森の首狩り族オンライン
<今回の主な登場人物>
主人公 エフェボフィリア
リファ 通り魔
ナツメ 自称魔法少女
ブレイン 森の乙女の一員
ウォッシュ 森の乙女のリーダー。操られている
森の乙女 自称、侍忍者のエルフ五人組。呪われて姿を失う
話は少々さかのぼり、クイーン王国と冒険者組合の会談が行われた日の晩のことである。例によって唐突に邪神が俺の夢の中に現れた。
「いいですかーカンゾーさん」
おお。邪神さまじゃないか。
急にいなくなってくれてせいせいしていたけど。
「余裕が無くなりました」
余裕?
「もうこうやって夢枕に立つ事も難しくなりました。いつでも邪神さまといっしょという夢の生活も短い夢でしたね」
それは全然いいんだけど。
「もはやあなたは見て楽しい、くたばっても笑えるという弄べる駒から、絶対に取られてはならない駒になりました。いいですか。ナツメを殺してはいけません。殺せばあなたを殺します」
色々と聞き捨てならない言葉だが。
「ナツメを堕とすのです。暗い道へ。ナツメの希望を打ち砕くのです。ナツメを殺してはいけません」
抽象的過ぎてよくわからんが、それが邪神様の新たな命令か?
「至上命令ですよ。これ以上に優先すべき命令はありません。その為に今までも、そしてこれからもっとあなたは欲望を解放するのですから」
それだけ言うと邪神は消え、俺は暗闇に一人取り残された。
◆ ◆ ◆
魔法で作られた即席のツリーハウスに登った俺は、さっそく座って目を閉じる。
集中だ集中。森の中なんて生き物が一杯だ。理知的な動きをしているものを探さなければならない。いや理知的ではないか。不自然な動きか。
「もう日が暮れてきたわね。えい」
「わぁい、明るいですね! って、何をしているんですか魔法少女のお姉さんっ。こんなに明るいとバレバレになるじゃないですか!」
蛍光灯をつけたような明るさを魔法で灯すナツメさん。それを慌ててやめさせるリファ。
すごいぞ。リファにツッコミをされる人なんてなかなかいない。
「でも暗いと気が滅入らない? そうだ怖い話でもしましょう」
「えー。怖い話ですかぁ」
「あら、リファは怖いのかしら」
「こ、怖くないもんっ」
「いいのよ。カミュはきっと夜に1人でトイレに行けないからついてきて欲しいって頼んであげたほうが喜ぶタイプよ」
「それはそうですけど~」
勇者、恐るべしだな。
俺のツボをいちいち心得ていやがる。この短い期間の会話でそこまで見抜いてくるとは。
しかし、この邪神の粘着ストーカー、なかなかコツがつかめない。
(提案なんだからぁ。私達に任せれば盗賊の位置なんてさっさと見つけてみせるんだからね)
「うわあ! こいつ俺の心に直接!」
すごくびっくりした。
気のせいでもないし、普通の声ではない。いま確かに、頭に響く感じで操っているはずのウォッシュさんの声がした。
操っている人間から提案してもらえたりもするのか。すごいな邪神の支配って。なんかこう……すごいな!
