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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
41/70

ちっくしょ〜う!

<今回の主なネタバレ>

主人公    他人に厳しく自分に優しい邪神官

リファ    この小説の真の主人公

ローブラット 焦ると語尾ににゃが付く体となる

ウォッシュ  実は操られていないエルフ



ヴェルヌ   処刑将軍。軍規を盾に多くの上官を処刑した


お嬢さま   聖焔騎士団臨時団長。呪いで正気を失う

スピリッツ  元聖焔騎士団団長、現お嬢さまの奴隷


ブレイン   森の乙女の一員。アドレナリン中毒

森の乙女   自称、侍忍者のエルフ五人組。呪いを受け入れる

 人は何かを犠牲にして欲を満たすという。

 例えば食事なんかはいい例で、菜食主義者であっても植物の子供だか身体の一部だかを切り取って食欲を満たす。でもそれは仕方のないことで、誰も食欲を責めることはできないはずだ。


「ぷぃ〜お腹いっぱいで眠くなっちゃいますね〜」


 リファはぽっこりしたお腹を――いや、ぽんぽんを軽く撫でた。

 あくまで写実的に描写すればリファは紙製の黒く呪われた鎧を着ているから美しいウェーブを描くであろうリファのぽんぽんを肉眼で精密に捉えることはできない。

 だが人間は想像する葦だ。想像してみよう。イマジン。それはきっと神すらも筆を折る至高のぽんぽんだ。撫で回したいとか舐め回したいといった冒涜的な発想などとうていに思いつかない、神聖な、いや神聖という陳腐な


「ねえ、魔術師くん。希望どおり食事を終えたわけだけどこれからどうするつもりなの? 姉さん方は戦い希望みたいなのだけど」

「ブレインさん、ちょっとお静かに。いま俺はとても大事なことを考えているんです!」

「め、珍しく魔術師がマジメな顔してるにゃ」


 和やかなムードで食事を終えた俺とリファ達は次の行動に移ろうとしていた。

 外ではクイーン王国の重大イベントの真っ最中である。今にも城にまで攻め入りそうな聖焔騎士団とそれを止めようとしているヴェルヌさん。

 注目すべきはヴェルヌさんは手勢を連れずに1人でやって来たことだろう。粘着ストーカーで探ってみても王国側の兵士がいるべき場所に誰もいない。いや連れていないのではなくて連れてこれなかっただけなのかもしれないけど。

 ローブラットさんのライオン変身事件のせいで城の兵士のほとんどが昏倒していたみたいだからな。ヴェルヌさんも自分の娘がクビにしたうえに牢屋に放り込んでもなお迷惑をかける女だとは思ってなかっただろうなあ。


「と、そういえば魔術師はどうしたの? 連れて来ているんでしょう? 処刑将軍なんて呼ばれるだけあって狡猾ね。たった1人で来ているように見せかけるなんて」

「は? 客員……いえ、元顧問魔術師殿がなにか?」

「ふーん。そういう演技を続けるならどうぞご勝手に。そこの店にいるのはなんとなく感じているの。いいわ店ごと焼き尽くすから。どうせリファも一緒でしょうし手間が省けるわ」


 なんとなく感じるってなんだよ。チートかよ。

 しかも焼き尽くすって。それが感動の再会を果たす知り合いへの態度かよ。女心ってのは難しいね。っていうか意味がわからない。


「リファとブレインさん達は店の裏口があるか知らないけど無かったら壁を壊して脱出してください。そのままできる限り安全と思われる場所に潜伏してください」

「りふぁっ!? な、なんで私がご主人さまと別行動なんですか!?」

「ちょっと身軽にならないと動きづらい事態になりつつあるからね。あととってつけたようなキャラ付けはやめなさい。可愛すぎて変な奴に誘拐されないか心配になる」

「いやりふぁっ。安易なキャラ付けやめるのも別行動もお断りします!」

「なんとなく危ない気がするからだめっ。言うことききなさい!」


 従え。


「わかりました。では脱出しますよ森の乙女の皆さん」

「えっ? あ、はい。じゃあ行きましょう姉さん方。魔術師くんも気をつけて」


 呪いに従ったリファは眼に力を失い、いつもの元気いっぱいさも消える。ただただ素直に命令に従うリファもまた乙なものである。世界で一番レイプ目が似合うよ!


