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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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<今回の登場人物>

主人公    クイーン王国客員魔術師

リファ    黒剣士

ヴェルヌ   クイーン王国騎士団団長

国王     顔が怖い

ローブラット 逃げた罪人

ブレイン   森の乙女の一員

ウォッシュ  森の乙女のリーダー。操られている


森の乙女   エルフの五人組冒険者集団。呪われて姿を失う

 ブルーアースの斥候部隊を返り討ちにしてから一週間が経った。

 まさか平気で一週間も迷宮内で生活できるなんて思っていなかったが。いくら水と食料と安全な寝床があっても暗い洞窟で暮らすのはきついよな。


「斬ったり魔法を撃つ度に元気になっていくなんてありえないわ。魔術師くんは私たちに何をしたの? そしてこの透明化って解除できないの?」

「そ、それは秘中の秘というやつなんで。いわゆるサムライ道と忍者マスターな奥義の結晶的なあれというか。いざとなったら教会だか神殿で装備の呪いを解いてもらえば治ると思いますよ」

「ふぇ? 神殿ってそんなサービスやっているんですか、ご主人さま?」


 リファが可愛らしく首をかしげてみせた。


「呪いを解くって……そんな非魔法的な。神殿がそんなうさんくさい仕事しているわけがないじゃない」


 ブレインさんが心底バカにする目つきで言い捨てる。

 あわててウォッシュさんから一般的な知識を漁ってみるが、確かにどこの神の神殿でも解呪みたいなことはしていないらしい。というか呪いなんてものはおとぎ話でしか存在しないらしい。

 魔法はあっても、呪いもゾンビもないのか。最近のファンタジー世界は世知辛いねえ。


「さっきの動く死体もそうだけど、魔術師くんって本当にすごいのね。すごいというかおぞましいというか。どんな人体実験を繰り返せばこういう悪魔の魔法みたいなものを開発できるの?」

「ふふ……聞かないほうがいいですよブレインお姉さん。ご主人さまの身の毛もよだつ闇の儀式を一端でも聞いてしまえば森の乙女のお姉さんたちですら夜にお手洗いにいけなくなっちゃうもん! ね、ご主人さま?」


 なんでこの子は空気を吸うように嘘をつけるのか。そしてその嘘はいつも俺を崇拝しているようで貶めているものばかりなのか。

 訂正するのも面倒だ。俺は悪乗りしてリファと森の乙女達にニヤリと邪悪に微笑んでみせた。

 その甲斐あって余計な詮索は終わったが、透明エルフ達が怯えたようにざわざわと騒ぎ出してしまう。


「なによ。落ち着きなさいよね。もはや私達はサムライニンジャなんだからぁ。もう恐れるものは何もないんだからね」


 操っているウォッシュさんに適当な事を言わせて黙らせる。

 せっかくの透明エルフたちだが、音だけは隠せない。下手に騒がれて、迷宮入り口の兵士達に存在がばれてしまっては面白くない。


「おお! 黒衣の魔術師殿! ご無事でしたか!」


 そう、俺たちは久しぶりに迷宮の外に出てきていた。

 あれから待てど暮らせど冒険者はやってこなかったのだ。ブルーアースの新たな刺客も来なければ、聖焔騎士団もレーンの鷹も全く来ない。たまに見回りに来るというクイーン王国の兵士ですら降りてこない。

