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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
30/70

嬉しくない再会

<今回の主な登場人物>

主人公    クイーン王国顧問魔術師

リファ    黒剣士

ローブラット 罪人。クイーン王国騎士団団長の娘

ケイン    クイーン王国の宰相

ナツメ    冒険者組合所属クラスタ、ブルーアースのリーダー

ジャクソン  ブルーアース所属の冒険者。国王に斬りかかった

ブレイン   森の乙女の一員

ウォッシュ  森の乙女のリーダー。操られている


森の乙女   エルフの五人組冒険者集団。呪われて姿を失う

 当初の予定どおり、クイーン王国と冒険者組合の会談はぶち壊れた。

 しかも想定していたケースの中では最も有利な形である。冒険者組合がどんな切り札を用意していたのかは分からないが、非公式の場とはいえ組合員が王に向かって抜剣したのだ。王国が冒険者組合に協賛することは夢のまた夢だろう。

 ケイン宰相と王様を斬ろうとした冒険者は傷の治療を受けた後、牢屋へと入れられた。治療したところで処刑は免れないと思うのだが。

 その他の者はお咎め無しという裁定だった。いや、ケイン宰相は過ぎた失言を咎められ謹慎を命じられたが。これは元からの予定どおりだからいいだろう。


「まさか儂ではなく、王を狙うとは……冒険者組合でどのような反クイーン王国教育を施しておるのやら。しっかりと聴取せねばなるまいて」


 形だけの謹慎を命じられたケイン宰相はそう言ってニヤニヤと笑っていた。牢にぶち込まれた冒険者はいつまで生きて、いや正常な精神でいられるのだろうか。

 さらにケイン宰相は、無事に王を守った俺とリファに心からの礼を言っていた。特にリファへの称賛はすさまじく、お菓子やらお小遣いやらを大奮発していた。なんでもケイン宰相のお孫さんに似ているんだとか。

 だからってああいう外交上、重要な場にリファなんて呼ぶかね普通。まさかペドフィリアじゃないだろうな、このおっさん。


「たぶん私生活では優しいおじいちゃんなんですよ。だってご主人さまみたいに性的な目で私を見ませんもん」


 思わずこぼした俺の言葉を、リファは一刀両断に斬り捨てた。

 別にいいけどね。ノータッチを貫く紳士だからこそ、世間から迫害を受けるという事もある。


「それよりも本当に会いに行くんですか? やだなー、牢屋なんて行きたくないなー。どうせなら屋台の出ている広場でデートしたいなー」

「仕方ないだろ。そういう約束なんだから」


 俺だってどうせならリファとデートしたい。いつだっていちゃいちゃしていたい。ハーレム作りたい。リファハーレムを。家に帰った途端12人のリファからご主人たま~とかご主人くんとか言われたい。実はご主人さまとリファは血のつながらない主従なんです。まじか結婚しよう。はい喜んで。

 そんな煩悩に惑わされながら俺達は王城の地下牢に来ていた。すでに会談から3日後のことである。


「ぶ~。それにこんな奥深くの牢屋に入れる必要あります? あんなもん庭に木の杭でも打って、鎖で繋いでおけばいいのにっ」

「いや、それはさすがに……お、いた」


 俺の視線の先には例の男の冒険者がいた。名前はたしかジャクソンだったか。勇者ナツメさんの下で神速の剣士として戦う凄腕冒険者なのだそうだ。

 傷の治りが悪いらしく、牢屋の中にベッドが入れられて寝かしつけられている。治りが悪いといっても両手両足がくっついているんだからすごいよな。なんだよ回復魔法って。チートじゃん。


「ぐ……お前らは……」


 あ、俺達に気づいてる。もしかしたらケイン宰相によって廃人にされていると思っていたけど、意識ははっきりしているらしい。せっかくだからお見舞いがてら話し相手になってやるか。


