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僕と公爵令嬢と自律神経  作者: 竹水希礼
第三話「公爵令嬢の目覚め」

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第三話① モーニング・ティアー

 つー……っと、彼女の頬を一筋の光が伝った。

 光は朝の煌めきの欠片だ。きめ細やかな肌の上で複雑に輝きを放ち、やがて雫となって落ちる。


 輝きはそれで終焉を迎えない。

 とめどなく溢れ、ささやかな湧き水から生まれたか細い清流のように流れは続いていく。

 雫はぽたっぽたっとテーブルクロスに染みを作った。


「お、おい、レイカ……? どうした……?」


 やっと実現した3人の朝食の席で、無表情でだばだばと涙を流すレイカさんに困惑しきっているミヅキお嬢様。


 だが、僕はレイカさんと同じ思いだ。目頭が熱くなって……熱くなって……。


「タ、タケルまで!? 何故だ!?『お腹すいたぞ、早く食べよう』と言っただけではないか!?」


「それですお嬢様……使用人一同、それが聞きたかった……」


「ご覧ください……壁際に控えているシェフなどもう顔面液状化しております」


 お嬢様が……お菓子ばかりで真剣に食事を摂ろうとしなかったお嬢様が『お腹すいた』と……!

 ホール中のあちこちからすすり泣きの声が聞こえてくるのは無理からぬことである。


「…………なんかごめんな! でも皆泣くのはやめろ! 食欲なくすわ!」


「「「「「泣いていませんが?」」」」」


「こわ……」



   *



 ぱくぱくと元気に(苦手な野菜は残しつつも)食べるお嬢様の姿に涙腺をだるだるにしながら、僕とレイカさんも食べ進める。


 日本に様子が近い国だが、この家の食事は基本洋食だ。

 今朝も、小麦のパンにウインナー、サラダ、スープといった定番の洋風モーニングが並んでいる。


 これは一般市民からするとすごく恵まれた水準なのだろう。

 贅沢にも洋食を食べられることが貴族としてのステータス、というわけだ。


 しかしながら、小麦のパンを毎日食べるのは良くないのでは、と僕は思う。

 個人差はあれど、小麦に含まれるグルテンというタンパク質が腸内環境を荒らすとされているのだ。

 前世で生きた時代ではグルテンを危険視する動きが広がっていて、『グルテンフリー』などという言葉が流行ったりもした。


 その内献立にもメスを入れたいな、と思いながらパンをぱくつく。

 ……しかしなあ、ウマイんだよなあ小麦。大好きだったよラーメンとか。


「なあタケル!」


 物思いにふけっていると、お嬢様が元気よく(ここで少し泣いた)声をかけてきてくださった。


「はい、いかがされましたか?」


「昨夜はひっっっっっさしぶりによく寝れたんだ! お陰ですっきり目覚められたぞ!」


「! それは良かったです! 本当に……本当に良かった……」


「ええい何回も泣くな! ……しかし、こんなに気持ちのいい朝は本当に久しぶりだ。これもタケルのお茶とマッサージのおか……げ……」


「………………」


 お嬢様は急に赤くなって黙り込んでしまった。

 僕もまた、柔らかい手の感触や滑らかな太ももの光景が蘇ってきて……気まずくなる。


 がちゃんっ!


「「!」」


 大きな音がして、僕もお嬢様も飛び上がった。


「――失礼いたしました」


 レイカさんが済ました顔で謝罪するが、カップからコーヒーがだいぶこぼれている。

 さっきの音はカップをソーサーに叩……置いた音だったらしい。


 それきり何も言わずに再びコーヒーをすするレイカさんだったが、「節度を守りなさい」という叱責が飛んできたような気がした。


 ……そうだな。僕は執事、僕は執事……お嬢様にいかがわしい想いなど抱かない……。


「レイカのやつ……もしかして……いつも一緒だし……もしそうなら…………レイカの方が美人で身長もスタイルも……いやいや何を考えてるんだわたしは……」


 内容はよく聞き取れなかったが、お嬢様が何やらぶつぶつと呟いている。


「お二人とも、早く食べませんと学院に遅刻しますよ」


「! そうだな、急ぐぞタケル!」


「はいっ、お嬢様!」


「ふふふ、今日はばっちり寝たからな、居眠りなどせずしっかり授業を受けてみせるぞ!」

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