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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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落涙

更新通知アカウント・広報担当リファッポイ


http://twitter.com/n4350bv


(フォローありがとうございます)

 最悪、俺とリファは中継地点から出なければならない。

 邪神によって、魔物を遠ざける神聖魔法を無効化し、なおかつ魔物を近づける俺たちだ。

 そんなジャミング全開の状態で、安全な中継地点が復旧できるとは考え難い。


 問題はどうやって俺たちが外で待機する理由を作るかだ。

 正直に説明して、俺たちのせいで非常口が使えなくなり、魔物まで呼び寄せていると知られるのはまずい。

 下手をすれば今回のクイーンの迷宮の大異変も、邪神サイドによるものかもしれないし。


 などという心配は見事に解消された。

 スピリッツさんとファイさんの逆鱗に触れた俺は中継地点をつまみだされた。

 リファも俺を気遣って一緒に外で待機してくれている。

 全ては計画通りだ。


「ご主人様っ。順番で2人ずつ外の見張りをしようって言ってましたよ!」

「ありがとうリファ。がんばろうな」


 俺とリファは中継地点からやや離れた位置に立っている。

 無事に神聖魔法は発動したのだろうか。

 発動したとして、俺とリファが中へ入っても効果は継続するかどうか。

 えーっと。

 俺は神聖魔法の影響を受けない。

 しかし神聖魔法がかけられた中継地点に入ると、どうなるのか?


「ご主人様、暇なんでしりとりしましょ、しりとり!」


 迷宮の奥深くでやることかそれ。

 っていうか、この世界にもしりとりあるんだ。

 まあ悩んでいても仕方ない。

 試してみれば分かることだ。

 魔物が寄ってきても、今はスピリッツさん達がいるしな。

 気楽にいこう。


「よし、じゃあ負けたほうは罰ゲームな」

「ご、ご主人様? 私、罰ゲームにかこつけたマニアックなプレイはちょっと……」

「オーケー、しりとりの前にお話をしよう。じっくりとな」



◆   ◆   ◆



 男1人に女3人。

 奇しくもあの国民的ゲームで男がやるであろう男女比となっている。

 しかし編成を見ればどうか。

 神官(俺、補助系のみ)、戦士リファ魔法戦士スピリッツさん魔法戦士ファイさんという偏った編成となっている。

 クイーンの迷宮攻略のリアルタイムアタックでもやってみるか。


 ゲームの話はまあいい。

 現実の女の中に男が1人という話をしよう。

 フィクションであれば、極端な展開になるであろうこの状態。

 ラッキースケベが盛りだくさんとなるか、もしくは俺だけが中継地点の外で寂しく夜通しのお見張りにだされるか。


「とりあえずあたし達も外で見張っていたけど、無事に中継地点の機能は回復したみたいだね」

「無駄に体力を消耗するのもよくないわ。今日はもう中で全員で休みましょう。順番に1人ずつ起きて番をすればいいわ」


 なんというか普通だ。

 現実はいつだって普通だ。

 しかも初めて地下5階まで来て疲れただろうと、俺とリファは先に休ませてもらえることになった。

 ファイさんは腕を組んで壁にもたれかかり、スピリッツさんは寝転んで5分も経たないうちに寝息をたてている。

 やはりプロは違うなあ。


「うーん……ご主人様ぁ、らめぇですよぉ。私はそんなマニアックからはじめるのはちょっと……普通からちょっとずつですね……」


 即行で寝言で寝言をほざくリファ。

 これはプロではなくてただの子供だ。

 ……耳年増の子供なだけだよね?


