2.曖昧な記憶
(こんな緑髪見た事無い…いや…?あるような…?ないような…?…あれ…?)
驚きすぎた衝撃から完全に意識が覚醒したのか、私は自分自身の異常さにようやく気がつき始めた。
まず、身体が自由に動かせない事がおかしいし、何よりも自分の名前以外の記憶が曖昧なのだ。
(…ど…どう言う事…?)
自分の状態に頭が真っ白になる。
ヒュッと自分の息が詰まる音が遠くに聞こえた気がした。
本当に本当に何があったのか、どうしてここにいるのか…何もかも分からなかった。
でもひとつだけ、憶測だけれども、名称はわかれど見慣れないものが沢山あるこの場所は、私がもと居た場所ではない、知らない場所と言う事は分かった。
「随分混乱されている様子ですね…?大丈夫ですか?」
私の様子を心配そうに…でも何処か嘘くさい様な表情で…伺うその姿を見てハッとした。
(そうだった、今はこの得体の知れない緑髪の人が何者なのか…)
私がこうなった原因の犯人なのか、と考えると危機的状況だ。
…しかし、身体を動かせない以上はこの人物が犯人であれば最早なす術はないのだけれども…。
こんな状況なのに、何処か妙に冷静な自分もいて、なんだかそれも他人事の様に感じる。
人は危機に陥ると妙に冷静になるのかもしれない…。
「大丈夫…です…」
なんとか絞り出した声に、緑髪の人物はまた胡散臭い笑顔に戻り「そうですか」と返した。
彼は私の表情を伺うのをやめ、幾許か思案するような素振りをする。
何かを納得する様に、一回頷くとすぐに私に向き直り、再び口を開く。
「まだ目覚めたばかりで混乱している様ですが、お嬢様はお名前は思いだせますか?」
「…京子です」
私に選択肢はないので素直に名前を答えた。
「京子様ですね。お名前以外には何か思いだせますか?」
「…いいえ…」
「やはりそうですか…」
緑髪の人物は先程と同じように頷いた。
「先程も名乗りましたが、再度…。私の名前はミラルドと申します。詳しい自己紹介は後日にと思いますが、貴女の世話役のような者になります。よろしくお願い致します」
「…よろしくお願いします…?」
ミラルドと名乗った人物は私の疑問系の返答に困った様に笑った。
「現状に困惑しているにも関わらず、しっかり警戒されているのは大変素晴らしいですね。…実は私の他にも世話役は後二人おりまして、京子様が望まれるようであれば、体調が回復するまでのメインの世話役を交代する事も可能です。…私はよく人から胡散臭いと評されますので」
彼の胡散臭さはどうやら他者からも指摘されるようで、しかし笑顔の本人を見る限りはこの評価を面白がっているようにも感じた。
「…いえ…あの…」
返事をしようにも、突然何もわからない状況に置かれた私にはなんとも答えようもないし、この後新しく人と顔合わせするのもなかなか現状の自分には辛い部分もある。
そんな私をさておいてか、はたまた面白がってか、ミラルドはさらに情報を投下する。
「ただ、他二人にも問題がありまして…。あ!仕事はちゃんと出来ます。ですのでそういう意味での問題ではありませんが…」