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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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サクリファイス

<今回の主な登場人物>

主人公    狂気の魔術師。カミュという偽名を名乗る

リファ    自称ブラックナイトメア


ナツメ    光の勇者

コリン    冒険者組合の若き代表


ケイン    クイーン王国の宰相


ブレイン   森の乙女の一員

ウォッシュ  森の乙女のリーダー。操られている


森の乙女   自称、侍忍者のエルフ五人組。呪われて姿を失う

 クイーン王国大掃討。

 聖焔騎士団、レーンの鷹と相討つ。

 この事実に火の神の神殿だけでなく、周辺地域の多くの指導者が恐怖した。危険地帯としてすでに認識されていたクイーン王国に、正規の騎士団を打ち破りうる反社会勢力が潜伏している事が判明したからである。

 事態を重く見た冒険者組合はクイーン王国に協力を申し出るが、王国はこれを拒否。独自に調査、解決を図るという基本路線を崩そうとはしなかった。それを受け、冒険者組合は国に認可された支部ではなく、個人商会としての出張所を王国内に開設する。これは国家権益に関係なく、人々の安寧のために活動するという若き新代表コリン氏の地上稀に見る献身的決意の表れであった。

 同時にコリン代表に同行していた勇者ナツメ氏も活動を開始する。行方不明となった聖焔騎士団団長スピリッツ氏の捜索、そしてレーンの鷹というブレーキを失い無秩序に暴走を始めた野盗集団の鎮静化を図っていく。

 圧倒的カリスマ性と汚れ無き立ち振る舞いでたちまち信頼を得たナツメ氏は、現地に住む協力者を得ることに成功する。そして協力者からの情報提供により、野盗集団が潜伏しているというクイーンの森に少数で偵察に出たナツメ氏によって衝撃の事実が明るみにでる。

 なんとリーダーを失った野盗集団に目をつけ、それらをまとめて国家転覆を狙う計画が進行していたのである。

 首謀者は元冒険者シュウヘイ。冒険者組合に所属する以前の経歴は一切が不明となっており、家族・知人の類も皆無。常に行動をともにしていたのは女奴隷の3名だけだったという。その女奴隷も見目麗しく着飾らされており、もっぱら性欲処理に使っていたという情報もある。この人物像や、計画の狡猾さからも同氏の野卑な人格が伺える。

 ナツメ氏は事態の早期終結が最優先と判断し、強襲を断行。現地住人を加えた決死隊を率い、反乱軍リーダーのシュウヘイ氏とその側近達の討伐に成功する。残党退治は必要ではあるものの、一連の事件は勇者によって解決されたのである。

 しかし冒険者組合に所属する人間が、無許可で盗賊を処刑したことを問題視するクイーン王国は、なんとナツメ氏を捕縛してしまう。さらには王国の暴挙へと抗議を行ったコリン氏も、王国保安法違反の罪で同様に投獄されてしまう。

 周辺国家の厳しい批判が相次ぐなか、今後のクイーン王国の動向が注目されている。



◆   ◆   ◆



 光射さない暗き牢獄。明かりと言えば頼りない火が少し照らしているくらいである。ピチャピチャとどこかで水が滴り落ちている音がしている。

 そんないかにも重罪人がいますという牢屋の中で、壁に両手を鎖でつながれている2人の女がいる。


「フフフ……まさかこんな形で再開を果たせるとは、な」

「カミュ……!」

「居心地はどうかね、勇者殿。ここは王国でも滅多に使われることのない重罪人、つまり処刑が予定されている者が入れられる特殊房だ」

「王国保安法ね。酷い国だとは聞いていたけど、まさかここまでむちゃくちゃな法律まであるとは思わなかったわ」

「ふ、それは俺も同感だよ、光の(ゲロの)勇者よ」

「いまなんか悪意があったわよね? んん?」


 そんなやりとりの途中でどこかから声が聞こえてくる。

 お待ちくださいリファ様、あなたさまはケイン宰相のご配慮でここに入る必要は。うるさいですっ。ご主人さまと私の間を阻む者は死、あるのみです。誰か応援を呼んできてくれ。抑えきれない。


「ずいぶんと荒れているようね。まるでこの王国の行く末を象徴しているようだわ」

「所詮この世はリファとリファ以外の人間しかいないからな。リファ以外はリファに従うべきなのだよ」

「カミュ。そんな自分の性癖を他者に押しつけるやり方はうまくいかないわ。必ずどこかで歪みが生まれるの。せめてリファ派とナツメ派の2大派閥として共存できないかしら?」

「愚かなり勇者。あなたも冒険者として活動してきて見てきたでしょう。彼らはやれ巨乳がどうとか腰のくびれがどうとか尻の丸みがどうだのくだらない、いや腰のくびれに関しては俺も惹かれるところはあるが」

