8話 鬼頭やさことの、告白と拒絶
ちいかわデートから、俺たちの関係は確実に変わった。
最初は俺から誘うばかりだったけど、少しずつやさこからも連絡が来るようになった。
定食屋のバイト帰りに一緒に帰ったり、
週末にまた別のポップアップストア(今度は違うキャラだけど、やさこが興味ありそうだったから)に行ったり。
デートって言ったら「バカじゃね」って睨まれるから、俺は「散歩」とか「飯食いに行く」とかぼかして誘った。
LINEも毎日。
俺のジム報告に、
『また勝ったの? フォームの動画送れよ』
とか、向こうから聞いてくる。
返事にはいつもちいかわスタンプが付いていて、文章の刺さる言い回しとの落差が痛いくらいに大きい。
ある日、定食屋で閉店後に一緒に片付け手伝ってると、
やさこがボソッと。
「……お前、最近強くなったな」
褒められた!!
俺がニヤニヤすると、
「勘違いすんな。まだ弱いけど」
ってすぐ棘を立てるけど、耳が赤い。
そんな日常が続いて、俺はもう完全にやさこのことが好きだった。
固い言葉の奥に、気を遣ってくれる面がある。
料理を通して見せる気遣い、ちいかわで素気なく返すやり取り、
専業主婦になりたいって口にした夢……全部が同じ人物の別の顔だった。
そして、次のアマチュア大会の日。
俺は勇気を出して、LINEで誘った。
俺:『今度の試合、来てくれない? 観てほしいんだ』
少し間があって、返事。
やさこ:『めんどくせー』
+ちいかわの「がんばれ」スタンプ。
……来るよな、これ!?
当日、会場でリングサイド探してると――本当に来た。
長身で目立って、紫髪ポニーテール。
周りの観客がチラチラ見てる中、腕組んでクールに立ってる。
俺がリングから手を振ると、
「……ウザい」
って口パクで言ったけど、軽く手を上げてくれた。
試合。
相手は強かったけど、俺は勝った。
KOじゃないけど、明確な判定勝ち。
リング降りて、やさこに駆け寄ると、
彼女は少し笑って(本当に少しだけ)、
「まあ……悪くねーよ」
って言った。
興奮冷めやらぬまま、
「勝ったご褒美に飯おごるよ! やさこの定食屋じゃなくて、外で!」
やさこは「勝手にしろ」って言いながら、ついてきた。
行ったのは、ちょっとおしゃれなイタリアン。
やさこは激辛ペーストを大量に入れてパスタ食べてて、
「普通の味薄すぎ」って文句言いながらも、楽しそう。
食事が終わって、店を出た夜道。
俺は、もう我慢できなかった。
「……やさこ、聞いてほしいことがある」
やさこが足を止めて、赤い瞳で俺を見る。
「俺、やさこのことが好きだ。付き合ってほしい」
静かな夜道に、俺の声だけが響いた。
やさこは一瞬、目を逸らして。
それから、冷たく。
「……無理」
撃沈。
「なんで……?」
俺が震える声で聞くと、
やさこは少し迷ったように、でもはっきり言った。
「弱いやつ、嫌いだから。お前、まだ弱い」
それだけ言って、踵を返す。
「待って!」
俺が追いかけると、
「ウザい。二度と絡むな」
って吐き捨てて、去っていった。
家に帰って、ベッドに倒れ込んだ。
胸が痛い。
でも、どこかで分かってた。
やさこは強い男が好きなんだろう。
過去のボクシングの才能、孤高な性格……全部繋がってる。
悔しい。
もっと強くなりたい。
――ここから、変わる。
やさこの言葉が、俺の火になった。




