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僕と公爵令嬢と自律神経  作者: 竹水希礼
第一話「公爵令嬢の惨……華麗なる一日」

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第一話① 優雅な朝食

 タケル・ヤス15歳。

 公爵家に奉公に出るまさにその朝、起きたら前世の記憶が蘇っていた。


 こことは異なる世界、日本で暮らしていた僕は27歳の時に交通事故であえなく昇天、この世界に転生してきたのだ。


 前世の僕はいわゆるブラック企業に務めていて、過度のストレスで自律神経が崩壊してうつ病を併発、休職退職療養を経て回復したかと思ったらその矢先に人生そのものからドロップアウトした。


 なんとも報われない人生で、思い出したところで苦々しいだけだと思ったが、役に立ちそうなこともあった。


 経験上、自律神経についての知識が豊富になっており、それでお嬢様に貢献できそうなことだ。


 タチバナ家の執事見習いになって今日で1か月、仕事にも少し慣れてきたし、そろそろ前世知識チートで無双(お嬢様を健康にするの意)を開始する頃合いだ――


「……もう、お腹いっぱい」


 ――と思ってたけど、ハードモード過ぎて無理かもしれない。


 お嬢様の朝食風景を前にして、決意は早くも挫けそうだった。


「まだパン1枚しかお召し上がりになっていませんよ、お嬢様」


「それで十分」


「せめてスープだけでもお飲みください」


「飲めない」


「何度も申し上げますが、夜中にお菓子を食べたりするからそうなるんですよ」


「う~……」


 一日の計は朝食にありだ。

 朝食をしっかり摂ることで胃腸の動きが活発になり、身体が活動モードに切り替わる。

 もちろん栄養補給としても重要だ。三食きっちり食べてこそ健康たり得るのである。


 それがパン1枚では話にならない。

 何も口にしないよりはマシだし、お嬢様が罪悪感を覚えていそうなのは不幸中の幸いだが……


「お嬢様、きちんとお食べになりませんと、身体が大きくなりません」


「うぅ……」


 お嬢様は、スラリと背の高いレイカさんを恨めしそうに見上げる。


 ……長いことこういう食生活だったのだろう、お嬢様は背が低い。

 170センチある僕や、それとほぼ同じ背丈のレイカさんと並んだら、頭の上に30センチ定規を立てても及ばないレベルだ。

 この世界の15歳女子の標準は分からないが、これは明らかに低すぎる。


「それどころか、こんなにお痩せになって……誇りあるタチバナ家のご令嬢として、あまりにも恥ずかしゅうございます」


「………………うるさいなあ」


 反応の芳しくないお嬢様に対し、レイカさんの口ぶりに少しトゲが含まれる。返すお嬢様も少々カチンと来てそうだ。


 まずいな。


「うるさかろうと、私は――」


「お嬢様、このスープをいただいてもよろしいですか?」


「「はい?」」


 揃って目を丸くする二人に向けて、ニコニコと笑顔を作る。


 折れそうになった心を立て直して。

 さあ、無双スタートだ。


「いえ、あまりに美味しそうなので、お嬢様がお召し上がりにならないのでしたらいただけないかと」


「……何を言っているのですかタケル。お嬢様のお食事に手を出すなど礼儀知らずな……恥を知りなさい」


 案の定、レイカさんの眉毛の角度がV字型に急上昇した。


「ふざけるのも大概に――」


「あ~、いーよー。あげる」


「ありがとうございます。いただきます」


「タケルっ、お嬢様っ」


 キリキリとボルテージが上がるレイカさんの様子にキリキリと胃を痛めながらも、お嬢様の承認が下りたのでスープを一口いただく。


「……美味しい……」


 演技ではない心からの感嘆が漏れた。


 スライスした玉ねぎだけのシンプルなコンソメスープだったが、なんというか、染み入る。

 風が語りかけます。うまい、うますぎる。


「いや、これ美味しいですよお嬢様。もういただいといて何なんですけど、本当にもらっちゃっていいんですか?」


「…………なに、それそんなにウマイの」


 よし、食いついた。


「今すぐ厨房に走って鍋に頭突っ込みたいくらいウマイです」


「なんだそれ」


 頭痛で不機嫌だったお嬢様がクスッと笑った。

 それを見て、今にも怒鳴りそうだったレイカさんがすっと冷静になる。


「いやホント、それくらいウマイんですって。お嬢様も飲んでみたら分かりますって」


「とか言ってわたしに少しでもメシ食わそうって魂胆だろ」


 ちぃぃ、バレたか。


「……まあいいや、ちょうだい」


「お待ちくださいお嬢様。それでしたら新しいものを……」


「いーっていーって」


 めんどくさそうに手をひらひらと振って、お嬢様は僕が持っているスープカップに手を伸ばす。


 ……主従的にも男女的にもよろしくない気がするが、せっかくその気になっているのに水を差すべきではないか。


「ど、どうぞ」


「どーも。……あ、たしかにウマイ」


 水でも飲むかのようにガブガブとスープを干すお嬢様。

 空のカップを置くと、複雑な表情のレイカさんを見上げて言った。


「……なあ、レイカ達は、朝食はいつ食べてるんだ」


「……使用人は、朝5時にいただいております」


「えっ、はや。マジで?」


「マジでございます」


「ふーん……」


 何事か思案するお嬢様。


「……明日から、さ。レイカとタケルも一緒に食べないか、朝食」


 突然の提案に、僕とレイカさんは目を合わせる。


「……その、二人にとってはめっちゃ遅くなるから、悪いんだけど」


 ミヅキお嬢様は、公爵様の一人娘だ。

 その公爵様は、彼女より早く食べてこの時間は既に公務に入られている。

 他にご家族のいらっしゃらないミヅキお嬢様は、常にお一人で朝食を摂られているのだ。


「……しかしお嬢様、我々使用人が、お嬢様と同席させていただくというのは……」


「そーゆーの、いいから」


「……かしこまりました。お嬢様のご要望とあらば。タケルもいいですね」


「もちろんです」


 大きく頷く。

 スープ一口でも飲んでもらえればという程度だったのだが、思わぬ収穫だ。

 複数人で食卓を囲んで、少しはちゃんと食べようという意思の現れだろう。一歩前進である。


「……なんだかそのサラダも美味しそうですね」


「あげてもいいけど、食べないぞ」


 流石に二度目は通じないか。

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