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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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ダルマ会談

<今回の登場人物>

主人公    クイーン王国客員魔術師

リファ    黒剣士

ヴェルヌ   クイーン王国騎士団団長

国王     顔が怖い

ケイン    クイーン王国の宰相

コリン    冒険者組合の若き女代表

ナツメ    冒険者組合所属クラスタ、ブルーアースのリーダー

ブレイン   森の乙女の一員

ウォッシュ  森の乙女のリーダー。操られている


森の乙女   エルフの五人組冒険者集団。呪われて姿を失う

 豪華絢爛とは言えないが貧相でもない。クイーン王国の玉座の間はまさに質実剛健という印象を受ける。


「お初にお目にかかります。冒険者組合の代表を務めさせていただいておりますコリンと申します」

「冒険者組合所属クラスタ、ブルーアースのナツメと申します」


 恭しくお辞儀をしてみせる2人の女性とその手下らしき人達。女が多いなホント。勇者も代表も女かよ。後ろにいる手下の人たちには男もいるけど。どうなってるのこの世界。女性優位なのだろうか。

 それはともかくとして冒険者組合とクイーン王国との会談が始まった。だがこの謁見も王の希望により簡易的なもので、本来の正式な謁見であればもっと人数を増やしたうえで、格式ばったお作法があるんだとか。非公式の会談というやつだな。

 面倒なものはこの世界も変わらないんだな。俺には向かない世界だ。そしてリファには不可能な世界だ。


「大義じゃ」


 あからさまに面倒くさそうな声を出す王。明らかに乗り気ではない。クイーン王国側は王様とヴェルヌさん、そして宰相と呼ばれる大臣ポジションの人しか参加していない事からもヤル気の無さがよく分かる。


「クイーン王国騎士団をまとめておりますヴェルヌです。新任して間もないのに冒険者組合の代表にお越しいただけましたことに、王もお喜びであらせられます」

「クイーン王国顧問魔術師カミュです」


 さらっと偽名と偽の肩書きを名乗る俺。まあ肩書きに関しては嘘でもないか。この会見に俺を出席させる為に王様サイドが用意してくれた役職なのだから。


「失礼ながら、貴国に顧問魔術師がおられるとは聞いておりません。その風貌から察するに最近、有名になられた客員魔術師の間違いではありませんか? そちらの可愛らしい剣士さまもお噂をきいております」


 ばれてーら。客員魔術師という事まで調べているか。

 冒険者組合の代表をやっているくらいなんだからそれくらいの情報収集は当然か。


「貴様ァ! この無礼者がぁ!」


 ドゴン、という音と共に謁見の間の床に大穴が開く。

 俺達と共に王の側に立っている巨漢が、手に持っているドでかいハンマーを叩きつけたからだ。非公式とは言え、なんでお偉いさんの会談で武器の持ち込みが許されているのかという話だよな。もちろん冒険者組合側も武器を装備したままこの会談に臨んでいる。


「我が王が嘘を吐くと言うか、冒険者風情がぁ!」


 勇者ナツメさんは平然としているが、そのお供や冒険者組合の代表はめちゃくちゃびびっている。こんな恫喝外交していて大丈夫なのか。


「ケイン、控えよ」

「しかし王っ!」

「よい。代表殿。発言の自由を許すが、あまり我が忠実な部下を刺激せぬよう」


 このゴリラみたいなハンマー男はケイン宰相――そう、つまり文官なのだ。

 内政にも優れているが、最も得意とするのが外交なのだとか。

 レッサーデーモンを少し縮めたような体躯から、脳みそ筋肉キャラに見えるがなかなかどうして頭はキれる。俺がこの謁見に参加するにあたって、顧問魔術師に押し上げたり、細かいシナリオまで作成したのもケインさんなのだ。

 たぶんちょっとでも違う出会い方をしていたら、厄介な敵キャラとして俺に立ちはだかっていただろうな。


「失礼いたしました。カミュ様もどうかお許しください」

「いえ、俺は気にしていませんから」

「次からは気をつけろよっ。ご主人さまの寛大なおここあいた!?」


 俺は黙ってリファの頭をはたいた。


「代表殿がお連れしているそちらの凛々しき戦士がかの有名なナツメさまとブルーアースのご一行ですな。いやはやこのヴェルヌ感心いたしました。我が国には多くの冒険者がやってきますが、これほど礼儀正しい冒険者集団は初めてですぞ」

