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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
17/70

油断した初心者

更新通知アカウント・広報担当リファッポイ


http://twitter.com/n4350bv


(フォローありがとうございます。なんとなくお得な更新通知になるようがんばります)

 メイドは奥が深い。

 メイドの歴史を紐解けば、極めてシビアな現実がそこにある。

 人間の底知れない欲望と残酷さすら感じられるだろう。

 それら全てを棚に上げておき、ただ可愛い服を着た忠誠心あふれる女の子というメイド像がある。

 それは男の夢。

 いや一部の男の夢だ。


 俺の故郷では性質の悪い冗談のように様々な属性が盛り込まれたメイドが作り出されてきた。

 あまりにも原型を無視するあまりに新たなメイドを創造したと言っても過言ではない。

 俺はそういうメイドを肯定することも否定することもできない。

 ぶっちゃけよくわからない。


 ただ言えるのは、現実にそういったメイドがいれば痛いであろうということだ。

 いや限られた空間であればむしろありがたい存在なのだ。

 ただ本当に四六時中メイドとして存在し、萌え萌えな口調で話す人間がいると何か気まずい。

 恐らくメイドに扮する本人が一番辛いであろう。


「お、おはようにゃ、ご主人様」


 その世界で一番辛いであろう存在が俺の目の前にいた。

 猫耳でいた。

 実用性があるとは思えない黒基調の妙な服を着ている。

 語尾の「にゃ」があまりにも寒い。

 言わされている感丸出しの殺意に満ちた猫耳メイド、ローブラットさんである。


「こ、これがご主人様がコネ元騎士に与えた罰ですか……! お、おそろしいなんてもんじゃないですよぅ」

「正直、俺もびびった。こんな残酷な刑罰は初めて見た」


 邪神様。

 俺はあなたがあらためて恐ろしいと感じました。

 粗末な罪人の服が記号的なメイドのそれに変わってるし。

 本物の猫耳と尻尾が生えてますよ。

 なんか目の瞳孔も猫っぽくなってますし。

 ローブラットさんはこれからこんな格好で外を出歩かないといけないの?


「ご主人様、なんなんですかこの変な民族衣装みたいな服はっ?」

「メイド、かな。猫耳メイドだ。たぶん」

「こ、コネ元騎士……いえメイドさんっ。私、今ならあなたを許せる気がします!」

「そ、そうだな。辛いこともあるだろうけど一緒にがんばろう、メイドさん」

「……にゃ」


 メイドさんはうなだれながらも小さく頷いた。

 いくらろくでもない人間とはいえ、あまりにも大きなペナルティだった。

 っていうかこれは人間に分類されるのだろうか。

 朝起きたら毒虫になっていた並みの衝撃ではないか。


 それはともかくリファはもう少し感情を抑える訓練が必要だな。

 さっきから顔がにやけっぱなしだ。

 俺だって必死で我慢しているんだから、勘弁してほしい。



◆   ◆   ◆



 俺たちは再び街から少し離れた場所にある森に来ていた。

 新たなメンバーであるメイドさんがどの程度の能力なのかを見極めるためだ。

 前評判によるとほぼ実力皆無という烙印を押されていたが。


「じゃあメイドさん。ちょっと俺に襲い掛かってみてください」

「……いいのかにゃ?」

「訓練みたいなものですからかまいませんよ。できれば寸止めでお願いしたいですが」

「襲うといってもえっちな意味じゃありませんからねっ。そこは勘違いしてはいけませんよメイドさん!」


 あたりまえです。

 リファの言葉に律儀にうなずき、メイドさんは俺に組み付こうとしてきた。

 遅い。

 なにか寝技でも習っているのかもしれないが、こんなに段取りの悪い組み付き方ってあるのだろうか。


「よ、よけるにゃ!」


 無茶言うな。

 いや待て。

 もしかして訓練で攻撃を回避されるのが初めてだったりするのか。

 このコネで生きてきたメイドさんならありうるのか。


「捕まえたにゃ」


 捕まってあげたんだよ。

 なんだかよく分からない固め技を仕掛けてくるメイドさん。

 痛くねえ。

 なんかよく分からない力をかけてきているが、ほぼ無痛である。

 なにより俺の両手両足が完全にフリーダムだ。

 いくらでも反撃できるぞこれ。


「早く降参しないと折れるにゃ?」


 なにが折れるのか。

 俺の心か?

