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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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森の乙女道

 クイーンの迷宮地下5階。

 スピリッツさん達をはじめとして、何組かの迷宮探索者達が中継地点を築いている階層だ。

 一度、順路を教えてもらっただけなので不安だったが無事にたどりつけて一安心だ。

 道中、何度も後ろから拳士さんが追いかけてこないか振りかえってしまったが。

 レーンさんがうまく足止めしてくれたと信じたい。


「はっ!? ここはクイーンの迷宮地下5階! そして私はご主人様を守護する黒剣士リファ!」


 極めて正確な状況判断力を示しながらリファは自意識を取り戻したようだった。


「あまりにも必死に逃げていたから意識が飛んだかのような状態に陥ってしまったのかもな。迷宮ではありがちだね」

「なるほどーあるあるですー。そうことかもしれませんねっ」


 俺のあからさまで無理のある説明に納得してくれるリファ。

 最近、思うのだがこの子は結構色々と考えているような気がする。

 表向きは単純バカ可愛いけれども。


「そして残念ながらお嬢様はお連れできなかったけど、スピリッツさんはお嬢様を保護しに来ただけだから大丈夫だろう」

「んー。そうですね。何を勘違いしたのか知りませんけど、ご主人様を誘拐犯として捕まえようとしていましたし……仕方ないかも?」


 こうして誰一人欠けることなく危機を脱せたのは幸いだ。

 ローブラットさん?

 誰それ?


 しかしここから先が問題である。

 このまま町に戻ることは論外だ。

 お嬢様を誘拐したという冤罪は、迷宮内ではなくて町中での事だから罪に問われる可能性が高い。

 一応、ヴェルヌさんや国王の後ろ盾があるけれども、聖焔騎士団との関係がよく分からない。

 俺の利用価値と火の神の神殿との関係という二つをはかりにかければ、おそらく捨てられるのは俺じゃないのか。


「ねえねえご主人様っ。せっかくここまで来たんですから迷宮の奥深くまで行ってみませんか?」


 迷宮地下5階よりさらに潜る。

 これも正直、避けたい。

 邪神の目的はクイーンの迷宮の制覇を阻止することだ。

 確かこの迷宮には神の遺物がある可能性があって、光の神々の勢力がどうたらこうたらと言っていた気がする。

 どこまで本当なのか分かったものではないが、迷宮内の冒険者を邪魔したいのは本当だろう。


 その邪神に従いつつ尚且つ俺とリファの保身を考えると、地下5階よりも深く潜る必要は感じられない。

 迷宮の深層は魔物にでも任せて、俺は浅い階層で妨害工作に努めれば事足りるのではないか。

 いや、しかしこのまま地下5階にいても追手がかかる……のか?