「ありがとうございます」


 空々しいお世辞を述べ立てるヴェルヌさん。さすがというかなんというか、こういう儀礼的な台詞を言い慣れている感じだ。目の奥は笑っていないがスマイルを浮かべて勇者ナツメさんに話しかけている。

 そしてヴェルヌさんの言葉に無表情で礼を述べる勇者ナツメさん。どうせならもうちょっと色々と話してほしいものだ。どういう人物か分かっていたほうが対策も立てやすい。

 一方でコリン代表は誉められて当然という風にヴェルヌさんの言葉に答える。


「こちらこそ我が冒険者組合が誇る上級クラスタ、ブルーアースのメンバーです。もちろん上級クラスタともなれば大人数です。こちらに派遣されておりました聖焔騎士団並みの人員がおります。ですので本日、王様にお目通りさせていただきましたのはナツメが直卒するメインメンバーです。いかに悪名高いクイーンの迷宮であっても踏破は間違いな――」

「おやおやぁ? 妙ですぞ王。あの後ろに控える者どもはブルーアースのナツメが選んだ精鋭との事。しかし人数は3人。噂では勇者ナツメは4人の仲間を引き連れていると聞いておりましたが」


 冒険者組合代表の言葉をさえぎって、嫌らしい笑みを浮かべるケインさん。当然だが王国側も冒険者組合の事はきっちり調べている。この非公式の会談の前のミーティングではケイン宰相が嬉々として、冒険者組合の裏事情まで語り尽くし、王様に怒られていた。

 というわけでこちらの勇者様は5人パーティで様々なダンジョンを攻略してきたのだとか。ある意味、伝統と信頼の5人パーティなのだが、なんでそんな中途半端というかクリアするのに適度な時間がかかるような人数で行動するのだろう。


「貴様らは我が王を見くびっておるのではないかァ? 王に貴様らの最精鋭をご覧にいれると言っておったではないか。ああん?」

「そ、それは……」

「代表。それはクラスタの長である私が説明いたします」


 凛とした声で勇者ナツメさんが答える。この声、どこかで聞いたことがあるような。


「確かに本来はもう1人の仲間がいます。実は私の仲間である友でもある1人は行方不明なのです。依頼の途中で連絡が途絶えてしまいました」


 そうだ。あれだ。あの人だ。

 攻略対象ではない、未亡人の。きのこバター炒めマイタケ……なんだっけか。まずいな。ド忘れした。まじで名前が思い出せない。


「ナツメ! そんな正直に言う人がありますか!」

「ほうほうほう、行方不明! これはこれは! はっ」


 水を得た魚のように薄笑いを浮かべるケイン宰相。俺が思い出せそうで思い出せなくてもやもや苦しんでいるのに1だけ嬉しそうにしやがって。

 ちなみにもう1人の仲間とは、迷宮で返り討ちにした斥候部隊の隊長さんのことだ。ケイン宰相自らが遺品を確認し、俺から人相を確認していたからたぶん間違いない。


「ケイン。控えよ、と言っておる」

「お聞きになられましたか王? 勇者だ最強クラスタだと喧伝していましたが、その最精鋭が行方不明! しかも果たさねばならぬ依頼の途中にと言うではありませんか! 代表殿は礼儀作法を教え込む前に戦い方を仕込むべきではないか? ああん? 我が王は待てのできる愛玩動物など欲しておらぬ! 迷宮に立ち向かえる戦士を欲しておるのだ! どうせそこな勇者とやらの色香に惑わされた雑兵だ。薬草でも採取している途中、熊にでも食われたのだろうよ。おい、ブルーアスホールだったか? とっとと失せろ。貴様らのようなケツの穴が青い連中がいては、クイーン王国の名が汚れるわ!」

「ケイン宰相! 王の御前ですぞ!? それ以上の悪口雑言はこのヴェルヌは許しませぬ!」


 ディスりラッパーかな?

 事前の打ち合わせによると、ケイン宰相がありえないやっかみを仕掛けまくるという話だったが、それは本当にこの王国をおもっての事なのだろうか。明らかに趣味に見えるんだけど。


「ナツメ。ごめん」


 わなわなと震えながら1人の冒険者の男が立ち上がった。長剣をすらりと抜き放つと、たった1回の踏み込みでケイン宰相の間合いに入り込む。

 かかった! ケイン宰相の思い通りに!

