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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
40/70

無邪気

<今回の主な登場人物>

主人公    傍観者

リファ    可愛い剣士

ローブラット 元クイーン王国騎士

ウォッシュ  森の乙女のリーダー。操られている



ヴェルヌ   クイーン王国騎士団団長


お嬢さま   スピリッツの親族。生死不明

スピリッツ  聖焔騎士団団長。火の神の神殿の巫女


ブレイン   森の乙女の一員

森の乙女   自称、侍忍者のエルフ五人組。呪われて姿を失う

「なんでこう妙な事ばかり起きるかなあ」

「そうですね……この国ってちょっと変ですよねっ」

「うん、まあ、そうだね」


 妙な道連れ第一号のリファの元気な声にうなずく俺。そのすぐ後ろには透明エルフ侍と化した森の乙女の皆さんが控えており、ついでにブレインさんが意識を失ったままのローブラットさんを負ぶっている。

 ちなみに、俺たちはクイーンの城と街を結ぶ道の茂みに潜んでいるところだ。城内で異常があった事はすでに兵士達に伝わっているらしく、さっきもヴェルヌさんが大勢の部下を引き連れて城へと走って行ったのを見た。

 なんでこんな大事になってしまったのか。もう迷宮とか勇者とか邪神とか全部忘れて遠くへと旅立ってしまおうか。


「ナツメ……でしたっけ? 彼女は無事に脱出できるのかしら」


 唯一まともなブレインさんがポロリともらす。

 そうだ、ナツメさんだ。あの女に万が一の事があれば邪神の怒りを買うだろう。今思えば別行動なんてするべきじゃなかった。

 流れに呑まれてるんだよな、この状況。よく分からないままどんどん事態が進んでるというか。

 いやよく考えればナツメさんの行動も妙だ。なぜあそこで俺たちと別れる必要があった? コリンさんも連れて行きたいからちょっと待っててと言えばいいじゃないか。


「ねーねーご主人さまぁ。なんかお腹空きません?」


 一番不可解なのはリファだ。この状況で普通はらへったとか言うか? なんてかわいい生き物なんだろう。俺がリファを食べたいっつーの。


「そうだな。とりあえず街まで行っておやつにしようか。すっかり夜だけど酒場は開いてるだろ」

「わーい! ご主人さまってだから好きー」

「待って、お願いだから待って魔術師くん」


 こうして必死に制止するブレインさんを無視して俺たちは街の酒場へと繰り出したのだった。




◆   ◆   ◆




「全く半端ねぇことになっちまったよな〜」

「迷宮にやばい化け物が出たかと思えば、次は冒険者組合の殴り込み、そんで森で大粛清があった矢先にこれだぜ」

「今度の今度こそこの国も終わりじゃねえの?」

「ずいぶん前に斧好きの親父も同じ事言ってたがなぁ」

「なんだかんだいっても終わらねえってか? そういえば斧親父は最近、見ねえな」

「それが最近地下一階に出た化け物にやられたんだとよ!」

「ガハハ! 自分のが先に終わってるんなら世話ねえや!」


 おっさんの笑いどころって分からないなぁ。

 そんな限りなくどうでもいい酔っ払い達の話をBGMにしながら俺たちは食事をしていた。安かろう悪かろうを突き進む感じの酒場兼食堂で、飲んでる客も店員もひたすらにガラが悪い。

