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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
35/70

静かで速やかな進行

<今回の主な登場人物>

主人公    リファフィリア

リファ    通り魔剣士

ナツメ    自称魔法少女

ブレイン   森の乙女の一員

ウォッシュ  森の乙女のリーダー。操られている


森の乙女   自称、侍忍者のエルフ五人組。呪われて姿を失う

「そ、それで……どうなったのよ?」

「ご主人さまっ。急にだまるのって――」


 思わずウォッシュさんの操作をオートに戻して叫ぶ俺。


「ハウエルさん! そうだ思い出したハウエルさんだ!」

「ぎゃあああああ!」

「ほえー!?」


 ツリーハウスに意識が戻る。

 一応、ウォッシュさんを操作しながらもリファとナツメさんに怪談を語っていたのだが。操作に夢中で何を話していたのか想い出せない。

 そんなに叫ぶほど怖い話をしてしまったのか? っていうかリファの悲鳴あざと可愛い過ぎないか。リファちゃん超絶可愛いですわ~。


「まさか最後の最後で大きな声を出して驚かせるやつをするなんてね。やられたわ」

「びっくりした。すっごくびっくりしましたっ」

「それよりもハウエルさんだ。覚えているかリファ?」

「あのちみっこい地の神の神殿の巫女ですよねっ」


 どう見ても君と同じくらいの背丈なのだが。


「そうだ。どうも……」


 思わずリファに話そうとしてしまったが、ここで言葉を止める俺。

 さっき見たのは本当にハウエルさんなのだろうか。よく似た女盗賊というだけだったりしないか。

 そして、もし本人だったとして、だからなんだと言うんだろう。ハウエルさんが何らかのトラブルに巻き込まれて盗賊に捕まっていたとして、どうして俺達が助けなければならないんだ。ハウエルさんはけっこうなお偉いさんなのだから神殿サイドでなんとかするだろう。逆に、実は地の神の神殿サイドが盗賊を裏で操っているのかもしれないし。

 何もこんなに暗くなった夜の森を、強行軍で移動して真相を確かめる必要など無いじゃないか。俺もまあまあ好奇心旺盛なほうだけれども、そこまでの野次馬根性はない。

 とりあえずウォッシュさん達にはこっちに帰ってきてもらおう。


「どうもふと思い出してね。元気かなあって」

「あはは、うっそだぁ~。ご主人さまが人の心配をするだなんてご冗談を!」

「地の神の神殿ね。そういえばあの神殿だけは普通に神殿としてクイーン王国で活動を許されているわね」


 言われてみれば他の神の神殿って聞いたことがないな。

 火の神だって聖焔騎士団の拠点しかなかったし。普通の国には各神の神殿が勢ぞろいしているものなんだろうか。

 ウォッシュさんの知識にもそういう事は入ってないんだよな。やはりエルフは人間社会には疎いのか。

 どうせだったらファイさんからその手の知識をもらっておけばと思わないでもないが。あの時は、今みたいな器用な支配はできなかったしな。かと言って、支配できる枠はすでに限界一杯だから、新たに誰かを操作するにはウォッシュさんの支配を解かなければならない。

