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七つの大罪  作者:
6/20

暴食Ⅵ

「瑠都、疲れたかね?」

 宴たけなわ。深夜を過ぎても一向に来賓は帰宅する気配はなく、逆に一層乱痴気騒ぎは盛大となる。広間の中央。バンドの演奏に乗って美女と華麗に踊る絵麻緒を目で追いながら、愚鈍な婚約者をあしらう瑠都に有良が声をかけた。

「お父様」

 会話も途切れ、間が持たなくて空虚な沈黙に疲れていた瑠都は救いの主がやって来たとばかりに嬉しそうに顏を輝かせた。

「あまり顏色が良くないな。少し休んだほうがいい。勲君、悪いが瑠都を借りても良いかな?」

 将来の義父の鶴の一声に婚約者は逆らえない。そのまま瑠都を有良に引き渡す。瑠都は勲に冷淡に一礼して、差し出された有良の腕に手をかけるとそのまま広間を出て行ってしまった。後ろ姿からは恋人同士といってもおかしくないほど絵になる親子を、哀れな婚約者はただ呆然と見送るしかなかった。


 喧騒も遠く離れた有良の部屋。瑠都は子供のように無邪気に太く逞しい父の腕にすがり甘えながら鼻歌を歌っている。有良が静かに部屋のドアを閉め鍵をかける。

「助かりましたわ、お父様。あの方、もうどうにも退屈で退屈で私どうしようかと思っていましたの」

 黒い硝子玉のように光沢のある眸がじっと父親を見つめる。

「いくらお父様のお決めになったこととはいえ、あんなつまらない方の妻になるなんて私嫌です」

 頬をぷくっと膨らませいじらしい抗議を申し立てる愛娘の顎を有良はそっと指ではさんで持ちあげる。

「そんなことを言うもんじゃない。すべてはお前の幸せのためなのだよ。あの男の傍にいれば一生不自由なく遊んで暮らせるんだよ」

「でも……」


 まだ何か不満を言いたげなその唇に有良は素早く自分の唇を押し当てた。ほんのり香るアルコールと煙草の匂い。兄には無い、タキシードの下から湧き上がる体臭も慣れ親しんだ父親の匂い。有良の舌が思う存分瑠都の咥内を翻弄し、両腕が力の抜けた華奢な身体を優しく抱きとめる。うまく息が継げずに喘ぐ瑠都。


「本当は私が一番可愛いお前を手放したくないのだが。でもまあ、それも仕方ない」

 無骨な手が瑠都のドレスをゆっくりと剥いでゆく。実の娘でありながら欲情する獣の如き自分の姿を知った妻の死因はおそらく精神的ショックと心労に違いない。罪深き夫罪深き父親罪深き我自身よ!

 そう自覚しつつも、この掌中の珠の無限なる魅力に抗うことは不可能だ。

 窓から青白い月明かりが射し、ベッドで絡み合う堕落した父娘を鮮やかに映しだす。


「皆さまのお相手はよろしいんですの?」

「ああ、次期当主の絵麻緒がなんとかやってくれるだろう」

 暗闇に白く浮かび上がる瑠都の白磁の肌。つるりとした腹を有良の指がなぞると、ふるりと可愛く全身に震えが走る。


 果てた後。シーツに俯けとなり気だるげに流し目を送る瑠都の妖艶な笑みはもはや父親に向けたものではなく、最愛の男に向けたもの。

「腹が空いたな……。何か持ってこさせよう。瑠都、お前はどうだ?」

 問われて、瑠都はまるで幼女のようにくすっと無邪気に笑って首を振る。

「私、今日はもうお腹いっぱいですわ。立て続けに美味しい物をたくさんいただいて。暴食は健康に良くありませんもの。遠慮させていただきます、お父様」

「暴食」は完結。

その意味がわかっていただけたかどうかとても不安です……。

次話「嫉妬」に続きます。

お読みくださりありがとうございました。


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