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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
27/70

3対2(プラス5)

<今回の登場人物>

主人公    クイーン王国客員魔術師

リファ    黒剣士

ブレイン   森の乙女の一員

ウォッシュ  森の乙女のリーダー。操られている


森の乙女   冒険者集団の一つ。エルフだけで構成された五人組

 たっぷり6時間ほど休憩した俺達と森の乙女は、クイーンの迷宮地下3階にまで戻ってきていた。

 地下3階は大広間になっている。見通しが良いせいで一斉に襲ってくる魔物を切り抜けるか、全滅させなければならない。

 レーンさんたちと初めて出会ったのもこの階層だ。

 あの時にレーンの鷹が魔物を全滅させていたはずだが、再び魔物の群れであふれていた。

 階段以外にも通路みたいなものがあるのかもしれないな。獣道ならぬ魔物道でもあって、そこから続々と魔物が補充されるのかもしれない。


「この程度の魔物であれば、うおーみんぐあっぷにもなりませんでしたっ。ね、ご主人さま?」


 汗一つかいた様子も無いリファが頼もしい。迫りくる魔物達をバッサバッサとほとんどなぎ倒したにも関わらずだ。

 いや本音を言えば、汗の一つや二つはかいてくれたほうがポイントが高いが。

 とはいえ、あまりにも汗臭いのはよろしくない。適量が好ましいのだ。


「油断したらいけないよリファ。そろそろお客さまが到着したみたいだ」

「ご主人さまが警戒するなんてどんな相手なんですかね? 楽しみですっ」


 粘着ストーカーの力に引っかかる範囲に反応がある。

 相手は3人。邪神が言うには神聖とか正義に属する人間らしい。

 なかなかのスピードで移動しており、すでに目視も可能な距離まで近づいてきていた。


「男2人に女が1人か」

「そんなに強そうには見えませんねっ」


 この冒険者は強敵だ。かなり苦戦するだろう。

 この冒険者は強敵だ。かなり苦戦するだろう。

 この冒険者は俺よりも強い。おそらく殺されるだろう。


 用心の為、3人それぞれの強さを見ておく。

 まあまあ、かな。しかし邪神の力で分かる敵の強さは変動する。

 彼らが本気を隠している可能性も考えたほうがいいだろう。

 ぱっと見では普通の旅慣れた冒険者といった格好だが。


「クイーン王国客員魔術師とその従者だな?」

「いいえ、違います」


 敵の3人組は遂に会話も可能な範囲にまで接近してきた。

 とりあえず意味も無く嘘をついてみる。

 相手のフォーメーションは男1人が少し前に出ており、残りの男女がやや後ろに下がっている。上から見れば綺麗な正三角形に見えるだろう。


「我々は冒険者組合から依頼を受け派遣されたフリーの冒険者だ。依頼と言ってもずいぶんと曖昧な依頼でね。クイーン王国とクイーンの迷宮の様子を見て来いとのことだ。偵察といったところか」


 俺の返答を気にすることなく話を始めるおっさん。

 やっぱりこの世界にも冒険者ギルドっぽいものがあるんだな。何故かは知らないが、このクイーン王国には冒険者ギルドの支部みたいなものが存在しないけれど。


「派遣ですか。大変ですね。冒険者組合から直接の依頼ともなれば断りにくいでしょうに。危険な任務ご苦労さまです」

「いや。我々は喜んでこの依頼を受けたよ。何故ならば我らが所属するクラスタの主が、この依頼には積極的でね」」


 くらすた?

