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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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実質復活

【これまでのあらすじ】

大変だ主人公がころされた!このひとでなし!

でもどうせチートで生き返るんでしょ?

「復元と治療が完了しました。ようこそ †リファ・レーン†@黒騎士 さま」


 誰かに呼ばれている。


「データ参照完了しました。現在、文化レベル最低が設定されています。ユーザー登録されたデバイス以外にも 10名 までサービスをご利用いただけます」


 どういう意味だろうか。全く意味が分からないが、とりあえずこういうアナウンスを聞くと金がかかるかどうかが気になる。


「サービスって……それってお通し的な料金をとる気じゃないだろうな?」

「極めて低俗な文化圏出身を確認。倫理観ゼロ。文化レベル最低の設定は引き継がれます。……汝……脆弱なる人間よ……しんでしまうとはなさけない」


 しんでしまった人間に対して追い打ちをかける社会に俺は憤りを禁じ得……えっ、俺は死んだのですか。


「でも生きてるみたいだな。いや待て。思い出した。ここはクイーンの迷宮の奥底で見つけた他の惑星の先進的なテクノロジー的なあれの場所だな。わかった、あの時の他の惑星の先進的なテクノロジー的なあれによって、俺は死ぬ直前でここに転送されてフリーザ軍の回復ポッド的なあれでゴポゴポしてるうちに完全復活を遂げるどころか色々なチート能力まで得てしまって最強のスローライフを過ごせたりするんだろう? だってやけに体が軽い。生まれ変わったみたいな気分だもの。もう何も――」

「……違います」


 えっ?


「まず初めに汝は完全に死に絶えた。死んだ人間は復活せぬ。汝は最後にこの場に来た時の複製となる。その証拠にここを出た以降の記憶、死んだ時の記憶はない筈……」


 ドン引きなんですけど。

 それってつまり死んでるじゃん。

 機械のバックアップでデータ復活させましたとか言われても。

 こっちは人間様やぞ。

 ドラえもんでもこんな復活させられた事ないだろ。


「汝の復活日時は悪魔の契約の定まりによって過去へと誘われた」

「は?」

「ご案内音声の文化レベルを0.1引き上げました。後進惑星へのデータ送信はサポート外ですので、バックアップ復元日時はデータ破損日と前後します。デバイスの感性によっては大きく前後すると感じられる場合があります。ご了承ください」


 後進惑星って差別的な言い方じゃないのか。まあ優れた文化の星では言葉狩りは廃止されたのかもしれない。

 いやそれよりも前後するって。後は分かるけどさあ。


「前後するって前はどうやってるんだよ。俺がここに来る前から死亡日が分かってたってことか?」

「我々のサービスは時間に縛られません」

「タイムマシン的な物を持っているということか」

「後進惑星ではその理解が限界です」


 こいついちいちむかつくなあ。


「時間指定できるなら死んだ直後に復活してくれればいいのに」

「プレミアムアカウントに移行すれば任意の時間にバックアップを復元できます」

「有料エロサイトみたいなこと言うなあ。まあでもええやん。なんぼなん?」

「こちらの後進惑星の全てを支払っても残高は不足しております」


 やばっ。この惑星の価値、低過ぎ。


「ちなみに残高が足りていたらタイムワープ的なことをして送ってくれるのか?」

「いえ、現在の復元ボディを破棄してからご指定の時間に復元します」


 先進惑星の倫理観ってほんとに優れてるのかしらん。ある意味、生物も機械も平等みたいな感覚なのだろうかね。


「そんなら無料でやってもらえるサービスと俺の支払える範囲でやってもらえるサービスを教えて」

「順番は前後しますが、支払える価値のあるものはこの惑星に存在しません。ご提案できる無料サービスは例えばお試し転送です」

「お、すごい。今すぐリファのところへ転送できるのか」

「いいえ。この洞窟の地上に近いいずれかの生存可能な座標に限られます。プレミアムアカウントに移行していただくと任意の転送が可能になります」


 移行できねえって言ってんだろうがよ。


「まあそれでいいや。あとはどんな無料サービスが? ほら、人の持っているスキルを盗むとか、全属性の魔法が使えてしかも魔力が竜族とか魔族並みにしてくれるとか、職業適性を勇者とか魔王とか神にしてくれるとか、一瞬で敵を蒸発させるようなすごいレーザー銃とか、そうだ……生物とか作れるんならエロ可愛い女神を従者として作ってくれるとか、いや待てやっぱり機械の少女とかのほうがありかもしれない」

