エラ呼吸をするキルレリアとそれから私
私にとっての朝とは、キルレリアとのばかげた――、ごほん、キルレリアとのまったく可笑しなお茶会からはじまる。
お茶会と言えば午後のティータイムと考えがちだろうけど、残念ながら彼女のお茶会は、起きてすぐ、目覚めてすぐのものであって、朝食にはあまりに重いあまーいお菓子ばかりのものなのだ。
「それにしたってキルレリア、キルレリアとのお茶会にはずいぶんと驚かされてきたものなのだけど、私、いつから海中に沈んだお茶会をしなきゃならなくなったのかしら」
「嫌ならこなくて結構よ」
キルレリアは、優雅に角砂糖を六つほどいれたゲロ甘紅茶を、美味しそうに飲んでいる。味覚音痴もここまでくれば紅茶への冒涜にすぎないんじゃないかしら(とはいっても、マナーだけはきまってよろしいから、お喋りな私だって心のなかだけにとどめることにしている)。
さて、はて、なんとも批評の嵐がとんできそうな舞台ではあれど、驚くことに私とキルレリアは海中でお茶会をしている。
その証拠に、視界には回遊魚が自慢の背鰭をゆらしてちらついているし、なにより出された品々が塩辛いのが一番の理由。そう考えると、キルレリアの紅茶は調和されて美味しいものにかわっているのかも――――、なんて、甘い幻想は、私の味覚と海中に混ざり混んでしまった零れた紅茶から見て、十分に結果が推測できることでしょうね!
「紅茶がもったいないじゃないの! もう!」
キルレリアはざらついた紅茶を一口のんで、私を叱咤した。
カップを捨てるように言われたけれど、きれいな鱗の回遊魚がとっさに見えたから、私は捨てるべきティーカップで魚をとらえてベーグルサンドを食べる。海水はまるで人魚の涙のように仄かな味わいが感じさせられて、とっても口に入れられたものじゃあな かった。
「……あら、キルレリア、そのお花は新しく生けたもの?」
ふと気づいたのは、少しだけ浮遊しているお茶会のテーブルの上に飾られた、花瓶と花。つい昨日までには存在しなかったものであることを私は知っていた。
キルレリアったら意中の相手からの花束でも頂いたのかしら?それなら早くにお手紙でも返さなくちゃね!と、ケラケラ笑いだした私にキルレリアは深くため息をついた。
「アナタは随分突飛で、頭のネジも数本以上抜けてるんでしょうね、本当にどうしようもない人だこと」
「やだなぁキルレリア、私の言葉が勘にさわったのならごめんなさい!」
「ええ、本当にどうしようもない人よね、アナタって」
訳のわからないまま理由もわからないまま私はキルレリアに謝罪する。私は自分の言葉に責任をひとつも持ってないからよくある光景のひとつ、だったり。
「……もういいわ、これだっていつものことなんですものね。この虹色の花は昨日アナタが似合いもしない白い服を着て渡してくれたものよ。誰かの葬儀の帰りのものだといってワタクシに処理させたことをもうお忘れ?」
「あ、あーっ、そう、そうだねキルレリア! どうでもいいことだからすっかり忘れていたわ!!」
その言葉に深いためいきをつかれてしまい、私はその花だったことを今さっき思い出した。勿論誰が死んだのかは記憶にない。
「それにしても海中って息がしづらいと思うの、そう思わないキルレリア?」
「誰かさんのせいで流した涙が海になった結果よ、仕方ないと思って肺呼吸でもしていたらいいと思うわ」
それじゃあ私が死んじゃうじゃない、と回遊魚が入ったティーカップをひっくり返して、息苦しいお茶会に不満を漏らした。
ああ、昨日葬儀にいったのは誰のものだったのかしらね。