 ああ、なにかそういう外来語があったような無かったような。確か集団とかグループみたいな意味だったか。

 要するに冒険者集団とかクランを、この世界ではクラスタと呼ぶのかな。


「それはそれは素晴らしいクラスタマスター様ですね。よければクラスタ名とマスターのお名前を教えていただけませんか?」

「おっと失礼。我々はナツメ様が率いる、ブルーアースに所属する者だ。主に探索前の斥候部隊として活動している」


 ブルーアースのナツメさん、ね。

 なんだか俺の世界らしい響きの名前だな。これはもしかするともしかするかもしれないな。

 おっさんも後ろに控えている2人もナツメさんの名前が出た瞬間に、心酔するような表情を浮かべていた。

 どうもブルーアースというクラスタはナツメさんのカリスマ性に支えられた集団らしい。


「しかし妙ですね。こんなどうという事の無い――」

「ああ、言い間違えていたが我々の任務は威力偵察でね」


 おっさんがにやりと笑う、後ろに控えている2人が俺たちに向って魔法らしき光線を放つ。

 これが光の神聖魔法なのだろうか。速度はそれなりだが直線的だから俺とリファならば避けるのは容易い。


「な、なんだ!? この力はっ?」

「ひゃああ!? い、いきなり卑怯ですっ」


 おおげさに驚いてみせる俺とリファ。

 奇襲に成功したと勘違いしたおっさん達はニヤニヤと笑っている。


「くっくっく……。悪く思わないでくれ。たかが尻の青い男女ガキの2人組程度でナツメさまのお手をわずらわせる訳にはいかんのだ。何かの古代遺物でも手に入れて未知の力を使っているらしいが……調子に乗りすぎたのだよ、貴様らは。我らブルーアースに目をつけられたのが運の尽き。死ぬがよい」


