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第1話 目覚めた先は、物語の終着点

「……え?」


目を覚ました瞬間、胸の奥に小さな違和感が生まれた。


天井が高い。


いや――高すぎる。


視界いっぱいに広がる白い天井は、

まるで城の大広間を見上げているみたいだった。


「ここ……どこ?」


ゆっくりと体を起こす。


身体を包むのは、信じられないほど柔らかな寝具。

視界の端には天井まで伸びる柱。

豪奢な刺繍が施された天蓋。


どう見ても普通の部屋じゃない。


むしろ――


「……お城?」


思わず呟いた。


本物の古城に泊まっているような空気だった。


「……変な夢」


そう言って、もう一度ベッドに身を沈める。


けれど。


次の瞬間、その違和感は“現実味”へと変わった。


「……ん?」


妙に生々しい。


布の感触。

空気の冷たさ。

ゆっくり上下する自分の呼吸。


夢にしては、あまりにもリアルだ。


「え……?」


私はそっと手を持ち上げた。


「……誰の手?」


白い。


透き通るほどに白い肌。


細く、長い指先。


どう見ても、私の手じゃない。


「ちょっと待って……」


視界の端で、さらりと何かが揺れた。


銀色の髪。


光を受けて淡くきらめくそれは――


腰まで伸びている。


「うそでしょ……」


人生で一度も、

こんなに髪を伸ばしたことなんてない。


私は慌ててベッドを降りた。


足元の絨毯が静かに沈む。


部屋の奥にある大きな鏡へ駆け寄った。


鏡を見た瞬間。


息が止まった。


「……え?」


そこに映っていたのは――


息を呑むほど美しい、一人の女。


透き通る白い肌。

腰まで流れる銀髪。

整いすぎた顔立ち。


現実味を感じさせない存在感。


まるで――


「氷の女王……」


無意識に言葉が口をついて出た。


でも、本当に目を奪われたのは——


「目……」


深紅の瞳。


人間の色じゃない。

本能が“異質”だと告げる色。


「……夢?」


私はよろめきながらベッドに腰を下ろした。


夢なら。


目を覚まして。

早く。

目を覚まして。


…………。


覚めない。


「つまり……」


天井を見上げる。


「これ、現実?」


頭を抱えた。


意味が分からない。

どうして、こんなことに。


その時。


記憶の奥がざわりと揺れた。


「……あ」


思い出した。


数日前のこと。


一通のメール。


『ラグランジュオンラインEX ベータテスター当選のお知らせ』


最初は数学アプリかと思った。


でも違った。


オンラインゲームだった。


しかも。


優秀テスター報酬、十万円。


……やるに決まってる。


私はすぐにインストールした。


決められたルートを進むRPG。


豪華なイラストとムービー。


そして――エンディング。


舞台は魔王城。


最上階の玉座に座っていたのは。


静かに微笑む、銀髪の魔族の女。


圧倒的な魔力。

絶望そのものの存在感。


彼女こそが――


物語の最後に立ちはだかる存在。


勇者の前に現れる、

“最終試練”。


魔王は登場しない。


すべての憎悪も恐怖も、

絶望の象徴も。


ただ一人の存在へ集約されていた。


魔王妃。


物語のラストボス。


つまり。


私はもう一度、鏡を見た。


銀髪。

赤い瞳。

この顔。


「……嘘でしょ」


喉が渇く。


震える声が漏れた。


「これ……」


鏡の中の自分を睨む。


「ラストボス……魔王妃エステル?」


そう。


この姿は。


魔王の妻で。

魔王城の支配者で。


勇者に最後に討たれる存在。


“悪役魔王妃エステル”。


血の気が引いた。


でも、記憶はまだ終わらない。


魔王城の各階で勇者を迎え撃った強敵たち。


中ボスとして現れた存在。


彼らの正体は――


魔王妃の子どもたち。


つまり。


「え……」


心臓が嫌な音を立てる。


「ちょっと待って」


喉が詰まる。


息が浅くなる。


「それって……」


震える声で、私は呟いた。


「私……五人の子どもの母親?」


ラストボス。


悪役。


そして――母親。


思考が追いつかない。


でも——

一つだけ、分かる。


この物語で。


私も。

私の子どもたちも。


勇者に倒される側だ。


エンディングで“正義”に討たれる運命。


「……ふざけないで」


低く、怒りが滲む。


運命?

シナリオ?


そんなもので終わらせてたまるか。


私はもうプレイヤーじゃない。


この世界を生きる存在だ。


なら。


物語ごと、塗り替えてやる。

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