第二話③ 禁断症状、ネックスピン、カモミール
「ぐああああぁ……!」
「お、お嬢様、どうされました……!?」
「落ち着いてくださいレイカさん。禁断症状です。見守るしかない……!」
夕食と入浴の後、ベッドで悶えるミヅキお嬢様と、狼狽するレイカさんと、そんな彼女を宥める僕。
「禁断症状……!?」
「はい……お嬢様は昨日まで、この時間はタブレットにかじりつく生活を送っていました。それが突然できなくなれば……」
「もう、もう配信が始まるんだ……! タ、タブレット、タブレットォォォォ!」
「こうなるのは必然……!」
「私は愕然としていますが……!?」
信じられない、という面持ちのレイカさん。
無理もない。
前世ではスマホ依存という言葉が知られていたけど、こっちにはないもんな。
それにしたって禁断の症状過ぎないかって? それはそう。
「お嬢様、お辛いと思いますがどうかご辛抱を……! これが健康王へ至る偉大なる道の第一歩です……! 後でアーカイブにコメントを残しましょう……!」
呆然と「健康王……?」と呟くレイカさんを尻目に、僕はお嬢様の肩を掴んで励ます。
涙さえ流すお嬢様も、悲痛な決意を秘めて頷いてくれた。
「あ、ああ……! 私は長生きして、国葬を執り行うんだ……!」
困惑しきって「国葬……?」と呟くレイカさんを尻目に、お嬢様は叫ぶ。
その強き意志の光に、僕の胸に熱いものが込み上げてきた。
「頑張って……頑張ってください、お嬢様……!
大丈夫です、(ガチャ)辛いのは最初だけですから……!」
ん? 今扉が開く音した?
あ、執事長。
「お嬢様の悲鳴が聞こえると慌てて駆けつけて来てみれば……」
執事スマイルに龍が降臨していく。
嗚呼、今回は血が出るほど握りしめられた拳にも。
「あっ」
瞬きしたら執事長は目の前に移動していた。
「すみません執事長首をろくろみたいに回されると人は死
*
1日に2回も睡眠以外で意識を失うのは、前世を含めて初めての経験だった。
「いたた……」
「だ、大丈夫か……?」
椅子に座って首を押さえる僕に、お嬢様はベッドの上から心配そうに声をかけてくれる。
僕の意識が電源を切ったように落ちている間に、執事長はいなくなっていた。
どうやらお嬢様が追い出したらしい。「ゲンじいなんてキライ!」と言ったらカラッカラのミイラになって出ていったのだとか。
なぜそこまでしたのかと言えば、
「ゲンじいはわたしに甘いからな。レイカにタブレットを持ってこさせようとしたから、必殺技で撃退したぞ」
とのこと。
「タブレットを取り戻すチャンスだったのに、よくご辛抱なされましたね」
不遜かと思ったが、手を伸ばしてお嬢様の頭を撫でる。
お嬢様はほにゃっと笑って「えへへ~」と喜んでくれた。
「タケルと約束したからな。わたしはがんばるぞ」
「お嬢様……」
昨日までわがまま放題だった方が、今日一日でこの成長。
タケルは嬉しゅうございます。
「タケル、あとはもう寝るだけか?」
「いえ、ぐっすりお眠りいただくために、いくつかやっていただきたいことがございます。まずはこちらを」
部屋に設置されたテーブルの上には、あらかじめレイカさんに用意してもらったティーセット一式がある。
ポッドからカップへ中身を注ぐと、湯気と共に優しく甘い香りが立ち上った。
「これは……カモミールか?」
「流石はお嬢様。正解です。」
ふんすっ、と無い胸を張るお嬢様。
「カモミールティーにはリラックス作用があります。カフェインも入っていませんので、ご就寝前の飲み物として最適なんです。あと、寝る前に温かいものを飲むこと自体も、眠りにとっていい効果があるんですよ」
「そうなのか?」
「はい。基本的に、眠っている時は深部体温……身体の内側を冷ましておくのがいいんですが――」
「温かいのを飲んだら逆効果じゃないか?」
「それがそうでもないんです。体温というのは急激に上がると反動で急激に下がるので、結果的には身体を冷ましてくれるんですよ」
ティーカップを乗せたソーサーをお嬢様に手渡す。
「へえ! ……ふー、ふー、ごくっ……ふう……あったかい……」
慢性的な頭痛のせいか眉間に寄りがちなシワが緩み、お嬢様はホッとした表情になる。
これだけでも、飲んでいただいた甲斐があるというものだ。
普段作らないお茶を急遽点ててくれたレイカさんに感謝である。
「ふー……おいしかった。よし、寝るか!」
「おっと、お待ちくださいお嬢様。もうひとつ、していただきたいことがございます」
「んー? なんだ?」
「それは――」
僕は執事服の袖をめくり、腕を回しながら言った。
「――マッサージでございます」




