表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第0話 少年の夢

 そこにはかつて大きな都市があった。

高層ビルが立ち並び、夜になればネオンが輝き、人々の笑い声が絶えなかった場所だ。

人々はそこで生きていたのだ。


 しかし、今は崩壊した建物と瓦礫しかなかった。

ビルは途中でへし折れ、道路はひび割れ、黒く焦げた跡があちこちに残っている。

風が吹くたびに、砕けたガラス片が乾いた音を立てて転がった。


 都市には十メートルほどの人型ロボットが数十機、武装して待機していた。

肩には大型砲、腕にはビーム兵器と思われるハンドガン。

無機質な赤いセンサーが淡く光り、まるで獲物を待つ獣のように静かに立ち並んでいる。


 上空を埋め尽くすほど、無数の飛空艇が滞空していた。

巨大な影が幾重にも重なり、昼だというのに地上は薄暗い。

その周囲を、蜂の群れのように人型ロボットが高速で飛び回っている。


 ここは戦場だ。

逃げ場のない、完全包囲の空間。

今まさに最後の戦いの最中であった。


 そして――

その瓦礫の都市の中心で、六人の男女が向き合い、短く、しかし重い話し合いをしていた。


「だめだ。●●●●、我々が完全に押されている」


 青髪の青年が、眼下で次々と撃ち落とされていく味方機を見ながら、口惜しそうに言った。


「防衛ラインはもう崩れかけている。このままじゃ持たない」


「なぜ、■■■■の復活を予見できなかった?」


 赤い長髪の青年が怒りを露わにした。


「やつは完全に消滅したはずだ。なぜだ?」


 金髪の青年が●●●●に問い詰める。


「やはり、すべてを忘れることは無理なのか……」


 ●●●●と呼ばれた黒髪が足元まで伸びた青年が低く答えた。

 

