7話 鬼頭やさことの、初デート
定食屋に通う日々が続いて、LINEのやり取りも完全に日常になった。
やさこは相変わらず短文だけど、俺のジム報告や日常の話にちゃんと返事が来る。
ちいかわのスタンプが頻繁に混じるのが、俺の癒しだった。
ある週末、街をブラブラ歩いてると――
デパートのフロアに、でっかいポップアップストアができてた。
『ちいかわらんど』
ピンク基調の可愛い店内。ぬいぐるみ、キーホルダー、Tシャツ……ちいかわグッズが山積み。
ファンらしき人たちが行列作ってる。
……これ、やさこ絶対好きだろ。
興奮して、すぐに写真撮ってLINEした。
俺:『見て!! ちいかわのポップアップストア見つけた! めっちゃグッズあるよ!! 一緒に行かない??』
+店内の写真何枚か。
少し待つと、返事が来た。
やさこ:『いかねー』
+ちいかわの「興味ない」みたいなスタンプ(でも目がキラキラしてるやつ)。
……絶対行きたいくせに。
短い拒絶の言葉と、反対に来るスタンプのトーンの落差が大きい。
俺:『いつもLINEでちいかわスタンプ教えてくれてるお礼に、行こうよ! 絶対楽しいって!』
やさこ:『うぜー。行かねーって言ってんだろ』
ここで諦めなかった。
いつもトレーニングアドバイスくれたり、定食屋で話聞いてくれたり……お礼したくて、強く押した。
俺:『お願い!! 一緒に行きたいんだって!! 珍しいポップアップだし、今しかないかもよ!?』
やさこ:『……金ねーし』
きた!! チャンス。
俺:『全部俺が奢るから!! グッズも飯も交通費も全部!! だから行こうよ!! お願いします!!!』
(スタンプ連打でちいかわの「おねがい」系)
少し間があって、返事が来た。
やさこ:『……おごりなら、いいけど』
+ちいかわの小さな「やったー」スタンプ。
……やった!!!
心臓が爆発しそうだった。
俺:『マジで!? じゃあ明日!! 待ち合わせ決めよう!』
やさこ:『バカじゃね。楽しみじゃねーし』
でも、すぐに待ち合わせ場所の提案が来た。
気配は完全に約束のやり取り。
あれはもう二人きりで出かける“付き合い”だ。
やさこの険しい顔を想像していると、逆に安心感のないずれが笑いに変わってしまう。
初めての、二人きりの約束。
どんな顔で来るんだろう。
グッズを見て、どんな態度で素が出るんだろうか。
やばい、楽しみすぎる。
待ち合わせは、デパートの入り口。
俺は30分早く着いて、ソワソワしながら待ってた。
ジムで鍛えた体も、今日は緊張でガチガチだ。
時間ピッタリに、やさこが来た。
長身で、紫がかった髪をポニーテールに。
シンプルな黒のトップスとスカートだけど、スタイル良すぎて目立つ。
赤い瞳が周りを牽制してるけど、今日は少し……柔らかい?
「……遅いんじゃねーのかと思ってた」
短い一言を投げてから、ほんの一瞬だけ口元がほころぶ。
でも、ちゃんと来てくれた。
「いや、俺が早かっただけ! 行こうよ、店内めっちゃ可愛いよ!」
やさこは「うぜー」と言いながら、ついてきた。
店内に入ると――ちいかわグッズの洪水。
ぬいぐるみ、キーホルダー、ポーチ、Tシャツ……限定品もたくさん。
やさこは最初、腕組んでクールに立ってた。
でも、棚のちいかわぬいぐるみを見た瞬間――目がキラッとした。
「……ふん、普通」
口ではそう言いながら、手が勝手にぬいぐるみを触ってる。
ハチワレのキーホルダーとか、うさぎのポーチとか、じっくり見て回る。
俺は横でニヤニヤしながら、
「どれ欲しい? 全部奢るって言ったよね!」
やさこは俺を睨んで、
「バカじゃね。いらねーよ」
でも、視線がグッズから離れない。
結局、俺がカゴにどんどん入れて、
「これ可愛いよ! やさこに似合う!」
って押し切った。
レジで会計――結構な額になったけど、全部俺持ち。
やさこは袋を受け取りながら、ボソッと。
「……ありがと」
小さい声。
頬が少し赤い。
袋を受け取る動作がいつもの速度より遅く、指先が止まる。
店を出て、近くのカフェで休憩。
俺が買ったちいかわのケーキセットを食べながら、
やさこはグッズを袋から出して、こっそり並べてる。
ちいかわのぬいぐるみをテーブルに置いて、写真撮ったり。
「可愛いよな、これ」
俺が言うと、
「うるせー。子供っぽいって言ってんだろ」
と言って視線をそらした。
だけど、指先はもう、次のぬいぐるみを優しくつついていた。
絶対楽しんでる。
夕方近く、帰る時間。
デパートを出て、駅に向かう道。
俺は勇気を出して、
「今日、めっちゃ楽しかった。やさこが喜んでる顔、見れて嬉しいよ」
やさこは足を止めて、赤い瞳で俺を見た。
「……バカじゃね。別に、喜んでねーし」
でも、袋を大事に抱えて、
「まあ……おごりだったし、悪くねーよ」
少し間があって、
「また……なんかあったら、呼べよ」
……これ、続きありってことだよな!?
別れ際、俺は胸が熱くなって、
「うん! 次はもっと楽しいところ連れてく!」
やさこは「ウザい」と言いながら、軽く手を振って去っていった。
家に帰って、LINEした。
俺:『今日ありがとう! めっちゃ可愛かったよ(グッズもやさこも)』
やさこ:『死ね。消えろ』
+ちいかわのハートスタンプ(小さいやつ)。
この距離はもう、ほかの友人関係ではない。
このまま、もっと近づきたい。