 俺も眠くはないのだが、目を閉じて寝転がっておくか。

 なんだか迷宮の奥深くで眠っているのは不思議な感じだな。

 キャンプというより登山している時の山小屋の一泊に似ている。

 静かだ。

 かすかに足音が聞こえる他に音が一切ない。


「動くんじゃないよ」


 スピリッツさんの押し殺すような声と同時にのしかかられた。

 目を開けようとするが、誰かの手で目がふさがれている。

 これはスピリッツさんとファイさんが2人がかりで俺を押さえつけているな。


「ごめんなさい、魔術師くん」

「命まで取ろうってんじゃないよ。安心しな坊や。今から口ははなしてやる。でも大きい声はだすんじゃないよ」


 俺は首を縦に振って返事をした。


「単刀直入に言おう。坊やはファイに何か仕掛けていないかい?」


 やはりその話か。

 どうせファイさんの支配は解除したかったのだ。

 支配できる数に制限がある以上、遊ばしておくわけにもいかないしな。

 っていうか今解除しよう。

 たぶん俺の頭を太ももで固定して、目を手で押さえているのはファイさんだろう。

 ……よし、解除完了。


「知りません」

「じゃあ言い方を変えよう。今この瞬間から、明日迷宮を出てファイがハウエルに会うまでに解除しな。そうすればあたし達は坊やとの付き合い方を変えたりはしないよ」

「スピー、本当に魔術師くんが私に?」

「……さあてね。話はそれだけさ。ゆっくり休みな。なんだったらこのまま添い寝でもしてやろうか?」

「じゃあ、お願いします。ぜひぜひ」


 空気が固まる。

 なんだよ。

 いいじゃん添い寝。


「やっぱりエルの勘違いかもしれないねえ」

「そうね。魔術師くんはただの……うん」


 俺の身体から離れる2人。

 いやはや。

 ちょっとドキッとするイベントでしたね。


「ま、坊やが正体をあらわして襲ってこなくてよかったよ。こんなところで血を流すのはごめんだからね」

「そうですよね」


 スピリッツさんの言葉に同意したのは俺でもなければファイさんでもなかった。

 いつの間にかスピリッツさんの頭の上で、黒い大剣を上段に構えているリファだった。

 いやホントに間違いが起こらなくてよかったわ、うん。

 リファは安心したように大剣を収め、再び寝転がった。


 待てよ。

 じゃあさっきの寝言は寝言じゃなかったわけ?



◆   ◆   ◆



『行きはよいよいって言いますよねー』


 邪神か。


『この前はしくじりましたね。これが最後のチャンスだと思ってくださいー』


 待て。

 ちゃんと言われるままに商人襲ったと思うんだけど。

 しかも聖焔騎士団まで倒してだ。


『い、言い訳するつもりですか?』


 邪神のほうこそ何やってるんだか。

 中堅の冒険者を削ります(邪悪微笑)だったか?

 無事に帰還しているわけですが、どうなっているんですかねえ。


『うるさいですよ! 人のミスを責めるよりも、自分がフォローできることがなかったかを考えましょうよ!』


 ねえよ。

 それで?

 今回はどういう命令があるってんですか。


『前回は驚きました。まさか聖焔騎士団を中心に冒険者たちが団結するんですもん。非常口を使えなくして、魔物たちを無理して上の階層まで押し寄せるという絶体絶命のピンチだったはずなのに……悔しい!』


 やっぱりお前のしわざだったのか。


『聖焔騎士団のなかでも団長のスピリッツ、これは大きな光ですー。彼女は迷宮の最深部に辿りつく――いいえ、この世界を良い方向へと導く可能性すら感じられますー』


 スピリッツさんか。

 確かにな。

 強いだけじゃなく、リーダーの資質を感じる逸材だ。

 だが言っておくが、スピリッツさんを暗殺しろなんて言っても無理よ?

 あの人はよっぽど入念な準備をしたハメ技でも使わない限りは倒せない。


『わかってますよー。だからカンゾーさん、あなたはこんな時の為に用意したんですよ』


 と言いますと?


『あなたはスピリッツと信頼関係を構築するのですー。もちろんファイやハウエルといった周囲の人間ともね』


 スパイってやつか。

 しかし確定ではないが邪神の信者と聞かされているスピリッツさんが、俺を信用するのだろうか。


『もちろん簡単には信用しませんよ。だからカンゾーさんが信頼されるように頑張るんじゃないですか。聖人君主を演じるんですよー』


 無理だと思う、俺邪神の信者だけど。


『なあに、クイーン王国で起こるたいていの災厄はこの邪神が司るものです。それをカンゾーさんにちょいちょい解決してもらえばいいだけ! 簡単なマッチポンプってなもんですよー』


 司る?


『邪な心、これすなわち邪心なりってね♪ いやあ奥の深いものですなあ、人間って』


 邪神と邪心をかけたダジャレを言っているのだろうか。

 すげー寒い。

 さすが邪神。


『それにしてもカンゾーさんはとっても優秀ですねー』


 だろ?


『ええ。とっても。リファちゃんも可愛いし最高ですー』


 なんだろう。

 すごく嫌な感じがする。

 邪神に褒められるというのは不吉だからだろうか。


『期待、してますよー』



◆   ◆   ◆



「起きな! ったく、こんなんでよく冒険者やってられるねえ」

「だからご主人様は私の熱いベーゼ無しでは起きられないって言ってるじゃないですかっ」

「スピー、そろそろ諦めてリファさんに任せてみたら?」

「朝からそんな腑抜けた起こされ方してたんじゃ、坊やがダメになっちまうよ! ほら! 起きな! あたしが熱いベーゼで起こしてやろうかい!?」

「あ、じゃあよろしくお願いします」


 俺は即答しつつ目を覚ました。

 邪神と会話していて寝すぎたのか。


「大丈夫、魔術師くん? あなた、見張りの順番が来ても全然起きなかったのよ」

「女に見張り任せて寝千切るとはいい度胸だねえ坊や?」

「す、すいませんでした」


 うわあ。

 普通はリファのぶんも俺が見張るから、リファは寝てなさいとかやるシーンなのに。

 寝過ごすって。

 いや邪神のせいだから。

 邪神のせいだよね?


