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僕と公爵令嬢と自律神経  作者: 竹水希礼
第一話「公爵令嬢の惨……華麗なる一日」

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4/11

第一話③ 俺達の一日はこれからだ(日没後)

「ミヅキ、今日の学院はどうだった」


「オホホホホお父様、今日も一生懸命に勉学に励みましたことよオホホホホ」


 嘘おっしゃい。

 午後の授業も寝てたでしょアナタ。


 セリフとは裏腹に勉学の時間を惰眠に費やしたお嬢様は、日が沈む頃になると元気になってくる。


 これは彼女が吸血鬼の血を引いているため……なわけでは当然なく、自律神経が終わっている証左である。


 普通は、日が傾いて夜になっていくにつれ副交感神経(ブレーキ)が優位になる。

 そうやって眠りに向かっていくのが生物として自然なのだが、お嬢様の場合それが見事に逆転していて、夜になると交感神経(アクセル)全開でハイになってしまうのだ。


 そんなわけで、夕食だけは腹いっぱいお召し上がりになる。

 公爵様(ちちおや)に対する見栄なのか、野菜もちゃんと食べる。


 そこだけはいいところ……とも言い切れないんだよなあ。

 このお嬢様、結局午後も間食が止まらなかったので、そもそも全然お腹が空いていなかったはずなのだ。

 それなのに、親の前という状況と交感神経アクセルパワーで完食してしまうのだ。


 給仕のために近づくと、案の定お嬢様の顔は引きつっている。

 ……無理してるなあ。


「……食後のお茶でございます。本日はジャスミンティーです。……消化を助けてくれますよ」


 最後の一文は小声で。

 お嬢様は「かたじけない」と言いたげな視線をくれて、公爵様の前ではしたないと思われない程度に急いで茶を流し込んだ。



   *


「ふう、いい湯だったぞ」


「お湯に入らなかったではありませんか……」


 呆れるレイカさんにドライヤーで髪を乾かしてもらいつつ、なぜかドヤ顔をするお嬢様である。


 ちなみにこの世界のこの国は、日本で言えば大正時代くらいの文明度なのだが、このドライヤーのような電化製品もどきが多数ある。


 もどきと言ったのは、これらが電気ではなく魔力で動いているからだ。


 魔法が存在しているが故に、電気技術の代わりにそっちが発展して結果的に同じようなところに落ち着いたようだ。

 今まさにお嬢様の長い黒髪を吹き散らしているドライヤーからも、電気コード染みた糸が伸びて壁際の小さな魔法陣につながっている。


「お嬢様は、なぜお風呂がお嫌いなんですか?」


「え? 何か言ったか?」


 モーターが入っているわけでもないのにうるさいドライヤーの音で聞こえなかったようだ。

 近づいて、椅子に腰掛けるお嬢様の耳元に口を寄せる。


「お風呂、お嫌いですか……?」


「お、うぉう……」


 何故かちょっと引かれた。近づきすぎたかな。

 一応身体を湯で洗ったからだろう、白い肌がやや桜色になっているお嬢様は、少し目を泳がせた。


「…………湯に入ると、のぼせる」


 それはね、自律神経の乱れで体温調節が上手くできていないからだよ。


「でも、お湯に入るの気持ちよくないですか?」


「……そもそも、濡れるのがそんなに好きくない」


 好きくないかあ。

 ゆっくりお湯に浸かるのは、副交感神経を優位にして眠りやすくなる効果があるのでぜひやってほしいのだが。


「ですから、頭もあまり洗わせていただけないんですよ。せっかくの御髪(おぐし)がこんなに傷んで……」


 レイカさんはドライヤーを止め、今度は長い髪に櫛を入れていく。

 時々……というか頻繁に引っかかって、その度にお嬢様が「いで、あだ、おどっ」と小さく悲鳴をあげる。……おど?


「いたいぞレイカ~」


「申し訳ございませんが、ご辛抱を」


「う~。あ、タケル~タブレット持ってこーいー」


「かしこまりました」


 ミヅキお嬢様、15歳にしてはどうも言動が幼い気がする。


 そんなことを思いつつタブレット端末を手に取る。

 これもまた魔法技術の賜物で、要はりんごさんのなんちゃらパッドである。

 これでユー……失敬、MagiTube(マギチューブ)という動画配信サイトを見るのがお嬢様のお気に入りだ。


「どうぞ」


「うむ。……あー! 推しが配信やる! こうしちゃいられん! レイカ、髪はもういいだろ! タケル、揚げ菓子を持てい!」


「お待ちくださいお嬢様、せめてお菓子はお控えに……」


「やだー!」


 子供か。いや子供ではあるんだけど。


 レイカさんは盛大に溜息をつき、諦めたように僕を視線で促した。

 結局のところ僕らは使用人でしかなく、主人の意向には従わなくてはならないのである。


 部屋の中に常備してある菓子袋の中からせめて小さいものを取り出しつつ、僕もまた小さく嘆息するのだった。

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