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邪神様の仰せの通りに迷宮探索  作者: 内村ちょぎゅう
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嫉妬の炎は

 嫉妬は人が持つ最も醜い心の動きである。

 時に嫉妬の炎は相手を焼き尽くすほど激しく燃え上がる。


「こんなもんか。ただこれは奥の手だからできる限り使わないこと」

「切り札ですねっ。さすがご主人様です!」

「自分の身を守るために使うこと。いいね?」

「はいっ。ご主人様!」

「俺の言うことをきちんと聞いておけば切り札を使わざるを得ない状況にはならないけど」

「そのとおりですね♪」

「俺以外の人の言う事は聞かないこと。特に男。俺以外の男と会話なんて言語道断だ。リファをじろじろ見てくる男は子供であろうと俺がぶっとばす」

「……あの」

「リファは俺だけを見ていればいいんだ!」

「お、おう!」


 いやだねえ、男のジェラシーってやつはさ。

 だが嫉妬は誰もが持ちうるありふれたものでもある。

 誰も俺を責めることはできないはずだ。


 スピリッツさん達との会談の翌日。

 俺とリファは街から出て少し離れた場所にある森にいた。

 やけにでかいリスが襲い掛かってきてびびったりしたが、すぐにリファの紙の大剣の錆となった。

 リスってけっこう凶暴だとかなんとか。人を襲うなんて話も聞いたことあるし。


「次は普段やる戦い方を確認しておこう」


 昨晩のファイさんを利用したのぞきがバレたかどうかは微妙なところだ。

 朝起きると早々に準備をし、眠たそうに目をこするリファを連れて街をでた。

 今後、どうなるのかは邪神次第というところだが、迷宮に入っていくことは間違いない。

 修行と呼べるほど時間をかけるつもりはないが、それなりに手札の確認をしておきたかった。

 最悪、邪神の信者としてハウエルさんやスピリッツさんと事を構えるかもしれないしな。

 もし今そうなったら逃げの一手になるけど。


「リファの武器は紙でできた大剣か。それって買い換えた方がいいんじゃないか?」

「やですよ~ご主人様。もうこれはご主人様のお力によってただの紙ではなくなっているじゃないですか」


 そもそも装備解除できないんだったか。

 リファによると、呪われている紙の大剣で敵を叩くと元気がでてくるらしい。

 それに戦っているうちに紙にはありえない重みを感じる時があるのだとか。


「もうちょっと使い慣れれば敵を斬ることもできそうですよっ」


 確かに紙で指を切ったりはするが。

 もうおかしいだろその剣。

 呪われているんじゃないか?


「聖焔騎士団と戦った時も、よく燃えなかったよな」

「聖焔騎士団もたいしたことないんじゃないですか? 私、全然へーきでしたもんっ」


 いやリファがつけている黒い紙の軽鎧も強い呪いがかかっているからだな。

 結構、強力な装備になってしまっているが大丈夫なのだろうか。

 チート武器なら大歓迎なのだが、呪いだからな。

 代償として酷いことになってるんじゃ。

 出会ってから数日の間に、リファが急速に単細胞になっている気がするんだが。

 呪いの影響で思考が鈍っている……?

 でも呪われた装備は作成される時に、深刻な被害が必要だったとか邪神が言っていたような。


「あのへっぽこ貴族の安い大剣がこんなに強くなるなんてっ。ご主人様、さまさまです!」


 迷宮で非業の死を遂げた貴族の遺品だったか。

 不吉きわまりない。

 だから呪いの武器になったのかしらん。

 そうなると俺の着ている黒いローブも、ナイフもいわくつきなんだろうなあ。

 正直、どうやって生み出されたのか知りたくもないな。


「よし。とりあえず戦法を確認しよう。俺たちは基本、不意討ちしか狙わない」

「ええっ? そんな卑怯です!」


 リファさんの方が不意討ちとか騙し討ちは得意そうなんですが。


「いいかリファ? 遊びでやってるんじゃないんだよ。迷宮では殺るか殺られるか、それだけだろう?」

「た、たしかにそうですねっ」

「俺もリファも盾も装備していない身軽な格好だろ。そもそも盾なんか使わなければいけない時点でダメなんだよ。敵が斬りかかってきたり、魔法を使ってくる前に潰す。これが基本だ」

