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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
45/70

ナツメと! コリンの♩ 第一回ボツネタ消費会議〜わーパチパチパチ

注)本編です。外伝回、設定資料回ではありません。

場所:クイーン王国

位置:大陸中央部

目的:魔法実験

概要:クイーン王国による魔法生物の製作及びその制御の失敗。

兵器:なんらかの不明な発掘物

被害:死者2000名(推定)、行方不明33名、負傷者14000名

主犯:ディンゴ=クイーン、ケイン=グリーンフォレスト、ヴェルヌ他

対処:周辺国及び各神殿からなる連合軍による武力制裁。


 クイーン生物危機とはクイーン王国による魔法実験で生み出された魔法生物が暴走し、国民及び連合軍に多大な被害を出した事件である。魔法生物の掃討は未だ終わっておらず、住民の避難先も決まっていない。これ以降、クイーン王国は滅び、統治は周辺国及び各神殿の指名による代表者数名が行っている。


◆背景

 クイーン王国は実質的には周辺国によって承認された中規模の自治区だった。武力による独立の為に、兵力を増強する必要に迫られたクイーン王国は、クイーンの迷宮内に研究施設を設置、魔法生物による軍事力増強を図った。また独立だけでなく、王国内の多数の反乱分子の鎮圧の必要性もあったと言われている。

 外部監査組織として地の神の神殿の設置、また火の神の神殿より聖焔騎士団が派兵されていたが、クイーンの迷宮内の管理はクイーン王国が行っており、また内部は未探索部分が圧倒的に多く、監査の目は届かなかった。

 またクイーン王国には魔法に関する人材は不足しており、十分な技術交流も周辺国と無かった。


◆主謀者

ディンゴ=クイーン

 クイーン王国国王。実験を指示。


ケイン=グリーンフォレスト

 クイーン王国宰相。実験の提案及び実行。


ヴェルヌ

 クイーン王国騎士団団長。実験場の設置及び保安担当。


◆事件の発生

 生物危機の初期においては、迷宮内にて魔物が異常行動を見せ、また従来とは異なる外見の魔物の目撃も多数報告されていた。この時点においてはクイーンの迷宮特有の異常と考えられていた。

 その後、クイーンの迷宮上層に実験によって作られた失敗作である人型の異形が大量に発生した。また同時期にクイーン王国周辺の大森林にも失敗作を大量に破棄したと推察される。事実上、スラム化した大森林にて多数の死者が確認され、周辺国及び各神殿は緊急な事態の収束の必要性を確認。直ちに連合軍を編成しクイーン王国へと派兵した。

 連合軍の進行を確認し、実験の露見と王国の敗北を覚ったディンゴは全ての魔法生物を破棄し逃走、制御不能のまま破棄された大量の魔法生物はそれぞれに周囲の生物へと攻撃を開始した。

 未知の技術によって作られた生物は掃討が極めて困難であり、避難住民と連合軍に多くの死傷者をだしたが、ごく一部を除いて実験生物は一定のテリトリーから外へは動こうとしない事が発見されてからは被害が激減した。

 一連の事件においてケインは死亡、ヴェルヌは捕縛された。時系列は不明。

 ここにクイーン王国は崩壊し、以降は主に周辺国による合同統治が行われている。ただし選任され送り込まれた統治代行はすでに3名死亡、34名が行方不明となっている。また旧クイーン王国王城とクイーンの迷宮の全部及び周辺の大森林の一部が立入禁止となっているが、冒険者や観光客の進入が後を絶えない。


◆その他

 冒険者組合の独自調査によるとクイーン王国の目的は生物兵器の製造ではなかったとされている。しかし根拠に乏しく、事件後の各国及び各神殿の首脳会談により正式に否定された。

 元王国民やクイーンの迷宮を探索していた冒険者の間では、クイーン王国は既存の魔法技術ではなく迷宮内にて発見された古代遺物による事件と噂されている。なかには神や悪魔の力が関与していると主張する者もおり、本事件がいかに悪魔的かつ悪夢のような恐るべきものであったかがうかがい知れる。




