第27話 懐妊判明。双子誕生へ――そして運命を描きたい兵士
きらり。
私は目を覚ました。
見慣れた自室の天蓋付きベッド。
そして――見知らぬ女性がそばに立っていた。
魔族の女性だ。
淡く緑がかった肌。
やや尖った耳。
小説で読んだ“エルフ”を、緑色にしたような姿。
顔には年輪を感じさせる皺。
身にまとった衣は、どこか異国の民族衣装のようだった。
「魔王妃殿下、お加減はいかがですか?」
「あなたは……?」
彼女は静かに名乗った。
名はアウラ。
魔王城近郊に暮らすカサンドラ一族の出身で、
“産婆”を務めているという。
(産婆? 私の知っている、あの産婆?)
出産を助ける女性だ。
……なぜ産婆がここに?
「丸一日、意識が戻られませんでした」
「本当に?」
その言葉に、私ははっとする。
エリンは?
母親がいなくて、泣き続けているのでは――。
起き上がろうとすると、アウラが制した。
「まだ横になっていてください」
「どいて。エリンの様子を確認しなければ」
私の反応に、彼女は少し驚いた顔をした。
……変なの?
「現在、乳母たちが外で待機しております。お呼びすればすぐに参ります」
「そう? すぐ入らせて」
命令と同時に扉が開き、
乳母たちが移動式のゆりかごを押して入室した。
私は真っ先にエリンを確認する。
「にゃはあああ」
ちょうど眠る時間帯と重なっていたらしく、
大きな騒ぎにはならなかったようだ。
「エリン、心配したでしょう」
頬をすり寄せる私を、
産婆は興味深そうに見つめていた。
……魔族は赤子に淡白なのだろうか。
私とは価値観が違うらしい。
「あなたたちもご苦労だった。外で休みなさい」
乳母たちを下がらせ、
エリンを抱いたままアウラに尋ねる。
「なぜ私は倒れたの?」
「ご懐妊です」
……え?
産婆がいる時点で、
もしかしてとは思っていた。
でも。
本当に?
「その……伝統的な方法での懐妊、ということ?」
「双子を身ごもっておられます」
双子。
私は目を見開いた。
(ゲームでは……)
第二子、第三子の記憶を探る。
だが中ボス級の存在は曖昧だ。
ラストボス――つまり“私”の情報しか、ほとんど覚えていない。
原作通りかは不明。
でも関係ない。
魔王と私の子であることは変わらない。
「極めて稀な事例です。慶事でございます」
「そうなの?」
魔族にとって双子は珍しいらしい。
「おそらく、王の魔力の残滓が影響したのでしょう」
エリン誕生時の魔力。
それが残留し、伝統的な懐妊と結びついた。
急速な懐妊、そして双子。
……今回も、あの時のように急成長?
腹部を見る。
魔法陣はない。
伝統的懐妊は経過が異なる。
相応の時間が必要だ。
「現在の状態です」
アウラが手を広げる。
空間に白黒映像が浮かび上がる。
小さな命。
芽吹いたばかりの存在が二つ。
私の中で、確かに育っている。
「性別は違うの?」
「はい」
二卵性。
男児と女児。
「出産は一か月後の見込みです」
一か月。
エリンを“高速出産”したせいで、
時間感覚が麻痺していた。
「無理は禁物です」
「わかった」
腹部は徐々に大きくなり、
適切な時期に出産するという。
少し怖い。
だがアウラが常に診てくれるらしい。
定期的に報告もあるという。
やがて魔王とマハトラが訪れた。
「慶事だな」
魔王が静かに言う。
「まことに。双子とは、さすが魔王妃様」
……マハトラ、黙って。
私は出産装置じゃない。
「一か月後なら、エリン様も成長期に入ります。ちょうど良い時期です」
魔族の成長速度を実感する。
「ご不便があれば何なりと」
「承知した」
体調はむしろ良い。
よく眠れたおかげだ。
時刻を確認。
(夜……)
昼夜逆転の生活。
体力低下。
そして双子懐妊。
過熱した機関のように倒れたらしい。
懐妊そのものより、
ヴァンパイアとしての生活リズムの崩れが原因だという。
出産まで無理はしないと約束した。
魔王たちが去る。
私は再びエリンを抱いた。
「エリン。弟妹ができるの。双子よ」
「にゃあは」
「拗ねちゃだめよ。みんな大切だから」
長男だ。
きっと面倒見がいい。
◆◆◆
乳母にエリンを預け、眠った私は再び目を覚ました。
夕暮れ前。
二日間休み続け、体力は回復している。
エリンはすでに就寝済み。
明朝会えばいい。
私はギルガオンを呼んだ。
「魔王妃様、お身体は?」
「問題ない」
懐妊の噂は城中に広まっているようだ。
「人間捕虜は?」
倒れる前の案件を確認する。
協定は提出済み。
帰還後に正式文書を送る手筈になっている。
外交問題――魔王の管轄だ。
「送還準備中ですが……」
「問題が?」
食事、待遇、レシピ提供、海苔情報。
すべて済んだはず。
「一人、兵士が大胆な要求を」
「大胆? 騎士か?」
「いえ、ただの兵士です」
「何を望んでいる?」
その内容を聞いた瞬間――
思わず、感嘆が漏れた。
「……ほう」