 かと言って、誰かに一般常識に関するであろうことをあれこれ質問するのもなあ。


「さて、夜のお楽しみタイムはこれくらいにして、そろそろ本題に入っていい?」

「えっ。怪談やりたいとか言い出したのってナツメお姉さんですよね?」

「リファ、そういう漫才チックなツッコミはしばらくお預け。ここからは大人の作戦タイムよ」


 あまりの理不尽さに堪えたのかリファが涙目で俺を見つめてくる。大丈夫、リファが正しくて可愛いよ。

 そっと微笑んで俺が両手を広げてやると、リファはとてとてと俺の胸に飛び込んでくる。


「すんすん♪」

「やめて、俺の首元をかがないで!」

「すいません、でもなんとなくやっちゃいますね。初めてご主人さまのフェチが理解できた気がしますっ」

「大魔法使いナツメとしての意見はね、盗賊を全滅させる必要はないってことよ」


 ナツメさんはなかなかにメンタルが強い。


「反対ですっ。盗賊退治は敵を殲滅するか、こちらが全滅するかのいずれかだってお嬢様に聞いたことがあります!」

「そうなの? じゃあ殲滅します」

「いや殲滅は難しいんじゃないか」

「カミュの発言は認めません」


 そしてなかなかに人の意見を取り入れる。惜しむらくはリファの意見を積極的に採用する姿勢だ。


「えーっと、そうなるとどうすればいいのかしら。私としては規模の大きくなっている盗賊団を叩いてしまえば、後は放置しても沈静化すると思っていたんだけど」

「えっと、たしか火を放つんですよっ。盗賊は焼き尽くす! これが基本だって言ってましたっ」

「わーお。過激ね。なんだか大魔法使いっぽいし、それでいきましょう」


 さっそく杖の先にやばそうな炎の玉を生じさせるナツメさん。


「やめて!」

「カミュの発言は認めません」

「なんでだよ! おい、待ってナツメさん! リファの意見を即実行しようとするのはやめてください! リファの言うとおりにしていれば世界が滅びる方向に突き進んでしまいますって!」

「あ、こら。私の伝説の大賢者の杖を勝手に……」


 慌ててナツメさんから杖を奪い取る俺。

 イラついたので、ついでにへし折っておく。


「ああ!? 杖は大事な魔力媒体という設定なのよ! もうこれで魔法が使えないという設定になっちゃったじゃない!」

「いいかい、リファ。お嬢様の考え方もいいけど、自分の意見もきちんと持ちなさい。盗賊を殲滅するなんて面倒な事をしたって、どうせまたそのうちどこからともなく盗賊は湧いてくるんだ。こういうのは適当にやらないと」

「なるほどっ。それが大人の考え方なんですね!」

「そうだ。これがクールな大人さ」

「リファはご主人さまに大人にされちゃいましたっ」

「え! うっそ? 私が杖に気を取られているこの一瞬でイタシテしまったの? カミュって早過ぎない?」

「唐突な下ネタはやめろ」



◆   ◆   ◆



 翌日の早朝。

 念の為の警戒は森の乙女の皆さんに任せて、ぐっすり眠ったので気分爽快だ。

 このツリーハウスには魔物避けの効果もあるにはあるらしいが、例によって効果があるのかは知れたものではない。呪いと魔法、いや呪いと神聖魔法と一般魔法の相関関係には検証すべき点が多くて、色々と安心できない。

 それにしても俺とリファはともかく、ナツメさんまで爆睡していたのには驚いた。怪しさ大爆発で、しかも仲間の命を奪った可能性すらある相手と同じ部屋でよく眠れるな。何を考えているんだろう。


「もー。眠いから先に行ってちゃっちゃと片付けちゃってくれない? これ<魔法使いナツメちゃんズ>のクラスタマスターとしての命令だから」


 そのサリーちゃんみたいな名前はもしかしてクラスタ名なのだろうか。あうとさいだぁじゃなかったのかよ。いやあうとさいだぁもコリンさんに却下されて結成していないけども。

 もはや面倒くさくなった俺はリファと森の乙女を連れて、本当にナツメさんを置いて勝手に出発する事にした。

 勇者の力は未知数、もうそれでいいじゃないか。いや勇者ではなくて今はもう魔法使いだか大賢者だったか。勇者はいなくなりましたとか報告しておけばいいだろう。

 昨晩はウォッシュさんの操作に夢中になったり、ナツメさんのお守りで疲れていたので、さっさと寝る事を優先してしまった。しかし休んで元気一杯になった今では俄然ハウエルさんの事が気になる。

 やはり力を王国内に力を示したい盗賊団に誘拐されてしまったのか。それならば結構な強さの盗賊がいるという事になる。

 レーンさんは確かに邪悪な感じはしていたが、あまり盗賊の親玉といった野卑なイメージはない。どちらかと言えば冷酷な知能犯と言った見かけだからな。いい機会だし、あからさまに邪悪な盗賊のボスみたいな奴がいれば会ってみたい。三国志の張飛のような偉丈夫だろうか。ちょっと面白そうじゃないか。

 もしくはハウエルさんが一連の盗賊騒ぎを裏で起こしている展開も考えられる。パッと見は子供だが、あれでも地の神の神殿の巫女だ。巫女がどれくらいの実質的な権力を握っているのかは知らないが、お偉いさんである事は確かだろう。神殿が企む何かおどろおどろしい陰謀が見られるかもしれない。俺にとってはこっちの展開の方が好みかもしれない。

 やべえ、すっごくワクワクしてきた。


「ご主人さまっ。なんだかいつにも増して悪そうな顔をしていますけど、なにか良い事でもあったんですか?」

「良い事だなんてとんでもないよリファ。いいかい? 盗賊のせいで多くの人達が困っているんだ」

「ウケますー」

「……うん。それで今、俺達はこの森で恐らく一番大規模な盗賊団の方に向かっている。もちろん投降するように促すような真似はしない。できれば奇襲をかけたいが。それなりに戦い慣れているだろうから難しいかもしれないな。とにかく戦闘は避けられない」

