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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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自由勇者ナツメ

<今回の主な登場人物>

主人公    エフェボフィリア

リファ    通り魔

コリン    冒険者組合の腹黒き女代表

ナツメ    冒険者組合所属クラスタ、ブルーアースのリーダー

ブレイン   森の乙女の一員

ウォッシュ  森の乙女のリーダー。操られている


森の乙女   自称、侍忍者のエルフ五人組。呪われて姿を失う

・隣の酒場を潰してほしい

 俺の酒場がいまひとつ儲からねえ。隣の酒場に客を奪われているせいだ。3年も前からやっている俺の酒場の隣で開店しやがったとんでもねえ酒場だ。手段は問わねえ。さっさとぶっ潰してくれ。


・隣の酒場を潰してほしい

 最近、酒場を開いた者です。良い場所を安く借りられたのですが、いま一つ利益がでていません。隣の薄汚い酒場にたむろするガラの悪い連中のせいでお客様の足が遠のいているに違いありません。どうか丁重に立ち退き勧告をしてください。場合によっては手段は問いません。


・盗賊団を潰してほしい

 通商に使うルートに盗賊が出没しています。どうか殲滅してください。なお報酬は現物支給となります。


・隣人の買った妙な楽器を潰してほしい

・冒険者組合の出張所を潰してほしい

・黒衣の魔術師を潰してほしい

・地の神の神殿にいる巫女と付き合いたい

・家にある邪魔な家具を潰してほしい

・付き合っていた彼のアレを潰してほしい


「なんでこの国の人はこんなに潰してほしいんだよ。もっとこう、薬草摘んで来いとかゴブリンを退治してくれとかさ」

「薬草採取って難しいのよ。必ずしも図鑑に書かれた特徴と一致するとは限らないし、群生しているとも限らない。それに似た形で別の効果のある草があったり。草じゃないけど、キノコの類もやばいわね。とてもずぶの素人ができる仕事じゃないわ」


 思わずつぶやいた俺の独り言に返事をしたのは、勇者ナツメさんだった。


「ゴブリンは最近、クイーン王国周辺では姿を消したらしいわ。つい最近までは近くの森で群れがいたらしいけれど」

「ごていねいにどうも。なんだか雰囲気というか話し方が違いますね、ナツメさん」

「こっちが素なの。普段はコリン達がうるさいから。私くらいの本格的冒険者になると勇者の立ち振る舞いや言動くらい簡単だから別にかわないのだけどね」

「舌をださないでください。なんだかイラッとしますから」


 てへっ☆という感じで舌をだして見せるナツメさん。これで舌ピアスでもしていたらなんかこう俺的セクシーポイントが高得点だったのだが。

 それはともかくコイツは間違いなく計算でやっている。自分は可愛いと自覚のある女がこういう媚びた事をする時は注意が必要だ。必ず何かの厄介ごとを押し付けてくる。


「それはさておき偽名カミュくん。なかなかやるわね。私がそれなりに育てたジャクソンを一瞬で戦闘不能にするなんて。あれってカミュくんの魔法か何かよね?」

「いいえ、違います」

「とりあえず隠そうとする姿勢も良いわね。合格よ。ジャクソンもテイルもそういう人間不信のような部分に欠けていたのよ。あーあ、テイルったら本当にしんじゃったのかしら。あの子をあそこまでにするのに苦労したんだけどなー。けっこう強かったでしょ?」

「ジャクソンさんは速かったですね。テイルさんは知りませんけど、会ったことありませんので」


 お粗末な鎌かけだな。やはりナツメさんは俺を疑っているのか。


「なんだかあまり私の事って好きではない? 普通なら反応が良くなる事をしても全然興味無さそう。コリンからあわよくば魔術師を落とせなんて言われていたけど、なんかもう飽きちゃった。実はオフではくだけた系女子というギャップ萌えが通じないなんて」


 一気にやる気を失ったナツメさんは、維持していたアヒル口までやめてダルそうな表情になった。たぶんこれこそが本当の素なのだろう。

 アヒル口か。俺からすれば面妖な表情なんだよな。リファがやるなら可愛いが。何をやっても可愛いからな。リファなら鼻からスパゲッティを食べて目でピーナッツを噛んでも可愛いしな。っていうかリファならマジでできそうだな。


「俺は普段からリファを見ていますから、色仕掛けなんて効きませんよ」

「そう。思春期の少女にしか興味を示さないって噂されていたけど、実は純愛主義者なのね。まあそれは別にいいわ。それよりも人手が足りない。まったく足りないわ。どういう事かわかるわよね?」

