狐面で舞いながら旅をしているのに、剣の腕がめっぽう強い、(義)姉弟妹のお話。
旅をする三人衆がいた。
道端で舞い、日銭を稼ぎながら、道行く者達。
色の付いた狐面。
赤狐、茜という名の姉。
黒狐、宵丸という名の、弟。
灰狐、渚という名の、末妹。
赤狐と黒狐は舞踊に長けており。
灰狐は、二人が舞う側で控えて守り、時折剣舞を披露し。
何より三人共、めっぽう剣の腕が強かった。
赤狐は背の高い、華やかな女。
狐面の下から覗く、紅が塗られた唇。妖艶な笑み。
指先が弧を描けば、ふわりと風を纏ったよう。
揺蕩う花のような気配に、観る人は気づけば引き込まれる。
黒狐は、きりりと芯の通った、男。
時に鋭く、だが、しなやかな動きは、人々の目を釘付けにする。
灰狐は、凛とした、女。
赤狐や黒狐と舞う事はないが。灰狐は、鮮やかな剣舞を舞う。
取り巻く邪気を斬り裂き、清らかな気で満たすような。
彼らを、月夜の狐党、と呼んだ。
*
終われば、弟と末妹は、ご機嫌だ。
「姉御ーっ!」
「今日も稼いだね〜〜、姉御〜」
「……あんた達。もうちょっと静かにおし!
まったく、そんなにはしゃがないの!」
「姉御〜っ!」
宵丸が茜の腕に引っ付けば
「姉御っ!」
渚が反対の腕にひっつく。
「もう、おまえ達、何してんだよぉ」
戯れ付く二人に、何だかんだ言って楽しそうに笑う茜。
そんな中。
不意に、宵丸が動きを止める。
「しっ!………招かざる客のようだ」
低く呟いた宵丸の反応に、茜も渚も、すぐに辺りを警戒する。
「……相手は、ひとり、ふたり……五人か」
「あぁもう、面倒だなあ!」
敵の数を気配で数える茜に、鬱陶しいと嘆く渚。
三人は懐から出した狐面を、すっ、と付ける。
赤狐、黒狐、灰狐。みっつの狐の顔が、夜の闇に浮かび上がる。
灰狐が、ふっと灯りを吹き消せば。
辺りは、夜の闇。
*
旅の芸人、相手は三人。と侮り近づいた賊は五人。
にたにたと笑いながら近づいた賊達は、急に灯りが消えたことに驚き、辺りを見回す。
「……襲うに容易い獲物と思ったかい?
残念だったね。ここは狐の巣さ」
灰狐が口を開く。
「狩るのは俺たちの方だ。逃げられると思うなよ?」
賊達の背後で、黒狐が低く囁く。
「さあ、覚悟しな!おまえ達が侮った、狐の本当の恐ろしさ、想い知れ!!!」
両手を大きく広げた赤狐。
その言葉と共に、狐の狩りが、始まった。
*
灰狐が強く真っ直ぐ、素早い助走で鋭く敵を突けば。
黒狐が激しく躍動し、獲物を翻弄し、斬り裂く。
赤狐は優雅に踊るように、刀を振り、しかし、一度狙った獲物は逃さない。
あっという間に、五人の賊は、倒れ伏した。
月夜に、熱気を覚ますような、風が一筋吹いた。
*
翌朝は、街道をてくてくと歩く、旅の姉、弟、妹。
先程寄った茶店でも、弟妹喧嘩を披露し。
「あらまあ、仲がいい兄弟だこと」
と女将さんに笑われたところだ。
呆れた姉、茜がからりと笑う。
「兄弟だってさ!良かったな!!」
「ええー!俺は、姉御と兄弟なのがいいんであって、こいつとは別に」
「なによお!あたしだって、姉御と姉妹、がいいのに〜〜」
まだ歪みあってる宵丸と渚を。
後ろからまとめて肩を抱え込み。茜がからっと笑う。
「あたしは!…あんた達と三人できょうだい、だからいいんだ!……そうだろ?」
そう言ってそれぞれを覗き込めば、満更でもない様子。
「さあ、次の宿場へ行くよっ!」
「応っ!」
「あいよっ!」
笑いの絶えない三人に、血の繋がりはない。
それでも、もっと強固な絆で結ばれて。
旅から旅へ、流れ行く。
今度は何処へ、ゆくのやら。
読んでいただき、ありがとうございました!