 1秒もかからずメイドさんを振りほどいた俺は、メイドさんの首根っこをつかんで地面に放り投げた。


「ぎゃふん! さ、さすが邪悪な魔術師にゃ。一筋縄ではいかないにゃ」


 よえぇ。

 そしてイライラする。

 何キャラ作ってるんだ真面目にやれと怒鳴りたくなる。


「えっと。メイドさんは剣が得意なんですよね。この枝を剣としてかかってきてください」

「そうにゃ。無手は苦手にゃ」


 苦手なんてレベルじゃねえよ。


「はああああああああにゃ!」


 すごい気合を入れているメイドさん。

 実戦でこんなでかい溜めを見せた日には次の瞬間に死んでると思うが。


「見えたにゃ! その首もらったにゃ!」


 堂々と狙う部位を宣言してくれた。

 フェイントかと思ったが思いっきり首狙いで枝を振ってきている。

 バシっとメイドさんの手を叩き、枝を叩き落とす。


「いたいにゃ!? ひ、卑怯にゃ!」


 間違いなく弱い。

 参考の為、メイドさんに今までどういう訓練を積んできたかを聞いてみた。

 得意気に今まで訓練で負けなしを語ってくれた。

 部下相手であればどんな無理な体勢からでも確実に攻撃を命中させ、そして武器を持つ部下に無手で挑んでも勝利してきたという。

 接待ゴルフならぬ接待訓練というやつか。


 考えてみればメイドさんも可哀想な奴なのかもしれない。

 いつだってコネがなんとかしてくれたんだろう。

 自分の本当の実力を誰も教えてくれなかったのだ。

 いや教えられても真実として受け止めることができなかったのだ。

 いくら父親のヴェルヌさんや幼馴染のスピリッツさんが耳に痛いことを言っても、コネの通じる相手に囲まれていてはなあ。


「ご主人様っ」


 腕を組んで静観していたリファが近づいてきた。


「メイドさんもご主人様のお力によって新たな何かを得ているんですよね?」

「あ、ああ。たぶんな」


 これだけ人間離れした容姿になったんだしな。

 訳のわからんメイド服だって、邪神からの贈り物だろう。

 呪われ具合はおそらくリファをも上回るはずだ。

 だから俺も少し期待したのだが。


 考えてみてほしい。

 リファの元の強さが100だとして、呪いで強化されて200になったとする。

 これで強力な戦士が生まれるのは間違いない。

 しかし元の強さが20のメイドさんが同じだけ強化されたとしても、強さは120だ。


 しかも戦闘力なんて数値化できるようなものではない。

 切れ味の鋭い剣を素人が持っていても、自分の指を切り落とすのが関の山だろう。

 ひたすらに父親の威光を振りかざしてきた人間が、駆け引きなどできるはずもないし。


「リファ。どうもメイドさんには迷宮探――」

「メイドさんっ」

「にゃ?」

「今から私は石をあなたの眉間狙って投げます。避けないとたぶん死にます」

「にゃっ!?」

「私がメイドさんに情け容赦ないのは分かってますよね? いきますよー。てりゃっ」


 サイドスロー、というのだったか。

 手のひらに収まる程度の小石を放つリファ。

 ただし勢いはすさまじい。

 さすがに死ぬというのは言いすぎな気がするが、間違いなく眉間が割れるだろう。


「危にゃあ!」


 今までにない素早い反応で避けるメイドさん。

 飛来してくる小石をしっかりと目で見ている。

 あまりにも大きく避けているが、良い反射神経だ。


「次は剣で叩き潰します。避けないと、メイドさんの剣みたいにボッキリいきますよっ」


 黒い大剣を抜き放って斬りかかるリファ。

 オーバーアクションで太刀筋は分かりやすいが、勢いは実戦のそれだ。


「や、やめ! るにゃ! リファ先輩! ちょにゃ! ご主人様! 助けるにゃ!」


 軽業師のようにぴょんぴょんと動き回るメイドさん。

 目を閉じることなくリファの剣を捕捉して攻撃をかわしている。

 いいんじゃないか。

 これはすごいだろ。


 ちょっと俺も石を拾って投げてみる。


「やめるのだにゃ! これはリンチだにゃ!」


 メイドさんはリファの攻撃をかわしながらも、俺の投石をキャッチして防いだ。

 視界も広いらしい。

 これが代償に得た能力か?