「いや、ふざけた依頼が多いし、別にこなす必要はないんじゃないですか?」

「つまり盗賊が多いのよ。いえ、多いのかしら? たがが外れている? どうして? そう、つまりレーンの鷹なのよ」


 やばい。この人、電波系か。意味が分からない。

 しかし改めて貼られている依頼を眺めてみると、冗談なのかひやかしなのかよく分からない潰してほしい系の依頼に紛れて、盗賊団関連の依頼書が目に付く。

 いや待て。よくよく見てみると、畑やら家畜の盗難とか行方不明者の話も多い。変な依頼ばかりつい読んでいたが、これは多いぞ。

 もしかしてこれって盗賊団の仕業なのか。


「クイーンの迷宮にはもはや今までの盗賊の居場所はない。そうよね? そしてレーンは行方をくらませた。カミュが関係しているとも言えるわね。もう行きましょう。手駒が無くて困っていたのよ。単独行動は避けたいし、下手な足手まといもいらないし。私に舟ね。さあ」

「ファファファ……いつから顧問魔術師たる我が貴様如き小娘の手助けをしてやると錯覚していた? 絶対に手伝いません。手伝わないってば。やめて、放して! た、助けてリファ!」


 ついに俺を呼び捨てにしだしたナツメさんが、強引に手を引いてくる。

 言っている意味はあまり分からないが、この女は俺をこき使う気だ。間違いない。どこかスピリッツさんと同じような強引さも感じる。


「あ! こらー! ご主人さまが、美人に手を握られてちょっと嬉しいけど面倒事を押し付けられるのは嫌みたいな顔してるじゃないですかっ。やめてあげてください!」

「俺の心を読んで公開するな」


 書類を書き終わったらしいリファが足音をたてずに走り寄ってくる。

 最近気づいたんだけど、この子は普段はとてとてという可愛らしい感じで歩いているんだけど、どうも慌てている時は足音をたてないんだよな。

 普通、逆だろ。どれだけひねったキャラなんだよ。いい加減にしろ可愛い。


「あ! ナツメ! 駄目ですよ、すぐに変な人と仲良くなるんですから」

「そうかもしれない。本格的な冒険者だから、コリンでは分からない素質みたいなものを見極める眼を持っているのかもしれない」

「またそんな変な話し方をして! 外部の人がいるところでは勇者らしく話すと約束したはずですよ。それにカミュ様にはいつもみたいに可愛い系で接して色仕掛けしてくださいってお願いしたじゃないですか!」

「それはその時の私が約束しただけであって、今の私には関係ないじゃない? それにカミュとリファは私の相棒なの。だから問題ないわね」

「相棒って……まさかブルーアースにその胡散臭い黒ローブの男を入れるつもりじゃないでしょうね?」

「いいえ違うわ。今や私は新生クラスタの……そう、アウトサイダー……いえ、あうとさいだぁ、よ!」


 ださい。


「なんですかその何かをこじらせた名前をそのまま使うのが恥ずかしくて敢えて崩して自分は自分を冷静に見つめる事ができていますとアピールしているような痛い名前は。それにナツメが抜ければブルーアースはどうなるんですか!?」

「ブルーアースは私にとっていいキャリアアップになったわ。後はそうね、ジャクソンにでも任せるわ」

「なんで敢えて投獄されている人間を後任に指名するんですか!」

「いいじゃないムショ帰り。かっこいいっしょ?」

「っていうか認めませんからそんなダサいクラスタ。そもそもリファさんならともかく、その偽名男との同行なんて認めませんからね」

「じゃあそんな事を言うコリンとは金輪際、口を利きません」

「はぁ~? 子供ですかあなたは。無視されたくらいで私がわがままを認めるとでも? ……絶対に認めませんから。いくら人手が足りていないからって他にもブルーアースの準レギュラーがいるじゃないですか。……ねえ、なんで何も言わないんですか。……ちょっと、目くらいあわせてくれてもいいじゃないですか。……ねえ。……ねえってば。……ナツメさん? ナツメ様? 勇者さまー。……あの。……さすがに新生クラスタを立ち上げるのは無理ですけど、ちょっとの依頼を一緒にやるくらいであれば――」



◆   ◆   ◆



 勇者と邪悪な魔術師の即席パーティーはコリン代表の多大なる反対があったが、ナツメさんの無視によって無事に結成された。

 なんだこの強引っぷりは。会談中のキャラも放棄しっぱなしだし。あれはイベントシーンとかムービー時のみのキャラなのか。


「私って勇者とかそういうタイプじゃないのよ。ヒロインタイプよね。カミュもそう思うでしょ?」

「いや、俺はあなたがどういうタイプなのか知りませんし」

「なによ、冷たいわね。私とカミュの仲じゃない。ね、リファ?」

「ねー」


 リファはそこそこナツメさんの事を気に入ったらしい。


「なぜ勇者なのかしら。勇者ってそこそこいいポジションだけど、命を犠牲にして世界を救わないといけないじゃない。私、思うんだけど私の命のほうがこの世界よりも尊いと思うのよね。カミュもそう思うわよね?」

