第二話 思惑
冷たい麻雀牌の感触が、指先に伝わる。
私は勝利の確信を胸に秘めながら、運命の第一ツモを引き寄せた。
私の指先が触れたのは――『2萬』だった。
(まあ、天和なんて期待しすぎよね)
配牌の時点で『国士無双13面待ち』が完成しているのだ。
第一ツモで当たり牌(一九字牌)を引けなかったからといって、焦る必要はまったくない。
この不要な2萬をツモ切り(引いた牌をそのまま捨てること)して、次に誰かが一九字牌のどれか一つでも捨てれば、その瞬間に私の「ロン」でこのゲームは終わる。
(とりあえずこれはツモ切りでいいわね)
そう思い、2萬を河(捨て牌置き場)へ放とうと腕を伸ばした、その瞬間だった。
ゾワリと、背筋に不快な悪寒が走った。
「…………」 「…………」 「…………」
視線を上げると、卓を囲む三人の娘たち――ジュリ、レイナ、ミレイの三人が、一言も発さずにこちらを見つめていた。
彼女たちの視線は、自分の手牌にではなく、私の右手に握られた『2萬』にねっとりと張り付いている。
そしてその口元には、三人が三人とも、まるで鏡写しのような不気味な笑顔を浮かべていた。
(なんだこの3人。この極限状態で気が狂ったのか? それとも、私同様に手牌がすでに完成しているとでも言うのだろうか?)
違和感の正体を探ろうと彼女たちの手元を見た私は、息を呑んだ。
三人の娘たちは皆、自分の手牌の両端を、両手できつく握りしめていた。
それは麻雀を打つ上でひどく不自然な姿勢だ。
だが、その姿勢が意味する行動はただ一つ。
――いつでも手牌を前に倒せる態勢。
つまり、私の捨て牌に対して、即座に「ロン」を宣言するための準備だ。
(なんだ、これ。私からアガれる秘策でもあるっていうの……?)
私の手牌は国士無双。
通常のセオリーなら、序盤に捨てられるのは真ん中の数字の牌だ。
(指先に挟んだこの『2萬』は、罠?)
その時、ふと脳裏に、以前読んだ麻雀漫画のワンシーンがフラッシュバックした。
『流浪の雀士がイカサマ卓に入ってしまい、敵の三人は配牌からすでに聴牌している』 『その役は、それぞれ萬子、筒子、索子の――純正九連宝燈』
(まさか。 いや、もし最初から、私に多額の借金を背負わせるために親ぐるみで結託してこのデスゲームを仕組んでいるとしたら?)
確実に私一人を殺すため、全自動卓のプログラムにその程度のイカサマを仕込んでいる可能性は十分にある。
純正九連宝燈の待ちは、その色の1から9までのすべての数牌。
もし本当に、彼女たち三人がそれぞれ『萬子の九連宝燈』『筒子の九連宝燈』『索子の九連宝燈』を張っているのだとしたら?
それはつまり、私がどんな普通の牌(数牌)を捨てたとしても、即座に彼女たちの誰かの当たり牌となり、放銃(振り込み)が確定してしまうという、絶対的な死の盤面を意味していた。
「……っ」
振り下ろしかけた右手が、空中でピタリと止まる。
ニヤニヤと笑いながら私の捨て牌を待つ三人の娘たちと、背後で下劣な笑みを浮かべる三人の親たち。
彼らの『思惑』が、どす黒い実体を持って私の首に巻き付いてくるのを感じた。