「いいですかメイドさんっ。私がちょっと疲れるまで攻撃を回避してくださいね!」

「待つのだにゃ! 話せば、話せば分かるにゃ!」

「問答無用ですっ」


 嬉々として斬りかかるリファの訓練は夕暮れまで続いた。



◆   ◆   ◆



「いや驚きましたメイドさん。たいした回避力です」

「ふっ、この程度はあたりまえだにゃ。貴様如きにはわからにゃいだろ、あいにゃー!?」


 リファに大剣の腹で尻をしばかれるメイドさん。


「なにをするのだにゃ、リファ先輩!?」

「その力はご主人様によるものですよっ。勘違いするバカには死、あるのみです!」

「じゃ、じゃあやっぱりこの変にゃ耳と尻尾も邪悪な魔術師のせいにゃの、いたいにゃっ」

「ご主人様ですっ。ちゃんと呼んでください!」

「わかったにゃ、リファ先輩……ご主人様」


 リファはしっかりしているなあ。

 ちゃんと先輩として教育しているというか。

 兄弟でもいるのだろうか。

 叱り慣れている感じだ。


「迷宮の地上1階に連れていっても生き残るくらいはできそうかな。リファはどう思う?」

「うーん。たぶん盗賊の不意討ちで……」


 やられるか。

 油断のかたまりみたいな人だもんな。

 さっきも褒められて浮かれてドヤ顔していて尻叩かれていたし。

 一度気を抜くと危険なまでに無防備になるみたいだ。


「もう1日か2日欲しいですっ。最低限の注意力を養わせてやりますよ!」


 やけに嬉しそうに宣言するリファ。

 一方で死ぬほど嫌そうなメイドさん。


「む、むしろ1日か2日お休みがほしいのだにゃ……」


 気持ちは分かる。

 まともに訓練したのは久しぶりだろうからな。

 いや初めてと言ってもいいのかもしれない。


「休みか。確かに休息は必要だな」

「だ、だめですよご主人様! こういうのは最初が肝心なんですから」

「いやメイドさんじゃなくて、リファの」

「私の?」


 人間には1日なにをするでもなくゴロゴロする日が必要だろう。

 張り詰め過ぎた糸はブチ切れるからな。


「うーん。ご主人様と一緒にお休みできるなら、お休みもありですけどー」

「そうは言うがずっと一緒ってのもお互い疲れるだろ、大天使リファエル」

「えへへー」


 可愛いよ可愛いよ可愛いよ。


「と、とりあえず今日は帰らないかにゃ?」

「メイドさんの言うとおりですねっ。とりあえず今日は帰りましょう」

「あ、あとお願いがあるのだにゃ」


 メイドさんがちょっと恥ずかしそうに下を向く。


「お願い? なんですかメイドさん」

「それだにゃ、ご主人様。メイドじゃなくて名前で……2人にはローって呼んで欲しいのだにゃ」

「ローブラットさん……」


 そっか。

 この人にもそういうところがあるんだな。

 騎士団団長の娘ではなく、ローブラットさんとして接した数少ない人間だもんな。

 真剣に訓練に付き合ってもらったのが少し嬉しかったのかもしれない。

 当たり前だが人間誰にだって素直な部分はあるんだよな。

 素直さがごくごく短い時間にしか出てこないという人がいるだけで。


「はは、お断りですよ、メイドさん」

「ですです♪ っていうかローブラットって偉そうな名前が似合いませんよ、メイドさん!」


 だが俺には分かる。

 このメイドさんはすぐに調子付く。

 甘やかすとダメになることはヴェルヌさんやスピリッツさん達が証明してくれた。

 常に厳しく接しなければならないタイプなのだ。


「にゃ!? 酷いのではないかにゃ?」

「酷いのはあなたですメイドさんっ。1日目でなにがお休みが欲しいですか! さあご主人様の神殿までダッシュで帰りますよ!」

「し、神殿ってどこなのだにゃ?」

「あはは、待てよリファ!」


 猛然と走り出すリファと俺、そしてやや遅れて走り出すメイドさん。

 メイドさんはまだ知らない。

 油断して夕暮れまでこんな森の中で訓練してしまったという俺たちのミスを。

 日が沈みだすと暗闇まではあっという間だ。

 そして電灯無しの森の中はあまりにも暗い。

 闇に乗じてどこからともなく現れる魔物と盗賊たちがかなりの頻度で襲い掛かってくる。

 実は初めて森を探索した俺とリファは死ぬ思いで街まで帰ったのだ。

 あの時の反省を生かせていない俺たちもまた、間違いなく冒険者として初心者だろう。


 時間と共に闇が濃さを増していく。

 はじめ軽い青春ダッシュのノリで走っていたメイドさんだったが、やがて俺とリファと同じく必死の形相になってきた。

 木陰から飛び出してくるゴブリンや巨大なリスをなぎ払うリファ。

 茂みに潜む盗賊に俺のナイフが炸裂する。

 メイドさんは果たして無事に生きて森を抜けられるのか。

 たまに背中でにゃあにゃあ聞こえるうちは無事なのだろう。


 どうしてこうなったのか。

 俺とリファの心理的な隙が原因だろう。

 自分たちよりも弱いメンバーが加入したことによって、自らの強さを過信してしまったのだ。

 メイドさんと比較すれば相対的に強い俺たちだが、絶対的には何も変わっていないのだから。

 いやあ新メンバー加入というのは意外な死亡フラグですね。

 これでくたばったらマジでネタだわ。


「ご主人様っ。メイドさんはともかく私達2人は絶対に生きて帰りましょうね!」

「もちろんだリファ! 俺は絶対にリファと一緒に帰るぞ!」

「ひにゃ!? お願いだにゃ! 置いていかないでくれにゃ! ご主人様ー! リファ先輩ー!」


 できる限り、夕暮れまでには安全地帯に帰還していること。

 最低限、夕暮れになる頃には安全地帯の近くまで移動していなくてはならない。

 これ冒険の鉄則ね。

注)実は猫化によって視力は下がっています。


お読みいただきありがとうございます。お気に入り登録が千件ということで恐縮の限りです。

また評価やご感想、ツイッターのフォローなど様々な形でのご支援に御礼申し上げます。

なによりも素人の書いたものをここまでお読みいただきました皆様にはいくら感謝してもしきれないことでございます。誠にありがとうございます。

できる限り速やかな更新を心がけてまいります。またお休みをいただく際にはツイッターのほうで早めにご連絡いたします。


http://twitter.com/n4350bv


今後ともよろしくお願いいたします。

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