夜の練習
むちうち症のギプスが外れ、夜の練習に梨田監督を訪れた頃は、もう冬休みが近かった。夜の練習には、小学生も来ていた。小さなナイターグランドは周囲の竹籔が、からっ風が吹きすさぶのを防いでいた。
簡単なダッシュを繰り返して体をほぐすと、梨田監督に呼ばれた。ネットに向かって、ティーバッティングをやるようだった。梨田監督の前には、硬球が入った箱が一箱置かれていた。
中学野球は軟球のL球だったが、これから中学生の夜の練習は硬球を打つという。バットは竹バットだった。
久しぶりのティーバッティングだったが、竹バットで硬球を打つと真に当たらないと手がしびれた。一箱打つと、かなり息が切れた。50球以上あるようだった。
「虎之介は高校で野球をやるんだろ?」打ち終わったボールを箱に戻していると、梨田監督が話掛けてきた。
「一応そのつもりです。」
「だったらこれから教えることは、高校で打つためのことだから、中学で打てなくても気にするなよ。」
「?わかりました。」
返事をしたものの、何を教えてくれるのだろう。中学で打てなければレギュラーになれないではないか。中部中の野球部には、虎之介より体力のある1年生があふれている。ただでさえ、バッティングしか勝てる見込みがないのに、打てなくてもいいとはどういうことだろう。
梨田監督のバッティング理論、上級編というべきものが始まった。




