真っ暗な迷路の中で
わたしはいま、暗闇の中にいます。
暗闇の中で、必死に、前に進もうと足掻いています。
もう、どれほどの時間が経ったのでしょう?
どこまで行っても暗闇ですから、わたしは前に進めたのか、確認することさえ叶いません。
物理学者は、重力の働く向きを下と定義しました。
だから、暗闇の中でも上下は明確に判別できます。
では、前後はどうでしょう?
わたしの体の向きで定義する、で良いのでしょうか?
以前、目を瞑って白線の上を歩いたことがあります。
目を開くと、確かにわたしの前に続く一本の白線がありました。
それを確認してから、わたしは目を瞑り、前へ前へと進みます。
目を瞑ったわたしにとって、大きな前進です。
しかし、目を開くと、わたしは白線から大きく逸れていることに気がつきます。
わたしの中の世界での前進は、光に照らされた現実の世界では、大きく右に逸れた歩行だったのです。
もし、わたしがそれに気がつかず、目を瞑り続けていたら、どうなっていたでしょう?
きっと、大きな円を描いて、元の場所に戻り、そして再び同じ円を描くのです。
わたしは今、暗闇の中にいます。
目を開けていても、暗闇です。
暗闇の中で、微かにわたしを呼ぶ声がします。
「右にずれているよ、前を向いて。」
「前に進んでも仕方がないよ、後ろを向いて。」
「そこがあなたのゴールだよ、足を止めて。」
みんな純粋な親切心から、わたしにアドバイスをくれます。
しかし、彼らの親切心はどれを取っても一次独立なベクトルです。
ゴールを見失い、真っ暗闇に落とされたわたしは、彼らのアドバイスに従い、みんなを喜ばせようとしますが、彼らにどんなに耳を傾けても、アドバイスの雨は止みません。
わたしは、暗闇の中で、休むことなく行進を続けるばかりです。
その最中でぶつかった何かを目印として記憶して、いつか光の中でその全体像に触れられる日を妄想するばかりです。