 こういう店にリファを連れて行くのはためらわれるけども仕方ない。こういう小汚いごちゃごちゃしてる店の方が目立たずに食事できるだろうし。


「なめてるんですかっ。私が注文したのはチーズを挟んだやつです! あと持ってくるのも遅いんですよっ。その首叩き斬られたいですか!?」


 うん、リファは適応能力高いから大丈夫そうだね。


「は? お客さんは確かにベーコンのものを注文しましたが?」

「はぁ〜? 分かりました。その役に立たない目を抉り出してこのクルミと交換してあげましよう!」

「リファ待って落ち着いて俺のぶんもあげるからここは穏便に。……すいませんね店員さん」

「はぁ……。お子さんのしつけはしっかりしてくださいね。キーキーうるさいったら」


 店員さんはおおげさにため息をつくと下がっていった。よし殺そう。


「だ、だめですよご主人さまっ。リファは別に気にしてませんからナイフを取り出してあのゴミの背中に狙いをつけるのやめて! しんでしまいますっ」


 あんな不躾な店員さんにも情けをかけるなんてなんて優しいリファなんだろうか。

 そんな微笑ましいやりとりに何故かため息をつくブレインさん。


「なんで姉さんがたが魔術師くんに従うのかなって思ってましたけど、もう納得しましたよ。我々よりも人間離れしてるんだから」

「クックック……今さら我が闇の奥義に恐れをなしたかね?」


 まあウォッシュさんに関しては俺へのシンパシーでもなんでもなくて操っているんだけどね。

 っていうかブレインさん達は他の人から見えないのがアドバンテージなんだから黙っていてほしいなあ。


「はむはむ……んぐ、ひぇ、ごひゅひんひゃふは」

「リファ、ちゃんと口の中のものを飲み込んで話しなさい」

「ごっくん! それで今日はこの後どうします? 前に使ってた宿がいいですかね?」


 食べた後は寝場所の心配だ。さすがリファだ、ナツメさんのことなんてすっかり忘れているぜ!


「いや、さすがにナツメさんと合流する手立てを考えないとまずいんじゃないか?」

「このお荷物を抱えたままですかぁ?」


 そう言っていまだお休み中のローブラットさんを嫌そうに見るリファ。忘れてた。結局、街中は俺が背負って運んだんだけど、なかなか重い。もし鎧なんか着てたら迷わず捨てていった重さだった。

 出るところは出ている体型なので、そこだけは救いだったけども。


「て、敵襲! 敵襲ー!」


 てきしゅう?

 酒場の喧騒に紛れて、外の大声が聞こえてきた。戦争ごっこが好きな酔っ払いが叫んでいるのだろうか。


「血の匂いがするんだからね、なによ興奮なんてしてないんだから」


 何も操作していないにも関わらず、勝手に話し出すウォッシュさん。なんだこれ、呪いのバグ?

 ウォッシュさんの一言に目をギラギラさせ始める森の乙女達。なかにはすでに抜刀しているのもいる。目立つ事はやめてほしい。もっともウォッシュさんの目を通して彼女たちを見ることができる俺にしか分からないことではあるけども。

 念のために邪神の粘着ストーカー能力を使ってみると、確かに小競り合いらしき動きをしている人達が感じられる。


「リファ、もしかするとやば」


 俺が言い終える前に酒場の中にでかい火の玉が轟音をたてながら飛び込んできた。


「あーー」


 うーむ。火だるまって叫ぶ事もなく倒れるんだな。なんらかの原因で意識を失ったりしてるのか、人間の構造上の問題で発声できなくなるのか。

 不幸な酒場の客Aを眺めながら俺は素早く立ち上がった。とにかくやばい。この際、ナツメさんもなにもあるものか。盗賊どものいた森にでも逃げよう。


「すぐに出るよ、リファ」

「ま、待ってくださいご主人さまっ。あと少しで食べ終わりますんで!」


 こんな時にこの場末クオリティの料理ですら残さず食べる大物感。どうせ酒場の出入り口には、我先に逃げようとする人が殺到して混雑しているしな。落ち着こう。こういう時こそ冷静に、だ。パニックを起こさずにやるべき事をやれば大丈夫だ。

 俺は客を押しのけて逃げようとしているさっきの店員さんに狙いをつけてナイフを投げつつ、座り直した。


「うぎゃあー!?」

「ふむ。それで……何が起きていると思いますか? 誰か意見のある人」

「いや、それよりも尊い命がなにげなく失われた事が気になるのだけど」

「ブレインさん、今はそんな些細な事をいちいち気にしている場合じゃないでしょう? ふざけないでいただきたい」

「なによっ、さっきの火は魔法よ! あれだけの威力をだせるのは普通の冒険者じゃ無理なんだからね!」

「私達以外なら神殿のそこそこな実力者以上くらいにしかだせないんだからぁ!」


 さすが倫理観以外はすべてSクラスの有能集団だ。なかなか興味深い分析をだしてくれる。

 神殿関係者で火とくればすぐに思い浮かぶのが聖焔騎士団だ。しかしレーンの鷹との戦いで消耗して本国に撤退したんじゃなかったか。

 それに街中で火をぶっ放すようなマネをスピリッツさんがするかね?


