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キルレリアとそれから可笑しな私

 首の繋がらないウサギが鳴いた。滴るジャムに砂糖をまぶせど、甘さが際立ち直りゃしない!

 隣人にばれぬようにと、私は必死でウサギを口止め、それでも止まない泣き声に、苛立ち時計を壊してやった。

 小鳥はそれ見て嘲笑って言うのだ。


「癇癪持ちのこどもの行動! なんて愚かでお笑いぐさで! そこで転がる お姉さん(人間)も、こどもの視界にゃうつらない! ツィールツィール!」


 煩い小鳥を一瞥し、そのうち赤の女王に殺される癖にと吐き棄てる。私の心は一向に晴れないまま、狂いの国を見渡した。

 そう、ここは 私の夢(妄想)から生まれた世界。本当なんてない、偽りと虚実で出来たハリボテの夢。




 私は全て知っていた。どうしてお姉さんが死んだのかも、どうしてキルレリアが二度と戻ってこないかも、全部、ぜんぶわかっていた。

 結局のところ、私は知らないふりをしていただけだったのだ。忘却したふりをして、なかったふりをした。

 ――事故だった。私がわがままを言って、お姉さんを困らせた結果に起きた事故。しかしして私が原因となってしまったもの。


「だから否定した」

 私は私が可愛かったから。


 でも、狂いの国は私に突きつける、貴女のせいで全部がおかしくなってしまったの、と。

 キルレリアだって、お姉さんじゃなかった。でもお姉さんだった。

 私の妄想が生み出した、空想の現実、それが『キルレリア』。



 私は『彼女』と向き合って、死んだ眼で口元に笑みを浮かべた。

「だからね、キルレリア。とっととお茶会なんてやめちゃおうよ。こんなことしても無駄だよ、くだらない」

「………………」

 私は私のために、私への懺悔をしながら、キルレリアへと言葉を紡ぐ。今までしてきたことは箸にも棒にも引っかからないことであって、そもそも朝にお茶会をするだなんてどんな精神だって!いやいや私が妄想した結果の出来事なのだけれども。

 まとまらない言葉を吐き出して吐き出してはキルレリアにぶつけて、その間彼女はだぁんまり。口元を結んで吐息すらこぼさない。


「…………」

 かちゃり

 キルレリアが紅茶をおく音と共に、私の演説がぷつりとやんだ。辺りはしんと静まり返ってとても静かだ。

「……それで、アナタの戯言はオワリ? いい加減聞きあきたわ」

 紅茶に角砂糖を入れて、キルレリアは溜息をつく。

「アナタがなんであろうと何かであろうと……、そもそもこの時間はワタクシの時間なのだから、いつものバカバカしい言葉で揺らぐはずかないでしょう」

 イチゴのタルトを行儀よく一口切り分けて口に運んだあと、残りを投げ捨てた彼女は、尚も言葉を続けた。


「いいこと? 此処にいるモノ在るモノ全ては狂っている。そう言ったのはアナタ自身なことをお忘れかしら。つまりアナタだってとっくにオカシイに決まっているじゃない」

 キルレリアは私と目を合わせる。彼女の赤い瞳は光を反射しすぎて、まるでビー玉みたいに作り物めいていた。


「アナタの 妄想(お姉さん)なんていないのよ。在るのはワタクシ、現実がワタクシよ」


 そして、キルレリアはお茶を飲む。砂糖を入れすぎて、砂利のような食感のする、彼女特有のお茶を飲む。





 私は、これまでのことを考え、整理して、全部を思い返す。住人のことを、キルレリアのことを、お姉さんのことを。……そして、自分の事を。

 多分、もう此処は現実なんだと思う。例え夢でも、妄想でも、空想でも、確かに現実リアルなのだ。それを私は思い知った。

 私は笑う、くすくすと、キルレリアが眉を顰めるはしたないことをしながらお茶を飲む。


「ねえキルレリア、明日はパンケーキが食べたい気分だわ」

「そういいながらワッフルを食べるんでしょう?」

「やだなぁ! わたしがそんなひねくれものに見える?」

「……この国一番に、悪意に満ち溢れているアナタならね」


 ――お茶会は、終わらない。

朝のお茶会、狂いの住人たち。

終わり無き時間は夢のように続く。

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