 このままでは埒が明かないということで一度、地上まで戻ろうという話になったのだった。


「久しぶりですヴェルヌさん」

「見張りご苦労! 大義であるっ。ふみゅん!?」


 何故か急に調子こいた事を言うリファにデコピンを食らわせ黙らせる。

 しかしヴェルヌさんは気にする様子もなく嬉しそうに俺たちに近づいてきた。どうやら友好的な態度は崩れていないな。ここでいきなり捕縛されることはなさそうだ。


「聖魔四大決戦に巻き込まれたと聞いておりましたが……やはり客員魔術師殿は生き残っておられましたか! いや、このヴェルヌ、不思議と心配はしておりませんでしたぞ!」


 わっはっは、と大笑いしながらリファの頭をぐしゃぐしゃと撫で、俺の肩をバシバシと叩く。

 なんだよ聖魔四大決戦って。


「さて、それよりも早速ですがお二人には城へ来ていただけますかな? 王が首を長くしてお待ちですので」



◆   ◆   ◆



 聖魔大決戦。

 黒衣の魔術師と親交を深めたレッドフォレスト家の令嬢は決意した。人々を守るために戦う冒険者を邪魔する盗賊達は許しておけぬ。

 クイーンの迷宮地下1階に巣食う悪しき人間達を殲滅せんと、魔術師とその従者達を引き連れ迷宮の闇へと足を踏み入れる。

 レッドフォレスト家に伝わる圧倒的な火の神聖魔法と魔術師の従者である黒騎士ローブラットは、盗賊をほぼ壊滅状態にまで追い込んだという。

 そこに現れたのが悪名高いレーンの鷹である。世にもおぞましい薬品と魔法を併用し、盗賊の死体を操って逆襲にかかったのだった。

 正義は破れ、悪が栄えるか。

 黒騎士ローブラットは令嬢と黒衣の魔術師を必死に守りながら死を覚悟したその時である。邪悪な気配を察して救援に駆けつけたのが聖焔騎士団とその団長スピリッツであった。

 おぞましき動く死体とレーンの鷹の狂戦士達に突撃を敢行し、ここに聖なる者たちと魔を司る者たちが雌雄を決する為にぶつかりあったのである。

 結果、団長スピリッツと令嬢は意識不明の重体で、副団長に連れられ退却。黒衣の魔術師は黒騎士ローブラットに全てを託すと言い残し、撤退戦の殿を務めるために残ったという。

 以上が無事に帰還を果たした黒騎士様ローブラットの話なんだそうだ。


「残念ながらスピリッツ殿は傷の治りが思わしくないとの事。聖焔騎士団の主戦力もほぼ全滅という事で、本国に緊急帰国いたしました」


 レーンさんなかなかやるなあ。ゾンビの支援があったとはいえ、スピリッツさん達を打ち破るなんて。


「ななななななんですかっ、その脚色塗れの与太話は! なんであの雑魚騎士崩れが活躍している事になっているんですか! この黒剣士リファちゃんの活躍はどうなっているんですか!?」

「やはり嘘が混じっておりましたか。いつの間にやら街に戻って酒場で自慢げに事件のあらましを語る者がいると通報を受けましてな。しかも物語を語ってあげた代金として食事代を払わないとごねていたので捕縛してみると、案の定、私の娘――いえ、魔術師殿が管理されている罪人でして……」


 ローブラットさんが大々的に壮大なストーリーを広めまくり、さらに噂が尾ひれを付きまくってしまったらしい。聖魔大決戦としておよそさっきのような話で人々に伝わってしまっているようだ。

 すごいよなあの人。自分を良く見せるためには危険も顧みないというか。

 これで俺が本当に迷宮で命を落としていれば万々歳、もしくは生きていてもまだなんとかなるように話を作ってある。きっとスピリッツさん達がクイーン王国を去ってから話を広めたんだろうし。

 天才的だ。天才的な詐欺師だ。


「あの罪人は牢に入れておりますのでご安心ください。王に会われる前に、罪人と合流いたしますか?」

「い、いや。ローブラットさんもそれなりに頑張ってはいましたし、休ませてあげましょう」

「なんと!? あの娘が少しでも魔術師殿のお役に立つようなことを!? 信じらせませぬ……!」


 驚きと娘の活躍に対する喜びが半々という顔をしているヴェルヌさん。

 お嬢様誘拐事件も何も無かった事にしてくれているみたいだし、ファインプレイだよな。戦闘では真っ先にスピリッツさんに降伏していたけれど。

 たぶんローブラットさんは味方として手元に置くと厄介なタイプなんだろう。自由にさせるか、敵方に身を置いてもらえれば間抜けなミスをして、俺たちに利益を与えてくれる。たぶんそういう存在だ。


