表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

CASE1 橘咲那橘

私はロードバイクを漕ぎながら、F駅前の地元だと有名だと思う偉人像の真似をしているゆっちんとその写真を撮ってる森ちゃんを見付けた。居る居る~。


「森ちゃーん! ゆっちーん!」


「おう咲那(さな)~」


「遅いぞっ? 我ら『蕎麦レポサークル』は遅刻厳禁っ! 何故ならば、『マイナーな駅周辺はバスも電車も本数少な過ぎ、タクシーに至っては乗り場は有ってもタクシー本体はステルス!』だからなっ」


2人の近くで止まる。2人ともすっかり旅なれた格好だけど、寒色を外さない森ちゃんと、ちょっと目立ってやろう精神を隠さないゆっちんの違う服のセンスが並んでるのが可愛い。


「ごめんて~、道間違えちゃって、何か『あれ? 私道じゃないよね?』ていう所に入っていったらお化け屋敷みたいなトコ着いちゃって!」


「あー、あの国道だったら、それはF寺だよ。廃寺で、管理できてないみたい。曜日や時間によっては暴走族の人とか来ちゃうみたいだから気を付けた方がいいよ?」


嘘っ?


「えーっ?」


「というか『私道じゃないよね?』の時点で引き返さないとだぞ、咲那」


「わかったよ~」


「というか、よくF駅までロードバイクで来たね」


「うん? これくらいは走れるよ? ルート工夫したらそんなに凄い坂とかトラックばんばん来ちゃうとこは避けられるし」


「実は補助動力入ってんじゃないの~?」


「脚力オンリーです!」


逞しい自慢の太股をペチっと叩いてみせたっ。



ロードバイクはサドルをスポッと外して駐車場に停めて、私達『蕎麦クル』は徒歩で出発した。バスは1時間半後だからっ。


駅から10分歩くともう田畑と山と林の景色になっちゃう。


「え~と、『まる野 茶屋』は・・」


「森ちゃんこっちだよ!」


小走り先導して、スマホで確認している森ちゃんにアピールする。廃寺に入っちゃったりはしたけど、ずっと地域マップを確認しながらF駅まで来たもんね!


「ロードバイクから降りても咲那の機動性は落ちないのであったっ」


「はいはい、このペースだとあと20分くらいだね」


「この『グダグダ移動の件』が蕎麦クルの醍醐味よ~」


「そんなもん?」


「森ちゃーん、ゆっちーん、遅いよ! お腹空いたっ」


腹ペコだっ。『その場ダッシュ』で2人に空腹をアピールする! 蕎麦食べたいんだっ。


「わかったわかった」


「咲那が野生に還らない内に、まる野 茶屋にたどり着こう!」


と、改めて出発したんだけどその数分後!


突然の豪雨と風っ。確かにこの辺り、のんびり田舎風景だけど標高ちょっと高いから天気は急変し易くはあるんだろうけど!


「わぁーっ?!」


「ぅあっ?!」


「ゲリラ豪雨じゃっ、温暖化じゃっ、地球が怒ってらっしゃるぞ?!」


「ちょっと、真面目に! 車道から離れて合羽着ようっ。視界無いしスリップも有りそうっ」


「おおっ、ガードレール有る方なっ! 咲那こっちだぞっ」


「ひーっ」


右手が山肌の林だったので私達は左手の狭いガードレールの向こうの歩道って言っていいか微妙な荒れ具合のスペースに駆け込んであたふたと合羽を着た。

私達は1年近い屋外移動が基本の蕎麦クル活動で、街中以外では傘より合羽を選ぶようになってるっ。


強い雨風に木々や山が防いでくれる右手側に行きたいけど、山肌から落石や土砂が来るかもしれないのと、やっぱりあっちはガードレールが無いのがどうしようもなかった。

右車線を減速したトラックがちょっとフラ付きながら水飛沫を上げて通り過ぎてゆくだけで私達はもう大騒ぎっ。


真っ直ぐ歩くのも大変な中、進み続け、少し雨脚と風が緩まって私達は一息付けたけど、

まる野 茶屋に行く為に1本、道を曲がるとガードレールは無くなり代わりに蓋の無い側溝の脇を通る事になった!

