元旦マラソン
日曜日の練習の日々はあっというまに過ぎた。新しいチームで試合もしたが、4年生の虎之介に出番はなかった。試合をするたび、相手チームが応援の声を出すのを聞き、みんなそれを真似て声を出すようになった。いろんなバリエーションが増えていくのがおもしろかった。
冬休みに入ると、梨田監督から元旦マラソン話があった。元日の朝、初日の出を見にここからみんなでマラソンで行くという。場所はくじら海岸といって、虎之介は小学校の遠足で行ったことがある。グランドからくじら海岸まで6キロだが、虎之介はそこまで走るというのが信じられなかった。しかも、帰りもマラソンだという。
元日の朝、5時頃起きた。こんなに早く起きたことはなかった。紅白歌合戦を見るのもほどほどに、昨夜は早く寝た。外は真っ暗で、虎之介の吐く息は白かった。
グランドから6時前には出発した。駐車場には送迎の車のライトが光っていた。始めはみんなについて走っていたが、そのうち虎之介は遅れはじめ、みんなの姿が遠くになった。松林を抜け、くじら海岸についた時はふらふらだった。
砂浜で、みんな海に向かって横一列に並んで初日の出を待った。そのうち、東の空の雲の切れ間に、輝く太陽が見えてきた。みんな手を合わせて、何かをお願いしているようだった。虎之介も手を合わせ、野球が上手くなるように願った。
冷たい潮風が、虎之介の火照った頬に吹きつけられていた。