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青色の空  作者: syuhugenki
1/3

1 出会い

―――辛い時期があった。

それは私がまだ、自分の中にあった才能に気づいたばかりの頃。

幼かった私は、一人で全てを抱え込むこともできなかった。大きく、ともすれば押し潰されてしまいそうな重圧感。

おかしなものを持ち合わせてしまったために、おかしなものを視る羽目になった、不幸。


かと言って、両親に事情を話せるはずもない。

ある程度理解のある親ではあったが、これはそういうのとはまた別の問題だ。

思いつく限りでは、親類にも適当な相談相手はいない。返答を貰えるどころか、己の年を鑑みれば、悪ふざけと思われ信じてもらえるかすら危ういものである。

どうすべきか悩んだ私は、結局何の血の繋がりも無い赤の他人―――時折公園で出会っては遊ぶだけの、

名前も知らないとある少年に全てを打ち明けることにした。


「―――なるほどね。確かにそれは、特異な才覚だ」


どこの公園にでもある、有り触れた木製のベンチ。

天候は良く、見渡す限りの空には一つの雲も見当たらない。

穏やかな陽気に包まれながら、私の告白を聞いた少年は、納得したように何度も頷いた。


「…信じて、くれるんだね」


「そりゃね。何度か会って、君が嘘を吐ける程器用な人間じゃないのはわかっているから」


「でも、嘘をついていなくても、勘違いしているかもしれないでしょ?」


私とて確たる自信は持てなかった。全ては、私自身の生み出した妄念なのではないか。

脳という檻の中でのみ循環する、悪夢ではないのか。

そう思えたこともあったし、そう思った方が、ずっと気が楽だった。


「勘違い、してるの?」


「ううん、してない…と思う」


「ならしてないのさ。世間は嘘やら信じられないことで塗れているからね。

 せめて自分のことぐらいは、信じてやらないと」


彼の言うことは、簡単なようですごく難しい。

どこか大人びて見えたのは、そういう言動故だったのかもしれない。


「でも、まぁ。君の才能はあまりにも珍しいものだから、信じられなくても無理はないね。

 予兆とか、予感とか、そういうのはなかったの?」


「なかった、こともなかった気がする。何かおかしな感覚が自分の中にあったのは、

 ずっと前から知っていたから」


ただ、それは物心ついた時には既にあったもの。

だから特別だとは思わなかった。これも含めて私自身なのだと、周りの人たちもそういう感覚を誤魔化して生きているのだと、そう思ったのだ。


「辛い?」


「…辛いよ。だって私は、そのせいで人より多く悲しまなきゃいけないから」


祖父の死。視た後に見る。

そんな未来は知りたくもないっていうのに、二度も見なくてはならない。

今回はまだ一度目だから大丈夫だけれど。これから先ずっとそうだと思うと、苦しくなる。


―――それに。

もしも私が観測することで、その人の未来が決定されてしまうのだとすれば。

この才能は神をも墜とす。人の身には過ぎた、持ってはいけないモノ。


「―――じゃあさ、空を見よう」


「空?」


「そう、空」


彼は頷いて、空を見上げた。

つられて見上げる。青い。そして、広大な空。


「空は、何時でも見ることができて、時間ごとに模様が変わるから飽きない。

 他のものを見たくないときには、うってつけだろ?」


そう言って、少年は薄く笑った。

青い風景の中を、白い雲が流れていく。何気なく見ることはあっても、このように意識して空を仰ぐのは久しぶりだった。

特別ではない、何時だって見ることのできる景色。

なのに、この時に限って空がとても尊く―――美しいものに、私には見えた。


「才能は、その人を幸せにするためにあるものだと僕は思う。

 見知らぬ誰かのためだとかじゃない。才能を持つ当人が幸せになれないのなら、才能に意味なんてないんだ。

 だから、君が自分の才能をもし不幸だと感じているなら、直視しないのも君の意志だ」


「私の、意志」


「僕も君も、弱くて脆い‘人間’なんだ。

 嫌いなものもあれば、どうしても苦手なことだってある。

 逃げるな、なんて残酷なことは言わない。君は―――君の思う通りに、生きればいい」

 

―――その言葉が、私の生きる指針となった。

思う通りに生きる。自分の意思で、自由に、生きればいい。

彼は人の弱さを肯定し、その上で私に、新しい道を教えてくれた。


「…そうだ、名前」


「名前?」


「うん。まだあなたの名前、聞いてなかった」


「ああ、そういえば、そうだったっけ」


自己紹介なんてすっかり忘れていたと、彼は快活に笑う。

そして、右のポケットから手を引き抜き。


「佐藤和馬。よろしく」


「…うん。よろしく、カズマくん」


忘れることの無い握手を、私達は交わした。

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