クイーン王国の城へ
「黒衣の魔術師だ」
「えっ? レッサーデーモンを素手で殴り倒したっていうあの?」
「間違いねえ。あの黒い大剣を持った従者がついてるしな」
「どっちもえらい若いぞ。従者なんかまだ子供じゃねえのか?」
「バカ! あの黒剣士も化物級だぜ? あの黒い大剣、紙の安物なんだぞ」
「もやし野郎ご用達の紙剣!? そんなもんでレッサーデーモンとわたりあったってのかよ」
ヴェルヌさんのレッサーデーモン退治を手伝って3日が経った。
噂が尾ひれをつけて泳ぎ回っている。
リファはちょっと鼻をふくらませて得意気になっている。
俺はストレスで禿げそうだ。
ヴェルヌさんを助け、一緒に帰還した姿は多くの人間に見られてしまった。
俺のバカみたいなローブ姿と、禍々しく黒い大剣を装備したリファは一発で覚えられてしまったらしい。
「でもすごいですよご主人様。剣だけじゃなくて鎧まで闇魔法で強化してくださるなんてっ」
「うん。まあね。リファは大事だからね」
「えへへ♪ ご主人様だいすきー」
世界で一番かわいい。
しかしリファは黒く禍々しく輝く紙の鎧を着込んでいるのでだいなしだ。
案の定、買った翌日に呪われた紙の鎧です。
俺の黒いローブと似たような効果の防具なのだろうか。
「それにしてもなかなかクイーンの迷宮が解禁されないなあ」
「そうですね。レッサーデーモンがうろついているうちに早く探索再開したいですよねっ」
リファはかわいいなあ!
レッサーデーモンがうろついているうちは出入り禁止だという事がわかっていないらしい。
「近くの森にはゴブリンくらいしかいませんし……早くロンリーウルフを斬りたいですよねー」
なんでこの子はこうも好戦的なのか。
呪われた魔剣に魅入られ気味なのかしらん。
訓練がてら近くの森に遊びに行ったのだが、その時もひたすら敵を求めてさまよっていたしな。
邪神の信者の従者になるだけのことはあるわ。
「貴様が黒衣の魔術師だな」
居丈高な女の声が酒場に響き渡った。
女騎士というやつか。立派な鎧を着て、兵士を連れてこちらへとやってくる。
「ヴェルヌ団長にうまく取り入ったようだが、私の目はごまかせん。貴様を城へ連行する」
まずい。実にまずいな。
これは俺が邪教徒だとばれたんじゃないか?
闇魔法なんて言ってごまかしたが、腕が腐り落ちるなんて禍々しい魔法はあまりなさそうだし。
「た、隊長!? ヴェルヌ団長は魔術師殿を丁重にお迎えせよとのことでしたがっ?」
女騎士の配下らしき兵士があわてた声をだす。
「ふん。ヴェルヌ団長がなんだというのだ。私には分かる。こいつは邪悪な魔法使いに違いない。この怪しげな黒いローブが証拠よ」
「滅茶苦茶ですよ隊長!」
「いいからひったてよ。抵抗すれば斬り捨ててもかまわん」
「レッサーデーモンを素手で倒す冒険者ですよ隊長! 刺激しないでください!」
うーんなかなか鋭いなこの女騎士。
言ってることは滅茶苦茶だがだいたいあってる。
呪われたローブの見た目どおり邪神の信者です。
「さっきから聞いていればご主人様への無礼の数々。とうてい許してはおけませんっ」
おっとこちらの危険分子もついに動き始めた。
「なんだこのチビは?」
「ペラペラとよく動く舌ですね。そこになおりなさいっ。3枚におろしてあげましょう!」
突っかかろうとするリファを慌てて俺は抱きとめた。
「きゃあ、ご、ご主人様?」
「まあ待てリファ」
「いやですっ。斬捨てます!」
侍か。
っていうか紙の大剣じゃ斬れないだろうに。
「これも俺の……いや我が深淵なる作戦のうちなのだ」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ。だから俺が言うまで様子を見ているんだよ? 絶対にリファは俺が守るから」
「ご、ご主人さま……」
ちょろ可愛い。
とりあえずリファを抑えることに成功した俺は、兵士に向かってうなずいてみせた。
「お城までついていけばいいんですね。わかりました」
「ま、魔術師殿……申し訳ありません。隊長はコネで入隊したアホ騎士でして」
「貴様っ! いまなんと言ったか!?」
「なにも言っておりません隊長」
やっぱりどこに行ってもコネ社会なんだなあ。
そりゃ邪神が忘れ去られても滅びはしないわけだわ。
「しっかりと縄をかけろよ。武装はそのままでよい。そんなもやしどもに縄は引き千切れまい」
偉そうに指示する女騎士に連れられ、俺たちは城へと連行されていったのだった。
◆ ◆ ◆
クイーンの王国の城は町を挟んで、迷宮の反対側にある。