「あーはっはっ! 燃えなさい悪魔の国の鬼たち! これが火の神の意志よ!」


 外から聞こえる少し舌ったらずな甘い声。お嬢さまだな。生きてたのか。


「なんだお前達は!? その紋章は聖焔騎……」

「ごちゃごちゃうるさいわね。私の視界から消えなさい!」


 怒声のすぐ後に爆発音が発生する。どうも街を襲っているのは聖焔騎士団で確定らしく、さらにはお嬢さまが騎士団に復帰しているらしい。

 なんで聖焔騎士団がクイーン王国に喧嘩を売ってるんだろう。


「スピリッツという巫女を奪い、冒険者組合の代表とその筆頭とも言える冒険者の不当逮捕……これはクイーン王国も終わったかにゃ、じゃなくて終わったかな」

「ローブラットさん。起きていたんですか?」

「ふん、私は身の危険に敏感だ。有事の際には気絶しても目覚めるのが騎士の務めだ。お前如き卑しい身分には分からないだろうがふっ!?」


 リファに鳩尾を殴られ変な声をだすローブラットさん。

 なるほどな。さすが保身に長け、親の七光りだけで王国騎士団の隊長格に登りつめた元女騎士だ。


「なるほどね。ついにあれがあれで重い腰を上げたわけか……つまり、な、リファ? どう言えばいいのかな?」

「はい、ご主人さまっ。つまりどこかの火の神の神殿と関係が深い国か、もしくは神殿そのものがクイーン王国に武力で介入することに決めたって事をご主人さまは言いたいんですよね!」


 まじかよ、そんなヤバい事態なのか。もうこれ邪神大喜びの大争乱じゃないか。よくわからないんだけど、そういう侵略というか干渉みたいな事ってそうそう行われないものなんじゃないのか。この世界ってもしかして物騒なのかねえ。


「おおっ。まさか本当に聖焔騎士団が街を襲っているとは! す、スピリッツ殿もいるではないかっ。なぜ貴女ほどの人物がこのような外道をっ」

「……ヴェルヌかい。あたしもこんな事をしたい訳じゃないさ」

「では何故に? 火の神は乱心されたのかっ」

「それは……」


 珍しく、いや初めてか。スピリッツさんらしくもない歯切れの悪い返答だ。

 獣系女戦士らしからぬ声の弱さは、生死不明の間に何かあったからなのかな。


「口を閉じなさいスピリッツ副団長。これは命令よ。そしてご機嫌よう悪魔の使徒ヴェルヌ」

「副団長、ですと? そして貴女はたしかスピリッツ殿の従姉妹殿ではないか」

「ええ、臨時ではあるけれど聖焔騎士団の団長を務めさせていただいておりますの。無辜の民を無慈悲にも粛清した狂心王とその信奉者達を焼き尽くす使命を帯びてね」


 お嬢さまは返り咲くどころかまさかの大出世だった。


「粛清ですと?」

「とぼける気かしら。クイーンの森はいまだ死臭漂う地獄絵図よ。あなた達のスポンサーもようやく気付いたようね、害獣を管理するために悪魔を支援する恐ろしさに」

「バカな! そんな粛清など我が王は行わぬ! クイーン王国の騎士団を預かる私が何よりも知っている! 確かに盗賊団がクイーンの森に増え始めていたのは確かだが……」

「盗賊ね。路頭に迷ってやむなく奪わざるを得なくなった人々を貴様達はそう呼ぶの?」

「だからこそ我が王は安易な一斉掃討は行わなかったのだ!」

「じゃああの森に転がる物言わぬ人々はなに? あれを見たからあなた達のスポンサーは私をご指名してくれたの。スピリッツが今ここで剣を握っているのもそうよ。……ふふ、私個人としての狂心王の采配への評価は別にしてね」