「さて、二人きりになるのは初めてですね。ローブラットさん?」

「い、言っておくが私は戦力にはならんぞ! はっ? まさか貴様ぁ! どさくさに紛れてこの私の肢体をむさぼるつもりではないだろうなっ?」


 やっぱり女性騎士って年中エロい妄想ばかりしているのかなあ。いやこの人は元騎士だし、現役時代も騎士らしいことなんてしてないから基準にはならないか。



 ◆ ◆ ◆



 ヴェルヌさんが1人で来たのは交渉のためかと思っていた。たぶん聖焔騎士団の皆さんも俺と同じ意見だっただろう。

 まさか交渉決裂とみなすと同時に、手近な聖焔騎士団の団員を斬り捨てて路地へと逃げ込むなど、お嬢さまやスピリッツさんですら想像していなかったのではないか。


「卑劣な処刑将軍よ! 街ごと焼き払われたくなければ投降しなさいっ」

「王国臣民は常に王と共にある! ここで王の為に焼き払われるのならば我ら一同本望であろう!」

「くっ……この狂信者がぁ!」


 お嬢さまの焦土宣言に、堂々たる声で答えるヴェルヌさん。声の響き方からしてどこに潜んでいるのかは定かではない。少なくともお嬢さまやスピリッツさんには特定できないだろうなあ。


「やっかいなことになっちまったねえ。ヴェルヌはこの街の治安も担当しているだけあって裏路地から建物の構造まで熟知してる。さすがに全て焼き払うのもまずいし、ヴェルヌを逃がすのもいただけないんじゃないのかい?」

「わかってるわよ!」

「目の前にヴェルヌがいるのに、坊やなんかにこだわってるからこうなるのさ」


 うまい具合にお嬢さまが劣勢だ。これならば付け入る隙があるかもしれない。


「お嬢さま! よくぞご無事で!」


 俺は満面の笑みを浮かべながら屋根に穴の空いた食堂を出て、お嬢さま達の前に姿を現した。


「離せにゃ! おのれ魔術師〜!」

「いや〜探しましたよ。あの激闘の中はぐれて以来、お嬢さまが心配で夜も寝られない日々が続きましたよ。全くそこのスピリッツさんにも困ったものですねぇ。お嬢さまの忠実なる親友である黒衣の魔術師めとの仲を引き裂こうなどと。いやはやそれにしても聖焔騎士団の団長御就任おめでとうございますっ。スピリッツさんみたいな美女と野獣を掛け持ちするような女よりも優美なるお嬢さまにこそその名誉はふさわしく存じ上げます、はい」


 俺の全力のごますりは顔面直撃の火球でもって返事された。やべえ。呪われたローブがなければ焼死だったぜ。お嬢さまご機嫌麗しゅうない。おこなのかな?


「あっちゃっちゃっちゃー!? だから離せこの腐れ魔術師!」

「やっぱりこの程度の火では焼き尽くせないみたいね。久しぶりの再会なのに女の手を握りながらなんていい度胸じゃない、魔術師」

「さすがはお嬢さまお目が高い。ヴェルヌさん! 聞こえますかっ。ここにあなたの娘、ローブラットさんがいます! 娘の命が惜しければ投降してしてください! ……ね? この魔術師めはこのようにお嬢さまの役に立つでしょう?」