街と城は同じ城壁で囲まれているものの、街で城を守っているように見えてどうも……。
城についてからは全てが迅速だった。
俺の尻を蹴飛ばしながら地下牢へと進む女騎士。そして城に着いたと同時にどこかへ走り出す兵士。
消えた兵士に連れられ、大声と共に現れたヴェルヌさんはすぐさま女騎士を殴り倒し、その頭を床にこすりつけた。
「すまぬ……すまぬ魔術師殿、リファ殿。娘が本当にとんでもないことを……!」
「騎士団長! これは横暴ではありませんかっ。私は騎士団の隊長ですぞ! なぜこんな平民如きに土下座など――」
「だまらんかこの大馬鹿者め! 貴様など、もはや部下でもなければ娘でもないっ」
親娘でしたか。いや立派な人物であっても娘にはコネを使ってしまうのかもしれない。
リファは俺の話がきいたのか静かに微笑んでいる。
俺が尻を蹴飛ばされた時はどうなるかと思ったが、意外と冷静だな。偉い。
「どうか許して……いや許してくれとは言うまい。不出来ながらも我が娘と、今日まで可愛がってきたがよもやこれほどの暗愚だったとは」
「父上! 言うに事欠いてこの私にへぶっ?」
ヴェルヌさんに殴りつけられて地面に再び伏せる女騎士。
「謝らぬか!」
「ず、ずいまぜんでしたー」
「ま、まあまあ。娘さんも反省しているようですし。なあリファ?」
とにかく騒ぎを収束させたい俺としては、とっとと褒美のお言葉でもいただいて帰りたい。
「そうですね」
リファはニコニコしながら昨日俺が買ってやった簡易ナイフを懐から取り出し、女騎士のほうへ放り投げた。
「自害せよっ!」
侍だ……!
いや何言ってるのこの子。
さっきから笑っているのはキレ過ぎだったからか。
「ひいぃぃ!? ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいでした!」
「自分ではできませんか? では介錯してあげますからちょっとだけ喉を突いてくださいっ」
「いやああ!? 助けてパパ!」
「リファ殿! たのむっ、娘だけは! 娘だけは何卒! どうか私の命で!」
黒い大剣を振り上げるリファに、震える女騎士。
そして必死で助命を請うヴェルヌさん。
俺はなんとかリファを落ち着かせ、あたふたしていた兵士その1に女騎士を連れて行かせた。
「はなしてっ、あいつご主人様のキュートなお尻を蹴飛ばしたんですよ!?」
「いいんだリファ。過ぎたことなんだから。ヴェルヌさんも顔を上げてください」
「本当に申し訳なかった。娘は昔から乱暴でがさつでバカだったのだが、まさかこれほどとは……。恩人、いや英雄である魔術師殿を乱暴に扱うなどとんでもないことです」
いや、もしかしたら娘さんは直感力に優れた人間かもしれませんよ。
邪神の気配を感じたのかもしれないし。
「なんであんなのを隊長にしたんですかっ? コネですね? コネなんですねヴェルヌさん!」
「ち、違う! 私は何もしていない! 団長の娘だからと言って特別扱いするなと何度も周囲に言っておいたのだが……」
親がそう言っても周囲が祭り上げる時もあるからなあ。
ヴェルヌさんがそう言ったからこそ言葉の裏をとって気を遣ったとか。
「とりあえず行きましょうヴェルヌさん。時間が無駄にかかってしまいましたし」
「そ、そうだな。申し訳ない魔術師殿。ではこちらに」
リファはまだ文句を言い足りない様子だが我慢してもらおう。
しかし、この前は王に表彰させてやると豪語していたヴェルヌさんだが、実際はそうはいくまい。
せいぜい良くて、高官クラスの直属の部下くらいのが褒美の言葉をくれて終わりだろう。
せめて金一封でもくれたら御の字だしな。
むしろ金だけでいい。
「ねえ、ご主人様。ヴェルヌさん、ずいぶん寂しいほうへと進んでませんか? 王様の居る広間ってもっとあっちじゃないんですか?」
やだこの子、本気で王様に会えると思ってる。
「はは、我が王はよほどのことが無い限り大広間は使われないよ。あんなものは明るくするだけで金がかかるとのことだ」
ん? なんかその言い方だと……。
「さあ着いたぞ。ヴェルヌ只今参りました!」
「うむ。大儀である。細かい礼儀はいらぬ。さっさと入るがよい」
「失礼いたします! さ、黒衣の魔術師殿」
護衛一人いない質素な部屋に王はいた。ヴェルヌさんもいかついがこの王はそれを超えていた。
絶対に俺とリファでは勝てないだろう。奇跡が起きても一瞬で殺されるに違いない。
「貴公が黒衣の魔術師殿か?」
「は、はい名前は――」
「よい。我が国では迷宮を探索する者の素性は問わぬ」
この王がクイーンの迷宮を探索すれば一晩で踏破してしまうんじゃないか?