 突如、大きな爆音とともに、上空の飛空艇に火の手が上がる。


 轟音とともに一隻が傾き、炎を引きずりながら落下していった。


 被弾した飛空艇の数が徐々に増えだしていた。


 少し先に、敵と思われる艦隊が近づいてきた。

巨大な影が瓦礫の街を覆い、まばゆい光が一斉にこちらへ向けられる。


 周りを飛び回っていた人型ロボットたちは、その艦隊に向かって突撃を開始した。

ビームと砲撃が空を埋め尽くす。


「ここも、もうじき消されるだろう」


 ●●●●は怒りを抑え、あくまで冷静に話した。


「もうどうすることもできないの?何か手はないの?」


 腰まで伸ばした金髪の女性が両手を胸の前で祈るように言った。


「■■■■は、もはやここにはいない。やつを倒すためにはここから移動しないといけない」


 ●●●●は残りの五人の顔を見回して慎重に話し出した。


「しかし、知っての通り、我々はすでに転移している。奴と同じで移動が出来ない」


「待ってくれ、まさか■■■■と同じことをするつもりか?」


 青髪の青年が驚いたように言った。


「違う、♢♢♢♢♢♢。あの方法は我々ではできない。正確には■■■■がそうさせないように対処済だ」


 ●●●●はもう一度全員を見回して話し出す。


「やつは一度我々に負けた。だから邪魔な我々を閉じ込めたんだ」


 全員が口惜しそうに下を向くと、●●●●がさらに話し出した。


「しかしだ、方法がないわけではない。そのためにはみんなの協力が必要だ」


 一瞬だけ、空気が変わる。


「♢♢♢♢♢♢、▲▲▲、×××××。君たちには残った敵と戦って時間を稼いでほしい」


「♠♠♠、♠♠♠♠。君たちは私と一緒に手伝ってほしいことがある」


 ●●●●が指示を出し、全員が一度、迷いなく頷いた。


 敵の艦隊が●●●●たちに近づいてきていた。


 巨大な飛空艇がゆっくりと隊列を組み、主砲をこちらへ向けている。

赤い照準光が瓦礫の街をなぞり、地面が震えた。


 上空にいた味方の艦隊はほぼ壊滅状態であった。


 黒煙を上げて墜落していく艦、動きを止めて漂う残骸。

通信もほとんど途絶え、応答はノイズばかりだった。


「なら、とっとと敵をぶちのめしてくるか」


 赤い長髪の青年が、迫りくる艦隊を見上げながら楽し気に言った。

まるで絶望的な状況を、遊び場にでもするかのような口ぶりだ。


「その調子だ、▲▲▲。まだ我々の完全敗北ではない。やつの好きにはさせない」


 ●●●●が鼓舞するように言った。

視線はまっすぐ敵を射抜いている。


「なら、▲▲▲には負けてられない。▲▲▲、どっちが多く倒せるか勝負だ」


 金髪の青年が▲▲▲の顔を見て、挑発するように言った。


「ばかやろう、×××××。お前は俺の援護だ」


 ▲▲▲が×××××に意地悪そうに言った。

二人は互いに顔を見合わせて静かに微笑んだ。


「三人とも、さらばだ。今までありがとう」


 ●●●●は大きく頭を下げて三人に感謝を告げた。

戦場のど真ん中だというのに、その仕草だけは静かで、まっすぐだった。


「ふっ、初めて会ったときは敵同士だったのに、今では俺に頭を下げるとはな」


 ♢♢♢♢♢♢が嬉しそうに言った。


「ああ、魔王と呼ばれて人類抹消計画を一緒にやってた頃とは別人だぜ。なあ、×××××」


 ▲▲▲は×××××の顔を見てケタケタと笑うと、×××××も一緒に笑った。


「そうだな……そうだったな。もうずいぶんと前なのに、まるで昨日のようだな」


 ●●●●は小さくため息を吐いて呟いた。

上を見上げて過去を思い返していた。


「♢♢♢♢♢♢、気を付けて……」


 銀髪の女性が心配そうに声をかけた。


 遠くで砲撃音が響く。時間はもうほとんどない。


「ああ、♠♠♠♠。行ってくる」


 ♢♢♢♢♢♢はそう言って、♠♠♠♠の手を取り、そして抱きしめた。

強く、けれど一瞬だけ。


 そして、二人は名残惜しそうに離れた。


 ♢♢♢♢♢♢、▲▲▲、×××××は並んで歩き出した。

足取りに迷いはない。


 目的は眼前の敵だ。


 瓦礫の街を踏み越え、煙の向こうへ。


 空、地面、両方を覆いつくすほどの無数の敵へ、彼らは歩き出す。

三人の背中が、爆炎の光に照らされる。


 残された三人は彼らの背中をしばし見つめた後、姿が消えた。





 ガン!ガン!ガン!ガン!!


 突如、金属を叩きつけるような音が目の前で鳴り響いた。


「司! いつまで寝ているの! 今日は卒業式でしょうが!! 最後の日まで寝坊する気? 早く起きなさい!」


 誰かが大声で耳元で騒いでいる。


 バシン!


 大きな衝撃とともに、両頬に痛みが走った。


「いっ……!」


 驚いて目を開けると、真っ白な天井が見えてきた。


 カーテンが勢いよく開けられ、朝日が差し込んでいる。

眩しい光に目を細める。


 ゆっくりと意識がはっきりとしてきた。


(そうだ、今日は中学卒業式だった……)


 身を起こし、ベッドから降りる。

足元の床がやけに冷たくて、ようやく完全に現実だとわかる。


 どうやら、母親が起こしてくれたようだ。

さっきの金属音はフライパンとおたまを叩く音だ。

最近はあれで起こしに来る。


 すでに母の姿は部屋の中には見られなかった。


 司は大きな欠伸をして、目をこすった。


(なんだかすごい夢を見ていたようだけど、忘れちゃった)


 夢の内容を思い出そうと必死に考えるが、結局、なにも思い出せなかった。


「まぁ、いいか」


 司は小さく呟く。


 深く考えても仕方ない。

とりあえず今日を乗り切ればいい。


 司はのんびりとした足取りで、朝食を食べるために部屋を出ていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