「……そうやってまた私を利用する気でしょう?」

「坊や……あんたってヤツは」


 無論そのとおりだ。

 現時点で優勢なのはお嬢さま率いる聖焔騎士団で間違いない。いくらヴェルヌさんやケイン宰相が有能でもここからすぐに状況をひっくり返すのは難しいだろう。

 ケイン宰相の何の企みかは分からないが、王国に睨まれた今の俺は窮地に立たされている。ナツメさんを助けるにしても、ここは鞍替えするタイミングだろう。


「……団長、いかがされますか?」

「お嬢さまっ。どうかこの魔術師めを、お嬢さまの魔術師をご信頼ください!」


 俺に剣を向けるかどうか迷う様子の聖焔騎士団の団員を、お嬢さまは手で制した。


「いいわ。今は貴方を使ってあげる」

「正気かい? その坊やはアンタが思ってるよりずっと邪悪だよ」

「邪悪であろうとここまで利用価値を示してくれるのだから今だけは許すと言っているのよ。……処刑将軍ヴェルヌ! それでどうするつもりなのかしら!? 娘の命すら悪魔の王国に捧げるつもりっ?」

「さっすがお嬢さま話がわかる! ヴェルヌさん! ローブラットさんのこんがり焼けたいい匂いを嗅ぎたくなければ投降したほうがいいですよ!」

「あ、悪魔はお前らだっ! 敵の家族を人質になどとっ。それに私はすでに父上に捨てられた身の上なのだにゃ。あの厳しい父上であれば私ごと貴様らを斬り捨てーー」


 重たげな音を立てて地面に剣が放り投げられた。そして暗い路地からヴェルヌさんが姿を見せた。

 ふーん。やっぱり情に流されるのか。


「父上……」

「情け容赦ありませんな魔術師殿。さすがは我が王が見込んだだけのことはある」


 そう言ったヴェルヌさんは意外にも穏やかな笑みを浮かべている。


「処刑将軍が聞いて呆れるわね。国民の命は犠牲にできても娘の命は犠牲にできないのかしら?」

「なんのことですかな? そこにいる罪人もまた我が王の管理下にあるもの。理由もなく不当に処分されるわけにはまいりますまい」

「ぱ、パパ……なんで私なんかのために?」

「気安く父親呼ばわりするな罪人よ。貴様とはすでに縁もゆかりもない」


 なぜか涙目になっているローブラットさん。今まで親に寄生し顔に泥を塗りたくってきたのに、やはり父親に対する親愛の情はあるのか。


「ふふ、いいわね。なかなかに悲劇的じゃない」

「……こんなところでのんびりしている暇なんてないんじゃないのかい?」

「うるさいわねぇ。と、そうだ。ねえ魔術師。貴方、この罪人の管理者だったわよね。罪人の娘に、そこの悲劇的な父親を処分するように命じてくれないかしら?」


 悪趣味だ。邪神に魂でも売り渡したのだろうか。それともこういう人の命が軽々しく扱われる時には人の本性が出るものなのだろうか。

 しかし興味深い。


「くっくっく。ローブラットさん、選ばせてあげますよ」


 そう言って俺は黒いナイフを抜き放ち、ローブラットさんの足元に投げた。


「自分の喉か、父親の喉を刺してください。どちらでもかまいませんよ。ローブラットさんが生き残ればなんとかして罪人から解放してあげましょう。ヴェルヌさんが生き残った場合、なんとか命だけは助けてもらえるように交渉してあけましょう」

