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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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獅子

<今回の主な登場人物>

主人公    人間風見鶏。カミュという偽名を名乗る

リファ    欲望に忠実な奴隷剣士

ローブラット 目先の利害で動く元王国騎士

ウォッシュ  森の乙女のリーダー。操られている



ナツメ    光の勇者

コリン    冒険者組合の若き代表


ケイン    クイーン王国の宰相


ブレイン   森の乙女の一員

森の乙女   自称、侍忍者のエルフ五人組。呪われて姿を失う

 妙だ。

 ケイン宰相は決して馬鹿ではない。冒険者組合との会談でもそうだが愚鈍を敢えて演じる事も厭わない、極めて合理的な人間だ。そんな人間が兵士も伴わず、しかも俺にあからさまにべったりなリファを連れてここに来るのはおかしい。


「さすがは私の相棒のカミュね。さあ私の鎖もシクヨロね」


 ケイン宰相を人質にしてここを脱出するのは可能だろう。むしろ簡単に逃がしてくれるのではないか。そうやって王国に逆らって俺が冒険者組合に与するようになるのが、ケイン宰相の望む状況なのではないのか。

 しかしそこまで無茶をするのか。ここで投獄された腹いせに俺たちがケイン宰相を殺す可能性だってある。逃亡の際になんらかのトラブルで命を落とす可能性も十分にありうるのだ。


「ぐぬぬ! おのれ邪悪な魔術師め! このケインを人質に脱出するつもりだろうが果たしてそううまくいくかな?」


 前の冒険者組合との会談でもケイン宰相は自分が死ぬことも計算に入れて、ナツメさんやコリンさんを挑発していた。そういういかれた博打も平気でうつ人間なのだろう。

 俺達が脱出する際に、自分ごと亡き者にしようとしているのかも。このあからさまにクサいケイン宰相の演技はやはりおかしいし。ぐぬぬとか歳を考えろよおっさん。

 やばい。

 マジで分からなくなってきた。どうすればいい。どうすれば俺とリファは助かるのか。


「お悩みですか、ご主人さまっ」


 そう言ってリファが超絶かわいく首をかしげてみせる。

 森の乙女の皆さんもどこか不安げな空気を出している気がする。ブレインさんを通してしか姿を見ることができないので、表情まではわからないけれど。


「まあね。ちょっと危ないというか王国につくべきか冒険者組合につくべきかというところでね」

「そんなところでご主人さまが悩んでいるんですか? それよりも先にここを出ましょうよっ。早くしないとまたリファの大活躍が誰かに奪われるかもしれませんし!」


 今回の盗賊退治に関しては本当にリファの活躍ではない気がするんだけど。


「リファの可愛い頭ではわからないだろうけど、ここを脱出するのだって大変なんだよ? ケイン宰相を人質するのも大変……というか罠のような気がするし」

「え~、脱出なんて簡単ですって!」

「いやいや色々と大人の事情がね」

「では私にいい考えがありますよっ」


 そう言って俺が穴をあけた牢屋に入ってくるリファ。

 何をするつもりかよくわからないが、様子を見てみるか。

 煮詰まった場を和ませるのには良いだろう。


「リファさん? なにを――ひぅ!?」


 おもむろに鎖で壁につながれたコリン代表の首に剣を突きつけるリファ。

 和ませるどころかさっき以上に緊迫した雰囲気がガス室を支配する。


「ケイン宰相さん! コリン代表さんを殺してもいいですかっ?」

「り、リファ殿、な、なにを……?」

「どうかしましたかっ。どうせガスで殺しちゃうつもりだったんですから今この場で殺してもかまいませんよね?」


 なるほど。

 確かにそれはいい手かもしれない。


「り、リファ!? ちょっとやめろってマジで! 何がどうなればコリンさんを殺すことになるんだっ?」

「これがリファ的に考えたいい考えですよ♪ ケイン宰相さんが何を企んでいようと、脱出メンバーは少ないほうがいいです。特にコリン代表みたいな足手まといさんはいりません!」