「ヴェルヌ達を救ってくれたそうだな。感謝する」
「あ、はい」
「わざわざ呼びつけて悪かったな。直接行くと言ったのだがヴェルヌたちがうるさくてな」
王はにやりと笑った。
笑ったんだと思います。
笑顔が怖い。
「褒美をとらせよう。貴公らは何を望む?」
「い、いえお気持ちだけで――」
「僭越ながら申し上げます! 黒衣の魔術師殿には客員魔術師に就任していただいてはいかがでしょうか」
ヴェルヌさんが食い気味に発言してくる。
なんだよ客員魔術師って。
「恩人を抱きこむか。なかなかいい面の皮を持つようになったなヴェルヌ」
「いえ、決してそのようなことは……」
「どうする黒衣の魔術師殿。貴公のような強き者が力を貸してくれるのであれば、私としてもありがたいが」
だからなんだよ客員魔術師って。いちいち王と目が合うだけで怖いんだが。
「王様! 客員魔術師ってなんですかっ?」
「それは私が説明しよう、リファ殿」
物怖じしないリファに感謝を。
ヴェルヌさんの説明を噛み砕いて言うが、要はなんちゃって貴族だ。
あくまで王国内だけであるが、特権階級の集まる場に入ることができる権利という感じか。
特別な発言権も無いし、領地などもない。
ただ王様直属という立場にあるから、例えばさっきのような女騎士だとか馬鹿な貴族に絡まれた時に効いてくるという話だ。
「わあ、便利そうですね! さしあたってはご主人様にふさわしい身分です♪」
「リファ殿は気にいってくださったようだが……我が馬鹿娘のようなことが今後あるとも限らぬ。どうか我々の保護を受け入れてもらえないだろうか?」
優秀な、もしくは将来有望そうな冒険者に保護のために与えるのが通例らしい。
「そういうことでしたら喜んで」
「ヴェルヌよ。貴公の娘がどうかしたのか?」
「えっ! そ、それはですね」
まさに薮蛇だった。
あたふたと慌てながら事情を説明するヴェルヌさん。
「そうか。貴公の娘……ローブラットだったか。ローブラットには謹慎を命じる。追って処分をくだそう。客員魔術師殿、そしてその従者殿。部下が失礼をした」
すっと頭を下げる王。
よく分からんが王が頭を下げるってまずいんじゃないのか?
「も、申し訳ありませぬ……! 王にまでここまでさせてしまうとはどう謝罪すればよいやら」
「いや王様もヴェルヌさんもそれくらいで……。私は気にしておりませんので。な、リファ?」
「うーん、ご主人様がそこまでおっしゃるなら。でもなー」
リファちゃんしつこいかわいい。
「ほんとヴェルヌさんの娘さんにあまり厳しい処分はやめてあげてくださいね」
「魔術師殿……! ありがとう、本当にありがとう」
ついには男泣きし始めるヴェルヌさん。
子煩悩なのか人情家なのか。
「ところで王様、クイーンの迷宮の探索自粛ですが」
「おう、それよそれ。どうだヴェルヌ、まだ最低限の安全の確保はできぬか?」
「はっ。いまだ非常口の発動が不安定であり、不穏な気配は拭いきれませんが、上層においては強力な魔物がでてくるということはないようです。地の神の巫女殿によると依然危険が危ないとのことですが……」
「これ以上の迷宮探索の制限は難しいか」
この王国は迷宮を中心にまわっている。
たくさんの冒険者がクイーンの迷宮に挑戦し、王国に金を落とす。
迷宮探索に関連した商店も多く、迷宮の閉鎖は死活問題になってくる。
この化物じみた王が直接、迷宮探索に乗り出さない理由が見えてきたかもな。
「というわけだ客員魔術師殿。貴公にはクイーンの迷宮でさらに活躍してくれることを期待している」
邪神的には、迷宮にあるという神器の発見を妨害してほしいんだろうけどなあ。
あれ?
でも王国的にも探索は終了してほしくないだろうから利害は一致している?
とにかくこうして緊迫に緊迫を重ねた王との会見が終わった。
「王様って話がわかる立派な人でしたね、ご主人様♪」
「リファ殿ならわかっていただけると思っていたよ。我が王は冒険者として身を立てられたお方だからな。我々に対する理解も深い」
とりあえずこの国に不敬罪みたいなものがなくてよかった。
王国からの後ろ盾も得たしこれで……。
「あとは収入か」
致命的じゃないか。
これまではリファの前の持ち主からパクッた……もとい受け継いだ財布でなんとかなっているが、このまま無収入はまずい。
「はは、魔術師殿もご冗談を言うのですなあ。収入などお二人の討伐数で余るくらい稼げるでしょうに」
討伐数ってなんだ。
「あ、ご主人様はそういう凡骨が稼ぐものには登録していないんで」
「えっ? で、では無償で魔物討伐を?」
「はい。まあ私は奴隷ですからそのうちてきとーに換金しますけど」
ここで衝撃の事実が判明した。
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