「わーい♪」

「……昨晩のうちにウォッシュさんに偵察に行ってもらったんだ。相手の数は30人程度。小さな盗賊団が寄り集まったのか、元から大きな盗賊団だったのかは分からない。盗賊だからどんな汚い手を使ってくるか分からないし油断は禁物だ。もしかしたら人質でも用意していて盾にしてくるかもしれないけど、その時はわかってるね?」

「人質ごと叩き斬ればいいんですよねっ」


 ピカピカの花丸スマイルで元気良く答えるリファ。

 敢えて人質ごと斬り捨てる必要は無いが、それくらいの気概を持ってくれていたほうが安心できる。生き残るのに卑怯もクソもない。死んで花実が咲くものか。無駄に良い子ぶって屍をさらすよりも、無事に生き残って「守れなかった……」とか悲痛な回想シーンに浸れるほうがいいに決まっている。

 盗賊だって命を張って犯罪しているわけだから、俺達だって全力で叩き潰すべきだ。命は賭けないけどね。盗賊相手に命なんて賭けてたまるか。


「おっと、待ちな。こっから先は通行止めだぜ。通りたきゃ払うもん払いな」

「ちなみに帰るのにもちょっとばかし料金がかかるぜぇ」


 突然、茂みや木の陰から現れる汚い身なりの男たち。数は3人。粘着ストーカーで分かっていたけど、あっさりと姿を見せてくるとは思わなかった。

 こいつらがいきなり奇襲してきて華麗にリファを守って、リファから絶賛されるという俺の計画を潰してくるとは。せっかくウォッシュさん達を使わず、さりげなく敵の奇襲は避けられないとまで言って、こいつらにチャンスを与えたというのに。なかなか侮れない盗賊ですね。


「ファファファ……我が深淵なる闇の炎に抱かれながら消え失せるか? 我こそは名高い黒衣の魔術師ぞよ」

「ちょっと気になっていたんですけど、そのご主人さまが言っているふぁふぁふぁーって笑い声なんですか?」


 せっかく姿を見せてくれたので、ちょっと名乗りをあげてみる俺。

 どこぞのコネ猫耳メイド崩れによって聖魔大戦とかとんちきな噂も流されたことだし、盗賊達の間でも有名になっているかもしれない。


「黒衣の魔術師……? 知らねえな。お前、知ってるか?」

「聞いたことあるような気がするが……どうも思い出せねえ」


 残念。やっぱりあまり有名ではないらしい。


「待て。俺、知ってるぞ。そこの黒いでかい剣を持った子供ってあれじゃねえか! 例の通り魔剣士」

「通り魔剣士!? それって街中でも気に入らない奴を見かけたら全殺しにしちまうってあの……?」

「冒険者から聖焔騎士団、果てはレッサーデーモンですら3枚おろしにしちまう子供か! やべえ!」


 リファのほうが有名なのかよ。可愛いからか? だったら納得だ。


「じゃああの黒いボロを着ている奴が、あの少女好きの魔術師か?」

「違えねえ。見ろよ、今も通り魔剣士を後ろから眺めてニヤニヤしていやがる」

「やべえな。噂どおりじゃねえか。あいつの目、子供を見る目じゃねえよ。むしゃぶりつきたいようなイカす女を見るような目で子供を見てるぜ」


 なるほどな。

 確かに俺の動きは地味だろう。呪いを飛ばしても、派手な攻撃魔法にあるエフェクトは発生しない。直接攻撃だって、援護としてナイフを投げつけるくらいだ。基本的に突撃するリファをフォローする動きしかしないので、じっとリファとその周辺を注意深く見ているしな。

 でも酷くない? そういう誹謗中傷な噂を流したり、鵜呑みにするのってよくないと思う。


「いいんですよ、ご主人さま」

「リファ……」

「リファはご主人さまの全身を舐め回すような目線にはもう慣れましたから」


 見られている本人がこう言うならもう仕方ないよね。

 考えてもみてほしい。胸を強調するような服や、足を露出するような格好をしている可愛い子がいれば誰だって見てしまうだろう。

 ましてやリファはリファを強調するような服や、リファを露出するような格好をしている可愛いリファなのだ。そりゃ四六時中じっと眺めてしまうだろう。誰も俺を責めることはできないはずだ。

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