「あるんだ」

「いずれにしてもナツメさんのようなどれも持っていないザ・普通の女性は冷たい視線を受けてきたでしょう。くだらない。実にくだらない考えだ。彼らは正しく導かなければならない。いや、管理しなければならないのです」

「誰がザ・普通の女性よ。適正だから。もっとも適するボリューム、つまり最高ってことね。それにカミュ、あなたは勝手よ。リファが絶対と考える世界を作り上げて最も得をするのは、リファに愛されているあなたじゃない。結局のところあなたは自分が特権階級になりたいだけなのよ」

「特権ならば誰にでも与えますよ」

「どんな特権を与えるというの?」


 ナツメさんが怪訝な顔で聞いてくる。

 俺はすこしためを作ってから笑顔で答える。


「リファを崇めるという特権をだ!」

「馬鹿な! それはエゴよ!」


 そんな俺たちを黙ってみていたコリンさんが、ついにあきれた声をだす。


「アホなことばかり言わないでください。ただでさえ、こんな所につながれて気が滅入っているんですから」

「おっと、なんでも屋の店主風情がそんな口を俺にきいていいんですか?」

「しばくぞこら。カミュ様だってここに放り込まれたという事は、もう顧問魔術師を解任されているんでしょうに」


 いやホントにね。びっくりした。地の神の巫女ハウエルさんを連れて街に帰った瞬間、兵士に囲まれたからね。

 あれよあれよという間にハウエルさんと離されて、ここに繋がれるというはやわざだった。ついさっきまではリファもここに居たのだが、何故か兵士に連れられて行ってしまった。

 さっき暴れている音が聞こえたのでじきに帰ってくるだろう。もちろん何かあったら大変なので、森の乙女の皆さんはリファについていってもらっている。

 この暴挙はケイン宰相が主導のものだろうか。リファだけ別の牢屋に連れて行かれた事から考えるとそんな気がする。

 そしてハウエルさんだけが別のどこかに連れて行かれた事から、ケイン宰相とハウエルさんが今回の盗賊騒動に何らかの関係があったと考えられる。しまったなあ。ハウエルさんは完全スルーするのが正解だったか。

 下手すると王様も関わっているのかもしれないし。ナツメさんはともかく、冒険者組合の代表であるコリンさんまで捕縛するなんて大胆すぎないか。こんな事して大丈夫かクイーン王国。


「この王国の事を何も知らないんじゃないですかこのバカ。いいですか偽名男さん。この国の王はかつて冒険者組合に所属していた事くらいはさすがに知っていますよね」

「ええ。いま俺のことバカって言いました?」

「狂心王ディンゴ、上官処刑将軍ヴェルヌ、国交破壊宰相ケイン、いずれも国によってはいまだに犯罪者として手配している極悪人なんですよ」


 また変な異名が出てきましたよ、これ。王様とケインさんは分かるけど、ヴェルヌさんまで極悪人なのか。


「あのまともなヴェルヌさんが極悪人なんですか? 俺がこの国で会った唯一まともな人がヴェルヌさんなんですけど」

「あー、まあヴェルヌ将軍はちょっと毛色が違いますけどね。法とか規則を遵守するあまりに、といいましょうか」

「敵前逃亡しようとした自分のところの大将をその場で斬ったところから有名になったのよね」


 ああ、そういう系の人か。


「それでそんな大悪人達がまとめる国がどうやって成立したんですか」

「そりゃもちろんこの周辺国家の悩みの種、クイーンの迷宮の管理者として必要だからよ」

「あ、ナツメもそんな認識ですか? 今となってはクイーン王国は世界中の人材のゴミ捨て場として価値が高いんですよ」


 人材には能力の高さよりも大事なことがある。それは権力者にとって使いやすいかどうかである。

 例えばスピリッツさん。女だてらに高い戦闘能力と指揮能力を持ち、見るからに公明正大な性格だ。もう少し能力が低ければ、あるいは上に迎合する気質であれば、使いやすいうえに眺めても楽しめる女幹部になれただろう。

 なるほど。確かに俺がこの王国で会ったまともな人間は、そういう扱いにくさを持っていたような気がする。もしくはとんでもない問題児だ。そういう人間達が島流しならぬ国流しとして送られるのが、この王国なのか。


「俺としてはあまり納得いかないんですけど。それにそういう癖のある人間を1つの国で受け入れるのには限界がありませんか」

「だからこそクイーン王国なんじゃないですか」

「だからこそって……ふぅむ。なるほど、つま――」

「ああ、すいませんね。偽名男さんにはわかりませんよね。クイーンの迷宮という無法地帯がそのためにあるってことです。それにこの国は悪人の潜伏場所にはもってこい。不幸な事故に巻き込まれる可能性も高いですから」