「ククク……愚かですねぇ。勇者の使徒ジャクソンよ。貴方の神速如きでは我が闇の奥義に敵う事あたわず。その報いがその無様な姿なのです」

「ちくしょう……油断したから……だ。本気を出していればお前なんて……」


 いや本気はだしていたでしょ。王に夢中で俺への警戒がおざなりになっていただけで。

 テイルさんといいジャクソンさんといい、なんだかバランスの悪い冒険者が多いなあ。常に優位に立ってきたエリートっぽい脆さがある。

 ヴェルヌさんが冒険者組合を毛嫌いしていたのはこのあたりにあるのかもしれない。


「言っておくがな……俺達とナツメは別格だ……」


 ここでまさかの情報公開が始まった。体調が悪いにも関わらず、途切れ途切れにジャクソンさんは語る。

 勇者ナツメ。出身地不明で突如、冒険者組合に加入した女。剣と魔法に長け、一般魔法も神聖魔法も使いこなせるらしい。それどころか誰も知らないような新種の魔法まで使えるんだとか。

 しかしナツメさんの強さはそれだけではない。彼女は人の才能を見抜く才能があるらしい。このジャクソンさんもナツメさんに見出された人間の一人で、元は農家の三男坊だそうだ。

 もちろんその才能とやらは味方を育成するだけではない。敵対する相手、人であろうと魔物であろうと関係なく分析し、対応できるのだとか。


「ナツメの前で……技をだしたのが……運の尽きさ……お前らは……終わりだ」


 なんて親切な人なんだろう。ケイン宰相が牢屋にベッドまで運んで治療を許した理由はこれか。こういう人間が敵の仲間にいてくれれば心強い。

 恐らくだがジャクソンさんは処刑されないな。少なくとも俺だったら生かして勇者ナツメさんの元へ帰す。


「フフフ、果たして勇者ナツメ如きがこの暗黒の魔術師である我輩に勝てるかな……?」

「ぐぐ……ここに来たのも……俺から……ナツメの情報を……得るためだろう……ざ――」

「残念だったなぁ、だが拷問したってしゃべらないぜー、仲間を売るまねはしねえ俺かっけー、とか言いたいんですか? 長いですよっ。喋るならちゃきちゃき喋ってください! もういいでしょ、ご主人さま? こんな奴ほっておいて早く用事済ませて帰りましょうよ!」


 言わせてあげなよ。

 俺だってこうして合わせてあげてるんだしさあ。

 いくらリファを突き飛ばした生きる価値の無い大罪人が相手でも、そういう思いやりって大事だと思う。


「う、うむ。じゃあジャクソンさん、お大事に。ちょっと俺達は用事があるんで」

「な、ぜ……? 俺に用事じゃ……」


 俺達が会いに来たのはジャクソンさんの隣の牢にいる人である。


「おるぁー! 起きろやー! ご主人さまがお見えですよっ」

「ぎゃあああああ! 冷たい!?」


 リファがわざわざ王城のメイドさんに借りてきたバケツの水を牢屋の罪人にぶっかける。


「やあ。お元気そうですね、ローブラットさん」

「き、貴様は魔術師! 生きていたか!」

「ええ。おかげさまで。それよりもどうしたんですかその口調? きちんと語尾ににゃあをつけないとダメじゃないですか」

「だまれ! よくも私を騙したな! 語尾にあんな気持ち悪い語尾を付けなくても、首輪は締まらないではないかっ」

「そんな変態ちっくな条件を付けるわけないでしょう? あれは契約条件ではなくて個人的なお願いですよ。それに語尾に何かをつけないだけで死ぬなんて危ないじゃないですか」

「コロス」


 ついに気づいてしまったかローブラットさん。

 猫っぽい話し方を素人にしてもらうのも新鮮でなかなか良かったが。

 だが本職のきちんとしたにゃあ喋りには劣るよな。やはりこんな世界に来たからには本格的な猫キャラと会ってみたいものだ。


「そんなことよりご主人さまが新たな命令を与えにこんな薄汚い牢屋までやって来てくださったんですっ。平伏しなさい!」

「黙れ小娘! 奴隷風情がえらえらえらグガガガガガ!?」


 リファに反抗的な態度をとってしまい罪人の首輪に締め付けられるローブラットさん。

 すごいすごい。罪人に装着させる首輪が機能するところを初めて見たが、なんだかかっこいいな。いかにも危険という感じで首輪が怪しく光っている。


「リファの事はちゃんとリファ先輩と呼んで、素直に服従しないとペナルティを受けますよ。もう契約内容を忘れてしまったんですか?」

「ごほっ! ぐぐぐぐ、きっつー。苦しいだけでなく頭が焼けつくようだ……」


 そんなにきついのか。リファに関する契約は割と優先順位が低いはずなのにな。

 まあこれくらいしないと罪人を牢屋の外に出歩かせることはできないか。


「ふんっ。奴隷風情とはよく言いましたね! あなたなんて今や罪人じゃないですか!」

「ぐっ、す、すいませんでしたリファ先輩」


 きゅーかつを温めるほのぼのしたシーンもリファにはよく似合うなあ。

 しかしこのローブラットさんをどうするか。俺の護衛にはまず向かない。頭は良いと思うが、その使い道がろくでもない。だいたいそのどちらもリファと森の乙女の皆さんで間に合っているんだよな。