 でもやばい超速いぞコイツ。間に合うかな。間に合わなかったらごめんねケイン宰相。


 苦しめ。


「うぐ!? し、しかしこの程度!」

「控えおろうっ。ご主人さまの御前ぞ!」


 あまり呪いの効きが良くなかったが、動きは鈍った。そのおかげでリファが冒険者の凶刃を黒い紙の大剣で受け止めることができた。

 セリフは間違えているがな。正しくは王の御前ぞ、だ。

 正直、必要無いと思うのだが、リファのような王国側の冒険者が活躍する絵も欲しいのだそうだ。だからこそすさまじくこういう場に置いてはならないリファも参加しているのだが。


「ひぃ!? な、なんと野蛮な! 見ましたか!? これが冒険者組合の――」

「黙れ! テイルを侮辱した事を俺が後悔させてやる!」


 激昂している冒険者はそう宣言するとリファを思いっきり突き飛ばす。よし、こいつには手加減抜きで対処しよう。

 それにしても、うまい具合に事が進んでいる。ケイン宰相は色々なケースに備えてシナリオ分岐を用意してくれたが、挑発に引っかかっても、ここで剣を収めてしまえば面白くない。

 ちなみにテイルさんというのは斥候部隊の隊長の名前ね。このブチ切れ冒険者と仲が良かったとか。

 そしてこのブチ切れ冒険者の名前はジャクソンさん。正義感が強く真面目で直情的。剣の腕は確かだが、冷静さにはやや欠ける傾向にあり、これまでも高官クラスの人間とトラブルを起こしたことがあるという。恐らくは権力者の理不尽に対しても敢然と立ち向かうタイプなのだろう。

 哀れにもケイン宰相に狙い撃ちされた男であり、この会談で武器の持ち込みを制限しなかったのは主にこの男のためである。


「リファ殿!? ええい、なんと無礼な!」


 突き飛ばされたリファを見て、ヴェルヌさんが腰の剣に手を伸ばす。一応、ブルーアースの構成員を斬る機会があれば、ヴェルヌさんがやる予定だったが。


「テイルを倒したのはお前たちだろう! 悪魔に魂を売った邪悪な王め!」


 そう言ってジャクソンさんは、今度は王様に向かって飛びかかった。

 ここでまさかの王様狙いである。ケイン宰相をかばうように立ったヴェルヌさんは、そのせいでやや動きが固まる。

 そしてやはりこの冒険者は速い。動きを速くする魔法でもあるのだろうか。

 王はここに来ても冷静な表情だが、ケイン宰相の表情は凍りついている。こういう突発的なトラブルには弱いらしい。

 仕方ない。やってもらうしかないか。


「全員抜刀。首無し達磨」


 俺の操作を受けたウォッシュさんは静かに号令をかける。ずっと誰に気付かれることもなく周囲に待機していた透明首狩り族の出番である。

 即座に反応した森の乙女達は、冒険者の両手両足が斬り飛ばしていく。

 さすがに気配を全く感じさせないブレインさん達の攻撃には、この冒険者も反応できなかったようだ。

 勝った! ブルーアース編、完!


「仲間の無礼をお詫びします」


 ごとり、と。

 四肢だけを失った冒険者が床に転がる。仲間の冒険者である1人が慌てて駆け寄り、なにか光る魔法をかけている。おそらく助かるのだろう。首は落ちなかったのだから。

 ウォッシュさんのとどめの一撃を、勇者ナツメさんが剣で受け止めたのだった。

 おかしいだろ。森の乙女もジャクソンさんもすごいスピードで詰め寄っていたんだぞ。どんな超スピードを出せばその間に入り込む事ができるんだ。時でも止めているのか。


「私の仲間であるテイルはクイーンの迷宮で消息を絶ったのです。恐らくは何者かに殺されて。できれば私はその仇を討ちたい。そしてクイーンの迷宮にある何か得体の知れないものの正体を突き止めたい。それだけなのです」


 ナツメさんからすれば冒険者組合の利益もなにも関係ない、と言いたいのだろうか。


「ば、馬鹿な事を! 貴様の手下は王に襲い掛かったのだぞ! よもや貴様ら、このまま城を出られると思うまいな!? ええい、衛兵! 早くこの者どもをー―」

「我が国は冒険者組合に協賛はせぬ。しかしいかなる者の探索も拒まん。事実、冒険者組合に所属する冒険者もすでに迷宮に立ち入っておる」

「ありがとうございます、王様」


 激昂するケイン宰相を抑えるように言葉を放つ王様。そして折り目正しく頭を下げる勇者ナツメさん。

 うーむ。この王様も厳しいんだか甘いんだか。

 まあ勇者も代表も各国では評価の高いVIPという奴だ。ここでとっ捕まえる訳にもいかないし、落としどころとしてはこんなものなのだろうか。

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