 ◆ ◆ ◆




 私はコリンに渡された偽装まみれの報告書をくしゃりと握り潰した。


「あー!? まだ私ちゃんと読んでいないのに! なにするんですかバカナツメ!」

「そうね……私って……ほんとバカ……」

「そうですよ! バーカ! バーカ!」

「殺すぞ」

「ひう!? す、すいません」


 コリンもまだまだね。賢者的ジョークなのにちょっと青筋立ててマジギレ顔しただけで半泣きになって謝るんだから。


「それはさておき全然ダメね。これが事実として記録されるなんて納得がいかないわ」

「そうですよね。でもこれでもこちらの主張を入れられた方なんですよ。あくまでその他の噂レベルとしての記録ですけど」

「違う違う。ロマンよ。いいコリン? つまりね、私はラノベのヒロインなの。勇者を助け導く戦う可愛い賢者なの。と言ってもエロはなし。もちろんハーレムもダメね。結局、一夫多妻制ってもっともな文化的背景をいくら付け加えても男の都合の良い言い訳にしか聞こえないじゃない? やっぱり純愛であるべきだし婚前交渉なんてもってのほかだと思うの」

「はあ?」

「つまりね、国家の陰謀とか実験の失敗なんて乾いた現実味のある事件では面白みに欠けるのよ。そう……例えば邪神ね。いえ、邪神のふりをした魔王とかそういう神と悪魔の良いところ取りしたような、なおかつ安易な西洋ちっく超常現象じゃなくて東洋の独自のアニミズムとか風習、ゴッドと呼ばれていない神的な存在が今回の犯人なの。そう、その何かの使い魔がリファちゃんとかどうかしら。……うーん、違うわね。リファちゃんこそが実はその謎の存在が人間に擬態した真犯人なの! どうよ、これ? 面白いっしょ?」

「何が面白いんですか? ナツメの頭の中がですか?」


 コリンはいかにも天才を理解できない凡人のような目で私を見つめた。


「そもそもですね、神聖魔法と一般魔法に区別なんかないって実証したのはナツメですよね?」

「区別ないことはないわよ。神聖魔法にはありがたい神の奇跡っぽい温かい光とか無駄な温風とかのエフェクトが追加されているんだから」

「分かってますよ。つまり神殿が信者に神のありがたみを感じさせる効果を一般魔法につけているだけって事ですよね? 要するに神なんていないんじゃないですか。なのに邪神だ魔王だって夢みたいなこと言って」

「夢、そう夢ね。つまりロマンよ。私はね、いいコリン? いかなる時もロマンを求めたいの。ありがちな魔王、ありがちな魔法、ありがちな転生、ありがちなロマンス、それをありがちと断じて目を背けるのは自由だけど、その硬直した斜めからの見方こそがありがちだと言えるの。わかるかしらコリンちゃん?」

「ぺっ、ちゃんちゃら可笑しいですね。ナツメが小説家様先生閣下になろうというならかまいやしませんけど副業にしてくださいね、どうせ大成しやしませんから。今はクイーン王国の謎について話し合ってるんですから真面目に考えてください。まあナツメの説は小説としてくそつまらないうえに、登場人物である大賢者様が物語の途中で推察できてしまった時点で大ハズレですけどね。あとくそつまらないです」

「は? は? なぜ二回もつまらないと言ったの? コリンちゃんは数もかぞえられないのかな? んん?」

「二回も言ってしまいましたっけ? すいません、あまりにもつまらなかったのでつい。無意識に。わざとですね。いやあうっかりうっかり。だいたいナツメはあのカミュって偽名の男がバケモノに変わるところを見たでしょう?」


 言いながらコリンは皮袋をつかむと、小憎たらしい顔で昼間からグビリと飲んだ。この子ってストレスを感じるとすぐにこうなのよね。っていうかここまでの会話でストレスを感じるのは不当に貶められた私なんだけど。


「ぶはぁ! つまりですね、あのカミュが主謀者の一味と見て間違いないわけです。本チャンの計画とは別として各国のお偉いさんが言う実験生物というのは外れてもいないってことですね。ヒック。実際、ナツメは正気を失って化物に変わるカミュを見たわけですし。グビグビ……ぶはぁ! でもですね、あのカミュとかいう男は主犯ではありませんね。あれ二度か三度ほど話しましたが暗愚、いえ下愚ですね。まるっきり話にならない理解力の低さ、コミュニケーション能力の低さですよ。そこで気になるのはね、まあね、ナツメみたいな売れない作家丸出しの想像力しかないなら考えもつかないでしょうけどね、うぷぷ、ヒック、地の神の神殿の巫女ハウエルが怪しくなってくるんですよ。こんなこと言うと驚くでしょうけどね、なんとハウエルとケイン宰相は血縁関係にあるんですよ。家系図で言うと血のつながりは遠いながらも、あの舌剣のケイン宰相が孫のように可愛がっていたとか。グビグビ、うっぷ。しーかーもー地の神の巫女ハウエルは聖焔騎士団元団長のスピリッツや騎士団長ヴェルヌの娘ローブラットとと学友だったとか。今回のクイーン生物危機の主な怪しい人物とつながっているんです。いいですかナツメ? 物語に意外性も必要ですけどそれ以上に論理性、もっといえば大衆に受け入れられるもっともらしさが必要なんですよぁ? 地味に目立たずしかしはっきりとした存在感がある人物、地の神の巫女だけにね、地味ってね! にゃはははははははは!」