「さっすがご主人様です!」


 なんだか綺麗な瞳で感心されると心苦しい。

 純粋な子は悪に染まりやすいって本当なんだなあ。

 でも生き残るためだし。


「俺の闇魔法……本当は闇魔法じゃないんだが、そういうことにしてくれよ? 闇魔法の効果は知ってるか?」

「はいっ。なんだか敵がうーうー言い始めるんですよね!」

「正確に言えば、俺が見ている敵だけを苦しませることができる。俺から見えない場所にいると使えない。効果はすぐにでるが、抵抗される場合もあるな」

「うーうー言い始めた敵をすぐにぶっとばしてやりますよっ」


 ほんとに分かってるのかなこの子。

 ただ距離がどれくらい離れていると効かなくなるのかが分からないんだよなあ。

 遠くの点にしか見えなくても効果が現れるのか。

 そしてどういう相手に抵抗されやすいのかも分かっていない。


「基本形はそれでいい。苦しんで動きが鈍くなった相手から叩く。リファが狙われて危ない時は俺がナイフを投げてフォローする」

「ご主人様ってあの黒いナイフを何本持ってるんですか? 前から気になってましたけど」

「ああ、たくさんだ」

「たくさんですかっ」

「うん、たくさん。尽きないと考えてくれていい」


 投げ捨てても一瞬で戻ってくるんだけどな。

 なんかリファはバカっぽいからこの説明でいいだろう。

 しかしこの何も分かっていなさそうな容姿が武器でもあるんだよな。

 油断を誘うし、聖焔騎士団みたいな良い人集団だと余計に本気を出しにくい。


「苦しまない相手には注意が必要だ。この場合はもう一つの魔法を使う」

「あのレッサーデーモンをぐしゃあってやったあれですね!」

「そうだ。相手を部分的に腐らせる。あれは不意討ちには使えないんだ。俺が相手を見ていることも必要なんだが、俺も相手から一度は見られていないといけない。武器とか防具は腐らせることはできるのかなあ……わからん。知っての通り腐った腕なんかは脆くなる。抵抗される可能性はあるが、あのレッサーデーモンの変種でも効いたからな」

「すごいですっ。ご主人様はどうやってそんな技を覚えたのですか!?」

「勉強あるのみ、だな」


 それは俺も昔から気になっていた。

 なぜレベルアップと同時に新たな魔法とか技を使えるようになるのかと。


 俺の場合はなんとなく思いついただけです。

 邪神からの電波受信っていうか。

 しかも細かい効果は自分で検証しないといけないからなあ。


「ただ相手を腐らせるような状況にはなりたくない。できれば先に敵を発見して、身を隠したまま苦しませて隙を作り、速やかに殲滅したい」

「はいっ、ご主人様に質問があります!」

「よし、リファちゃん」

「いくらご主人様でも迷宮内のどこに敵が潜んでいるかを完璧に察知するのは難しいんじゃないでしょうかっ」


 いい質問だ。

 そこで役立つのが邪神の粘着ストーカー能力である。


「俺にはだいたい200メート……えーっと、割と遠くの位置までどこに誰がいるか分かる」

「えっ、そんなことが?」

「そうだな……ほら向こうに赤い葉っぱの木があるだろ? ちょっと走って行って来てみ。リスが木の陰に隠れているから気をつけてな」

「あ、あんなに遠くですけど……」


 俺に言われてリファは木の方に走って行く。

 足音に気付いたリスが慌てて飛び出してくるが、抜刀を終えたリファによって叩き潰される。

 すぐにぱたぱたと戻ってきたリファは興奮してぴょんぴょんはねてみせた。


「すっごいですご主人様! これならいつでもエブリデイ不意討ちできますねっ」

「だろ? 横だけじゃなくて上だって分かるんだぜ? 今だってちょうどそこのでかい木の梢あたりに人が飛び回って――」


 人?