「な、なによあんた達っ? 怪しいわねっ」

「私たちを女だからってなめないでよねっ。あんた達なんて怖くないんだからねっ」


 俺の思考を邪魔したのは典型的なツンデレ台詞だった。

 考え込むあまり周囲の気配に気を配るのを忘れていた。

 いちいち集中しないと邪神の粘着ストーカーが発動しないのは問題だな。

 いつかこれで命取りになるかもしれない。


「そっちこそ何者ですか! こちらにおわしますご主人様こそクイーン王国客員まじゅちゅ師にして冒険者達の危機を救った黒衣のまじゅちゅ師様ですよっ。控えおろう!」


 噛みすぎ。

 たぶんリファもぼんやりしていたところに急に声をかけられてびっくりしたのだろう。


「私たちは森の乙女。見ての通りエルフだけで構成されている冒険者グループよ」

「ちょっとブレイン! なんでこんな怪しげな子達に名乗るのよっ」

「そうよっ。黒衣の魔術師なんかよりも私たちの方が格上なんだからね! ちょっと可愛い子連れて、イケてるローブまとっているからって偉そうにしないでよねっ」


 森の乙女か。

 強いか弱いかよりも見た目がやたらと気になる集団だが。


 苦戦は免れないが、勝てないことはないだろう。


 そして唯一まともそうなのがブレインさんか。

 たしか前にリファが教えてくれたエルフの冒険者集団がこの人たちか。

 けっこう、いやかなり会うのを楽しみにしていたのだが……。


「あ、ありがとうございます。その……森の乙女さん達も素敵ですよ。その侍そのものなスタイルっていうか」

「サムライという言葉を知っている人がいるなんてちょっと驚き。さすがは客員魔術師に選ばれるだけあるのね」

「なによっ。そんな見え透いたお世辞言われたって全然うれしくないんだからね!」

「ちょ、話が進まないんでウォッシュ姉さん達は黙っていてもらっていいですか?」


 ブレインさんが一番年下らしい。

 名前どおり森の乙女のブレイン役なのだろうか。


 クイーンの迷宮を探索している冒険者の中でも、わりと優秀なグループとして知られているのが森の乙女らしい。

 ブレインさんを含めて総勢5人、うち4人がツンデレみたいな話し方をする。

 エルフの集団とは聞いていたが、サムライのような鎧と刀を全員が装備している。

 せめて長弓くらいはエルフとして装備していてほしかったが、見た感じ刀一本しか持っていない。

 アメリカ人が想像しているサムライという感じだ。

 全員長い亜麻色の髪をポニーテールにしてまとめ、ハチマキのようなものを額にしめているのはポイントが高いが。

 この出会いは俺たちに吉とでるか。



◆   ◆   ◆



「協力、ね。悪くない話だけど」


 ブレインさんはいかにもエルフっぽい長耳をピコンピコンさせながら答えた。

 悪くない。

 実に悪くない。


「最近の迷宮は様子がおかしいでしょう? ここは一つ協力できる部分は助け合いませんか?」

「黒衣の魔術師に黒剣士と言えばレッサーデーモンを倒せるほどらしいし、願ったり叶ったりだけど……」

「も~、まどろっこしいですねっ。ご主人様がお姉さんたちを導いてくれるって言ってるんですよっ? 御主人様に支配されるという特権をあたえようというのもがもがもが!」


 俺は慌てることなくリファの可愛い唇を手でふさいだ。

 話しながら俺たちは地下6階へと向かう階段の前まで来ていた。


「なによっ。あんた達の助けなんて必要ないんだからぁ!」

「でも私たちについてきたいって言うなら勝手にしなさいよねっ」

「姉さんたち……。はぁ。私としては歓迎しますけど。まあよろしくお願いします?」


 ブレインさん、歯切れ悪すぎないか。

 なにか森の乙女に問題でもあるのか。

 すごく不安になってきた。


「知っての通り、地下6階は進入するごとに形を変えるの」

「どこに何があるかわからないんだからねっ」

「そうよっ。だからこそ地下5階に中継地点を無理やりにでも作ったんだからねっ」

「ふむ……つまり……どういうことになるんだ?


 俺の言葉に、森の乙女だけでなくリファまで醒めた目で見つめてくる。

 なんだよ。

 俺なんてまだクイーン王国に来て一ヶ月も経ってないんだぞ。

 誰も俺を攻めることはできないはずだ。


「ご主人様。つまり魔物もお宝も勝手に補充されるわけです。そこそこの強さを持った冒険者であれば良い稼ぎ場になりますね。地下5階に戻れば休憩も補給もできますし」

「黒剣士の……リファちゃんだったかしら? あなたがブレイン役なのね」

「ふんっ、なによ! 可愛くて賢いからって偉そうにしないでよねっ」


 賢い! 可愛い! リファーチカ!