「い、いや、だったらコリンさんだけ置いていけば――」

「ここに置いていくくらいなら介錯してあげましょうよ。それがせめてもの情けですっ」


 ケイン宰相への揺さぶりだ。

 これでコリンさんを生かすつもりがあるのかどうか分かるかもしれない。これくらいでボロをだすとも思えないが。やるだけやってみる価値はあるだろう。

 しかもリファなら本当にやりかねない雰囲気があるしな。


「ふ、ふふ、ぬるいのう魔術師殿。それで腹を探っているつもりかね? 何を疑っているか知らんが勝手にするがよい」


 リファがあちゃ~★という顔をしている。可愛い。まあひっかからないよな。

 コリンさんも少し残念そうな顔をしている。さすがにこんなしょうもない理由でリファが斬りつけてくるとは思わないか。

 しかしケイン宰相のこのひっかかる物言いはどうだろう。やはり何か企みがあるのは間違いない。


「でもでも脱出メンバーは少ないほうがいいのはホントですしー」


 ここで誰もが予想外の事態が起こった。

 リファが残念そうにつぶやきながら剣を振りかぶったのだ。

 コリンさんの目が点になっている。いや俺だって同じ目をしているだろう。

 ケイン宰相に至っては不敵な笑顔をひきつらせている。


「てやー」


 てきとうな掛け声だが全体重をかけた鋭い縦斬りだ。

 リファの呪われた黒い大剣であればコリンさんを一刀両断にすることもできるかもしれない。両断はさておき間違いなく死ぬだろう。マジで。マジだこの子。


「――っ!」


 驚愕で目を見開き、声にならない悲鳴をあげるコリンさん。


「や、やめんかっ! ここで死なせるわけには!」


 そして意外と素早い動きでリファとコリンさんの間に割り込もうとするケイン宰相。しかしこのタイミングでは間に合うわけがない。

 俺と森の乙女の皆さんもあまりの予想外の出来事にまったく動けない。

 そして冒険者組合の若き代表コリンさんは真っ二つに――。


「びっくりした。ほんとびっくりしたわ」


 真っ二つになることなくコリンさんは目を見開いたままだった。

 ナツメさんが剣でリファの大剣を受け止めたからだ。剣なんてどこに隠していたのやら。

 そもそもナツメさんは鎖で壁につながれていたはずだが、その鎖も綺麗な切断面を見せてぶら下がっていた。


「いやリファの突飛な行動に慣れている俺からすればナツメさんの意外な有能ぶりにびっくりなんですが」

「いやいや私としては突飛な行動というお気楽キーワードで片づけることができるカミュにもびっくりなんだけど」


 何言ってるんだこいつ。

 どんなに高い能力を持っていても相変わらずの意味不明さだ。

 そんなことを考えている時のことである。上の階から何かが吠える声が聞こえた。決して人のだせる声ではない。明らかに獣のそれだった。


「なんですか、この物悲しい声は……うぅ」

「う、聞いているだけで胸を締めつけるようじゃ……」


 体調不良を訴えるコリン代表とケイン宰相。

 この2人のことは欠片も心配ではないが、一体、上では何が起こっているのだろう。この謎の事態をうまく利用すれば俺とリファはうまく逃げださせるかもしれない。


「カミュ、リファ、とりあえずこの2人は置いて上に行きましょう。危険が危ない気がするの」


 ナツメさんが剣を握ったまま階段をあがっていく。

 普通、ここでコリン代表を置いていくかね。そして俺とリファが自分に協力してくれると信じるなんて。甘い奴だ。人の悪意をなんだと思っているのやら。まあ足手まといを捨てていけるのはうれしいから文句言わないけどね。


「ご主人さま」


 黙ってナツメさんの後を追おうとする俺に小声で話しかけてくるリファ。


「どうしたんだい?」

「森の乙女のお姉さんを何人かここに残して2人を始末してもらうのもありなんじゃないかなーって」


 悪魔かよ。悪魔っ子リファちゃんか。可愛い!

 俺はリファのおでこをツンとつつくと手をとってナツメさんの後を追うのだった。



◆   ◆   ◆



 人が倒れていた。

 ケイン宰相が伴ってきたのであろう兵士、牢屋に配置されていたのであろう兵士、多くはないが決して少なくもない囚人達。誰もが苦悶の表情で倒れている。中には今なお苦しげな声をあげている者もいる。


「誰も死んではいない……けれど大丈夫とも思えないわね。普通じゃないわよこれ」

「はい! わかりましたよご主人さまっ」


 リファが健気に挙手して発言の許可を求めてくる。


「ずばり! この謎のなきごえが原因でたくさんの人が倒れていると思いますっ」


 ずばりもクソもねえだろ。


「ふ、さすが天才リファの中の天才リファか。俺もそうじゃないかなと思っていたんだ」

「えへへー」


 しかし俺は褒めて伸ばすタイプだ。いや厳密に言えばリファだけを褒めるタイプだ。

 そんなくだらないやりとりをしている間にも何かの鳴き声は続いていた。


「何かの獣、いえ魔物の声なのかしらね? カミュはどう思う?」

「まあ人間ではないだろうけど。こういうのは俺やリファよりもナツメさんの方が詳しいんじゃないですか?」

「知らないわよ、こんな声。こんなに悲しげな声を出す魔物がいるのかしら?」


 悲しげな声、ときた。いるよなあ、こういうそれっぽい発言する人。私って動物の感情がわかるのーってな。獣やら魔物なんて所詮は畜生だ。そこに人間が、勝手な自分の感傷を乗せて解釈するのだ。