 だ、だいしゅくせいってそんなおおげさだなあ。

 俺はだらだらと冷や汗が流れるのを感じた。冷や汗というか熱い汗だ。耳の後ろがやけに暑く感じる。


「森のおねーさん達はそんなにたくさんヤッちゃったんですか? だいしゅくせーってたくさん悪い人を倒したってことですよねっ」

「人間って数が多いうえにすぐ増えるからたいして気にしていませんでしたが……姉さん方はどれくらいだったか覚えてますか?」

「なによっ、全然あんなのたいしたことないんだからね!」

「ですよね。あの数のエルフだと軽く絶滅の危機になりますが人間ですし」

「参考までに聞きたいのだが」


 ローブラットさんが挙手をして発言する。やけに怯えているというかおどおどしているのは外のお嬢さまにビビっているからなのか、父親にビビっているからなのか。


「森に、この王国周辺の森にいた盗賊達を全員始末した……訳ではないよな? 大きな盗賊団いくつか潰したんだよな? そう……ですよねクソガ、いやリファ先輩?」

「あれ? 確かご主人さまはぜんぶまとめてって感じでしましたよねっ。シュウとかいう頭以下ぜんぶぜーんぶ!」

「シュウ!? あの義賊シュウ以下をぜんぶっ? ジェジェジェジェノサイドだぞ、それは!」


 ジェノサイドか。

 まあそういう考え方もあるよね。そういう考え方があってもいいというか。


「勘違いしないでよね! 人間達がエルフにやってきたことを考えれば誤差の範囲内なんだからねっ」

「ですよねえ姉さん。総数と殺害数の比で考えればエルフなんていつでもジェノサイドされてますよね」


 ほらね。人間ってのは自分本位なんだよな。豚さんやら牛さんをあれだけ好き勝手にやってるくせに、ちょっと自分達が熊にかじられただけで大騒ぎするんだから。

 まあこれは俺が熊にかじられた事がないから言えるんだけど。


「そうだ。俺たち人間ってのはエゴのかたまりなんだ。そうだろ、リファ?」

「ねーねーご主人さまっ。あのテーブルに置きっ放しのやつって食べてもいいですよね?」


 リファの可愛い問いかけに俺は微笑んでうなずく。

 人間の勝手で食べ物にしたくせに食べずに捨て置くなんておぞましい行為だよね。さすがリファ、生まれながらにして天使だ。


「薄気味悪くにやけている場合かっ。いいか邪悪な魔術師よ。貴様がどこの国から流れ着いたのかは知らんが、貴様の国にもスラムはあっただろう?」


 珍しくマジメな顔で俺に問い詰めてくるローブラットさん。

 スラムってあれか。貧民街的なあれだよな。よくゲームで主人公が住んでるところと考えて差し支えあるまい。


「くそっ。明らかにピンときていない顔をしている! どこの御曹司として育てばこうなるのか!? まあいい。とにかくあっては困るがあってしまうのがスラムなのだ。それを消し去ってしまえばどうなるか?」

「助かる」

「そうそう助かる〜助かるかっ! どんな大国でも恐怖政治の国として批判は免れない。こんな王国であれば即介入されるわ!」


 こんな王国であれば、か。今さらだけどどういう政情なんだろう。というかどういう世界に俺はいるのやら。

 そうだ。いわば俺はこの世界において0歳児なんだよな。色々とやらかしても仕方がないと考えておよそ差し支え無いだろうよ。


「でも変じゃない? 盗賊殲滅から聖焔騎士団の介入までが早過ぎる。姉さん方も誰かに見られていた気配は感じませんでしたよね?」

「ばかぁ! 見られていたにしても早過ぎるんだからね! 口実ができるまで待機していたに決まってるわよ、勘違いしないでよねっ」


 ほらやっぱり俺は大局にそれほど関係なかった。国王だとかケイン宰相とか火の神の神殿やらが陰で蠢いた結果なのだろう。


「何かの陰謀だ! スピリッツ殿もどうかこの臨時団長をお止めくださいっ。勢いに任せて街を焼くなど永久に残る愚挙となりましょう!」

「……この国はやり過ぎたのは確かさ。でも民間人の被害を考えずにやるのは命令違反じゃぐああああ!?」

「クイーン王国の反体制派は森で寝てるわ。ここに住むのは狂心王を支持する特権階級が中心。ねえ、スピリッツ。他人に縛られる気分はいかが? 私がこの国でどんな屈辱を受けてきたか少しはわかってきたかしら」

「ごほっ、わ、わかってきたよありがたいことにね」

「不思議よね、スピリッツ。私にとってはここまで理想的な展開になっているのに、大きな流れでみれば微調整でしかないのよね。……さあクイーン王国の団長さん。結末の決まった劇を一緒に演じましょうか」


 なんだかスピリッツさんサイドでは色々と物語が動いているらしいな。歴史的事件というのは案外こんなものなのかもしれない。

 腹を割って話し合えば済む話を、血で血を洗ってしまうんだよな。


「ご主人さまっ。これですよこれ! 私が注文したかったのがこれです。一口ならあげますよっ。一口だけですからね!」

「で、でもそれだとリファと間接キッスになっちゃうし……」

「純情か!」


 リファの流れるようなツッコミを聞きながら俺は事態の推移を見守るのだった。

主人公は気づいていませんが、ローブラットさんには森の乙女の皆さんの姿が見えません。なのでどこからか聞こえてくる声に反応している主人公やリファを非常に不気味に思っています。


新年明けまして皆様いかがおすごしでしょうか。良いことも悪いこともおありになったと思われますが本年もお付き合いいただければ幸いです。

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