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真っ暗な迷路の中で

作者: 田中27

わたしはいま、暗闇の中にいます。

暗闇の中で、必死に、前に進もうと足掻いています。


もう、どれほどの時間が経ったのでしょう?


どこまで行っても暗闇ですから、わたしは前に進めたのか、確認することさえ叶いません。


物理学者は、重力の働く向きを下と定義しました。


だから、暗闇の中でも上下は明確に判別できます。


では、前後はどうでしょう?


わたしの体の向きで定義する、で良いのでしょうか?


以前、目を瞑って白線の上を歩いたことがあります。

目を開くと、確かにわたしの前に続く一本の白線がありました。

それを確認してから、わたしは目を瞑り、前へ前へと進みます。


目を瞑ったわたしにとって、大きな前進です。


しかし、目を開くと、わたしは白線から大きく逸れていることに気がつきます。

わたしの中の世界での前進は、光に照らされた現実の世界では、大きく右に逸れた歩行だったのです。


もし、わたしがそれに気がつかず、目を瞑り続けていたら、どうなっていたでしょう?


きっと、大きな円を描いて、元の場所に戻り、そして再び同じ円を描くのです。


わたしは今、暗闇の中にいます。


目を開けていても、暗闇です。


暗闇の中で、微かにわたしを呼ぶ声がします。


「右にずれているよ、前を向いて。」


「前に進んでも仕方がないよ、後ろを向いて。」


「そこがあなたのゴールだよ、足を止めて。」


みんな純粋な親切心から、わたしにアドバイスをくれます。


しかし、彼らの親切心はどれを取っても一次独立なベクトルです。


ゴールを見失い、真っ暗闇に落とされたわたしは、彼らのアドバイスに従い、みんなを喜ばせようとしますが、彼らにどんなに耳を傾けても、アドバイスの雨は止みません。


わたしは、暗闇の中で、休むことなく行進を続けるばかりです。


その最中でぶつかった何かを目印として記憶して、いつか光の中でその全体像に触れられる日を妄想するばかりです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  重力の働く向きすら、ひとつではないですからね。  その圏内に囚われているか、どうかに依存してしまいます。  人間としての、生物的な特徴にも、その感覚は大きく影響を受けています。  自分…
[良い点] 物凄く暗い作品です。 暗くて暗くて暗くて。 デモ、その分、心に迫って来ます。 切ないですね。
[一言] 読みながら、成る程……と自分の身に振り返って考えさせられるお話でした。確かに本人が考えた前進が、事実として前方ではない方向に向かっていることってありますよね。 一方で自分の意思ではなく周囲の…
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