「確かに。こんな悲しげな声は聞いたことがないですね」


 とりあえずナツメさんに合わせる。これ系の人にはそうしなければ面倒なのだ。それを俺は経験で知っている。


「あはは、なにキャラに合わないこと言ってるんですかご主人さまっ。たかが獣如きが悲しげも何もないじゃないですか~。どんな魔法だか能力だか知りませんけど、この小うるさい害獣をさくっと叩き斬って解決して私の伝説の1ページに加えてやりますよ!」


 そして一番ダメな対応がリファのやったものだと思う。

 だが運が良いのか悪いのか定かではないが、ナツメさんがリファの発言に噛みついてくることはなかった。

 薄暗い牢屋が並ぶ城の地下。特に見覚えのある一角にそれはいた。

 見覚えがあるのはローブラットさんと、ナツメさんの部下だかクラスタの一員だかが放り込まれていた牢屋の前だったからだ。ローブラットさんの入っていた牢屋の扉は強引な力でこじ開けられていて中には誰もいない。そしてそのすぐそばに黒くて大きな獣、いや魔物が俺たちを威嚇するように四足で立っている。


「黒い……獅子?」


 ナツメさんが戸惑ったような声を発する。確かにそれのフォルムは黒いライオンといった感じだった。ただ、その目は動物のものとは違い、人間の感情とか知性が宿っているようにも見える。

 俺たちの姿を認めた黒い獅子は先ほどから聞こえていた大きな叫び声をあげた。ビリビリと空気を震わせるような咆哮は、しかし敵意とか威嚇ではなくて、子供が泣き叫ぶような悲哀を感じさせるものだった。


「な、なんなんでしょうこれっ? 敵なんでしょうか。そんな感じでもない気がします。どこか心地いいというか優越感を感じるというかっ」


 リファの漏らした感想は俺の持った感想とどこか似ていた。確かにこの黒い獅子は敵とは思えなかった。むしろ仲間意識すら感じられる何かがあった。森の乙女の皆さんも刃を向けるべきか否か迷っている風だった。


「可哀想に」


 黒い獅子を前に動けない俺たちを尻目に、ナツメさんは一言つぶやきながら一歩前に出た。

 そのナツメさんの一歩はなんということのない距離でしかなかった。今この瞬間、俺でもリファでも踏み出せる一歩だった。しかし何故かはわからないがどうやっても俺たちでは踏み出せない一歩のように感じた。


「でもこれ以上、暴れるのであれば私はあなたを斬る」


 ナツメさんの言葉に反応したのか、黒い獅子は叫ぶのを止め、怯えるように後ずさりし、そして身体中からグズグズに腐ったような黒い何かを吹き出し――


「あ、コネ騎士!」


 その黒い何かが消え去った後には猫耳を生やした売春婦のような服装の女、ローブラットさんが倒れていた。

 さっきの黒い獅子はローブラットさんだったということか? なんだそのビックリドッキリ変身は。邪神の力だろうか。


「コネキシ……? この人はカミュとリファの知り合いなの?」

「え、あ、はい。知り合いというか被保護者というか」

「とりあえずカミュはそのコネキシさんとやらを連れてこのまま城を脱出して。この混乱ぶりならたぶん逃げ切れるんじゃないかしら? 私は一度コリンのところに戻ってそれから脱出するわ」


 確かにこの異常事態に誰もここへと駆けつけていないのはおかしい。このぶんなら牢屋のある城の地下だけでなく、地上階にいる兵士たちも倒れている可能性が高い。むしろそれを狙って邪神がローブラットさんを化け物にして暴れさせたとも考えられるか。


「分かりましたナツメさん。じゃあお互い無事に脱出したらどこかで落ち合い……ってもういないし。速い」

「ねーねーご主人さまっ」


 くいくいと俺のローブの裾を引っぱってくるリファ。


「なんだいリファ? 言っておくけれど、この機に森の乙女の皆さんに後を追わせてナツメさんたちを始末するというのは無しだ。正直、王国につくべきか冒険者組合につくべきか読めないからね」

「それとはちがくてですね。私、この穀潰しを背負って脱出とか絶対に嫌ですからねっ」

「……でも俺はどっちかというと頭脳労働専門というか」

「ぜったい、ぜーったい嫌ですからね!」


 ※ローブラットさんはこの後、森の乙女の皆さんによって城の外へと運ばれました。

◆Twitter

http://twitter.com/n4350bv

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