「うふふ、面白いわね。だから好きよ魔術師。いいわ、後者の場合は処刑将軍の命は助けてあげましょう。レッドフォレストの名に賭けて誓うわ」


 本気で怯えた目で足元のナイフを見るローブラットさん。


「おっと、言っておきますがこのまま何もしなければ我が闇の深遠なる奥義で2人ともーー」

「ふっざけんじゃないよ!」


 俺のドヤ顔悪役セリフをさえぎってスピリッツさんが槍をぶん投げてきた。

 神聖魔法以外への防御には不安しか残らないのだが、お嬢さまが指をパチリと鳴らすと槍は一瞬で燃え尽きる。

 そして、その隙を狙って素早く剣を拾おうとするヴェルヌさん。なんだこの見事な連携プレーは。


 苦しめ。


「ぬおおお!?」


 ヴェルヌさんなら邪神の呪いに耐えるかと思ったけど、けっこう効いてるようだ。苦しそうに胸を抑えて倒れ込む。


「スピリッツ。跪いてその場で待機。命令よ」

「くそがっ。ローブラット! なんでアンタは、うがあああ!」

「作戦に関係ない発言は禁じたはずよ。馬鹿な獣ね」


 スピリッツさんにもヴェルヌさんにも頼れない。これでローブラットさんにもよく分かっただろう。


「くっくっく。ローブラットさんもなかなか業が深い人ですね。父親に守られながら家の中でおとなしくわがまましていればこんな理不尽な選択はしなくて済んだだろうに」

「ま、魔術師……いつものタチの悪い嫌がらせだろう? ほ、本当に私にパパを?」

「どうしたんですかローブラットさん? いつもは偉そうな顔をしているのに、困ったらか弱い女の子みたいな顔をするんですね。そうやったらいつも誰かが助けてくれたんですか?」

「お願いだ魔術師……た、助けてくれ」

「ああ、わかる気がするなぁ。ローブラットさんは顔は綺麗だし、親は騎士団長。助ければ色々とメリットありそうですよね。これは大抵の人は手を貸したくなる」


 俺にとっては無価値だけど。

 こんな人間に生きる価値はない。ローブラットさんに関わった人達は一体、どれだけ迷惑したのだろうか。この寄生虫が隊長職なんぞにしがみついたせいで、どれだけの人が嫌な思いをしたのだろう。

 ローブラットさんは軽犯罪が積み重なっただけで罪人になったと聞いた。一方的に店にツケにさせたり、気に食わなければ器物を破損させたりしたということだろう。この国の軽犯罪の定義は知らないが、罪に軽いも重いもない。

 人間社会はお互いに信用で成り立っているからね。そりゃあある程度は誰かに迷惑をかけることもあるだろう。人間だからね。

 でも限度はある。


「綺麗な顔と親の権力で、他人の不幸の上にふんぞりかえって生きてきたローブラットさん。さあ始めましょうよ! ここで終わるか、もっと苦しみ抜くか! 俺はどっちにしても最後まであなたを見守りますよ!」

「いやだ……」


 苦しめ。


「いやだー! くるしいっ。いやだ、こんな……わたしがこんなめにあうのはおかしい! いやだ……いやぁぁぁ!」


 何も選ぶこともできなかったローブラットさんの体からブクブクと黒い泥のような何かが噴き出す。

 根拠はないけどどちらかを選んだ方がまだよかったんじゃないかな。まあどうでもいいけど。


「グオオォォォォ!」


 黒い泥はローブラットさんの全身を包み込み、そして消えていった。

 あとには黒い獅子だけが残った。

 うーむ。よくわからないけど、やはり牢屋で見た黒い獅子はローブラットさんが変身した姿だったらしい。邪神に魅入られると獣に身を堕とすこともあるのか。こわいこわい。


「ぐ……魔術師殿……娘は一体……?」


 ヴェルヌさんが恐怖に顔を歪ませて質問してくるが気にしない。よく見ればお嬢さまやら聖焔騎士団の皆さんも固まっている。

 まあ俺だってメスライオンなんてテレビでしか見たことないし、黒色なんてのは初めて見た。白い大帝なライオンさんならアニメでみたけど。

 罪人の首輪も消えちゃってるけど言うことは聞くのかな? こんな物理特化な感じのローブラットさんに暴れられると俺は確実にやばいんだけど。


「え、えーっとローブラットさん。お手」


 そう言って怖々と手を差し出す俺。

 黒い獅子は俺の声に反応して、こちらを向くとペロリと手をひと舐めした。わお。この子の舌、すっげーザラザラする。

 同じ邪神サイドの仲間だし大丈夫だよね。これ味見じゃないよね?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、お嬢様の件は利用したとかじゃなくてあのクソ女執事のせいでしょう。もしくは説得するとか言いながら全く役に立たなかった自分のせい。
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