 俺とリファは慌てて上を見上げた。

 ニンジャのように木と木を飛び移っている人影が見えたが、すぐにどこかへ消えていった。


「な、なんだあれ。すごい速さで移動しているが」

「猿の魔物……でしょうか?」


 この世界にも猿っているんだ。

 しかし視認しかできないリファにはわからなかっただろうが、今のは確かに人間だったぞ。

 とりあえず何事もないようなので話を戻す。


「ああいう高速で移動しながら襲い掛かってくる相手には切り札を使うかもしれないな」

「切り札……ああん、今からピンチが楽しみですっ」


 この子を相棒にしてほんとに大丈夫なのか。

 やけに顔を紅潮させてもだえるリファに俺はドン引きだ。

 生活面でも役立ってくれるいい子なんだけどなあ。


「リファ、ちょっと黙って」

「え?」


 粘着ストーカーの能力に誰かが引っかかっている。

 人間が3人だな。

 とりあえずリファを茂みに引っ張り込んで隠れる。

 凶暴なリスくらいしかいない森なのに、今日は千客万来だな。

 邪神の僕にムササビ人間、そしてさらに誰が来たというのだろう。


 ゴブリン?

 いやあ、群れでたくさん居たそうですけど、今はいないみたいですよ。

 魔物の生態って不思議ですね。


「あのエセ貴族がここに来た話は間違いないのだろうな」

「はい。ガキを連れて森に入っていくまでは見張りをつけていましたから」

「あんがいガキを使ってお楽しみの最中かもしれませんぜ」


 下品な笑いをあげるご一同。

 綺麗な鎧を着た男が1人と冒険者風の男女が2人。

 ガキってのはリファのことか。

 だとすればエセ貴族ってのは俺なのか。

 俺は平民だったはずだが。


「そのエセ貴族が魔法の武具を所持しているのは本当だろうな」

「ええ、間違いありません。ガキの持つ大剣の輝きは間違いなく魔法がかかったそれでした」

「ふん。薄汚い奴隷が魔法の武具などと。高貴なる私にこそふさわしいものだ」

「旦那さまのおっしゃるとおりでさぁ」

「言っておくがお前達、子供だからと言って手加減はするなよ? ああいう薄汚い血の連中は生かしておけば必ず禍根となる」

「もちろんです旦那さま。確実に息の根をとめてみせましょう」


 呪いの大剣目当てか。

 人間って欲深いなあ。


「エセ貴族は生かしておけよ。この私が討伐してやろう。たかがレッサーデーモン如きを潰した程度で客員魔術師だとは。形だけとはいえ同じ貴族に列せられるなど許されるものか」


 黙ってリファに目をやると、にやりと笑いかけてきた。

 仕方ない、やるか。

 俺は3人をじっと見据えながら念じる。

 苦しめ。


「うっ!」

「おえええ……ぐほっ」


 さっそく貴族と冒険者の男が苦しみ始める。

 茂みから飛び出たリファは黒い紙の大剣を冒険者の男に叩きつけて――今、男の兜にヒビがはいってなかったか?


 女の方は苦しげだが、普通に剣を抜き放って戦闘態勢に入っている。

 抵抗されたか。

 俺は黒いナイフを牽制で女に投げつけるが、相手は金属製の胸甲をつけている。


「なっ!?」


 刺さった。

 胸甲に黒いナイフが突き刺さっている。

 女は驚愕の表情を浮かべばったりと倒れた。

 いやいや俺のほうがびっくりしたわ。

 やばいよ、このナイフ強力過ぎやしませんか?

 どんなおぞましい儀式で出来上がった品なのさ。


「や、やめてくれ! 降参する! 降参するから助けてくれぇ!」

「武器を捨てて手を頭の後ろで組めっ! ご主人様のご機嫌次第では助かるかもしれませんよ!」

「わ、わかった! これでぎゃあああ!」


 リファに言われたとおり貴族は武器を捨てて、降伏のポーズをとったのだが、すぐさま大剣に足をなぎ払われて地面に倒れ伏した。

 容赦ない。

 今ので貴族さん、足折れたんじゃないか。

 この子、アメリカで刑事でもやってたの?