しかし大丈夫だろうか。今や森の乙女の皆さんは重要な護衛だ。
もしウォッシュさん達を偵察を出している間に、盗賊がここを発見して襲ってきたら。そこらの魔物が木を登って襲ってきたら。
なによりもナツメさんが密かに仲間を呼んでいて、急に俺たちに襲いかかってきたら。
「だー! もう! だからね、今のは駅のホームで歩いている人の昨晩食べた物を言っていたわけ! つまりね――」
「だから駅のホームって何なんですかっ。あとさらりぃまんとかおおえるとかも分かりません!」
「もう! それくらい一般常識じゃない!」
アホがいた。
やっぱりナツメさんはこの世界の人間ではないらしい。名前の響きからしてそうじゃないかと思っていたが。こんなに無防備に自分が異世界人だと分かる情報を出してしまうなんて。そういえばジャクソンさんが言うには誰も知らないような魔法も使えると言っていたな。平気で手札を晒し、なおかつ特別な技能だということも隠さないのか。
大丈夫だろ。こんな人に悪巧みができるとは思えない。いや何か考えがあったとしても俺を殺す事はできないだろう。
(じゃあお願いしますウォッシュさん)
(任せなさいよね、森で私達に勝てる奴なんてそうそういないんだからぁ)
俺の承認を得て、ウォッシュさんはブレインさん達にジェスチャーを送る。
森で狩りをする時にでも使うサインらしい。お互いにうなずきあうと、音も無くツリーハウスから出て行く。
「怖い話か。クックック、下がれ勇者……じゃなくて魔法少女?よ。我が闇によって紡がれた言の葉を聞け。そして恐怖に打ち震えるがいい」
「なにかひっかかる言い方が気になるけれど、いいわ。お手並み拝見といこうじゃない」
「ナツメお姉さん、覚悟しておいたほうがいいですよっ。ご主人さまは人を脅したり怖がらせる事に関しては、努力を怠りませんから……!」
「では語ろう。あれはそう、一ヶ月ほど家を留守にしてから帰宅した時の話だった。俺はそんなに家を空けたのは初めてで、食べ物を――」
◆ ◆ ◆
リファ達にリアル恐怖体験を語りながら、視界をウォッシュさんに切り替えてみる。
ウォッシュさん達は持ち前の身軽さと風の魔法を使って、森の木々の上を次から次へと飛び移っていた。
こんな立体的な動きで、いきなり刀や魔法で襲い掛かられたらやばいよな。今日からウォッシュ兵長と呼んであげようかな。
「別にウォッシュ姉さんがいいならかまわないんですけどね」
森を飛び回りながら、ブレインさんが話しかけてくる。
「なんか魔術師くんに良いように使われてません、私達?」
「なによ! 最年少のくせにウォッシュに逆らうなんて生意気なんだからね!」
「魔術師に関わってから面白い事ばかりじゃない! なによっ、別にあんな子なんて全然興味ないんだからね!」
ブレインさんの当然の疑問を、年上パワーで叩き潰す森の乙女の皆さん達。意外と慕われているらしいな。俺の予測ではウォッシュさん以外は不満が爆発して離脱するかもしれないと思っていたのだが。やはり人間とは違う価値観で生きているのか。
っていうかエルフってバリバリの年功序列なのだろうか。
「あまり騒いだら駄目なんだからね。明らかに森のあちらこちらから食事のにおいがするんだからぁ。盗賊達は数グループに分かれているんだからね」
「なによっ。それくらい分かっているんだからね! とりあえず一番端っこにいる、はぐれているみたいな盗賊から様子見する気なんでしょうっ。この卑怯者!」
「サムライニンジャは狡猾にして冷徹なんだからね! 卑怯者呼ばわりは褒め言葉なんだからぁ!」
それ以降は一切無言で、目的地に接近する森の乙女。
なるほどな。においか。野生的だ。
そしてこの森の中の移動速度はなんちゃってサムライニンジャではない。忍びだ。
あっという間に、うっすらと光るテントらしきものを発見する。もちろん、きちんと光が漏れないような布地で、しかも森の木々に紛れるようにしてあるのだが。しかし微かに光が漏れている時があるし、やはり目を凝らすと何か不自然なのが分かる。
俺からすれば余裕で見逃すレベルだが、ウォッシュさん達からすればバレバレらしい。木の上から見下ろしているというのも大きいのかもしれない。ちょっとした空き地というか、木がまばらになっている場所なんだよな。
火も焚かず、見張りも立てていないが大丈夫なのだろうか。また魔法的な何かで危険な動物やら魔物を遠ざけているのかもしれないが。
ブレインさんが小さな風の刃を飛ばし、テントの近くの枝を斬る。
パキ、と音がする。風が木の枝を揺らす音でもなければ、虫の鳴き声とも明らかに違う。
「なんだ? 何か音が聞こえなかったか?」
「気のせいだろ」
「……いや、気になるな。別の盗賊団が近くに潜んでいるのかもしれん。ちょっと見てくるぜ」
やけにクリアにテントの中にいる盗賊達の声が聞こえる。
これも風の魔法をうまく使って音を集めているらしい。これだよ。こういう魔法が欲しいんだよ。攻撃に色んなエフェクトつけても意味ないしな。魔法花火職人なんか必要ない。
テントから1人の盗賊が出てくる。警戒するように周囲を見渡しながら歩いている。下草やら落ちた葉が一杯のなか歩いても足音1つたてないのはさすがだ。
そんな姿を眺めながら、森の乙女の1人が人差し指をピンと立てている。すると地面から何かがふわふわと浮いて集まってくる。あれは……土?