 それじゃ人材のゴミ捨て場というよりも、人材の最終処理場じゃないか。


「我が王が統治する国を侮辱するとは。さすがは王国の保安を破る重罪人達よ」


 薄笑いを浮かべながら現れたのは国交断絶宰相ケインさんだった。

 兵士も伴わずにたった1人でこんな地下牢に来るとは迂闊だな。


「ケインさん。ナツメさんやコリンさんは好きにしてもいいですが、なんとか俺だけは助けてもらえませんかね」

「おお、顧問魔術師殿ではありませぬか。貴殿はあまりにも優秀過ぎた。まさか儂の逆賊一掃プロジェクトを中途半端に潰すだけでなく、協力者まで捕縛してしまうとは」

「逆賊一掃……そうか、そういうことだったんですねケイン宰相」

「おや、さすがは冒険者組合の若き代表コリン殿ですな。できれば貴殿等にも反乱軍に参加して欲しかったのだが」

「地の神の神殿の巫女は民衆の味方。まさかシュウヘイが率いる革命軍にスパイとして参加するとは誰も思わない」

「革命軍ではない、反乱軍じゃ。しかし聡明なる代表殿の仰るとおり。そこまで理解されてしまえば勇者殿と魔術師殿ともども不幸な地盤沈下に巻き込まれ地下牢で生き埋めになっていただく外ありませんな」

「卑劣な! そこまで不満を持っている人間が増えていると知りながら陰謀で抹殺することしか考えないのですか?」

「力無くただ不満を持つだけの人間が我が王の統治する国に生きる資格無し、といったところですな」


 なんだかコリンさんとケインさんとで勝手にストーリーが進んでいっているのですが。


「なんでもいいですがリファはどこにいるんですか?」


 まあ支配の呪いやら森の乙女の皆さんのおかげで、この地下牢に続く階段でさっきからスタンバイしているのは分かっているんだけどね。


「おっと、そうでしたな魔術師殿。ブラックナイトメア殿、お入りください」

「はい、ケイン宰相っ」


 さっそくその異名で呼ばせているのか。


「リファ……まさか……!」

「ごめんなさいご主人さま……大人になるって悲しいことなんです」

「ブラックナイトメア殿は魔術師殿ではなく、我が王に仕える事をお望みだそうじゃ。心配するでない。儂は孫に似たこの子が得体の知れぬ男の下で手を汚すことが耐えがたかったのじゃ。悪いようにはせん。安穏な生活をさせる事を約束しよう。よくよくこの子から話を聞けば、軽いセクハラを除けば本当に大切に扱っておったそうじゃな。もしかするとお主は見た目に反して善良な人間だったのやもしれぬな。今となっては詮無きことじゃが」


 見た目に反してってえらく失礼だな。


「確かにいくら魔術師とは言ってもカミュみたいにずっとフードを目深にかぶっているような不審者はいないわよね」

「軽いセクハラって……こんな小さい子になんと悪辣な」


 なんか牢屋仲間にまでディスリスペクトられているのですが。


「ケイン宰相! ご主人さまを裏切れば毎日食べ放題飲み放題のブラックナイトメアとして超クールな騎士団を率いることができる話って本当なんですかっ?」

「もちろん。嘘偽りなくその通りに」

「でもでもっ。ご主人さまって闇魔法でどうやっても生き残りそうなんですが、そこは本当に大丈夫なんですか? 実はこの地下牢に抜け道があったりしたりして……なんて考えるとリファは夜も寝られなくなるかもですっ」

「心配いらん。ここは王城の最深部の処刑場じゃ。地下牢ですらない。この後、この部屋は死に至るガスで満たされる。どうあっても逃れることなどできん」


 ガス室かよ。

 これは本気で逃げないとまずいな。


「なるほどっ。それじゃあ普通では逃げられませんね!」


 リファは元気良くうなずくと、スラリと背中の大剣を抜き放った。

 ギラリと黒く輝く刃をケイン宰相に向ける。


「……どういうつもりじゃ、ブラックナイトメア殿?」

「ご主人さまを害する者は死あるのみ、ですよっ」

「やはり従わぬか。できれば生かしてやりたがったがの」


 ケイン宰相は残念そうにため息をついた。


「しかし儂は魔術師殿の牢の鍵は持って来ておらん。儂を人質に地上に出てそれからどうす――」


 腐れ。


 俺の願いは邪神に届き、牢獄の格子はボロボロに腐ってしまう。

 あとは俺が軽く蹴飛ばしただけで牢は簡単に叩き壊すことができた。


「ば、馬鹿な……! ここで魔法の類は使えぬはず!」


 この世界ではそんな部屋を用意することもできるのか。

 魔法なんて使えないけどね。

 さてここからどう行動するか。重要な岐路になりそうだな。

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