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諭すキルレリアとそれから私

 たまにね、私はいったい誰なんだろう?って思い悩むことがあるの。

 思えば沢山の気狂いさんたちに出会ってきたものなのだけれど、結局私が誰であるのか、それからどういう役割をもってここにいるのか。それを指差して決めてくれる人さえいなかったのよ。

 悲しいお話よねキルレリア、想い描いた夢物語が破綻しきった物語(ストーリィ)だったくらいには気分が悪いわ。



「馬鹿じゃないの、アナタ。狂人タチに答えのない問い掛けをしてもムダよ。逆にアナタにまた問いさえない答えを投げつけられるだけでしょうに」


 キルレリアとの朝のお茶会の中で私が最近の悩みを相談してみたところ、残念ながらキルレリアは決まりきった回答を返しただけだった。

 キルレリアとのお茶会は早朝から始まる。普通お茶会というものは午後に行うものでしょう?と問いかけたことがあったけれど、そういえば彼女を合わせ、この世界の住人たちはそろって気狂いで異常なわけだから、常識を求めても無駄なんだろうという答えにたどり着いたわけだった。

 だからこのお茶会に意味があったとしても、私にとってみれば些細でなんでもない理由なのだわ。


「ねえキルレリア、おもしろいお話でもしてちょうだいよ。私ここのところ暇で、暇で、暇で――――兎に角ウサギが走って逃げ出すくらい暇で仕方ないの」

「……早速アナタが提示してきた問題から意図が離れ出しているけれど本当どうにかならないの?」

「さっきキルレリアがどうにもならない正解をおしえてくれたんだからいいの!」

 ためいきをつくキルレリアに『溜め息を吐く行為は、彼女にとって、既にわかりきっていることへ対して今さら自分が関与したところでかわりがない』ということを優に示しているのを私は知っていた。だから彼女のそれににこにこと笑いながら次に出る言葉を待つのが、最早このお茶会の恒例行事といっても過言ではないと思う。

 ティーポットから溢れているシュガーを二本、それから角砂糖を五つ紅茶のなかに落とすと(勿論キルレリアが!)、明らかに砂糖が形を残しているそれを飲んで、キルレリアは私に向かって言った。


「アナタが暇であるということは、つまりアナタが大好きな『なんでもない日』であるということの象徴でしょう。狂人が行動を起こさない日々は確かにツマラナイ日常でしょうけれど、『なんでもない日』であるということは異常であるということと同意なのは気づいていたことでしょう?」

「ううん……あのね、キルレリア。私は確かに『なんでもない日』が大好きよ。ただね、ただ、私だって此処の住人の一人であるということも忘れないでほしいの」

 確かに私は『なんでもない日』を愛している。ただ、ただそれは異常が続くからこそ。日常が異常だから私は『なんでもない日』を求めている。それは、日常が日常として続いたときには意味のないこととなっているのだ。

 まるで、夢に日常を求めているように。それが異常であることも、わかっていて。



「無いもの強請りは王女さまだけで十分なのにね」

「そんなこと彼女の耳でも入ったときにはアナタの首がはねられてしまうわよ」

「そんなキルレリアみたいな失態を私が起こすと思う?」

「あり得ない話ではないと思うわね」

 ひどいなあ、とキルレリアの返答にケタケタと笑うとキルレリアは兎の耳をぴくぴく震わせて眉間にしわを寄せた。かわいくてきれいな顔が台無しである。まあ、彼女の普段が不機嫌顔だからそれも今更かな。


 私はミルクティーをぐるぐるぐるぐるスプーンでかき混ぜて、元の澄んだ紅茶の色を濁らせてしまったそれを一口飲む。うん、混ぜすぎたからかすごくぬるい。猫舌だからこれくらいが丁度いいのかも?とうなずきつつキルレリアの方を向くと、首元に手をそわせて――紅茶を飲んで――触れて――飲む。そういった見るからにはしたない行為をしていた。

 お行儀がいいのが取り柄なキルレリアにしてはなんて酷い光景なんだろうと笑うと、キルレリアは罰が悪そうに私を睨む。『はしたない行為』をしている自分と『それを笑うひどい私』の両方に苛立っているのだ。最近呆れっぱなしのキルレリアが苛立つだなんて、と、思いながらも話がこれ以上脱線しないうちに私はキルレリアに問いかける。

 先ほどから可笑しな行動をしている彼女にね。


「どうしたのキルレリア、首元をさっきから触りっぱなしよ?」

「…………」

「キルレリア?」

「……この、首元が、かゆくて仕方ないのよ」

「我慢すればいいじゃない」

 私は出来ないけどね!

「出来れば苦労していないわ……。どうしてか、今日はとても、とてもかゆいのよ。まるで……」

「まるで?」

「……何かと何かを無理やりくっつけてしまって、質感の違いがたまらなく嫌になるような、そんな気分だわ」

「ふぅん……」


 深く、深くため息をついたキルレリアに私は今までの笑顔を失くして能面の表情をとったかと思う。ここで思う、としか言えないのは私が自分の顔を自分で確認できないからなんだけど――と、そんな戯言はともかくとして。


 キルレリアは気づきつつある。


 それは、私がこの世界の住人に聞きまわって自分の存在理由を尋ねた、その正しき『存在理由』を明かしてしまう。そういう、発覚を、彼女はしてしまうのだ。

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