右手は引き続き木の生えた山肌で、こっちは側溝が無いのと傾斜で道の端が小川みたいになっちゃってるっ。


「側溝もF1みたいになってるよっ?」


迫力が凄いから思わず寄ってみたら、森ちゃんにグンっと腕を引っ張られた。痛い森ちゃんっ。


「咲那ってば! 近付かなくていいからっ」


「こうやって毎年事故が起きるんだな・・」


雪乃(ゆきの)!」


「ごめんて」


さらに進むとF1みたいな側溝も右手の山肌も無くなって、雨は霧雨のようになり、風だけは弱まらなかった。


「うう・・寒く、ない?」


「あたしも、あと何か喉も乾いたかも?」


私は体力あるから、2人の風避けになろうと先頭をズンズン歩いてたけど、コレは良くないっ。


「はい、スポドリ! 交代で飲も?」


甘く無いタイプのスポドリを取り出して後ろの森ちゃんに差し出した。


「坂だし、この雨と風の負荷だとプールで強めの歩行トレーニングしてるのと変わらないから、汗もかくよ?」


「ありがと、さすが密かに体育会ガール、咲那!」


お、森ちゃんが珍しく私を褒めてるっ。


「へへー、実は短大か専門学校で、学校の近くでロードバイク楽しめそうなトコ探してんだ~」


「へぇ? そういう基準も有りか・・んぐぐっ、ぷは!」


森ちゃんいい飲みっぷり。


「森様~、あたしにもスポドリをお恵み下せぇ~」


卑屈~。


「飲む時、顔上げるから鼻とか目に雨入んないようにね」


「んぐぐっ、ぷはーっ! 生き返るっ。ずぶ濡れで脱水状態一歩手前とはコレ如何に?!」


ゆっちんも元気になった!


そして私達はどうにか、まる野 茶屋の前に着くことができたんだ。


「着いたー!」


「さ、寒い・・」


「足腰がヤバいっっ」


森ちゃんとゆっちんがヘタり込みそうになっていると、


「あんた達! 早く中に中にっ」


店の人が慌てて出てきた。


中に入ると、店主さんは物置から石油ストーブを出してくれて一先ずそこで暖まることになった。


上着と合羽は脱いで吊るして乾かして、タオルを貸してもらい、ココアも出してもらった。至れり尽くせりだ!


「いや~、危なかったねー。下手したらこんな所でも遭難しちゃうよ? 側溝や山肌が危なかったりするからね、車も視界利かないし」


「「「はい~」」」


ストーブと柔らかタオルとココアが最高過ぎて、私達はフニャフニャになりそうだったよ。


30分後、上着はまだ乾かないけどシャッキリした私達は目的地のお蕎麦を頂くことになった!


「はい、『ナメコ蕎麦セット』『天麩羅蕎麦セット』『牛蕎麦セット』。どれも生姜をたっぷり擦っといたからね?」


古民家カフェ風の店内のテーブルに、クラシックなワゴンで運ばれてきた、蕎麦とおこわお握りとお漬物とだし巻き玉子や大根の煮付けやホウレン草の御浸しの載った御盆が、どどーんと並べられる!


祭だっ!


「やったーっ」


「ありがとうございます」


「あざッス! 写真を撮ってSNSに上げてもいいですか?! 内容の確認は取ります!」


「いいよ、載せて載せて」


許可も頂き、伸びたり冷めちゃいけないから、素早く私ライト、森ちゃんレフ板、ゆっちんカメラでバシバシ撮影し、実食に掛かった。そのお味は、


「「「ふぁ~~~っっ!!!」」」


勿論最高だよっ。今回ちょっと命懸けだったもん!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