてなにか企んでいるわけではないけど私もそうおもう」


 紆余曲折はあったが、うまいこと彼女たちを油断させることに成功したらしい。


「とりあえずこいつは……あんた名前はなんて言うんだい?」

「えーっと、コールフィールド」

「コールフィールド、あんたはとりあえずうちで預かる。エルもそれでいいだろ。さすがに野放しにできないし、ここじゃ抑えきれるとは思えない」

「やむをえない」


 聖焔騎士団か。たしかこの後しばらくはリファ達は迷宮にこもるはず。いや時系列としては聖焔騎士団をはじめ割と奥深くまで迷宮を探索する人たちが帰ってこれなくなるんだよな。

 邪神と関わらないようにするならば、とりま迷宮に近づかなければそれでいい。スピリッツさんが迷宮から帰ってこないようになった段階でまた考えればいいだろう。




◆ ◆ ◆




「じゃあ、お世話になりますスピリッツさん。行きましょうか」


 コールフィールドと名乗る男は全裸でスピリッツに笑いかけた。全裸であること以外は何もおかしくはない自然なスマイルである。しかしスピリッツは何かがおかしいと感じた。その顔は、全身も含めて何もまとっていないにも関わらず、何かに覆われていた。

 仮面。そういう作り物めいた、しかしそこにいるのはいかにも無害そうな何かである。確かにこちらに敵意を持っていない。


「行きましょうはいいけどね。まず服がいるだろ」

「いりますかね?」

「いるだろ」


 コールフィールドのとぼけたような態度だけ見ればなんということはなかった。しかしスピリッツはコールフィールドを見て、かつて学校の研修で訪れた監獄を思い出していた。

 研修とはいってもスピリッツは上級民の通う学校の学生であり、目を背けるような業務を見学したわけではない。案内してくれる係の者も優しげな女性であり、ローブラット以外は文句どころか楽しい、というか興味深い見学だった。

 しかしその見学のなかですれ違った看守の一人。まだたいして実戦経験のないスピリッツだけでなくハウエルともう一人の友人までもが何かを感じ取った。殺気というものでもない。決してなにか意識を向けられたのではない。よくある年若い女に向けられるような下卑たものではない。

 しかし確かに同行していた生徒のうち一人を除くスピリッツたち三人は何かを感じ取って怯えたのだ。

 いまこの時、コールフィールドに出会うまでスピリッツはそれが何なのかを理解していなかった。むしろスピリッツは忘れてさえいた。

 あの時、すれ違った一人の看守。当時スピリッツは射すくめられたかのように感じた。むしろ逆だったのだとスピリッツは気づいた。

 普通は近くに人が通れば多少は興味を持つ。すぐ近くにハエが飛んでも猫が横切っても意識は向くだろう。ましてや普段は見かけないような学生がうろついているのだから何かしらの注意は向けられるだろう。

 だが看守はスピリッツ達に全く興味を示していなかった。一瞥もせずすれ違ったわけではないのに。確かに看守は通り過ぎる時にスピリッツたちに向かって黙礼したにも関わらず。

 なんだか気に食わない奴だな。人間を牢に入れて管理する立場になるとああなるのか。見学させてもらっている立場にもかかわらず聞こえよがしに鼻を鳴らして憤慨する学生の一人に、案内役は謝りながら答えていた。あの人は長年――の入る区画を担当しているので少し独特に感じられるかもしれません。

 スピリッツはコールフィールドが看守にそっくりなのだと気付いた。いやむしろ看守以上だとスピリッツは感じた。哀れみではなく、諦めでもなく、もう覆せない、そんな考えすら通り越した無機質な。それでもあの看守は今になって思えばコールフィールドほどではなかったのだ。

 この男はそういう人間的な過程など何もなくこうなっている。いや全然別の何かなのだとスピリッツは考え直した。


「わかりましたスピリッツさん、服については前向きに考慮しましょう。ところで食後のデザートには毎回果物がでますよね?」


 そう言って媚びたように笑うコールフィールドの、その

【自問自答コーナー】

Q1びりびり電気ショックを与えたスピリッツはカウンターを受けなかったの?

A 受けました。主人公が気絶しているあいだ、ハウエルと同じようになっていました。でも主人公は気づいていません、バカだから。


Q2電気が弱点みたいだけど、チートっぽい強化を受けた主人公でも気絶するほどなの?

A 腕や胴体であればかなりびりびりくる程度ですが、いくら俺Tueeeeee主人公であってもさすがにチンコに直で電撃を受ければ気絶しないといくらなんでもリアリティに欠けると叱られると思いました。


Q3主人公が女から拷問を受けるようなシーンが続いているがこれは物語の進行上に必要な表現ではなく、ただの趣味ではないのか?

A はい。


Q4 リファのあれってネックカットにもあったけどブギー……

A 慶次とも戯言とも言えますが内村的にはナタク。

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