「ククク、『試した』のさ……」

「は?」

「馬鹿じゃないの?」

「リファちゃん苦労してるのね」

「リファちゃんかわいそう」

「不安になってきたわ」


 おい。

 ツンデレキャラ急に放棄するのやめて。


「すいませんっ。ご主人様はそういうこと考えるのは苦手なんですっ。すいませんすいませんっ。お世話かけます!」


 屈辱。

 だが邪神の使徒である俺にはこの苦痛すら快感に変わる。

 そう――俺は闇に堕ちた呪われし心を持つのだ。


 そんな些細なイベントをこなしながらも俺とリファは初めての地下6階に足を踏み入れていた。

 相変わらず天井は高く道幅も広いが、通路はまっすぐというわけではない。

 30メートルほど先ですぐに左右の分かれ道になっている。


「それはさておき、だ。何かが近づいてきていますよ。さあリファも武器をかまえて」

「えっ……本当ね。足音が聞こえる」

「ほらほらっ。ね? ご主人様ってばすごいんですよ! とっても役に立ちますよねっ。ね?」


 リファのあからさまなフォローに傷つきつつ俺は周囲の気配を探るのに集中した。

 数は3体、大きさは子供程度だろうか。


「この音はたぶん角付きね。全員抜刀」


 森の乙女に指示をくだしたのはブレインさん――ではない。

 ツンデレ要員達の一人、確か名前はウォッシュさんだったか。


「どうしたんですかウォッシュさん。急にツンデレが治ったんですか?」

「つん……? 訳分からないこと言わないで。戦闘前よ?」


 キツイ目をしてピシャリと言ってくるウォッシュさん。

 怒られました。


 そうしているうちに曲がり角から姿を現したのはやはり3匹の魔物だった。

 ウォッシュさんの言葉どおり角の生えた子鬼という感じの姿だ。

 それぞれが棒切れやら刃の欠けた剣やらを装備している。


「私は真ん中、あとはそれぞれ二人ずつ。突撃」

「やー!」

「しゃあっ!」


 俺とリファは手を出すまでもなかった。

 刀の切っ先を敵に向けつつ突進するという、いわば牙突スタイルで突撃する森の乙女たち。

 あっという間に子鬼たちとの距離を詰め、刀を敵の首に突き刺した。


「せいやぁ!」

「ちゃおらっ!」


 さらには刀を引き抜くのではなく、そのまま力ずくで横なぎにつなげてみせると3つの首が迷宮の床にぼとりと転がった。

 何が森の乙女だよ。

 半裸の美少女シルフとか召喚したり、弓で華麗に支援攻撃するんじゃないのかよ。

 そして敵に距離を詰められて服破かれてピンチになるのがお約束じゃねえか。

 ふざけんな。

 これじゃ悪即斬の首狩り族じゃねえか。


「えっと、お疲れ様です」

「ふぅ……。なによっ。疲れてなんかないんだからね!」

「私たちにばっかり戦わせてっ。あんたもちょっとは戦いなさいよね! その……リファちゃんは守ってあげなくもないけど」


 俺の言葉にさっそくツンツン返してくる森の首狩り族達。

 顔を赤らめるな。

 さっき抜刀してた時は完全に血に飢えた白眼だっただろうが。


「とまあ我々、森の乙女の戦い方はこういう感じね」

「すごかったですねご主人様! ずばーどしゃーころころーって感じで終わっちゃいましたねっ」


 ブレインさんが納刀しつつ声をかけてきた。

 ああ、リファはこういうの好きなんだろうな。

 でもこの人達と組んだのは間違いだったかもしれない。


「いくらなんでも全力過ぎませんか? 敵側に後衛みたいなのがいたらとか、後のことを考えた体力配分は考えているんですか?」

「さすがの魔術師さんでも気付きますか。そうなんですよね。それが姉さんがたの弱点で、私の悩みの種なんです」


 明らかなオーバーキルなんだよな。

 しかも防御を一切考慮しない捨て身の突撃だ。

 相手が固い鎧とか皮膚を持っていたらどうするつもりなんだろう。


「はぁ? あんた何いちゃもんつけてるわけ!?」

「冒険者の仕事は戦いの中で死ぬことなんだからねっ」

「そうよ! 勘違いしないでよね! 私達は死を恐れないんだからぁ!」


 聖戦士か。

 いや聖サムライか。


「こんな調子でよく今日まで生き残れましたねブレインさん。このスタイルで有名になるまで生き残れるなら迷宮も制覇できるのかも……?」

「いやいや、とんでもない。私としてはもう迷宮は諦めて帰ろうって姉さんがたには言っているの」

「そうなんですか? ご主人様がこう褒めるということはかなり強いはずですから自信持ってくださいっ」

「うーん。でも私達って元々は30人でクイーンの迷宮に挑み始めたのよ?」


 損耗率8割超えてますね。

 全滅と考えていいよね、それ。

 っていうか玉砕?

 組む相手まちがえたかな。

十五夜だったそうですがいかがお過ごしでしょうか。

今年の夏は昨年に比べますと暑さが厳しくなかったように感じられます。

それはさておき、この邪神~シリーズには足りないものがございます。この内村、一念発起いたしまして、苦手分野にもマイペースながら挑戦していこうと考えました。


◆女尊男卑の性奴プリンス

http://novel18.syosetu.com/n0237ch/


あわせてお楽しみいただければ幸いです。


◆更新通知アカウント

http://twitter.com/n4350bv

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