「とりあえずここでゆっくりしていてください。いつか必ず迎えに来ますから」

「おい魔術師。ここでゆっくりと言うが、ここ牢屋だぞ? いや歯向かうわけではないが」


 罪人の首輪にびびりながらも意見するローブラットさん。

 確かに牢屋なんだけどな。でもローブラットさんの入れられている牢屋が牢屋には見えない。

 怪我をしている訳でもないのに、ジャクソンさんよりもふかふかであったかそうなベッド。ご丁寧にサイドチェスト兼デスクのようなものまで置かれている。その上には食べ終わった後らしき食器類がのせられている。水差しには綺麗な水まで入っているし、読みかけの本数冊置いてある。


「とにかくジャクソンさんが出所されるまで彼の監視でもしておいてください。ああ、ジャクソンさんというのは隣の牢屋にいる人のことですよ。終わったらまた俺達に合流しに来てください」

「おいおい冗談だろう? そんな事は牢屋番にでも任せておけばいいだろう! さっさとここから出せ! ここの牢屋番と来たらなかなかサービスは良いが、父上のきつい言いつけのせいで自由に出歩くことを許してくれんのだ!」


 こういうコネとか家柄を平気で使い倒せる奴は怖い。


「おい! ご主人さまの勅命を無視する気ですか?」

「ぴぃ!? すいません! 承りました!」


 そして強き者には従順。これは長生きするな。


「さてと。それじゃあ嫌な用事も済んだことだし、久しぶりに街で食事でもするか?」

「嫌な用事って。おい!」

「その後は宿のベッドで……なんですよねっ」


 こんな子供相手に、何をするんだよ。膝枕か? いいなそれ。


「さいってー」

「ん? おい魔術師。今の知らない声がしなかったか?」


 ブレインさん達の好感度は全然上がらないな。さすがツンデレ集団。

 俺にはウォッシュさんの目を通じて森の乙女が見えるが、リファにもローブラットさんにもしっかり見えてないんだな。冒険者組合の会談でも王にも勇者様にも見つからなかったみたいだし。

 透明化できるエルフ、か。いや透明化しっぱなしのエルフか。なかなか強力なお仲間になったな。呪いなんて邪神は言うけれど、これじゃあメリットしかないんじゃないか。


「こちらにおいででしたか王国顧問魔術師様」


 突如、背後から聞き覚えのする声が聞こえた。


「うげ、鬼……じゃなくてあなたは……!」

「王国顧問魔術師様、そろそろお仕事の時間でございます。さあ参りましょう」

「王国顧問って。いやそれは仮の肩書きであって、別に俺は」

「ケイン宰相から伝言でございます。王国顧問魔術師は元々あって空席だった役職であり、無理に任命した者を、再び無理に即解任という事は難しい。大変に申し訳ないが時期を見て速やかに解任するので、それまでは顧問魔術師として少々働いていただきたい。もちろん優秀なサポート要員を付ける。あとリファ様によろしく。以上です」


 あのロリコン爺。元々、俺に働かせるつもりだったな。

 断るか。いや断ってもいいだろうがケイン宰相とはある程度は友好的な関係を作っておきたい。

 それに俺はこの補佐役とやらが苦手で、どうにも断り辛い。


「わかりました。でもサポート要員は別の人に変更してもらえませんか?」

「なぜですか王国顧問魔術師様。私に何か至らないところでも?」

「いえ、あなたの顔とか身体は好きなんです。でも性格とか人格とかがどうも嫌いでして」

「舐めたこと言ってるとブチ転がすぞ詐欺魔術師。さっさと行きましょう。さ、リファさまも」

「……あっ、思い出しました! お嬢様のところでお世話になった女執事さんですねっ。やっほー元気ですかー?」


 王国からの仕事はすっかり終わったと思っていたんだが。

 なんだか雲行きが怪しくなってきたな。

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