 リファは貴族が無力化したのを見て取ると、簡易ナイフを取り出して冒険者2人にとどめを刺していく。


「てい! ……たー! ふぅ。どうしますかご主人様っ。この貴族も?」

「い、いやちょっと待って。この貴族さんには聞きたいことがあるから」


 クイーン王国では目には目を歯には歯をという考え方が一般的らしい。

 しかも自己救済が推奨されているから恐ろしい。

 今更知ったけど、逮捕って優しい考え方なんだな。


「いつまで寝てんですかっ。ご主人様が用なんです! 立ちなさい!」

「い、いや寝たままでけっこうです」


 貴族を無理矢理立たせようとするリファをなだめ、俺は貴族に話しかけた。


「こ、こんなことが許されると思っているのか……? エセ貴族め。私はゴールデンジィ家に属する者だぞ?」


 ゴールデンジィ?


「クイーン王国の貴族さんですか?」

「あんな成り上がりもの達とは違う! 正式に招聘されている由緒正しい真の貴族だ!」


 どこかの大国から来ている貴族か。

 よく分からないけど、まあいらない人間っぽいな。


「そうですか。ゴールデンジィさん」

「レイ・G・ゴールデンジィ様だ! 様をつけろエセ貴族!」


 名乗ってくれて良かった。

 ちょっとやってみたかった事があるんだ。

 俺は貴族さんの頭に手を置いて言った。


「俺はカンゾー」


 従え。


「レイ・G・ゴールデンジィだったか。お前はどこに住んでいる?」

「誰に口をきいている! 口の利き方も知らんのか!」


 やはりか。

 支配が全く効いていない。

 抵抗された感じもなかったし、やはり支配できる数は限りがあるんだな。

 ですよねー。


「薄汚い冒険者どもめ。この私にこのような無礼を働いて生きていけると思うなよ」

「無礼? 俺は自分の身を守っただけですよ。俺とリファを襲ってまでして魔法の武器が欲しかったんですか?」

「そんなものはついでに過ぎん! 私は、迷宮でこそこそと物を拾っているだけの――」


 レイ・G・ゴールデンジィさんが言うことをまとめると、要するに嫉妬らしい。

 俺が客員魔術師となり、最近もちらほらと活躍していることが気にいらないんだそうだ。

 常に努力し自らを戒めて貴族をやってきた俺を差し置いて、という話か。


「リファ、貴族って自分で働いたりしているのか?」

「色々いますけど、俺は貴族だーって自分から名乗るような人間はたいてい税を使って遊んでる人ですね」


 今もこうして魔法の武器探しで遊んでるわけだしなあ。

 皿洗い一つしたことも無さそうな綺麗な手をしているし。

 20代なかば以上という顔だが、肌荒れひとつない綺麗なものだ。

 ストレスなく伸び伸びと生きている顔だ。

 少々、生意気そうな目つきをしているのが玉に瑕だが。


「でも貴族に手を出すとまずいよなあ」

「ご主人様っ。貴族ってなんのお話ですか? それよりも今は襲い掛かってきた盗賊をどうするかですよ!」


 嫉妬の炎は、必ずしも嫉妬した相手を焼き尽くすとは限らない。

 ただ、嫉妬の炎はいつの日か必ず自分自身を焼き尽くすという。

 せっかく貴族に生まれて、裕福に暮らしていたのにな。

 むしろ俺が嫉妬したいくらいの生活だったろうに。

 自らの嫉妬心に負けた人間の末路ってこんなもんなのか。


「じゃあリファの好きにしていいよ」


 リファは静かに微笑んだ。

皆様のおかげで無事十話目となりました。お読みいただきありがとうございます。御礼申し上げます。


主人公が気にしていた呪われたナイフでありますが、ここで設定といいますかどういういわくつきかを公開させていただきます。自分用設定資料集からの引用です。作中では公開されません。



・恋人のナイフ

 ある男は叶わぬ恋の成就を願った。その強い願いは邪神を呼び寄せ、男には一本のナイフが与えられた。男はナイフで最愛の人を刺し永遠に自分だけの物にした。正気に戻った男は自らの非道な行為を嘆き、深い後悔のなかナイフで命を絶った。死の直前に男は気付く。自分の本当の願いは、最愛の人の幸せだったのだと。

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