「さあ着きましたぞ。――騎士団長ヴェルヌでございます! 客員魔術師殿が生還されましたのでお連れしました!」


 情報をもらっているうちに王の待つ私室に着いてしまった。

 しかし迷宮入り口に詰めていたかと思えば、すぐに王城にまで移動するこのフットワークの軽さ。騎士団長ってけっこうなお偉いさんだと思うんだけど。


「うむ。ご苦労ヴェルヌ。黒衣の魔術師殿と可愛らしい従者殿もよくぞ生還した」


 前に会った時とは違う部屋だが、やはり殺風景な内装だった。もしかすると敢えて同じ部屋を使わないのかもしれない。


「あまり疲れた様子はないが、気が利かぬヴェルヌの事だ。どうせ迷宮より帰ってすぐにここまで引っ張られたのであろう? 必要であれば食事もだすが」


 そう言って王はすさまじい威嚇の表情を浮かべた。


「ぴぃ!? こ、ころされます! ご主人さま、逃げて!」

「り、リファ殿! 失礼ですぞ!? あれでも王の笑顔ですぞ!」


 笑顔だったのか、今の表情。

 笑ってる時の方が怖い人もいるんだな。


「えーと。王様が俺に御用があるそうで」

「とりあえず座るがよい。……客員魔術師殿には申し訳ないがどうしても出席してほしい場があるのだ」


 リファとヴェルヌさんの話はスルーして進めることにした俺。ああいうのにリアクションしてしまうと巻き添えを食うからな。


「聖魔大決戦であったか。なかなか愉快な事をやっているようだな」

「うっ、それは……えーっと」

「よい。我が国は迷宮内の出来事に干渉せぬ。それよりも遂に冒険者組合が動き出したのだ」

「あっ、例の斥候部隊ですよねっ。ブルーアースだなんて言って口ほどにもありませんでしたよ! ねー? ご主人さま♪」

「なんと!? ブルーアースが動きだしたですと!? そのうえ魔術師殿が接触済みとは!」


 誰かリファちゃんにお口にチャックすることを教えてあげてください。


「ほう。すでに遭遇しておるか。始末したのではあるまいな?」

「もちろん始末しましたっ。プロですかもがもがもが!?」


 とりあえず俺は手で直接リファの口をふさいでやった。リファは驚いたように俺から離れようとしているがしっかりと抱きすくめて俺の膝に乗せる。

 もう最初からこうしておけばよかった。余計な事を言わないし、あったかくていいにおいがして一石三鳥、トリプルミーニングですね。


「不幸な事故でして。ブルーアースが問答無用で襲い掛かってきたためやむを得ずです」

「1人も逃がさずにか?」

「え、えぇ。手加減できる相手でもなくですね」


 迷宮内での出来事は罪に問われない。

 しかし冒険者組合の人間であれば別なのだろうか。それかブルーアースだけが特別扱いだったりするのか。


「さすがは魔術師殿! やりましたね王!」

「うむ。大義であった」


 笑顔(?)で喜びあう王様とヴェルヌさん。

 なんでもクイーン王国と冒険者組合はやや敵対関係にあるという。


「冒険者組合はクイーン王国に協賛加盟国に加われと要求しているのです。奴らは王国からクイーンの迷宮の管理権を奪い、独自通貨でもって中間マージンを得ようとしているのです。まったく金汚い連中め!」

「我が国は冒険者組合に所属している者であっても、クイーンの迷宮の探索を許可する。しかし彼奴等は無所属の冒険者に探索を許可しないだろう」

「確かに冒険者組合に所属する冒険者はなかなか質が良いでしょう。しかし飼い馴らされた犬も多いのです。そして冒険者組合が活躍して欲しい冒険者ばかりが功績を得ているのもいただけませんな!」


 なるほどな。

 なんとなく言いたいことは分かる。ブルーアースだか勇者ナツメ様が、その冒険者組合にとって活躍して欲しいスターみたいなものなんだろう。

 そういう脚本を作った宣伝活動は昔からある。


「でもそういう宣伝をしてあげる程度にはナツメさんは実力があるんでしょう? それっていけないことですか?」

「勇者ナツメか。冒険者組合の悪しきところは、勇者のために邪魔な英雄を排除するところよ」


 難しい話だな。

 とにかくヴェルヌさんなんかからすれば絶対に許せない組織なんだろう。普通の人からすれば冒険者組合は安全な生活を守ってくれる有益な組織なんだろうが。

 そしてクイーン王国にとっては権益を奪いにかかってくる最大の障害が冒険者組合というわけだ。


「火の神の神殿より派遣された聖焔騎士団が撤退したのはすでに聞き及んでいるであろう? 冒険者組合は事態を重く受け止め、幹部と優秀な冒険者を我が国に派遣してくれるそうだ」


 うげ。だから俺が呼ばれたのか。


「別に断ってくれてもよいのだ。しかし客員魔術師殿よ。聖焔騎士団を失って今、我が国の有力な冒険者は貴公しかおらぬ。どうか力を貸してもらえぬだろうか?」


 王は再び顔で威嚇してきたのであった。

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