虎之介ソフトボールを打つ
昭和54年。虎之介が小学4年生になったある日、近所の子らが来て、子供会のソフトボールに誘われた。
「ソフトボールって何?」と聞くと、それは野球の一種だという。
野球といえば知っている。プロ野球巨人軍の王選手だ。一本足打法でホームランを打つ。畳が擦り切れるほど素振りをした努力の人ということを、マンガで読んだことがある。
おもしろそうなのでついて行くことにした。
鮒やザリガニを捕って遊ぶ小川を通り越し、田んぼの中にグランドがあった。すでに練習は始まっていて、10人くらいの子供達と教えている大人がいた。
バックネットの近くに行くと、打席で打つ子とそれを守る子らがいるようだった。外野には雑草が茂り、内野は黄色っぽい土に小石が混ざったグランドである。
しばらく眺めていると、大人の人が近づいて来て、次に打ってみろという。バットの握り方を聞くと、右利きなら左手が下で、右手が上だという。言われるようにバットを握り、虎之介は打席に向かった。
打席のどのへんに立つのか、キャッチャーの子に聞くと、ホームベース手前に線があり、その線を踏まないように立つよう、教えてくれた。なるほど、皆が立つので、地面の両足部分がへこんでいる。
「さあ構えて。」とキャッチャーの子に言われ、先に打っていた子のようにバットを構えた。ピッチャーの子が下手投げで、ゆっくりボールを投げて来た。虎之介は夢中でバットを振った。
ボールはバットに当たった。打球の行く先を見ると、蒼天に白い雲がまぶしかった。打球が空に吸い込まれていくようだったが、セカンドフライだった。
虎之介にとって、生涯忘れられない初打席であった。