ウサギと私による小話
別称『幕間』となっております。
隣のお家のお姉さんが一日だけ貸してくれたウサギのぬいぐるみ、ちょっとくすんだピンク色に真っ黒なおめめがかわいくて、お姉さんにごねてもらったもの。
「ウサギさんウサギさん、いつまでもウサギさんじゃかっこうがつかないよね? だから私、うさぎさんの名前を考えてあげたの!」
小さなテーブルの上にはおかあさんが作ってくれたケーキとオレンジジュースが並んでいて、それでも汚したらいけないと思っていたから、可哀想だけどウサギさんの前には角砂糖がこぼれてしまうくらい入っている空っぽのティーカップと何にものっていない花柄のお皿を置いてあげた。
私の優しさが届いたかどうかはわからないけれど、ウサギさんの真っ黒なおめめはじぃっとティーカップを見つめていて、ウサギさんは砂糖が好きなのかな?とふと思った。
お姉さんからもらったウサギさんは美人で気品がある。昨日絵本で呼んだちょっと気の強そうなお嬢さまにも似ていたから、私はウサギさんにその名前をあげようと思い『小さなお茶会』でウサギさんの名前を教えてあげることにしたの。
「ウサギさんはとっても美人ね。おかあさんが作ってくれたドレスもお似合いよ! それでね、私ウサギさんには名前がひつようだと思って考えたの。そうしたら昨日呼んだ絵本の中のお嬢さまにそっくりだったから、その名前をウサギさんにあげることにしたわ。だから今日からウサギさんの名前は『キルレリア』よ!」
私はくすくすと嬉しくなって笑った。キルレリアは動き出すことはなかったけれど、その名前に不満に思っているようなことはないみたいだった。
キルレリアと名前をつけたその日から、私はキルレリアといっしょに『小さなお茶会』を開くようになった。ふたりっきりのお茶会だから他の人はぜったいに入っちゃいけない。例えそれがおかあさんであっても、大好きな隣のお家のお姉さんであっても私が招待しない限り、『小さなお茶会』に参加することはあってはならないこと。
その約束が私が飽きてしまうまでずっと続いていたんだろうなあ、と今に思う。そしてキルレリアをまた別の子にあげていたのかもしれない。
でも。
あの日、お姉さんが死んでしまった日から。私は飽きてしまう以前に、キルレリアとの『小さなお茶会』を開くことすらできなくなってしまったのだった。