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僕と公爵令嬢と自律神経  作者: 竹水希礼
第二話「公爵令嬢よ安らかに眠れ」

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第二話④ にぎにぎどきどき

「……マッサージか………………いたそう」


「大丈夫です。痛くはしませんので」


 とは言っても、僕自身、前世で通っていた整体院で簡単なものを教えてもらっただけなんだけどね。

 他人の身体でやるのは初めてです。


「うん、わかった…………優しくしろよ?」


「かしこまりました」


 しっかりお辞儀をし、「失礼します」と言ってミヅキお嬢様のいるベッドに僕も上がる。

 ……今思ったが、この会話の流れでベッドに2人というのは、なんかその、アヤシイな? 執事長に見られたら僕の頭が回転しながら第二宇宙速度で発射されそうだ。


 ……コホン。

 いかんいかん、これからやるのは健全なマッサージ。邪念があってはお嬢様に失礼というものである。


 僕はベッドの上に正座、お嬢様は女の子座りで向かい合う。

 お嬢様はお嬢様で少し緊張されているのか、やや上気した顔で視線をさまよわせている。


「それではお嬢様、お手を拝借してよろしいですか?」


「あっ、うん……」


 おずおずと差し出される白い右手。

 そっと握るとぴくっと震える。


 ……本当に小さくて細い手だ。同い年とは思えない。

 思わず、柔らかな力で撫でていた。


「……な、なんだよう……」


「……いえ、大切に、優しくさせていただきますね」


 てのひらを表にさせていただき、僕は親指で手首の辺りを探る。

 たまたま脈拍が伝わってきたが、少し早いようだ。


 手首の、やや小指側にそのツボの当たりをつけて、親指でコリコリと優しく回し押す。


「……痛くないですか?」


「……大丈夫、気持ちいい……。……これは、なにをしてるんだ?」


「これは『神門(しんもん)』というツボを押しています」


「しんもん?」


「はい。ここを押すと、心が安らいで、よく眠れるようになるんですよ」


「おー……それはいいな……」


 お嬢様のこわばっていた肩がなだらかになっていく。

 僕は安心して、神門をほぐし続けた。


 コリコリ……コリコリ……

 

 コリコリ……コリコリコリ……コリコリ……


「…………なあ、いつまで続けるんだ?」


 ……すみません、わかりません。


「……では、次に行きましょうか」


「お、おう」


 お嬢様のてのひらをひっくり返し、今度は手の甲を表にさせていただく。

 場所は……確か、人差し指と親指の骨が交わる辺り。2つの指の間のくぼみだったか。


 そこを同じく親指でコリコリし始めると、幾分緊張が和らいだ様子でお嬢様が訊いてきた。


「今度はどんなツボなんだ?」


「これは『合谷(ごうこく)』といいまして、頭痛をはじめとして色々な症状に効く『万能のツボ』と呼ばれているものです」


「おおっ! 頭痛に効くのか!」


 お嬢様の目が輝く。

 頭痛は、特に彼女が悩まされている症状だ。


「いいぞ、どんどん押してくれ、連打だ連打」


「かしこまりました……!」


 楽しそうなお嬢様の声に釣られて、ほぐす指の動きを早める。

 少し強くもするか……と思ったら、想定よりも力が入ってしまった。


「んっ……」


 ミヅキお嬢様の艶めいた声に、失礼ながらドキリとしてしまった。


「あっ、す、すみません。痛かったですよね……?」


「う、うん、すこし…………でも、へいき……だから、やめないで……」


 ……なんだか周囲が静かになって、自分の心音ばかり聞こえてくるようになってきた。


「……、……手には、本当は、もっとたくさんのツボがあるんです。僕が知ってるのはこの2つだけですけど……勉強して、もっと、色々、上手になりますね……」


「うん……」


 合谷を押すのをやめ、いつの間にか汗ばんでいた手と手を離す。

 手のツボを押していただけなのに、なんで額に汗が滲んでいるんだ僕は。


「……ど、どうですか、お嬢様。なにか変化はありますか……?」


「……お茶を飲んだ時よりも、もっと……ぽかぽか、してる気がする」


 お嬢様は、揉まれていた右手をキュッと握り、何か大切なもののように左手で包んで胸に抱き寄せた。

 漏れる吐息の音を、なぜだか僕の耳は聡くキャッチする。


 ……なんか、こう……なんか!


「お嬢様……ツボは、その、頭とか……足とかにも、あるんです、が……」


「う、うん……タケル、タケルなら……」


 お互いの心拍がシンクロしている錯覚。

 お嬢様は左脚を前に出して、すっ……と浴衣の裾をめくる。


 ほっそりした脚は、昨日見た時は何とも思わなかったのに、今はその控えめな曲線から、目が離せなくて――


「タケル……」


「お嬢様……」


 いつの間にやら、心臓の主張は張り裂けんばかりの大声になっている。


 マッサージ、これはマッサージだからと、必要のないはずの言い訳じみた念を唱えながら、そっと手を伸ばしていく。


 僕の指が、お嬢様の柔肌に触れる――


「――――こほんっ」


「ぴゃっ」


 部屋の隅から聞こえてきた咳払いに、お嬢様がちょっと跳ねた。


 僕は僕で一瞬心停止して、慌てて振り向く。

 するとそこには、壁を背にしてじっとりとこちらを睨むレイカさんの姿。


「レ、レイカ……? いたのか……?」


「ずっとおりましたよ。ずっと。カモミールティーは私がお持ちしたのですから。その時からずっとおりましたとも」


 ずっとを強調したレイカさんは、もう一度わざとらしく咳払いをした。


「タケル、マッサージはもう十分ですね?」


「あ、いえ、その――」


「十分ですね?」


「ハイ」


 駄目みたいですね。


 僕はしゃかしゃかと素早くベッドから降り――ようとして転げ落ちた。


「だ、大丈夫か……?」


「へ、平気です……」


 よく眠れるマッサージの施術を行っていたところを見られただけなんですけどね。

 何を動揺してるんですかね僕は。


「……で、ではお嬢様、これでよく眠れるかとは思いますが、一応レイカさんに付いていてもらいますね」


「あ、う、うん、わ、わかった」


 レイカさんはツカツカとベッドに歩み寄ってきて、側に椅子をドンと置いてドカッと座った。


「…………それでは、おやすみなさい、お嬢様」


「お、おやすみ、タケル……」


 意味もなく慌てて挨拶して、僕はそそくさと扉へ向かう。


「マッサージの件は執事長には黙っておきます」というレイカさんのありがたいお言葉を背に、廊下へ出てはーっとしゃがみ込んだ。


「…………なにやってんだか」


 ひとりごつ。

 いやまあ、お嬢様は女の子なんだと、少々意識してしまっただけの単純な話。


 ……全く、執事長に八つ裂きにされてしまうぞ。

 僕は執事だ。それに、前世と合わせて精神年齢42歳のおっさんだ。ロリコンかよ。


 もう一度大きくため息をついて立ち上がる。

 頭を振って煩悩を振り払わんとしつつ、とりあえず目の前の廊下を歩む僕であったとさ。

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