「たぶん剣を持っているからだと思いますよっ。私だって剣を持っているからご主人さまを護るガーディアンとか言われていますし」


 初耳ですが。


「そっか。そうよね。カミュみたいに魔法使いになればいいのね。こんな剣と鎧のせいだったのね」


 そう言ってナツメさんはいかにも高価で神聖そうな剣を鞘ごと投げ捨てた。そしてどこからともなくスカートを取り出して履き、ズボンを脱ぎ捨てた。こんなにドキドキしない女の子の着替えシーンは初めてだ。リファでももうちょっと恥じらいがあるぞ。


「えーと、杖は……持っていないわね。これでいいかしら」


 おもむろに適度な太さの木の枝をへし折って即席の杖にする。

 そう俺達とナツメ、そして今も見えざる姿で周辺をかためてくれている森の乙女達は、いつかも来た事のある森に来ていた。

 ナツメさんの事前調査によると、クイーンの迷宮を追われた盗賊の残党は、城下町周辺の森に拠点をかまえているらしい。もっとも全ての盗賊が森にいるわけでもないだろうが。

 そして盗賊の活動が活発化しているのは、レーンの鷹が活動を停止しているのも大きいらしい。この辺りでぶっちぎりの犯罪者集団だったレーンの鷹が不在となり、盗賊達が好き勝手に動き始めているのだとか。また第2のレーンの鷹の座を奪うために積極的に活動している集団もいるらしい。盗人ですら自分達のランクとか気にするものなんだなあ。

 しかし、このそこそこ有益な情報をナツメさんから引き出すのに、俺がどれほど苦労したことか。


「これでとりあえずはこれで完璧ね。あくまでとりあえずの完璧だけれど、完璧は完璧よね」

「なんでもいいですが、ちょっと休憩しませんかナツメさん」

「誰が勇者ナツメよ。今から私は魔法使いナツメよ」


 別に勇者なんて言ってないんですが。

 とにかくこの広い森は視界が悪い。邪神の粘着ストーカーを集中して使って、森の状況を把握しておきたい。なんとなくの予感なのだが、今なら集中すればかなりの広範囲を索敵できる気がする。

 それに今はまだ日があるが、じきに暮れる。森の乙女の皆さんまでいるし、夜の森も耐えられるとは思うが。


「いいわ。そろそろ野営の準備も必要だしね。でもカミュ、だめじゃない。夜の森は危険なのよ? ちゃんと早朝から準備して出発、昼過ぎには帰り始めるくらいの予定を立てておかないと。しっかりしてよね相棒」


 お前が止める俺を無視して無理矢理出発したんだろうが。

 大人な俺が黙っていると、ナツメさんがむにゃむにゃと何かを唱え始める。さっき拾った木の枝を高く振りかざしてもいた。


「優しき木々の精霊、ドリアードよ。どうか私の呼びかけに応じて。母なる大地より伸びし、柔らかな腕を一晩貸してちょうだい」


 それっぽい詠唱と共に、ナツメさんの目の前にある大木ががさがさと動きだす。そして急速に木の枝が伸び、複雑に絡み合う。何の魔法かよく分からないが、大木のてっぺんに木の枝でできた大きな球体ができていた。


「さあできたわよ。今晩はここで休みましょう」

「す、すごいですっ。見ましたかご主人さまっ? 精霊魔法ですよ! しかも伝説のドリアードと契約しているんですよ、きっと! 大賢者ナツメお姉ちゃんですね!」

「ふふっ。すごいっしょ」


 ちなみにウォッシュさんの知識によると、この世界に精霊魔法とかドリアードなどというものは存在しない。今、ナツメさんがやったのはエルフではわりとメジャーな簡易休憩所を作る魔法なのだそうだ。もちろんさっきの詠唱も全く必要無い。

 ただ、人間がこの魔法を知っている事は珍しいらしく、ブレインさん達も驚いた顔をしている。すごいのはすごいんだよな、この勇者。いわゆる紙一重の人なのだろう。

 ご丁寧に大木の上からだらんと垂れた蔦でできたらしいはしごにナツメさんが手をかける。


「……やっぱり先にカミュが登ってちょうだい」

「え、なんでですか?」

「私がスカートだからって安易には見せないわよ。想像の余地を残してあげるんだから感謝しなさい。このスケベ」

「ぶっとばすぞ」

「ご、ご主人さま落ち着いてっ。珍しく素がでていますよ!」

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