指先に集まって浮いている土は赤ちゃんの頭ほどくらいあったが、音も無くどんどん縮んでいく。いや圧縮されて石みたいになったのか。
「何もいないか……やっぱり気のせいか」
ちょん、と死亡フラグを立てた盗賊へ指を振る森の乙女。ビー玉サイズに圧縮された土の塊は風を切り裂きながら盗賊の頭へと飛んでいき――そしてどさりと倒れる盗賊。
す、ストーンブラスト的な魔法か。いや、こんなだっけストーンブラスト的な魔法。もっとこう、しょぼい小石がぶつかって痛~い★みたいな魔法じゃなかったっけ。
「おい。今、変な音がしなかったか」
「まさか……本当に俺達に歯向かう奴らが?」
「くそが! また俺たちが汗水垂らして無能どもから奪った稼ぎを横取りしようとしやがる不逞野郎か!」
ぞろぞろとテントから出てくる盗賊達は5人。無用心にカンテラか何かを持って出てきているから姿を確認するのは容易だ。
冒険者ご用達の明かりでも飲めよとは思うが、節約しているのかもしれない。
再び、ブレインさん達が謎のサインを手でだすと、残りの4人がうなずいて人差し指を立てる。またしても指先に土が集まり、そして数秒後には5つの、いやあわせて6つの物言わぬ盗賊が森に転がることになった。
ワザマエ!
でもすごいけれども、なんでこの人達は盗賊を殲滅しているんだろう。俺は偵察を頼んだような気がするんだけど。
(なによ。つい夜の森を飛び回ってテンション上がっちゃったんだからね。悪い?)
俺の心のツッコミに、心の声で返答するウォッシュさん。
これだから全自動とかオートとか放置ゲーは苦手なんだよな。やっぱり細かい作業は自分の手でやらないと。
(なによ、そうやって言いがかりをつけて私を好き勝手に動かすつもりなのね。勝手にしなさいよね。もう知らないんだからぁ)
プレイ動画を見た後には、自分でプレイしたくなる。つまりそういう事だ。
しかしウォッシュさんのセリフ、なんだかエロいな。
「なによたいした事ないわね。これなら私達だけで全滅させられるんだからね」
「そりゃそうですよ。人間如きが森で無防備に休憩しているんですから。エルフですら、できる限り森では野営なんてしないのに。無用心な奴らです。でも姉さん、いいんですか? 魔術師くんは偵察って指示してきたんですよね」
「なによ。知らないわよ。ちょっとくらい暴れても問題ないんだからね」
「……ウォッシュ姉さんがそうおっしゃるならかまいませんが」
なんだかブレインさんが腑に落ちないような顔をしているが、俺は早く森を飛びまわってみたくて仕方がない。
限りなくマニュアル操作に近いセミオートでウォッシュさんを操る俺。魔法で起こした風を身体に纏って、軽やかに木から木へとジャンプするウォッシュさん。タイミングよくぴょこぴょこ飛び移るだけでなんだかよく分からない快感が生まれてくる。
これ面白い。自由に世界を走りまわれるゲームともまた違う感覚だ。これあれだ。こういうのがVRMMOってやつか。これは売れるわ。
調子に乗った俺は森の乙女の圧倒的な力で規模の小さい盗賊団を2、3潰した。離れた木の上からテントごとサムライ手裏剣なり遠距離魔法を放てばイチコロの簡単なお仕事である。
さらに勢いがついて森で一番大規模であろう盗賊団に接近する俺たち。身体が風の魔法で軽い。もう何も怖くない。
「待って姉さん方。あの小さいの。あれってエルフじゃないですか?」
テンションが最高潮に達しかけていたのに、なんだよ。
ブレインさんが指さすほうに目を凝らすと、確かに子供くらいの背丈のシルエットが見える。確かにエルフのような耳をしているような。いや、待て。あの子は見たことがあるぞ。
緑髪のリファくらいの背丈のエルフっぽい女の子で、地の神の神殿の巫女で、名前は……なんだっけ?
思い悩んでいるうちに女の子は盗賊がいるであろうテントの中に入っていく。中の音を聞こうにも、残念ながらウォッシュさんの耳には何の音も届いてこない。盗聴避けか、もしくは筆談でもしているのか。
うーむ。しかし本当になんて名前だったか。こういうのがわからないとすっごく気持ち悪い。ショーペンさんでもないし。うーん。