「ご主人様っ」


 リファが俺のローブをくいくい引っ張る。

 まさか。

 もしかして俺が見張る時間も、リファが代わりに起きていてくれたのか。

 だとしたら、かっこわるすぎるぞ俺。


「私も一晩中寝てました!」


 ぺカーっといい笑顔のリファ。


「……というか私とスピーは脅されたのよね」

「坊やに夜這いかけたって言い触らすなんてね。ここまでふざけた取引きを持ちかけられたのは初めてさ」


 子供とは純粋である。

 純粋ゆえに純粋な悪を行うことができるのだ。


「リファは賢いなあ。俺もしばらくはそのネタでスピリッツさんとファイさんを強請るとしよう」

「えへへー♪」


 頭をガシガシと撫でてあげた。

 俺はこの子だけは敵に回したくないなあ。


「この主人あって従者ありって感じね」

「たいした行程でもないのにやけに疲れたねえ。帰りも油断なく行くよ」


 迷宮を襲った異変が去ったと分かれば話は早い。

 もともと地下5階なんぞはスピリッツさん達にとって通過地点に過ぎないのだ。

 途中、ちらほらと魔物や、恐る恐る潜ってきた冒険者に会ったくらいで、問題なく行程を進んだ。

 旅の帰り道ってなんでこんなに早く感じられるんだろうな。

 行きはあんなに時間がかかったのに。

 俺が根っからの旅嫌い、移動嫌いだからだろうか。

 楽しい時間ほど時間が進むのが早く感じられるって言うしな。

 家に帰る時間ほどうきうきするものはない。


「もう迷宮の入り口が見えてきたよ。終わってみればなんてことはなかったねえ」


 スピリッツさんののほほんとした言葉とは裏腹に、その目つきは周囲を警戒している。

 予定を無事に終えつつあり、迷宮の入り口が見えた最も油断する時間にこの隙の無さ。

 俺がどれだけ取り入っても、スピリッツさんを討つことは叶わないと思う。


「これ以降は地下5階の中継地点を使わせてもらえるんですよね?」

「ええ。団員にも伝えておくから大丈夫よ。基本的に団員の誰かが詰めているけどかまわないわよね?」

「もちろんですよ」


 ファイさんはにこりと微笑んでくれる。

 なんだ?

 支配は解けたはずなのに、まだ好感度アップしたままなのか。

 まさか一度支配したら解除不可能なんてことはないだろうな。

 いやいやいやいやないないない。

 そんな愛の永久就職みたいな呪いは勘弁な。

 っていうか解除できたことは俺がはっきりと分かっている。


「おお! 魔術師殿! このヴェルヌ、貴方様をどれほどお待ちしておりましたことか!」


 迷宮入り口横の兵士詰め所から長髪のおっさんが猛ダッシュしてくる。

 言わずと知れたヴェルヌさんだ。

 いい人なんだけど、濃いいんだよな。

 少し中和するためにリファを抱き寄せ、その髪に鼻をうめる。

 すんすん。


「うひゃあ!? な、なに? なんですかご主人様っ」

「いや気にしないでいいよ」

「気にしますよ!」


 スピリッツさんとファイさんの視線が突き刺さっているが気にしない。

 そうしている間に、ヴェルヌさんは俺の前に辿りつくなり言った。


「娘が……我が娘が……!」

「落ち着きなヴェルヌ。ローがどうかしたのかい?」


 ヴェルヌさんの娘さんがローブラットさんだったよな。

 ローってのは、あだ名か?

 騎士をクビになって今頃どうしているのだろうか。

 商人襲撃の際には、俺を退治しにきていたが。

 あの実力で賞金稼ぎの真似事をしているのだとしたら、すでに遠い世界に旅立っていても不思議ではない、不吉な意味で。


「我が娘が捕まったのです!」

「捕まっただって!? 一体、なにをやらかしたんだい!?」

「食い逃げを……金に困って食い逃げをやらかしまして……食堂のウェイトレスにボコボコにされ、城に突き出されたのです……!」


 これは悲しい。

 ヴェルヌさんの言葉は詰まり詰まりだが、これは間違いなく怒りと羞恥によるものだ。

 しかも食堂のウェイトレスにボコボコって。

 弱いにも限度があるだろ。

 そのうえ食うに困って食い逃げって。

 王国騎士団の団長を務めるヴェルヌさんの立場ないじゃん。


「魔術師殿! どうか! どうかこのヴェルヌめにお力を貸していただけぬかっ?」

「む、無理です」

「あははは! 食い逃げですって! ご主人様聞きましたかっ。あのコネ女元騎士がついに食い逃げで捕まったんですって! しかもウェイトレスさんにボコられて! あははは、もう私お腹いたいですー!」


 リファ。

 空気読め。

 よく見ると、スピリッツさんとファイさんも肩を震わせている。

 明らかに笑いを堪えている顔だ。

 しかし父親の涙が迷宮の地面を濡らす光景は、俺の心を締め付けるものがあった。

 そんな理由で迷宮で泣いたのってヴェルヌさんが初めてだろうな。

お読みいただきましてありがとうございます。

おかげさまでジャンル冒険の日別ランキングで1位に入る時があるようです。百戦錬磨の先生方がご活躍されているランキングですので、短い時間ではありますが、私にとって身に余る光栄であります。ありがとうございます。偏に皆様のお引き立てによるものでございます。

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