 言いたいだけ言ってごとりと突っ伏して寝息を立てるコリン。ごちゃこちゃ言うにしてももっと個性的な管の巻き方をしてくれればいいのに。


「リファさんとそのご主人さまが主謀者にしろそうでないにしろ行方をくらましてからそろそろ一年。万が一生きて潜伏していたならそろそろ痺れを切らして動きを見せてもおかしくない時期、いわゆる……いわゆる……えーっと」


 青い髪の普通の女の人がこめかみを指でおさえている。名前は知らないけどこの人はなかなかの凄腕。お偉いさん達がひた隠しにしている怪物、クイーンと呼ばれる突如現れた悪魔を協力して対応したこともあるし。これで男だったら勇者候補……いえ、むしろ女同士というのもありなのかしら。


「キャラ付けも大変ね。それも御家族のお告げかしら?」

「それは秘密、いわゆる禁則事項ってやつですね」

「カミュは生きている、そう考えていいのね?」

「さて、カミュなんて名前をまだ使っているかどうか」


 そうね。カミュもリファちゃんも違う名前で活動しているでしょうね。顔かたちすら変えていると考えてもいいわ。指名手配こそされてはいないものの、今の彼らは世界に対する謀反人なのだから。

 テイルを殺し、ジャクソンをくだして、クイーン王国から……いえ、世界から姿を消したカミュ達。

 何を企み、何を成そうとしているのかわからないけれど。まだ敵なのか味方なのかすら決めきれていないけれど。

 あなたを必ず見つけだし、そして見極める。そして敵なのだと分かれば、その時は。




 ◆ ◆ ◆




「そこの怪しげな黒いローブの乞食! 止まれぃ!」

「ここは神聖なる約束の聖地! 貴様のような薄汚い浮浪者が踏み入れる事は罷りならん!」


 守衛さんのごもっともな制止を物ともせず、一歩前に出るのは可憐なる少女。その名は黒い疾風の騎士リファ。いやダークライトニングザリファだったか。ここ1年でリファの二つ名は千を超えてしまったので今日はどれを名乗っているのかわからないかわいいなあ!


「控えおろうっ。ここにおわしますわさる亡国にて宮廷魔術師に登り詰めたほどの偉大なる魔道の師! この度は冒険者組合支部の視察に参った特例上級組合員カミュさまであるっ。とっとと道を開けなさい!」

「なにを訳のわからエンっ?!」


 居丈高に恫喝するリファに掴みかかろうとした衛兵が見えざる何かに鼻血を撒き散らしながら吹っ飛ばされる。


「な、なにが起こったんだ? 何をしたかっ、小娘!」

「見えませんでしたか?」

「な、にぃ……?」

「見えませんでしたか、と言ったのです。今のみねうちが」


 リファの言葉に膝をがくがくさせながら震えだす衛兵さん。


「ば、ばかな……我等は聖地を守る精鋭中の精鋭。その我等が抜刀どころか納刀すら見えぬ早業……だと……?」


 まあ見えないでしょうね。実際、リファは剣なんて抜いてないし。リファの合図でブレインさんが衛兵その1を蹴り飛ばしただけだから。


「居合のリファ……私もまた特例上級組合員ですっ。さあ手荒な真似は好みません! さっさと冒険者組合の支部の者を呼んできなさいっ」


 いきなり鼻血ブーするほど攻撃してどの口が、とか堂々と名乗り過ぎで事前の俺たちの打ち合わせメチャクチャとか今日のリファの二つ名はわりとシンプルとかそういう細かい事は置いておいて。

 俺とリファ達はクイーンの迷宮を離れ、全神帝政王権皆民参画国へと入国しようとしていたのだった。

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