「特級危険思想が確認されました。サービスの一部がロックされます。現在のボディは完全に削除され、自衛能力を付加したのち転送地点へ再復元されます。ご利用ありがとうございました」


 え。完全に削除ってそれってまた――




◆ ◆ ◆




 気が付くと寒く薄暗い懐かしい洞窟だった。

 さっきの夢であってほしい会話が夢でなければ俺は例のシステムに完全に削除されて、またここに複製品として生まれたことになる。

 俺の頭の中で「生命って、人間って一体……?」とキートン山田がナレーションした。


「ご主人さまっ。魔物です! 見たことない魔物が現れましたよっ」

「な、なんだこの……魔物、なのか?」


 やけに聞きなれた声と知らない声が聞こえた。一人はいかにも安そうな服を着て大きな荷物を背負った金髪の少女と、高そうな鎧と大剣の男戦士が俺を見て驚いていた。

 まあ突然に目の前で人間が転送、というか復元されたらビビるわな。


「まあ落ち着いて。驚かせてしまって申しわけないですが、俺は怪しいものではありません」

「全裸で迷宮にいる男が怪しくないわけないでしょっ。せめてちょっとは局部を隠そうとしたらどうなんですか!?」


 ごもっともな指摘だった。

 そりゃ体が軽い訳だわな。

 認めざるを得ない。俺は不審者だ。


「訂正しましょう、俺は怪しい者です」

「やっぱりです! ご主人さまっ、さあぶっ殺しましょう、あいた!?」

「奴隷如きがこの私に指示するなと何度言えば分かる。しかし言葉がわかるのであれば貴様は人間のようだな」

「いったーい! 暴力反対ですよっ」


 やけに元気のいい少女をどつきつつ、男戦士が俺に言った。どうやら魔物としていきなり斬りつけられることは回避できそうだ。

 しかし、なんだろうか。俺の警戒心は珍しくマックスハートだった。

 完全に武装している男戦士よりも、この少女。可愛らしく痛そうなリアクションをとってはいるものの、その緑の目。


 まあといいや。とりあえず嘘でもついてこの場をごまかそう。


「俺はゴールデンジィ家の雇われ冒険者です。迷宮でなにかの新種の罠が発動したのでしょう、気が付けば雇い主たちともはぐれ装備も全て失った状態でこの場に飛ばされていたのです」

「ゴールデンジィ家、あの悪名高い……金にまかせて質の低い下人を雇っているから罠になどかかるのだ」

「ふーむ、でもそんな罠なんてほんとーにあるんですかねっ? なにか大きな秘密を隠すために嘘をついているような気がするんですけどね~」


 勘のいいリファは嫌いだよ。

 っていうか、この子はリファだよな。しかも俺と出会う前の。ほんとに復元日時が前後しまくりでやんの。

 先進惑星だかの奴らにとっては、後進惑星の生物の細かいことなんてほんとどうでもいいんだろうな。すげーお役所というか雑な感じの仕事しやがる。


「では俺はこれで。さようなら旅の人」


 NPCっぽいセリフを残して立ち去るぜ。たぶんこの初期リファがいるってことは迷宮の地上部分かそれに近いところだろうし。変に絡んでタイムパラドックス的なことが起こってもまずいしな。フィクションによっては過去に来たキャラが消えたりしているし。

 多少、モンスターと出会っても呪いさえあればなんとでもなる。


「おっと待ちな」

「へへっ、残念だったなあ~。ここでお前らの冒険は終わりだぜ」

「見ろよ。金持ちそうな貴族様がご丁寧に女連れで……なんでてめえは裸なんだ!?」


 突然現れた盗賊らしき奴にまで指摘されてしまった。


「下等生物はどこにでもいるものだな。おい冒険者、武器くらいは貸してやるから手伝え」

「いえ、結構」

「おっ、ということはやはり変態の人は魔法を使えるわけですね!」




 苦しめ。




 しかし何も起こらなかった!

