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僕と公爵令嬢と自律神経  作者: 竹水希礼
第二話「公爵令嬢よ安らかに眠れ」

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8/11

第二話③ 禁断症状、ネックスピン、カモミール

「ぐああああぁ……!」


「お、お嬢様、どうされました……!?」


「落ち着いてくださいレイカさん。禁断症状です。見守るしかない……!」


 夕食と入浴の後、ベッドで悶えるミヅキお嬢様と、狼狽するレイカさんと、そんな彼女を宥める僕。


「禁断症状……!?」


「はい……お嬢様は昨日まで、この時間はタブレットにかじりつく生活を送っていました。それが突然できなくなれば……」


「もう、もう配信が始まるんだ……! タ、タブレット、タブレットォォォォ!」


「こうなるのは必然……!」


「私は愕然としていますが……!?」


 信じられない、という面持ちのレイカさん。


 無理もない。

 前世ではスマホ依存という言葉が知られていたけど、こっちにはないもんな。

 それにしたって禁断の症状過ぎないかって? それはそう。


「お嬢様、お辛いと思いますがどうかご辛抱を……! これが健康王へ至る偉大なる道の第一歩です……! 後でアーカイブにコメントを残しましょう……!」


 呆然と「健康王……?」と呟くレイカさんを尻目に、僕はお嬢様の肩を掴んで励ます。

 涙さえ流すお嬢様も、悲痛な決意を秘めて頷いてくれた。


「あ、ああ……! 私は長生きして、国葬を執り行うんだ……!」


 困惑しきって「国葬……?」と呟くレイカさんを尻目に、お嬢様は叫ぶ。

 その強き意志の光に、僕の胸に熱いものが込み上げてきた。


「頑張って……頑張ってください、お嬢様……!

 大丈夫です、(ガチャ)辛いのは最初だけですから……!」


 ん? 今扉が開く音した?

 あ、執事長。


「お嬢様の悲鳴が聞こえると慌てて駆けつけて来てみれば……」


 執事スマイルに龍が降臨していく。

 嗚呼、今回は血が出るほど握りしめられた拳にも。


「あっ」


 瞬きしたら執事長は目の前に移動していた。


「すみません執事長首をろくろみたいに回されると人は死



   *



 1日に2回も睡眠以外で意識を失うのは、前世を含めて初めての経験だった。


「いたた……」


「だ、大丈夫か……?」


 椅子に座って首を押さえる僕に、お嬢様はベッドの上から心配そうに声をかけてくれる。


 僕の意識が電源を切ったように落ちている間に、執事長はいなくなっていた。

 どうやらお嬢様が追い出したらしい。「ゲンじいなんてキライ!」と言ったらカラッカラのミイラになって出ていったのだとか。


 なぜそこまでしたのかと言えば、


「ゲンじいはわたしに甘いからな。レイカにタブレットを持ってこさせようとしたから、必殺技で撃退したぞ」


 とのこと。


「タブレットを取り戻すチャンスだったのに、よくご辛抱なされましたね」


 不遜かと思ったが、手を伸ばしてお嬢様の頭を撫でる。

 お嬢様はほにゃっと笑って「えへへ~」と喜んでくれた。


「タケルと約束したからな。わたしはがんばるぞ」


「お嬢様……」


 昨日までわがまま放題だった方が、今日一日でこの成長。

 タケルは嬉しゅうございます。


「タケル、あとはもう寝るだけか?」


「いえ、ぐっすりお眠りいただくために、いくつかやっていただきたいことがございます。まずはこちらを」


 部屋に設置されたテーブルの上には、あらかじめレイカさんに用意してもらったティーセット一式がある。

 ポッドからカップへ中身を注ぐと、湯気と共に優しく甘い香りが立ち上った。


「これは……カモミールか?」


「流石はお嬢様。正解です。」


 ふんすっ、と無い胸を張るお嬢様。


「カモミールティーにはリラックス作用があります。カフェインも入っていませんので、ご就寝前の飲み物として最適なんです。あと、寝る前に温かいものを飲むこと自体も、眠りにとっていい効果があるんですよ」


「そうなのか?」


「はい。基本的に、眠っている時は深部体温……身体の内側を冷ましておくのがいいんですが――」


「温かいのを飲んだら逆効果じゃないか?」


「それがそうでもないんです。体温というのは急激に上がると反動で急激に下がるので、結果的には身体を冷ましてくれるんですよ」


 ティーカップを乗せたソーサーをお嬢様に手渡す。


「へえ! ……ふー、ふー、ごくっ……ふう……あったかい……」


 慢性的な頭痛のせいか眉間に寄りがちなシワが緩み、お嬢様はホッとした表情になる。

 これだけでも、飲んでいただいた甲斐があるというものだ。

 普段作らないお茶を急遽点ててくれたレイカさんに感謝である。


「ふー……おいしかった。よし、寝るか!」


「おっと、お待ちくださいお嬢様。もうひとつ、していただきたいことがございます」


「んー? なんだ?」


「それは――」


 僕は執事服の袖をめくり、腕を回しながら言った。


「――マッサージでございます」

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