1.知らない天井
(知らない天井だ…)
浮上した意識で一番最初に感じたのはそれだった。
いや、天井と言うには厳密には違うかも知れない。
何かしらの模様が彫られた木枠に、薄く透けた布…カーテンのようなものが掛かっていて…これは多分天蓋じゃないかなと思う。
カーテンに沿って上から下へと視線を滑らせて行くと、カーテン越しのすぐ側に何か気配があるのがわかった。
「おや、お目覚めですか?」
聞き慣れない声に驚き、咄嗟に身を動かそうとしたけれど、僅かに指が動いた程度だった。
「ああ、申し訳ありません…驚かせてしまいましたね。ご安心下さい、私は貴女を害するようなものではありません」
聞き慣れない声の主はそう呟くけれども、なんだか軽薄そうな、信用ならないような…そんな雰囲気を感じた。
しかし、指一本も自由に動かせない今、私にはこの声の主と話をする以外の選択肢はない。
「こ…こは?」
声はなんとか出たが、自身の枯れた声に一体いつから声を出していなかったのかと考えてしまう。
「ここに関してのお話は、貴女がもう少し動けるようになってからに致しましょう。…ひとまず、顔を見せずにお話するのも不安かと思いますので、カーテンを開けても宜しいですか?」
「はい…」
「では、失礼致します」
声の主は足元に近い場所から順に、天蓋を支える支柱にカーテンを丁寧に括った。
そして、頭の方のカーテンが開いた瞬間、私は返事をした事を盛大に後悔した。
なぜなら…
(緑の髪?!?!?!)
そう、声の主は見たこともないような鮮やかな緑色の髪を持っていたからだ。
「初めまして、漆黒の美しい髪を持つお嬢様、私はミラルドと申します」
そして、胡散臭い笑顔を貼り付けた緑髪の美青年は恭しく一礼をした。