 まじかよ。それは俺は困るぞ。いや困らないか。むしろ呪いが解けたのはありがたいのではないか。あの呪いのナイフもローブ以外の異世界ファンタジーグッズも装備できるようになるわけだし。


「き、気味悪いな、なんで黙ってじっと睨んでくるんだこの変態」

「うげ……お前、腕毛すごいし身体がっちりしてるし狙われてるんじゃねえか?」


 確かに俺が睨んだ相手はクレスケンスに似ていなくもないが。


「あ、すいません貴族さん。やっぱり武器借りていいですか? 小さめのナイフとかでいいんで」

「貸してやるからいやらしい目でこの私を見るのをやめろ。おい奴隷」

「はーいっ」


 どちらかと言えば料理向きのような、戦えなくもない小さめのナイフをリファが手渡してくれた。しかも俺の手を両手でギュッと握りしめる感じで。


「妙だな。全くときめかない」

「……めっちゃ失礼な変態さんですねっ」

「無駄口を叩くな下級民ども、聖なる光で貫かれるがいい!」


 俺達をdisりながら手から魔法っぽい光線を放つ貴族様。

 っていうか魔法なんだろうな。光に当たった盗賊が痛そうにしているし。なんか前に見たこんな感じの光る魔法はすごい勢いで敵を貫通させていた気がするけど。

 何にせよチャンスだ。魔法で怯んでいる盗賊にナイフでも投げつけてやれば頭数を減らせるだろう。


「終わりだ」

「痛え!? やりやがったなコイツ!」

「魔法もたいしたことねえぞ。殺っちまえ!」


 なるほどね。今までナイフを投げるだけで必殺だったのは呪いのナイフのおかげだったということだ。今の全裸の俺がナイフを投げつけただけではかすり傷をつけられる程度。加えてお仲間の貴族の魔法は怯ませる程度の威力で、リファはただの荷物持ちの奴隷少女。

 ま、戦闘能力を失っても俺には今までの戦闘経験があるからな。

 この状況に合わせた最適な行動をとればいいだけなんだよなあ。


「助けてくださーい!!! 集団盗賊に襲われていまーす!!!!」

「あっ! あいつフルチンで逃げ出しましたよっ」

「ふん、所詮は下賤の輩よ。おい奴隷、前衛に出ろ。我が盾となれ」

「えー!? それって本気ですかご主人さまっ。リファは犯罪奴隷じゃないですからそこまでする義理はないんですけど!」

「黙れ。これぐらいのことはどこの奴隷も――」


 旧ご主人さまの声がそこで途切れる。

 俺は走りながらも状況を把握するために振り替えると、漫画の三国志でよく見た打ち首シーンのように旧ご主人さまの頭部が空を舞っていた。


「じゃあもういいです。さようなら、ご主人さま」


 無表情の少女がつぶやくように言った。

 いや、このリファ武器とか持ってないんですけど。どうやったんだろう。魔法だろうか。


「お前たちはレーンって知ってますか? レーンの狼って言えばちょっとは有名なんですけど。私がそこの首領なんですけどね。持っている金目のものを全部渡すなら見逃してあげますよっ」

「レーンの狼って……あの殺戮のための殺戮を好むっていう」

「ふざけるなっ。俺たちは盗賊だぜえ! 奪うことはあっても半年洗ってねえ下着のきれっぱしすら与えられねーぜ!」


 リファがレーンさん?

 でもレーンさんってもっと普通の青年という感じじゃなかったか。


「ふーん。じゃあどうします? 死ぬ? ごちゃごちゃ言わずに有り金ぜんぶ寄越せや。ぶっ殺すぞ」

「ガキ一人でなにが狼だっ。ガキなんざ関係ねぇ! てめえなんざ怖くねぇ! ぶっ殺してやぁる!」


 幕開けもあっという間なら幕引きもあっという間だった。

 盗賊たちの首はリファに近づく前に二つ空を舞い、生き残った盗賊は悲鳴をあげながら這う這うの体で逃げ去っていった。


「さて、問題はあらかた片付いた訳ですけどー。全裸のお兄さんはどうしたいですか?」


 少女は特に何も感情をのせていない瞳で俺を見つめた。

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