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七つの大罪  作者:
13/20

傲慢Ⅰ

ちょっと長めの超絶シリアスネタです。

「ごめんね……フェイ……ごめんね」

「またお母さんうなされてる」

 介護用ベッドで寝ている祖母を見て母はため息を吐いた。

「なんだろね? 悪い夢かな?」

 あたし、るりかは祖母が大好きだ。共働きだった両親の代わりに、小さい頃からあたしの面倒をずっとみてくれていた祖母。その祖母がここ最近とうとう認知症の症状が顕著になってきたのだ。最初はちょっとした物忘れだった。それが次第にかなーりおかしな思いこみとなって、最近では完全に妄想と化している。


 趣味で行っていたお習字のサークル。そこでの忘年会に出てからというもの、症状が顕著になった。なんでもサークルの人達全員が自分の悪口を言って、よってたかって自分を仲間はずれにしているという……そしてその場で先生に申し出てサークルを辞めてしまったというのだ。そこまでなら何とかまだ理解できた。おとなげない態度だな、と思っていたけれど。


 だけど、それだけじゃなかった。以降、何かにつけてあたしや母に、「サークルの誰かが自分の悪口を言っている」とか「どこかの神社に自分の写真が飾ってあって、その下にこいつは悪いヤツだって書いてある」とか、ちょっと普通じゃ考えられないことばかり言うようになった。しかも真顔でしつこいほど繰り返し言うから、あり得ないと思いつつもやっぱり心配になって母はその書道サークルの主催の先生のとこに直接事情を訊きに行ったし、父は父で祖母を連れて近所の神社まで行って、神社というのはホントに祖母が言うようなことをするのか神主さんに訊いてきたりした。もちろん、神聖な由緒正しき神社が一個人を貶めるようなことするわけないのであって。

 正常な頭脳の持ち主だったら簡単に理解するけどね。要するにその頃から祖母は認知症が進行していたわけで。一時期、あたしたち家族は振り回されていたんだよね。だって仕方ないよ。大切な祖母の言うことだもん。信じるのは当たり前じゃん。


 だけどそのうち突拍子のない言動がさらにエスカレートするにつれて、母が認知症を疑うようになってとうとう病院に連れて行った。そしたら案の定、脳が少し委縮してますよ=初期認知症ですよ、とのお医者様からの判断。一度診断が下ると後はもうゆっくりと進行するのみ。完全な治療法は今のところないらしくて、母によると。薬を服用して進行を遅らせるしかないんだってさ。女子大生のあたしには詳しくはわからないけど。


「起きた?」

 目を覚ました祖母に母が声をかけた。今日は仕事が休みの土曜。いつも介護サービスを利用しているけれど、今日は一日家で過ごせるから祖母もなんだか嬉しそう。気が緩んでお昼を食べたあと睡魔が襲ってきたらしい。

「ああ、るりか。おはよう。今日学校は休みなんだねえ」

「もう、母さん、私は英美子。母さんの娘。るりかは孫でしょ? それにおはようじゃなくて、もうすぐ三時よ」

 そう、祖母の視線はあたしじゃなくてしっかり母に注がれている。最近は母のことをあたしだと思っているらしい。あたしとしてはものすっごく複雑なんだけど。あんなおばさんじゃないし。何度も言うけど女子大生だし。


「ああ、そう。そうだっけ?」

「そうだよー。ほんとのるりかはこっち」

 そう言ってあたしは祖母がベッドから起き上がるのを手伝ってあげる。小さかった頃にいっぱいいっぱいだっこしてもらった腕も痛々しいくらいに細くなってて、ちょっと悲しい。

「こたつに入って一緒にみかん食べようよ。ちょうどおやつの時間だしさ」

 って誘うと祖母は本当に嬉しそうに優しく笑う。認知症だってことが信じられないくらいに。でも現実は厳しい。あたしと祖母。二人でこたつに入ってみかんを前にしても、祖母はもう皮すら剥けない。だからあたしが剥いてあげる。子供の頃してもらったみたいに、白い筋まで丁寧に綺麗に取ってあげる。

「はい、どうぞ、おばあちゃん」

「ありがと。すいませんねえ。いつもご迷惑おかけして」

 座椅子なのに寄りかかりもしないで背中を丸めて小さくなっている祖母。孫なのに、自分が殆ど育てたのに、あたしなんかに敬語を使う祖母。不覚にもあたしは涙が出そうになった。やべッと思いながら必死に堪える。頑張れ、あたし。


「そういえばさ、フェイって誰? さっき寝言で言ってた」

 このままだと涙腺崩壊しそうだから、必死に話題を探した。

「フェイ……?」

 せわしなく口を動かしてもくもくとみかんを食べている祖母。その口が一瞬止まった。混濁した意識と記憶の中から懸命に「フェイ」という単語を探しているみたい。

「ごめんねって謝ってた」

「ごめんね……フェイ……」

 この時祖母の顏が一瞬引き締まった気がした。正気に戻ったというのか。まるでスイッチが入ったようにすらすらと話し始めたのだ。

「傲慢」というテーマがかなり難しく…。

とっさに思いついたのがこの話でした。

かなりシリアス&自分的に思いこみ入ってます。

過去に観た映画にもかなり影響されているかな。

すべては作者の妄想なのでご了承ください。

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