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13話 鬼頭やさことの、はじめての朝

次の日の朝。

トレーニングがオフだったから、久しぶりにゆっくり寝てた。

目が覚めた時、時計は9時過ぎ。

普段ならもうジムにいる時間なのに、横に、やさこがいる。

狭いシングルベッドで、ぴったりくっついたまま。

やさこの背中に腕回して、髪の匂い嗅いで、幸せすぎて、胸が熱くなった。

昨夜のキスとか、抱き合って寝た感触とか、全部鮮明に思い出して、ニヤニヤしちゃう。


やさこが少しもぞもぞ動いた。

なんと、布団の中に頭まですっぽり入って、もぞもぞしてる。

クセなのかな? 可愛すぎて、俺はそっと布団を少しめくって覗いた。

もう起きてるみたい。

寝息は静かだけど、体が少し動いてる。

俺は引っ越しの疲れと、昨夜の興奮でまだ眠気が残ってて、

「もう少し寝よ」って思って、二度寝した。


どれくらい経っただろう。

また目を覚ますと、横が空っぽだった。

「……やさこ?」

ベッドから起き上がって、リビングに向かう。


ドア開けた瞬間、いい匂いがした。

部屋はもう片付いてた。

昨日の段ボールが整理されて、テーブル拭かれて、ちいかわのぬいぐるみが棚に可愛く並んでる。

キッチンで、やさこがエプロン姿で立ってた。

紫がかった長い髪をポニーテールにまとめて、フライパン振ってる。

朝ごはん、卵焼きと味噌汁、焼き魚? それに激辛ソースが瓶で置いてある。


やさこが俺に気づいて、チラッと振り返った。

「……まだ寝てたの?」

少し甘い声。

頰がほんのり赤くて、照れ隠しみたいに目を逸らした。


俺は後ろから抱きついて、

「おはよう。朝ごはん作ってくれてるの? 幸せすぎる……」


やさこは体を少しよじって、

「……もう、邪魔だよ」

って言うけど、声が柔らかくて、力入ってない。

むしろ、俺の腕に少し寄りかかってる感じ。


「専業主婦の練習、ってやつ?」

俺がニヤニヤ言うと、

やさこは顔を赤くして、

「……うん。そうだよ。

お前がちゃんと稼いでくれるなら、毎日作ってあげる」


甘々すぎる。

俺はキスしようとして、

「ありがとう。愛してる」

って言うと、

やさこは「もう……」って小さく呟いて、でも笑ってる。


テーブルについて、二人で向かい合って座った。

やさこが俺の前に卵焼きをそっと置いてくれる。ふわっとした厚焼き卵に、きれいな焼き目がついてる。味噌汁の湯気が立ち上って、部屋中にいい匂いが広がる。焼き魚も皮がパリッと焼けてて、横に置かれた激辛ソースの瓶がやさこらしい。

「どうぞ、食べて」

やさこが少し恥ずかしそうに言って、自分も箸を取る。俺は一口卵焼きを口に運んだ。

「……うまい」

思わず声が出た。本当に、完璧な味。甘さと出汁のバランスがちょうどいい。

やさこがチラッと俺を見て、すぐに目を伏せる。耳まで赤い。

「そんな大げさに言わなくても……普通だよ」

「普通じゃない。やさこが作ってくれたってだけで、もう最高なんだよ」

俺がニヤニヤしながら言うと、やさこは「もう……」って小さく呟いて、でも口元が緩んでる。

味噌汁をすすりながら、俺はテーブルの下でそっとやさこの足に自分の足を絡めた。やさこがビクッとして、俺を軽く睨むけど、すぐに諦めたみたいに足をそのままにしておいてくれる。むしろ、少しだけ俺の方に寄せてきた。

「ねえ」

やさこが急に小声で言った。

「昨日……ちゃんと、楽しかった?」

昨日の夜のこと。キスして、抱き合って、初めて一緒に寝たこと。俺は箸を置いて、やさこの目を見つめた。

「楽しかったとか、そういうレベルじゃない。幸せすぎて、朝起きた時まだ夢かと思った」

やさこは顔を真っ赤にして、味噌汁の椀で口元を隠すようにして俯いた。

「……私も」

小さな声。でも、はっきり聞こえた。

俺はテーブル越しに手を伸ばして、やさこの手をそっと握った。やさこは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに指を絡めて返してくれた。温かい。

「これから、毎日こうだよな」

俺が言うと、やさこは恥ずかしそうに笑って、こくりと頷いた。

「うん……毎日、作ってあげる。お前がちゃんとジムで頑張って、帰ってきてくれるなら」

「約束する。絶対帰ってくる。やさこのご飯食べに」

やさこが「バカ……」って呟きながら、でも握った手にもっと力を込めてきた。

朝日が窓から差し込んで、テーブルの上のちいかわのぬいぐるみがふわっと光ってる。味噌汁の湯気がゆっくり昇って、二人を包むみたいに。

これが、俺たちの毎朝。

これが、毎日続くんだ。

俺は心の底からそう思って、握った手を離さずに、ゆっくり朝ごはんを味わった。



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