 本当にこんな情け容赦無いおっさんが子犬を拾って保護する優しさを持っているのかしらん。

 こちらの狙いどおり油断しているからかまわないが。


「わ、わるかった! 降参だ! ブルーアースだかナツメさまに忠誠を誓うからっ。許してくれぇ!」

「くくく……俺はなぁ、そうやって悔い改めたフリをする腐れ野郎どもの首を何度も叩き斬ってやったんだぜ? ま、お前らには光の矢だけで十分だがな。とどめだぁ!」


 さっきの短い光線は光の矢というのか。安易なネーミングセンスだなあ。

 これだけ弱かったら基本技だけでなく奥の手まで出させたほうが良かったかもしれない。


「サムライ手裏剣、2、2、1」


 ウォッシュさんの掛け声と共に5つの風の刃がおっさん達の身体を切り刻む。


「がっ!?」

「ぐほっ」

「きゃあー!」


 リーダー格らしきおっさんと後ろの男に2撃、女には1撃の風の刃が与えられる。

 おっさんともう1人の男が頭を失って息絶えたのを確認した後、身動きをとれない程度に重傷を負った女に近づく。


「どうもはじめまして。あなたがブルーアースの斥候部隊を率いるリーダーさんですよね?」

「な、なぜ……」


 息も絶え絶えの女が驚いた表情を浮かべている。


「一目で分かりましたよ。あなたがおっさんの上司だって。1人だけ瞳が冷静でしたからね。冷静に戦況を見極めていることがバレバレです」


 どうやら本当に隊長格らしい。本当は邪神の力で、この女冒険者だけが一段階強かったから言ってみただけなのだが。いくら瀕死の相手であっても手の内を晒す必要はないよな。


「ぐ、まさか……噂の黒衣の魔術師が闇の一般魔法以外も使いこなせるとはね……」


 良い感じで誤解してくれている。

 もちろん俺は闇の一般魔法以外どころか、闇の一般魔法すら使えない。

 サムライ手裏剣を使ったのは森の乙女達だ。そして敵はウォッシュさん達を全く認識できていない。


「いきなり襲い掛かってくるなんて酷いですね。でも洗いざらいブルーアースの情報を話してくれるなら命は助けてあげますよ?」

「ご主人さまは甘すぎですっ。いきなりあんなしょぼい光を当ててこようとする奴らなんて死罪に値します!」

「ふ……ナツメさま……あなたの警告は正しかった……こんな……悪魔が……」

「えっ、ちょっと? もしもーし? あ、眼を閉じてしまった。かわいそうに。ブレインさん達、誰か回復できるような便利アイテム持っています?」

「悪いけど、こんな重傷を治せるようなものは持ってないわ。それにもうその人間、息してないわよ」


 さすがはオーバーキルに定評のある森の乙女の仕事である。

 あれだけ隊長格は生け捕りにとお願いしたのに、女冒険者は息を引き取った。

 ウォッシュさんの記憶によれば、サムライ手裏剣とやらは雑魚敵殲滅用の技らしいのだが。やはりまだまだ調整が必要みたいだな。


「本当に私と姉さん方の姿が見えないようですね。便利なんだか不便なんだが」

「これこそがご主人さまに従いし者だけが受ける偉大なる恩恵ですよっ」


 休憩所で一晩休んだ結果がこれである。

 どうせ森の乙女たちの刀だかハチガネだかが黒くなって呪われる程度だと思っていたが甘かった。森の乙女達はまさかの透明化を果たしたのだった。

 リファはもちろん俺ですら認識することができず、魔物やさっき死んだ冒険者たちにも姿を見ることができない。呪いをかけたウォッシュさんを通して見た場合だけ認識できるという仕様だ。

 透明ってだけでかなり厄介だが、味方であれば心強い。


「それになんだか魔法がいつもより強くなっているみたいで。魔術師くんのリクエストに応えられなかったみたい」

「ああ、そういうことですか。たぶん魔法だけでなく色々と強化されているはずですよ」


 その代わりに人として大事な何かを失っているだろうけど。


「しかし気になるな。冒険者組合にブルーアース、そしてクラスタのリーダーであるナツメか」

「……もしかして魔術師くんは冒険者組合に所属していないの? っていうか勇者ナツメを知らないの?」


 ブレインさんから声から始まり、森の乙女たちのひそひそ話が広がっていく。

 小さい声だからよく聞こえないが、俺をバカにしているのがはっきりと分かる。見えはしないがきっと呆れ顔で俺を見ているのだろう。


「ご主人さまほど偉大であれば必要ありませんが、普通は冒険者組合に所属しているものなんです」

「それはあれかい? あのブレスレットやらペンダントで敵を討伐した回数をカウントして、働きに見合った金がもらえるという。あれも冒険者組合が?」

「いや違うわよ。あれはクイーン王国の独自システム。クイーンの迷宮は冒険者組合が認めていない非公認ダンジョンだからね」


 ここに来て今明かされるこの世界の常識だった。

 普通の国と違い、クイーン王国は冒険者組合に協賛していないのだそうだ。だから王国内には冒険者組合の支部がない。当然、クイーンの迷宮に冒険者組合が人員を割くことはない。


「なるほどね。つまり……どういうことになるんだ?」

「魔術師くんって見かけによらずバカなのね」

「すいませんっ。ご主人さまはこういう事を考えるのが苦手なんです! 一から十まで説明してやっと七まで分かる人なんですっ」


 森の乙女達が説明するには、国内のトラブルをすべて解決するのは自前の騎士団だけでは到底不可能なのだそうだ。可能だったとしてもいわゆる人件費がかかってしょうがないのだとか。

 そこに目をつけたのが冒険者組合の創始者である。一攫千金の夢と希望をエサにして、危険に見合った高額の報酬で有能な若者をこき使うというのだ。

 さらに冒険者組合は組合内で使える独自通貨と銀行的な機能、そして遺族への保証とか保険を一切廃するというシステムを構築し、莫大な利益をあげているのだとか。

 なるほどな。ブラックなんだかホワイトなんだかよく分からないがとにかくすごいみたいだ。


「……うなずいているけど、本当に理解できた?」

「いいんですよ、ご主人さま。とりあえずすごいのが冒険者組合なんですっ」

「リファだけさ、俺の天使は。それでブルーアースを率いるというナツメさんというのは?」

「もう分からない人に説明するのも面倒だから端折るけど、数ある組合員の中で最強と呼ばれる冒険者よ。ただ強いだけでなく、信義に厚くて仲間想いなんだとか」

「ん? じゃあ、その仲間を倒してしまったブレインさん達はまずいんじゃ?」

「まずいのは魔術師くんじゃない。ブルーアースからすれば、異変続きの迷宮と、巷で噂の黒衣の魔術師を調査する斥候部隊が帰還しないのよ? 当然、あなたが怪しいと思うでしょ。ましてや姿が見えなくなってしまった私たち森の乙女の仕業だとは思わないはず。……それにしてもこの透明化って一生、治らないの?」


 森の乙女の皆さんがツンデレ口調で透明化の苦情を一斉に言い始めたが気にしている場合ではない。

 まずいじゃないか。

 実にまずいじゃないか!

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